「フランスが夢見た日本 - 陶器に写した北斎、広重」 東京国立博物館

東京国立博物館・表慶館(台東区上野公園13-9
「オルセー美術館コレクション特別展 フランスが夢見た日本 - 陶器に写した北斎、広重」
7/1-8/3



表慶館では久々の特別展です。19世紀、フランスのジャポニスムを、主に陶芸の視点から概観します。「フランスが夢見た日本 - 陶器に写した北斎、広重」へ行ってきました。

フランスの陶におけるジャポニスムの影響と言えば、先日の回顧展(サントリー美術館)の記憶も新しいガレの名がまず浮かびますが、今回紹介されているのは、当時のフランスにて陶器の制作、販売を生業としていたウジェーヌ・ルソーと、彼の元で画を付けた二人の画家、フェリックス・ブラックモンとセルヴィス・ランベールの計3名です。元々、ジャポニスムに目を付け、一連の陶器を作ろうと仕掛けたのはルソーですが、表題の北斎や広重など、浮世絵のモチーフを借りて画を付けた両者の様相は実際のところ相当に異なっています。ようは、原画の浮世絵を元に、両画家がどのようにしてそのモチーフを消化したのかを比較検討する展覧会です。浮世絵が、時に思わぬエキゾチックな世界へと変化する様を楽しむことが出来ました。

ルソーの依頼の元、先に画を付けたブラックモンの作品は、言ってしまえば浮世絵モチーフの完全なる剽窃です。鮮やかな白を基調とした皿に、北斎、広重らの浮世絵の画の一部分が、そのままそっくり写して表されています。一見する限り、ブラックモンの画(版画)はあまり巧くありませんが、例えば「平皿 鯔に朝顔図」では、それぞれ北斎漫画などの原画にある朝顔や鯔、それに蜂というバラバラのモチーフが、白の余白を背景に、何とも取り澄ましたように奇妙に合わさって描かれていました。ただ、このブラックモン画による陶器を実際にテーブルにセットで並べた『再現展示』を見ると、不思議と個々の器で見た違和感が消えていきます。意外と実用的なのかもしれません。



ブラックモン画による器の人気に味をしめたルソーは、今度はランベールに画を付けることを依頼します。ただし今度は、ブラックモンがエッチングの下絵を用いていたのに対し、画家自身が直接手で描き、また彩色するという方法です。こちらは一目見るだけでも明らかなように、ブラックモンに比べてはるかに技巧に優れ、またアーティスティックでありますが、裏を返せば実用性よりも観賞の方が優先された器とも表せるのかもしれません。(もちろん目を楽しませてくれるのはこちらです。)北斎の画本よりカニのモチーフを取り出し、そこへ新たに波の様子を加えた「平皿 波に蟹図」や、広重の名所図絵よりその一部分をトリミングして、器全体に広がる景色を写し込んだ「平皿 沼図足柄山不二雪晴図」などは、色の美しさ、または精緻な描写など、ブラックモンにはない魅力が多分に感じられました。そしてここではかの奇想絵師、河鍋暁斎も登場しています。暁斎ではもはやお馴染みの蛙が三匹、そのまま器に表されていました。さすがにこの皿の上にのる食材のイメージは浮かびません。



オルセー所蔵の両者の器はもとより、普段、あまり目にしない北斎漫画なども多数展示されています。率直なところ、企画自体はかなり地味ですが、浮世絵ファンにとっても見逃せない内容ではないでしょうか。



対決展開催中ですが、館内には余裕がありました。こちらは混雑することはなさそうです。

8月3日まで開催されています。
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