都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」 府中市美術館
府中市美術館(府中市浅間町1-3)
「府中市制施行55周年記念 ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」
2009/11/14-2010/2/14
19世紀から20世紀初頭にかけての主にイギリス絵画を概観します。府中市美術館で開催中の「ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」へ行ってきました。
本展の概要です。
・ベリ美術館、及びマンチェスター市立美術館の他、イギリス国内より出品された絵画、全100点を紹介する。(その多くが日本初公開。)
・メインはイギリスの風景画。水彩画も多い。(残り一割程度がフランス印象派絵画)
・構成は7章だて。海、川、旅人など、モチーフをシンプルな切り口で分類して展観。
タイトルに印象派云々とありますが、上でも触れたように展示の中核は、ターナー、ハント、ロバーツなどのイギリスの絵画に他なりません。いわゆる大作メインの名画展ではありませんが、主に水彩画など、イギリスの景色、また人々の生活を捉えた素朴な絵画群はなかなか味わい深いものがありました。
それではイギリス絵画より、心に留まった数点を挙げてみました。
ウィリアム・ヘンリー・ハント「イワヒバリの巣」
いきなり登場する水彩画の傑作。青い卵の入った鳥の巣をはじめ、バラの花、いちごなどが精緻に表された。ハントはこうした作品を多数手がけたそうだが、(本展には5点出品。)これ一点でもイギリス水彩画の魅力を存分に堪能出来るのではないだろうか。もちろん関係ないが、熊田千佳慕の描く作品を思い出した。
J.M.ウィリアム・ターナー「エーレンブライトシュタイン」(1832年)
水彩の小品4点、また油彩1点が出ていたターナーの中で最も惹かれた作品。船も浮かぶラインの川岸の後方には、エーレンブライトシュタイン城がそびえ立っている。船上に小さく描かれたキャンバスを持った男は何とターナー自身であるとのこと。渦巻く大気、差し込む陽光は美しく、また細やかに描かれた船や人々の情景には生活感も溢れていた。ちなみに本作はキャプションにもあった通り、拙ブログのタイトルにも引用したバイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」の第三巻でうたわれた地。バイロンの死後10年とたたない頃の作品とのことで、彼の見た景色もこのようなものであったのかもしれない。
ジョージ・クラウセン「春の朝:ハーヴァーストック・ヒル」(1881年)
ある都市の街角を大きな画面で捉えた一枚。石畳の上でツルハシを持って作業する男たち、そしてベンチで座る婦人などが登場しているが、やはり目を引くのはこちらへ向かって歩く母と子の姿だ。女性は喪服を着ているが、手に持つブーケはやはり街灯の下に立つ花売りから買ったものなのだろうか。いささか慌てたような、また物悲しそうな母親の表情の反面、見上げるような視線を向ける少女の強い存在感も印象に残った。
ジョン・ウィリアム・ゴッドワード「金魚の池」(1899年)
本展一、華やかでかつ甘美な詩情をたたえた一枚。芥子の花畑をバックに、池の縁に腰掛けながら金魚へえさをやる女性が描かれている。ともかくは眩しいほどのオレンジ色の効果が素晴らしい。輝かしい光が絵の隅々にまで降り注いでいた。
順路の最後に、ピサロやボナールなど、お馴染みのフランス人画家たちの作品が出ていましたが、その中ではゴーギャンの「ディエップの港」(1885年)が特に印象に残りました。帆船の停泊する港町の景色が、雲より滲んだ水色の光に包まれるかのようにして表されています。初期ゴーギャンらしく抑制された色調ながらも、例えば波立つ海のグラデーションなど、巧みに示された繊細なタッチに感心しました。
思ったよりも会場は賑わっていましたが、寒空のもと、思いをイギリスに馳せるにはこの上ない展覧会でした。イギリス絵画好きはもちろんのこと、あまり馴染みのない風景画家たちの業績を知るには最適な機会かもしれません。
次の日曜、24日には、館長の井出洋一郎氏による、展示に一部準拠した講演会が予定されています。
「館長が語る 19世紀ヨーロッパ絵画の魅力 ドラクロワからゴーギャンまで」(全4回)
第4回「ポスト印象主義 ゴーギャン、ゴッホ、スーラほか」
日時:1/24(日)14時から15時半
会場:館内講座室
定員:先着100名
料金:無料
なお同館内にてあわせて開催中の青山悟の小企画展もお見逃しなきようご注意下さい。超絶技巧のミシン刺繍画がお待ちかねです。
