「日本の美術館名品展」(Vol.3・マイベスト)

東京都美術館台東区上野公園8-36
「美連協25周年記念 日本の美術館名品展」
4/25-7/5



学芸員氏レクチャーのVol.1、私的な見所を書いたVol.2に引き続きます。無理があるのは承知ながらも、現在展示中の作品より、各ジャンル毎に惹かれたものを「ベスト5」という形で挙げてみました。

1.西洋絵画・彫刻



オノレ・ドーミエ「ドン・キホーテとチョ・パンサ」(伊丹市立美術館)
展示順路、冒頭に登場するドーミエの珍しい油彩画です。ドン・キホーテ主従を影絵のようなタッチで描いています。白昼夢を見ているような気分にさせられました。



エゴン・シーレ「カール・グリュンヴァルトの肖像」(豊田市美術館)
日本で唯一、シーレの油彩を所蔵する豊田市美からの名品です。まるでペンキを塗り込んだ画肌からして特異ですが、深く腰掛けて手を前に合わせ、下から斜め上方向を伺うような姿勢そのものにモデルの持つ凄みを感じました。その怜悧な視線は見る者を凍らせてしまうかのような迫力があります。



ハイム・スーチン「セレの風景」(名古屋市美術館)
ヴラマンクも真っ青なほどに歪み、また悶え苦しむ風景が示されています。まるで靡く炎か蜃気楼の如く揺らめく木立は視界を大きく遮り、後景には堅牢な山々と反面の埋もれ崩れそうな家が描かれていました。



ポール・デルヴォー「海は近い」(姫路市立美術館)
無条件に好きな画家なので挙げないわけにはいきません。埼玉県美へ巡回したシュルレアリスム展でも見た「海は近い」に再会することが出来ました。エロスを連想させ、艶やかさを押し出しながらも、その冷めきった夜の気配と静寂感がたまらない一枚です。



フランソワ・ポンポン「シロクマ」(群馬県立館林美術館)
館林のアトリエで一目惚れしたポンポンのシロクマくんが上野に出張中です。白い大理石の質感と、緩やかな曲線によって象られた姿に癒されました。

2.日本、近現代洋画



山本芳翠「裸婦」(岐阜県美術館)
日本の洋画家の中でも一際、絵が巧い山本芳翠の描く裸婦像です。シーツの上に横たわりながら水辺で佇むその姿は、精緻な描写と背景の植物の効果もあってか、まるでミレイの絵画を思わせるような幻想性をたたえていました。



河野通勢「聖ヨハネ」(渋谷区立松濤美術館寄託)
今更ながら松濤美術館での回顧展を見逃したのが悔やまれます。洗礼者ヨハネが、劉生張りの写実で示された荒野の上を、一抹の憂いをたたえながら、それでも無垢な表情をして立っていました。ブロンドの髪、腰巻きの毛皮、そしてうっすらとピンク色がかった肌の表現などは必見でしょう。



三岸好太郎「のんびり貝」(北海道立三岸好太郎美術館)
のほほんとしたタイトルと貝の取り合わせに素直に惹かれました。明るめの色遣いの他、物質感のあるタッチは屈託がありませんが、横に長く伸びる影などに、一抹の不安感と孤独感を見て取ることが出来ます。(但しキャプションにある「死せる貝殻」のイメージまでは感じ取れませんでした。)



海老原喜之助「曲馬」(熊本県立美術館)
「エビハラ・ブルー」とも称される水色を背景に、あたかも今、空へと飛び立とうとするかのような馬と曲馬師が伸びやかな様子にて描かれています。半ば稚拙とも思える表現に、素朴な魅力を見出すことが出来ました。



松本竣介「橋」(東京駅裏)」(神奈川県立近代美術館)
松本も上のデルヴォー同様、無条件に好きな画家の一人です。かつて東京駅前にあったという八重洲橋の様子を、お馴染みの重く、また煤けたタッチで描いています。電柱の他、遠景の工場の煙突など、縦方向に伸びる事物が、誰もいない都会の真ん中を寂しく見下ろしていました。

3.日本画・版画



菱田春草「夕の森」(飯田市美術博物館)
朧げに浮かび上がる夕暮れの森の上を、鴉が群れをなしてぱらぱらと飛び交います。春草らしい儚気な気配がたまらなく魅力的な一枚でした。



小川芋銭「涼気流」(茨城県近代美術館)
やはり茨城から出されたのは『河童の芋銭』こと小川芋銭でした。霞ヶ浦の湖畔にて漁に勤しむ漁民の姿が颯爽としたタッチで表しています。遥か彼方に筑波山を望むこの空の広さこそ茨城の景色です。



北野恒富「宵宮の雨」(大阪市立美術館)
夕立に降られしばし外出をためらう女性たちの姿が示されています。色とりどりの着物を纏い、後姿で並ぶ女性にこそ美しさを感じたのは私だけではないかもしれません。しっとりと竹を濡らす雨音の他、彼女らの会話が聞こえてきそうなほど情緒豊かな作品でした。



近藤浩一路「雨期」(山梨県立美術館)
どんよりとした雲のたれ込める空と、遥か彼方まで続く苗が一体となって、無限の田園風景を作り上げています。遠目からではあたかも写真のような細かな描写も目を見張りますが、思わず深呼吸したくなるような開放感もまた魅力的でした。



駒井哲郎「樹」(東京都現代美術館)
何気ない樹木が清潔感にも溢れた『白』の中で立ち並びます。光眩しき余白が生気に漲る立ち木を祝福するかのように包み込んでいました。

如何でしょうか。

阿修羅、ルーヴルの入場者がともに60万人突破と、最近の上野の山の混雑は尋常ならざるものがありますが、この展覧会はそれらの喧噪とはほぼ無縁です。先日、改めて拝見してきましたが、館内には相当に余裕がありました。総花的云々の批判は容易いことかもしれませんが、今回ばかりは日本各地の美術館の品々を素直な目で楽しむのも良いのではないでしょうか。

そろそろ日本画、版画の入れ替わる後期展示(6/2~)が始まります。早々に見に行きたいです。

7月5日までの開催です。

*関連エントリ
「日本の美術館名品展」(Vol.2・全体の印象)
「日本の美術館名品展」(Vol.1・レクチャー)
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