「川瀬巴水展」 ニューオータニ美術館 8/27

ニューオータニ美術館千代田区紀尾井町4-1 ニューオータニガーデンコート6階)
「大正・昭和の風景版画家 - 川瀬巴水展 - 」
7/25-9/3

ニューオータニ美術館で開催中の川瀬巴水(1883-1957)の回顧展です。展示作品の大部分が入れ替わると言うことで、前期と後期の両方を見てきました。



川瀬巴水の名前を初めて知ったのは、7月まで千葉市美術館で開かれていた「海に生きる・海を描く」展でのことです。私はその際に彼の風景版画へ強く引込まれました。要は一目惚れです。全国津々浦々、名所から何気ない街の一コマまで、巴水の風景版画は、日本の原風景を美しく表現します。そして藍を初めとしたその鮮やかな色彩感。底抜けに深い青の味わいは他の版画では見られません。色の魅力と風景への郷愁。どれも深く心に染み入る作品ばかりです。



惹かれた作品を挙げていくとキリがありませんが、やはり私には川瀬の色、特に青、または藍色の美しい色彩が魅力的にうつります。パンフレットの表紙を飾った代表作「馬込の月」(1930)の見事な色合い。雲に翳った満月が闇夜を煌煌と照らして、空全体を青く染め上げました。またこの青みは、海などの水辺を描いた作品にも大変美しく映えています。例えば、船着き場を描いた「別府の朝」(1929)です。青い水面はまるで鏡のように舟や月を反射させています。巴水の青い空と水。この美しさは格別です。



構図に対するセンスの良さを伺わせる作品も展示されています。中でも「駒形海岸」(1919)はとても面白い作品です。馬と荷車が連なって止まり、静かに疲れを癒している。そしてその情景を覗き込むかのような遠景の町並み。僅かな隙間から臨むことが出来るのは、美しく佇んでいる水辺越しの家々でした。そして空には真っ白な雲が伸びやかに靡いている。前景の緑と黄色、そして遠景の空や水に使われた青との対比も冴えています。見事です。

会場では、作品の他に「版画に生きる川瀬巴水」というドキュメンタリーも上映されていました。ここでは、巴水の版画制作の様子をじっくりと確認することが出来ます。巴水がスケッチした下絵を元に、熟練した彫師、摺師らが丹念に版画へと仕上げていく。まさに絵師、彫師、摺師の三者による魂のこもった共同作業です。一枚の版画にあれほどの手間がかかっているとは思いもよりません。この映像を見てからまた改めて巴水の版画を見るのも面白い。ビデオは約40分ほど少し長いのですが、是非拝見されることをおすすめします。

巴水の版画はhanga.comでもその画像をいくつか見ることが出来ます。そちらもおすすめです。展覧会は来月3日までの開催です。

*関連エントリ
「新版画と川瀬巴水の魅力」 ニューオータニ美術館 8/5:この展覧会と合わせて開催された講演会のレポートです。
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