「大岩オスカール 夢みる世界」 東京都現代美術館

東京都現代美術館江東区三好4-1-1
「大岩オスカール 夢みる世界」
4/29-7/6



まさに夢の中を散歩している気分で楽しめました。会期最終日の駆け込みです。先日までMOTで開催されていた大岩オスカールの回顧展へ行ってきました。

まずは「宝探し地図」風のフロアマップからして期待が高まるというものです。展示自体は至極真っ当に、ようは作品を時系列に並べていくものでしたが、例えばMOTの広々とした空間でこそ成り立つ「クジラ」(1989)などは、足を踏み入れた瞬間に思わずクジラに飲み込まれてしまったような演出で満足出来ます。(その先の「トンネルの向こうの先」との相性も抜群です。)またオスカールの作品は単体よりも複数、言い換えればその「夢みる世界」のパズルを組み合わせるかのようにして全体像を夢想した方がより楽しめるのではないでしょうか。「シャドウキャットとライトラビットの出会い」(1999)は、パリで彼が出会った兎たちがここ木場まではるばる迷い混んできた作品です。ピカリと光る白と黒の一対の兎が、絵画よりも飛び出し、MOTの明るい展示室にて何やら眩しそうにしてじゃれ合っていました。平面、立体と、そのイメージを補完的に見られるのも、こうした回顧展の醍醐味の一つです。



大作にありがちな『緩み』がない点も、またオスカールの魅力として挙げられます。一見、ポップで華々しい色調やモチーフを用いながら、街の暗部を軽やかに抉り出す彼の作風は、例えば「ガーデニング(マンハッタン)」でもよく見ることが出来ました。これは現代文明の象徴、マンハッタンの高層ビル群の上空に浮かぶ色とりどりの花畑がファンタスティックに表された作品ですが、底部に横たわるエンパイア・ステートの長い影や、花があたかも空襲を受けて炸裂する爆弾の痕跡のイメージと重なる様子などが、大都会に潜む影と、その暗い未来を予兆するかのようで不気味に感じられます。そう言ってしまえば、本来なら賑わっているはずのこのビル群も、何やら澱んだ湖底に沈む古びた遺跡のようです。これらの花々は、例えば墓場に場違いなほど咲き乱れる花のイメージにも近いのかもしれません。

おそらくは日本の光景を表したと思われる「ノアの箱舟」も象徴的です。東京で言えば日本橋川を連想させるような暗渠をドックに見立て、まさにタイトルの通りの箱舟が慌ただしく建設されている光景が描かれていますが、それはビルの谷間にも挟まれて都市と一体化しているため、ひょっとするともはや動くことすら許されない、言い換えれば単なるモニュメントとしてだけ存在しているのではないかとも感じられました。ここには箱舟を方便として作りながら、それを用いざる日が来るかもしれない現実に目を背けている、見境無く現代社会を突っ走った我々への警鐘の意味が込められているのかもしれません。



最終日でも比較的余裕がありました。展覧会は既に6日に終了しています。
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