「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」 松屋銀座

松屋銀座本店8階大催事場(中央区銀座3-6-1
「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」
8/25-9/6



松屋銀座で開催中の「アール・ヌーヴォーのポスター芸術展」へ行ってきました。

主にアール・ヌーヴォー期のポスターがこれほど一同に揃うことなど滅多にないかもしれません。チェコ国立プラハ工芸美術館、及びチェコ国立モラヴィア・ギャラリーから出品されているのは、ロートレックやミュシャなどの大家から、同時代の比較的マイナーな画家までを網羅したポスター全130点でした。


展示風景

展示はウィーン分離派を冒頭に、アール・ヌーヴォーのポスターを大まかなテーマに分けて紹介しています。構成は以下の通りでした。

1.ウィーン分離派と世紀末美術の潮流
2.市民生活の夢とボスター
2-1.新しい演劇、コンサート、展覧会、博覧会
2-2.都市生活にあふれるさまざまな商品 出版・自転車・飲料・観光ポスター


デパートの催事として軽い気持ちで行くと良いで期待を裏切られるかもしれません。当時の雰囲気を伝える様々なポスターに囲まれていると、いつしか19世紀末のヨーロッパの都市空間に迷い込んだような気持ちにさせられました。

それでは私なりの視点で展示の見所を何点か挙げてみます。

・ウィーン分離派展ポスター


ウィーン分離派展ポスター各種

第1回から第27回、また第40回以降の一部の分離派展のポスターがずらりと勢揃いしています。第1回を飾るクリムトはもちろん、意外と多様な作風は各画家の個性を知る上でも興味深いものがありました。


右、エック、左ハールフィンガー「ウィーン分離派ポスター展」1912年

グラフィカルな要素が強いのも特徴の一つではないでしょうか。エック、ハールフィンガーらによるいわば記号的なデザインには驚かされました。

・検閲とクリムト


グスタフ・クリムト 第1回 ウィーン分離派展(検閲前)1898年 チェコ国立プラハ工芸美術館

そのクリムトの分離派展第1回目のポスターが2枚出ています。


クリムト「第1回 ウィーン分離派展」右、検閲前、左、検閲後。

写真では今一つ分かりにくいですが、左右をよく見比べてください。これは要するに検閲前と検閲後の作品です。右の検閲前の上段にあるミノタウロスを倒すテセウスのあからさまな裸体が問題となり、左のような黒い樹木が加えられました。なおこのミノタウロスは既存の美術界を、またテセウスは分離派を表しているそうです。もちろん右に立つのは分離派ではお馴染みの戦いの女神、パラス・アテナでした。

・椿姫とハムレット~ミュシャの舞台劇ポスター


ミュシャ、左「ハムレット」1899年、右「サマリアの女」1897年

ミュシャがサラ・ベルナールに依頼されて描いた舞台のポスターが何点か出ています。やはり身近なのは椿姫とハムレットでした。父の亡霊が現れる月夜を背景に立つハムレットのややこわばった横顔は劇の雰囲気を良く表しているのではないでしょうか。

・ロダン展とムンク展~展覧会のポスター


右、ジュパンスキー「オーギュスト・ロダン回顧展」1902年、左、プレイスレル「エドワルド・ムンク展」1905年

当時開催された展覧会のポスターも見どころの一つです。堂々たるバルザック像が来場者を見下ろすロダン展、また星空を虚ろな表情で眺めるムンク展ポスターの意匠は現代に通じるものがあります。チラシやポスターは展覧会の全体の印象を左右することがありますが、きっと昔も同じだったに違いありません。

・消費生活とポスター~商品広告


2.市民生活の夢とボスター

大衆消費社会の到来とともに様々な商品のポスターも巷に溢れ出します。


ウィリアム・ブラッドリー「ヴィクター自転車」1900年 チェコ国立モラヴィア・ギャラリー

まず興味深いのは当時、極めて流行したという自転車のポスターです。中でもまるで映画のワンシーンを覗くかのような「ヴィクター自転車」にはひかれました。なおこの洗練されたデザインにはいわゆる女性的な感性を連想させる面もあるかもしれませんが、実際に自転車は女性解放のシンボル(一人で遠出することが可能になったため。)として捉えられていたそうです。自転車に乗る女性を見る男性の表情は緩みっぱなしでした。


モーザー(1899年)*ネタバレになるのでタイトルは伏せます。

一見するだけでは何の宣伝なのか分からないポスターも多く登場します。まるで人魚が泳ぐような姿を描いたこの作品、何の商品のポスターか是非とも会場で確認してください。ポスターを見ながら商品を当て、またその先の人々の生活をイメージしながら見るのも楽しいのではないでしょうか。

・華やかな衣装とともに


展示風景

香水などのポスターも多く展示されていますが、それともに実際の商品や衣装を表した立体展示もハイライトの一つです。


展示風景

なおこの衣装の展示は松屋銀座会場限定です。一層華やいだ雰囲気が醸し出されていました。

・寝台特急「北極星号」

最後に出口に待ち構える一枚を挙げておかないわけにはいきません。


カッサンドル(本名アドルフ・ムーロン)「寝台特急北極星号」1927年 チェコ国立プラハ工芸美術館

これはパリからアムステルダムを結ぶ寝台特急を宣伝するためのポスターですが、地平線へ進み行くレールの配置、そして彼方の北極星と、そのダイナミックな表現は目に焼き付きました。旅情とともに鉄道の力強さを味わえる作品と言えそうです。



グッズ各種が充実しているのは松屋ならではですが、今回は図録に嬉しいサプライズがありました。



何と図版ページが一枚一枚外れてそのままミニポスターとして使えます。しかもそのポスターを再び挟み込むための透明のケース入りです。ありそうで少なかった「外せる図録」、ちょっとした話題ともなるかもしれません。

本展にあわせて8月29日の朝にNHKの日曜美術館で特集があります。言うまでもなく日美特集後の展覧会は混雑します。いかんせん狭いスペースでもあるので、出来ればその前に見てしまうのも良いのではないでしょうか。(最終日以外、連日夜8時まで。入場は閉場の30分前。)

「ポスター誕生 パリジャンの心を盗め!」@NHK日曜美術館(8月29日朝放送予定)

9月6日までの開催です。これはおすすめします。

注)写真の撮影と掲載については主催者の許可を得ています。
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