「国立トレチャコフ美術館展 - 忘れえぬロシア - 」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム渋谷区道玄坂2-24-1
「国立トレチャコフ美術館展 - 忘れえぬロシア - 」
4/4-6/7



珠玉のロシア絵画コレクションが渋谷に集結しています。Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「国立トレチャコフ美術館展 - 忘れえぬロシア - 」へ行ってきました。

構成は以下の通りです。19世紀後半から20世紀初頭にかけてのロシアのリアリズム、または印象主義絵画、計75点が紹介されていました。

第1章「情緒的リアリズムから社会リアリズムへ」
第2章「日常の情景」
第3章「リアリズムにおけるロマン主義」
第4章「肖像画」
第5章「外光派から印象主義へ」

ともかく魅惑的なのは、ちらし表紙を飾る「忘れえぬ女」も描いたイワン・クラムスコイの作品です。黒のドレスにリボンを纏い、藍色を帯びた帽子に美しい飾りをつけた女性は、あたかも見る者を見下すような様子をとりながらも、どこか目の奥で憂いをたたえたかのように寂し気な面持ちを見せながら馬車に座っています。もしこの女性がキャプションの如くアンナ・カレーニンであるとするならば、ヴロンスキーへの愛に狂った猛々しき情熱と、反面の破滅的な結末へと向かわざるを得なかった彼女の弱さを同時に表されているに違いありません。アイボリー色に染まる雪に覆われた後景の街の描写と対比的な、例えば毛皮や飾りなどの細部にまで細密に示された表現力は、クラムスコイの画家としての稀な能力を確かに見て取ることが出来ました。これ一点だけでも渋谷へ足を運ぶ価値があるのではないでしょうか。



とは言え、内にこめられた遣る瀬ない思いに由来するのか、いささか見る者を突き放しているようにも見える「忘れえぬ女」よりも、私が一目見て惚れたのは、同じくクラムスコイによる「髪をほどいた少女」でした。細かな筆で水の流れるように靡くブロンドの長髪をはじめ、透明感に溢れながらも仄かに赤らむも美しいところですが、やはりここでも心を掴まれるのは、これから涙するのか、それとも既に涙を涸らして茫然としているのか、その潤んだ瞳と悲しみにくれた表情です。また光は正面よりドラマテックに降り注ぎ、そのような彼女の内面を容赦なくあぶり出しています。モデルの真を露にするのにクラムスコイほどの画家はそういるものではありません。どこか神経質そうな目でこちらを伺う「自画像」にも魂が宿っています。こちらも見事でした。



クラムスコイの感想だけで長くなってしまったので他は端折りますが、まるでセガンティーニを思わせほどに光に満ちあふれた風景画など、見るべき作品がいくつもありました。

一昨年の都美の「ロシア美術館展」の感動が蘇った方も多いのではないでしょうか。ロシア絵画の展示というと、どうも集客に苦労する面(実際、会場には余裕がありました。)も多いようですが、絵画を見て純然たる喜びに浸れる展覧会であることは間違いありません。

6月7日までの開催です。今更ながらおすすめします。

*なお余談ですが、4月1日より、東急東横店(渋谷駅)と東急本店を結ぶ無料シャトルバスのルートが変更されました。帰りは文化村から東横店(渋谷駅)までの直行です。マークシティ、またセルリアンタワーの停留所は廃止されたのでご注意下さい。(なおバスは本店から右廻り、センター街からハンズ、タワーレコード、さらにはJRガードをくぐり、宮下公園から明治通りを渋谷駅へと向かいます。駅まで10分はかかりました。)
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