「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その1・正統派絵画)

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「プライス・コレクション 若冲と江戸絵画」展
7/4-8/27

いつの間にやら会期末が近づいていました。先日、入場者が20万人を突破したという話題の「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」展です。結局、これまでに2、3度足を運びました。さすがに最近はかなり混雑しています。



当然ながら見応えのある展覧会なので、私の拙い感想もいつも以上にダラダラと長くなってしまいます。と言うことで、ここは会場の構成に則り、章毎に分けて書くことにしました。まずは早速、第一章の「正統派絵画」からです。メインの「エキセントリック」(=若冲)と対になるような、まさにオーソドックスな狩野派などの作品が並んでいました。特に印象深かった4点を挙げてみます。

一番に惹かれた作品は、四季折々の野山の光景を描いた「花鳥図屏風」(17世紀)でした。この屏風画は、春から冬への四季変化が、画面の中央にてちょうど円を描くように表現されているそうですが、特に左隻の秋から冬の部分が秀でています。雪の仄かに降り掛かった柳の木に、しっとりと濡れたような瑞々しい椿の花。そして柳の枝はまるで秋雨のように美しい弧を描いて垂れ下がっています。また右隻では、大胆に配された金雲と呼応するような松の描写がとても個性的です。蛇のように曲がりくねった枝へ、まるで小山の如く盛り上がった葉がベッタリとくっ付いている。地味な色遣いながらも、そのデフォルメされた形には目を奪われました。

屏風画では、曽我二直庵の「松鷹図屏風」(17世紀)もなかなか魅力的です。ここではまず、まるで木彫のような鷹が目につきます。松は思い切った、それこそ劇画のようなタッチで表現されていながら、鷹は実に精緻に描かれている。羽の一枚一枚はパズルのように組合わさっていました。そして、左右それぞれで睨みあう鷹の緊張感。余白を用いて簡潔な構図をとりながらも、彼らの視線、その配置などに力強さを感じる作品です。

この展覧会では鯉を描いた作品がいくつか登場しますが、その中で最も奇妙なのが渡辺始興の「鯉魚図」(18世紀)でしょう。滝を昇る鯉のモチーフ。これは、鯉が龍になるという「登竜門」の故事から、出世をイメージさせる目出度い画題の作品だそうですが、残念ながらこの鯉は尾ひれを滝壺へ残してしまったようです。またその滝壺も、水が轟々と渦巻いていると言うよりは、むしろ煙がモクモクと靡いているかのように見えます。滝を昇ろうとしているよりも、何とか壁にへばりついて落ちないように頑張っている。どうやら出世どころの話ではなかったようです。

「芥子薊蓮華草図」(17-18世紀)の美しさも忘れられません。細い線によって描かれた芥子や草花。そのか弱いタッチと相反するようなたらし込みがとても大胆でした。また芥子の花の赤から白へグラデーションが鮮やかです。そして構図としてもまとまりが良い。鄙びた雰囲気が印象に残りました。

第二章「京の画家」、もしくはそれ以降の感想については、また後日アップしたいと思います。

*関連エントリ
「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その2・京の画家)
「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その3・エキセントリック)
「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その4・江戸の画家)
「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その5・江戸琳派)
「若冲と江戸絵画」展 東京国立博物館 (その6・特別展示)
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