「公開制作48 青山悟 Labour’s Lab」(アーティストトーク:2月14日 14:00~)
2月14日まで開催されています。
「府中市制施行55周年記念 ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」
2009/11/14-2010/2/14
19世紀から20世紀初頭にかけての主にイギリス絵画を概観します。府中市美術館で開催中の「ターナーから印象派へ - 光の中の自然 - 」へ行ってきました。
本展の概要です。
・ベリ美術館、及びマンチェスター市立美術館の他、イギリス国内より出品された絵画、全100点を紹介する。(その多くが日本初公開。)
・メインはイギリスの風景画。水彩画も多い。(残り一割程度がフランス印象派絵画)
・構成は7章だて。海、川、旅人など、モチーフをシンプルな切り口で分類して展観。
タイトルに印象派云々とありますが、上でも触れたように展示の中核は、ターナー、ハント、ロバーツなどのイギリスの絵画に他なりません。いわゆる大作メインの名画展ではありませんが、主に水彩画など、イギリスの景色、また人々の生活を捉えた素朴な絵画群はなかなか味わい深いものがありました。
それではイギリス絵画より、心に留まった数点を挙げてみました。
ウィリアム・ヘンリー・ハント「イワヒバリの巣」
いきなり登場する水彩画の傑作。青い卵の入った鳥の巣をはじめ、バラの花、いちごなどが精緻に表された。ハントはこうした作品を多数手がけたそうだが、(本展には5点出品。)これ一点でもイギリス水彩画の魅力を存分に堪能出来るのではないだろうか。もちろん関係ないが、熊田千佳慕の描く作品を思い出した。
J.M.ウィリアム・ターナー「エーレンブライトシュタイン」(1832年)
水彩の小品4点、また油彩1点が出ていたターナーの中で最も惹かれた作品。船も浮かぶラインの川岸の後方には、エーレンブライトシュタイン城がそびえ立っている。船上に小さく描かれたキャンバスを持った男は何とターナー自身であるとのこと。渦巻く大気、差し込む陽光は美しく、また細やかに描かれた船や人々の情景には生活感も溢れていた。ちなみに本作はキャプションにもあった通り、拙ブログのタイトルにも引用したバイロンの「チャイルド・ハロルドの巡礼」の第三巻でうたわれた地。バイロンの死後10年とたたない頃の作品とのことで、彼の見た景色もこのようなものであったのかもしれない。
ジョージ・クラウセン「春の朝:ハーヴァーストック・ヒル」(1881年)
ある都市の街角を大きな画面で捉えた一枚。石畳の上でツルハシを持って作業する男たち、そしてベンチで座る婦人などが登場しているが、やはり目を引くのはこちらへ向かって歩く母と子の姿だ。女性は喪服を着ているが、手に持つブーケはやはり街灯の下に立つ花売りから買ったものなのだろうか。いささか慌てたような、また物悲しそうな母親の表情の反面、見上げるような視線を向ける少女の強い存在感も印象に残った。
ジョン・ウィリアム・ゴッドワード「金魚の池」(1899年)
本展一、華やかでかつ甘美な詩情をたたえた一枚。芥子の花畑をバックに、池の縁に腰掛けながら金魚へえさをやる女性が描かれている。ともかくは眩しいほどのオレンジ色の効果が素晴らしい。輝かしい光が絵の隅々にまで降り注いでいた。
順路の最後に、ピサロやボナールなど、お馴染みのフランス人画家たちの作品が出ていましたが、その中ではゴーギャンの「ディエップの港」(1885年)が特に印象に残りました。帆船の停泊する港町の景色が、雲より滲んだ水色の光に包まれるかのようにして表されています。初期ゴーギャンらしく抑制された色調ながらも、例えば波立つ海のグラデーションなど、巧みに示された繊細なタッチに感心しました。
思ったよりも会場は賑わっていましたが、寒空のもと、思いをイギリスに馳せるにはこの上ない展覧会でした。イギリス絵画好きはもちろんのこと、あまり馴染みのない風景画家たちの業績を知るには最適な機会かもしれません。
次の日曜、24日には、館長の井出洋一郎氏による、展示に一部準拠した講演会が予定されています。
「館長が語る 19世紀ヨーロッパ絵画の魅力 ドラクロワからゴーギャンまで」(全4回)
第4回「ポスト印象主義 ゴーギャン、ゴッホ、スーラほか」
日時:1/24(日)14時から15時半
会場:館内講座室
定員:先着100名
料金:無料
なお同館内にてあわせて開催中の青山悟の小企画展もお見逃しなきようご注意下さい。超絶技巧のミシン刺繍画がお待ちかねです。
「公開制作48 青山悟 Labour’s Lab」(アーティストトーク:2月14日 14:00~)
2月14日まで開催されています。
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