「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」 三の丸尚蔵館 7/16

宮内庁三の丸尚蔵館千代田区千代田1-1 皇居東御苑内 大手門側)
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に> 第4期」
7/8-8/6

第3期では伝銭選の「百鳥図」の鳳凰がとても印象的でしたが、第4期ではいよいよ若冲の鳳凰がお目見えです。早速、その「旭日鳳凰図」から感想を書きたいと思います。



ともかくド派手な鳳凰でした。まず初めに、尾を優雅に靡かせて陽を仰ぐ右の鳳凰に目がいきますが、その左にはもう一羽の鳳凰がすました顔で座っています。雲の隙間からのぞく真っ赤な陽と、生い茂る竹の葉、そして飛沫を上げる白波。大きな岩を足場とする二羽の鳳凰がその威容を誇っている。華麗です。

それにしてもこの作品は、若冲ならではとも言える非常に精緻な筆遣いが冴えまくっています。右手の鳳凰は、首に青い羽を纏いながら、輝くような白い羽を大きく広げ、さらには赤と青の尾を靡かせている。対する左手の鳳凰は、首に緑の羽を生やしていました。そして尾は、緑と赤の鮮やかな配色。まるで白波のようにうねる鶏冠の色も双方で異なっています。(ピンクと赤。)これは見事です。

独特の水玉模様はこの作品でも健在でした。左の鳳凰に見える白地に緑の水玉はもとより、右の鳳凰の白い羽に描かれた、まるで宝石を散りばめたような白いドット模様。それらが電飾のようにキラキラと光り輝いています。迷いのない線による波の描写から、枯れた部分までしっかりと神経が行き届いている竹の葉、そしてこれらの鳳凰の描写。今まで見てきた若冲の作品の中でも特に優れた作品に見えました。



また鳳凰と言えば、動植綵絵の「老松白鳳図」(作品番号2-25)も見逃せません。こちらの鳳凰は、レースのように透き通り、また黄金色にも輝く羽を纏って、同じく陽を仰ぎながら片足で立っています。そして例の水玉模様。こちらもダイヤモンドのように光り輝いていました。それにしても尾のハートマークは奇抜です。尾がまるで生き物のようにうねうねと靡いている様も独特ですが、その先に描かれた赤や緑のハートマークが何とも強烈な印象を与えます。当然ながら今回展示されていた動植綵絵の中では最も目立つ作品です。鳳凰を見つめる小禽もまた可愛気でした。

  

さて、酒井抱一のファン(?)としては見逃せない作品も展示されています。それが、四季折々の美しい花や鳥の様子を描いた「花鳥十二ヶ月図」(1823)です。この手の画題を描かせたら抱一の右に出るものはいない。そう言ってしまいたいくらいに素晴らしい作品です。簡潔でシャープな線と、控えめなたらし込みによる朧げな面。伸びやかでありながら、それでいて隙のない構図感。ともかく無駄がありません。余白までが完全に画面へおさまりきっていました。ちなみに今、東京国立博物館で開催中の「若冲と江戸絵画」展にも、抱一の同系統の作品が展示されていますが、それと見比べて見るのもまた一興かと思います。ちなみに私は、この尚蔵館の作品へ軍配を挙げたいです。特に、1、10、11月の味わいはたまりません。(上の3点です。)如何でしょうか。

それでは、以下、いつもの通り、「老松白鳳図」を除く若冲の動植綵絵について感想を書いていきます。


「向日葵雄鶏図」(作品番号2-5)

立派な尾を靡かせる雄鶏。白と黒のツートンカラーが光っています。そしてバックの向日葵と朝顔。向日葵の花があちこちに向いているのと、黄色い花びらがてんでんばらばらに好き勝手な方向へ広がっているのがとても奇妙でした。それにしてもこの向日葵と朝顔は相思相愛です。知恵の輪以上の複雑さにて、これでもかと言うほどに絡み合っています。藍色の交じる朝顔の花びらが一際映えて見えました。


「大鶏雌雄図」(作品番号2-7)

まるで真っ黒なスーツに身を纏っているかのようなカッコ良い雌鶏の姿。華やかさこそカラフルな雄鶏にかないませんが、その引き締まった体つきは実にシャープです。私が主役だと言わんばかりに堂々と立っています。そして雌鶏の羽の描写が大変に精巧です。一枚一枚、黒色のみで、その立体感とボリュームを器用に表現しています。


「群鶏図」(作品番号2-20)

数えてみると13羽の雄鶏が描かれていました。同じものが一つとしてない羽の見本市。そして殆どぐちゃぐちゃになって入り乱れた鶏のオンパレード。それぞれが何をしているのか、またどの鶏がどういう格好をしているのかと考えさせる前に、取りあえずその数の多さに驚かされる作品です。圧倒されると言うよりも、ただ唖然とするしかありません。


「池辺群虫図」(作品番号2-23)

これほどガラスケースが邪魔に思えた作品もありませんでした。ともかく手元に引き寄せて、上から下まで虫眼鏡をくまなくかざして見たいと思うほどです。まず一番目を引いたのは、中央の池にて皆同じ方向を向いている7匹の蛙でした。何を拝んでいるのか、彼らの目線の先に一体何が有るのか、ほぼ同じ格好をして座っています。そして、そんな彼らを監督するかのように構えていたのは、左下でドーンと鎮座する一匹の大きな蛙。険しい目つきでこの池全体を眺めています。そして水の中でうごめく無数のオタマジャクシ。この親玉蛙の足軽兵のように群がって行進していました。とんでもなく凄い数です。

 

 

蛙の次に気になったのは、画面右手で白い腹を見せながらとぐろを巻く一匹の蛇でした。ちなみにこのとぐろを描く曲線は、蛇だけでなく、その他にも植物のツルなどの表現で使われています。左側から右上方向へ伸び、そしてクルクルと回転しながら降りていくツルの様子。まるでツルが道路のように伸びて、ちょうど昆虫たちが連なる車のようにその上を移動している。その他、毛虫やトカゲ、またはゲジゲジなど、気味の悪い虫たちも随所に隠れています。ツルにぶら下がって揺れるトンボや、葉っぱを丸くかじっておさまっている毛虫(ジェットコースターの一回転宙返り!)、それに「イエーイ!」(?)のポーズをとるキリギリスなど、見れば見るほど出てくる、まるで遊園地で遊ぶ子ども気取りの虫たち。計何匹、ここで好き勝手やっているのでしょうか。もうキリがありません。


「貝甲図」(作品番号2-24)

たくさんの貝が水辺に並ぶ様子が描かれた作品です。残念ながら貝についての知識が全くないもので、これらの貝が何と言う名前なのかがさっぱり分かりませんが、これで貝合せをしたらさぞかし盛り上がるのではないでしょうか。水の青みがとても良く映えていました。

いつも何かと騒がしい尚蔵館も心なしか落ち着いてきたように思いました。この第4期は8月6日まで、次回、早くも最後となる第5期は8月12日からの開催です。

*関連エントリ
「花鳥 - 愛でる心、彩る技<若冲を中心に>」 三の丸尚蔵館 第1期(4/9)第2期(5/22)第3期(6/18)第5期(8/27)
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