「旅と画家」 山種美術館 8/6

山種美術館千代田区三番町2 三番町KSビル1階)
「旅と画家」
7/1-8/13

山種美術館で開催中の「旅と画家」展へ行ってきました。奥村土牛、速水御舟、荻須高徳、佐伯祐三らの風景画から、特に旅情溢れた作品の集う展覧会です。行く先々で筆をとった画家たちの、まさしく旅を追体験するような内容でした。



この美術館の展覧会の感想では、いつも奥村土牛の魅力について触れているかと思いますが、今回もまた素晴らしい作品が何点か展示されています。ともかく、土牛はたっぷりと配された顔料の瑞々しい質感と、それによる面の安定的な構成感が非常に優れているようです。中でも私がこれまでに見た作品で最も大きい「那智の滝」(1958)は圧巻としか言い様がありません。陽の光を鮮やかに受けて黄金色に輝く岩盤の表面に、轟々と、またゆったりと落ちて行く白い滝。特に滝の広がる画面の下側では、まるで顔料がリアルに上から下へと垂れているかように表現されています。岩にぶつかって砕ける水の音が聞こえてくる。滝の姿を神々しく捉えた、実に堂々とした作品でした。



また、この黄金色は「大和路」(1970)でも大胆に使われています。こちらは土壁や茅葺き屋根を描いているせいか、全体的にやや黄土色がかっていますが、特に、白と仄かに交じり合う土塀の表現が見事です。そしてそこへちょこんとのった灰色の瓦。朧げに浮き出す石垣の質感や、黄土色を引き立たせるかのような白い空などもまた魅力的でした。そして、白と言えば「雪の山」(1946)も忘れられません。ざっくりと刻まれた山肌へ丁寧に塗り込まれた白い雪。手前で凛と立つ杉の木が画面を引き締めています。その濃い芝色にも惹かれました。



速水御舟の見慣れないスケッチも展示されています。西洋にて描かれたという数点のペン画や水彩画。脆く崩れ去りそうな線による建物の群れ。その上には水彩が薄く配されています。これは一見しただけで御舟と分かりません。またその他、逆に一目見てそれだと分かるほど個性的な佐伯祐三の風景画や、横長の画面にて豪快に渦巻く渦潮を捉えた「鳴門海峡」(1992)なども印象的でした。ちなみに鳴門の景色は、土牛の描いた「鳴門」もこの美術館で見た記憶があります。二つ並べて展示しても興味深いのではないかと思いました。

国内外の美しき旅情を、九段下でいっぺんに味わうことが出来ます。今月13日までの開催です。
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