「有元利夫展 天空の音楽」 東京都庭園美術館

東京都庭園美術館港区白金台5-21-9
「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」
7/3-9/5



没後25年を迎え、当時「画壇のシンデレラボーイ」(ちらしより引用)とも呼ばれた画家、有元利夫(1946~1985)の業績を振り返ります。東京都庭園美術館で開催中の「没後25年 有元利夫展 天空の音楽」へ行ってきました。

既に評判も上々とのことで期待はしていましたが、確かに箱との相性にかけては何ら申し分のない展覧会だと言えるかもしれません。有元の絵画における彫像的な人物は、さもこのアール・デコの館の住人たちの幻のように振舞っています。ダンスをし、またリコーダーを奏でる彼ら彼女らの息遣いは、会場内でそれこそシンフォニーを響かせるように共鳴していました。


「室内楽」(1980年)

絵画表現において感心させられるのは、まさに「古色を帯びた独特の画風」(ちらしより引用)です。意外と厚塗りの絵具は不思議な透明感をたたえ、特徴的なエメラルドグリーンや朱色はどこか沈み込むような面持ちで仄かな光を放っていました。その味わいはローマ時代の壁画にもたとえられるのではないでしょうか。またある時の宗教画風の静謐な趣きは、素朴なイコンを思わせるものがありました。


「ロンド」(1982年)

音楽好きの有元は自らも学んでいたリコーダーのケースを作ったり、音楽家に作曲を依頼してそれに基づく版画集を描いたりしています。もちろん絵画においても「ポリフォニー」や「フーガ」といった音楽的な表題が多く用いられていました。直接、楽器などのモチーフを取り入れた作品はさほど多くありませんが、絵の前で何らかの具体的な音楽を連想された方も多いかもしれません。


「ささやかな時間」(1980年)

有元は音楽の中でもとりわけバロック音楽を愛し、その様式美や反リアリズム性、それにシンメトリカルで簡素でかつ典雅な部分を称賛しました。それは言うまでもなく有元自身の絵画の特徴とも重なりますが、何故かバロック音楽の大きな性質であり魅力の一つである「劇的な感情の表出」が抜け落ちています。そこは彼が意図して避けていたのか、それとも違うのかが少し気になりました。

初期作を除き、一貫して変わらね画風には彼が受けた生の短さを思わざるを得ませんでした。作家の写しでもあるという画中の人物を見ているとどことなく物悲しくなってきます。

9月5日まで開催されています。
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