「浮世絵 - ベルギーロイヤルコレクション展」 日本橋高島屋

高島屋東京店8階 ホール(中央区日本橋2-4-1
「浮世絵 - ベルギーロイヤルコレクション展」
4/29-5/11



昨年秋の太田記念、そして今年1月の京都高島屋を経て、ベルギーより里帰りした最良の浮世絵コレクションが東京・日本橋に凱旋します。高島屋東京店で開催中の「浮世絵 - ベルギーロイヤルコレクション展」へ行ってきました。

まずは本展に登場する絵師を並べてみました。まさに浮世絵の通史を俯瞰する壮観なラインナップではないでしょうか。(カッコ内は出品数)

「ベルギー王立美術歴史博物館」蔵
鈴木春信(14)、磯田湖龍斎(4)、北尾重政(4)、一筆斎文調(2)、鳥居清経(1)、鳥居清長(8)、歌川豊春(2)、勝川春章(5)、勝川春好(1)、勝川春英(1)、勝川春旭(1)、喜多川歌麿(17)、北尾政演(5)、東洲斎写楽(8)、鳥高斎栄昌(1)、鳥文斎栄之(1)、一楽亭栄水(1)、窪俊満(1)、歌川豊国(1)、歌川豊広(1)、葛飾北斎(16)、魚屋北渓(5)、歌川広重(10)、柳々居辰斎(1)、昇亭北寿(1)、渓斎英泉(1)、歌川国貞(1)、歌川国芳(15)

「ベルギー王立図書館」蔵
鈴木春信(2)、勝川春章(1)、喜多川歌麿(13)、東洲斎写楽(3)、葛飾北斎(2)、歌川広重(1)、歌川国芳(5)

なお太田記念美術館で展示された作品とは3分の2程度入れ替わっています。ほぼ初出ばかりで構成された展覧会として問題ありません。(ただしベルギー王立美術館の方は殆ど太田で紹介されたものばかりです。)



冒頭の春信からしてその鮮明な発色に目が奪われます。芝色の畳に朱の障子のコントラストが美しい「水仙花」をはじめ、桃色の小舟に乗った女性の衣の赤い菱形文様が美しい「やつし朝妻船」、または得意のきめ出しが洗濯物を白く象る「洗濯」など、淑やかな女性の様子はもとより、春信の『色』の魅力を知るにはこの上ない作品がずらりと揃っていました。浮世絵にお詳しい一村雨さんも仰ってますが、今回の展示を見ると、東博の浮世絵コーナーすら見劣りしてしまします。ちらしに「最高のコンディション」とうたわれるのも伊達ではありませんでした。



良好な保存状態からすれば、春信と同等の写楽も見逃すわけにはいきません。雲母の剥離のまるでない「初代市川男女蔵の奴一平」には至極感心させられました。ぼさぼさの髪を露に、口元を引き締めて刀を抜かんとする様子には、気性も荒そうなモデルの生命すら表現されています。袖をまくり、二の腕を露にする仕草、そして何よりも鞘を握る指先にまで神経が行き届いていました。



点数も多い歌麿も目立ちます。遊女の一日を12の時間に分けて描く「青楼十二時」の全点揃いは壮観のまさに一言でした。「辰の刻」は布団に入る女性から乳房がはだけ、歌麿ならではのエロスが見事に示されています。また「未の刻」における遊女の着た紫の衣服は、身分の低い者を描く時にも高貴な紫色を使ったというエピソード(「歌麿 抵抗の美人画」近藤史人著)を垣間見る面がありました。今回の主役もやはり彼になるのかもしれません。

「歌麿 抵抗の美人画/朝日新書/近藤史人」

鼠の嫁入りの姿を西洋の遠近法も取り入れて表した、歌川豊春の「浮絵鼠嫁入図」も微笑ましい一枚ではないでしょうか。寝殿造の広大なお屋敷に、今、籠で腰入りしようとする鼠の行列が描かれています。またもう一点、思わずにやりとさせられるのは、国芳の「忠義重命軽」です。忠臣蔵の志士が義と忠の漢字を重そうに担ぐ一方、命の文字は指で引っ掛けるようにしてぶら下げています。当時の民衆は一体、どういう反応を示したのでしょうか。まさに問題作と言えそうです。

「カラー版浮世絵/岩波新書/大久保純一」*新書最強の浮世絵ガイドです。

なお閉館2時間前、午後6時以降は入場料が半額になります。いつもながら夜間はおすすめです。それこそ何かと手狭な太田の時のような混雑もなく、静かにじっくりと楽しめました。(出品リストがないのだけが残念です。高島屋さんお願いします!)


*高島屋東京店。先日、百貨店としては初めて重要文化財の指定を受けました。とんとんさんの写真と記事が参考になります。

次にこれほど見事な浮世絵を見られるのは何時になるでしょうか。GW明け、11日まで開催されています。
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