「花鳥風月」 ホテルオークラ東京 8/20

ホテルオークラ東京(港区虎ノ門2-10-4
「第12回 秘蔵の名品 アートコレクション展:花鳥風月『日本とヨーロッパ』」
8/3-24(会期終了)



昨年に引き続き、今年も、ホテルオークラ東京でアートコレクション展が開催されました。応挙、抱一、芦雪、古径、マネ、モネ、シャガール、ヴラマンクなどの名品が、会場を雅やかに彩ります。このラインナップでつまらないはずがありません。難しいことを抜きにして、ただ名画を見る喜びにどっぷりと浸って来ました。



マネはこれまであまり積極的に見たことがないのですが、この展覧会に極上の名品が一つ展示されていました。それがパンフレット表紙にも使われているマネの「芍薬の花束」(1882)です。闇を背景にしてポッカリと浮き出た赤や白の芍薬の花。それが、歌舞伎の一画面が描かれているガラスの花瓶に美しく盛られています。それにしてもこの花瓶の透明感は見事です。金で象られた歌舞伎の図柄と水の質感、さらには束となった芍薬の茎と器のボリューム感が、折重なりながら巧みに表現されている。こんなに透明で、また輝くガラスの花瓶を見たのは初めてかもしれません。また、まるで雪が降り積もったように白い花瓶の台にも目を奪われました。今回の展覧会の西洋画ではこれを一番に推したいと思います。



花をモチーフとした作品では、川村記念美術館からやって来たラトゥールの「花瓶の花」(1877)も印象的です。ラトゥールと言うと、上野の西洋美術館にある「花と果物、ワイン容れのある静物」(1865)の美しい作品を思い出しますが、この「花瓶の花」もそれに負けていません。花に漂う静けさと儚さ。花が、まるで見る者を誘うように咲き誇っていました。これは危険です。今にも香るかのような花の質感と、抑えられつつも艶やかなその色彩には、思わず我を忘れて吸い込まれてしまいます。花の馨しい妖気。激しく自己主張するブラマンクの「花」とは実に対照的でした。その魅力に取り憑かれてしまうと抜け出せそうもありません。



海景と言えばブータンかクールベですが、私はブータンの方がより好きなようです。松岡美術館から出された「海、水先案内人」(1884)でも、雄大な海が、安定感のある構図の中で収まりよく描かれていました。やや荒々しい波に翻弄されるボートと、大きなマストを靡かせた帆船。緑色を帯びた粘り気を感じさせる海の描写に、雲の群がる巨大な空。海よりも空の方に画面がより多くとられている。広がりのある海景とは、まさにどこまでも果てしなく続く空の景色でもあることを示します。ブータンの海景画を見る際には、空の描写にも注目したいところです。





さて、いわゆる日本画では、今回の展覧会の目玉でもある酒井抱一の「四季花鳥図屏風」(1816)を一番に挙げるべきでしょう。金地に配された四季折々の美しい花や鳥たち。雪の残る白梅や、流麗なススキ、さらには可愛らしいタンポポや紫陽花までが、画面を縦横無尽に駆け回っています。そして白鷺や小鳥たちの舞う様子。こちらを向いた雉子の羽が、ススキと同じように右へと靡いていました。また、深い群青によって描かれた水流にも目を奪われます。このラインが作品の芯となって、一見バラバラに配されたような花や鳥をまとめ上げている。やや全体の表現にどことない硬さが感じられたのも事実ですが、その鮮やかな色遣いには素直に惹かれました。

つい先日、大倉集古館でそのごく一部を拝見した若冲の「乗興舟」(1767)とも再会です。今回はもう少し広げられた形で展示されていました。一番右にてそびえる城郭は淀城でしょうか。その後、八幡宮の山を越え、橋本、枚方と、淀川を大阪方面へ下っていきます。滔々と流れる淀川から、対岸にのぞむ山々の連なり。果てしなく続いていくようなその雄大な景色の下では、あまりにも小さく、また健気に歩く人々の姿がありました。ここまで来るとやはり全部見たいものです。



小林古径がたくさん展示されていました。全部で7点ほどです。これだけ見ると、私が日本画を見る切っ掛けともなった近代美術館での古径展を思い出します。川の流れに足を浸して、涼し気にこちらを見つめる女性を描いた「河風」(1915)や、まるで蛍が舞うように花を散らした「紫苑紅蜀葵」(1936)の味わいはたまりません。抱一、古径と、ともに私の大好きな日本画の巨匠を思いがけないほど拝見出来ました。幸せです。

併催美術展のうち、大倉集古館での「Gold」展をまだ拝見しておりません。「花鳥風月」のチケットで利用出来るようなので、近々、足を運んでこようと思います。

*関連エントリ(アートコレクション展の併催美術展)
「近代絵画の巨匠たち - 浅井忠 岸田劉生そしてモネ - 」 泉屋博古館・分館 8/20
「Gold - 金色の織りなす異空間 - 」 大倉集古館 9/16
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