「パウル・クレー 創造の物語」 川村記念美術館 7/17

川村記念美術館千葉県佐倉市坂戸631
「パウル・クレー 創造の物語」
6/14-8/20



しばらく前のことですが、川村記念美術館で開催中の「パウル・クレー 創造の物語」展を見てきました。ともかく好きな画家の作品ならいくら見ていても飽きません。ただ気の向くままに絵をじっくり楽しむこと。久々に何も考えないで絵を見る喜びを味わうことが出来ました。



展示作品は約150点です。その内の60点あまりが国内の美術館から、残りはドイツの3つの美術館(ノルトライン=ヴェストファーレン美術館、シュプレンゲル美術館、フォン・デア・ハイト美術館)から出品されています。展示の構成はやや思弁的です。時系列に作品を並べるのではなく、「光の絵」や「イメージの遊び場」などという観点からまとめられています。ただ私はもうクレーを頭ではなく心で見ることにしました。無心でその絵の前に立つこと。質の良いものが多いからなのか、どの作品からもたまらない魅力が溢れ出ていました。



クレーには、どれを見ても一目で彼だと分かるような強い個性がありますが、その一つ一つの作品は、主題や構成、または画肌や線の動きをとっても実に多様な表現を見せています。まるでノルデのような透明感溢れる絵具の質感に心を惹かれつつ、時に原初的なパワーを見せる、ちょうどピカソやミロの抽象画のような画面に見入っていく。そして音楽のリズム。クレーほど作品に音が鳴っている画家もいません。子どもの落書きのような奔放な表現と、その反面での計算され尽くした画面構成。無限の可能性すら感じさせるクレーの作品からは、たくさんの音楽や詩が紡ぎ出されていきます。ともかく一枚の絵から驚くほど多くのイメージがわいてくる。それを自由に楽しめば私には満足なのです。



横へ並んだ線にのるいくつもの丸い粒。中央にはタイトルの「駱駝」(1920)の通り、一頭のラクダが左から右へと歩いています。線は水平線で、丸は樹木。そうして見ると、ここにはラクダが草原を歩く光景が表現されていると言えるのでしょう。ただ、私にはまずこの丸が楽譜の上で踊る音符に見えました。それぞれが右から左、または反対の方向へ、楽譜のベルトコンベアーにのって音を奏でながら流れていく。ポンポンとリズムを鳴らしながらラクダが進む。それともこの丸はちょうど線から釣下がる楽器なのかもしれません。それをラクダは体を揺さぶりながら音を立てて歩いている。そうするとラクダはこの楽器の演奏者でしょうか。そして、黄色や赤に光る樹木がラクダの足元をランプのように照らし出している。音と光に導かれ進みゆくラクダ。一体どこへ行くのでしょう。

見て感じて、美しいと思うだけでもいい。展示の構成はともかくも、見る側を縛らないクレーの世界を十二分に楽しむことの出来る展覧会でした。今月20日までの開催です。
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