都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」 国立新美術館
国立新美術館
「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」
8/8-10/22
国立新美術館で開催中の「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」へ行ってきました。
同館でシリーズ化した現代の写真家と画家による二人展。
今回は抽象画家の辰野登恵子(1949~)と写真家の柴田敏雄(1950~)。ともに東京芸術大学油画科の同級生という「意外な接点」(チラシより引用)を持っています。
展覧会ではそうした二人の今に至る制作を学生時代、1970年代にまで遡って紹介。出品は辰野106点、柴田181点の計約200点近くと充実。質量ともに見応えがありました。
さてテーマは「与えられた形象」ということで、ともかくは二人の表現における何らかの「かたち」に注目すると面白いかもしれません。
辰野登恵子「UNTITLED 96-3」1996年 油彩・カンヴァス 横浜美術館
冒頭、辰野の90年代の抽象画と、柴田の近作のcolorsの二点が並んでいますが、辰野の絵画上のモチーフはもちろん、柴田の風景を抽象平面に還元したようなイメージも、ともに「かたち」として強く浮き上がって来ることが分かるのではないでしょうか。
柴田敏雄「埼玉県飯能市」2006年 Type-Cプリント
実は本展、両者の作品を全く別々に紹介するのではなく、時に交互に、またない交ぜにして展示していますが、差異と反復、ひたすらに生み出される「かたち」は、思いの外に親和性がありました。
さて辰野も柴田もともに80年代の作品から紹介(初期作は途中で展示。)されていますが、それぞれの表現の変遷も興味深いものがあります。
辰野登恵子「WORK 84-P-1」1984年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館
辰野の80年代の原初はいわゆる花模様、画面上でカーブを描く線がそよぎ、装飾的で流麗なイメージを作り上げました。
一方、柴田の80年代は自然の中に介在する人工物を写したモノクロのシリーズです。
ダムや堤防などが幾何学面で切り取られ、本来的に自然を破壊しているはずのそれらが、意外なほどに美しい姿をとっていることを気がつきます。
柴田敏雄「グランドクーリー・ダム、ワシントン州ダグラス郡」1996年 ゼラチン・シルバー・プリント シカゴ現代美術館
それにしても柴田の切り取る水の流れの美しいこと。ダムから落ちる水の筋は白い糸が絡み合うかのようでもあり、その飛沫は黒の面に白い絵具を溶いて垂らしていくようなイメージすらたたえています。
柴田敏雄「群馬県北群馬郡小野上村」1994年 ゼラチン・シルバー・プリント 個人蔵
絵画と写真、確かに全く異なった表現ではありますが、どちらかといえば柴田の写真は構図はもちろん、風景が意外なほどに物質感をもって迫ってくるという点おいて、より絵画的とも言えるのかもしれません。
さて辰野は90年代に入るとモチーフがより有機的に展開していきます。
辰野登恵子「UNTITLED 90-14」1990年 アクリリック・カンヴァス 東京都現代美術館
特徴的な四角や円などの素材はより自由に動き、2000年代に入るとさらに画面は交錯、さながら三次元的な奥行きをもって広がっていきます。
柴田に関しては近作においてカラー写真が登場するものの、風景に対する視点、スタンスはそう変わっていないのかもしれません。
また彼の「かたち」に対する意識を顕著に表す作品としては、やはり「三角形」のシリーズが挙げられるのではないでしょうか。
柴田敏雄「高知県土佐郡大川村」2007年 Type-Cプリント 東京都写真美術館
これは言うまでもなく柴田が風景における三角形のかたちに注目して捉えた作品ですが、会場ではそれを壁面へ三角形の形を作って並べるという力の入れよう。
柴田の風景写真からは常に何らかの「かたち」、しかもそれが何度も何度も繰り返されながら浮かんできますが、それを最も分かりやすく見ることの出来る展示だったと言えそうです。
またとても面白いのは辰野、柴田の珍しい初期作が出ているところです。
何と二人の若かりし自家像までが展示されています。それに油画出身だから当然かもしれませんが、当初は柴田も絵画を手がけていたとは知りませんでした。
図録が大きさ、重さともに超弩級です。図版はもとよりテキストも充実していましたが、気軽に持って帰れるサイズではないかもしれません。
「ランドスケープ 柴田敏雄 2008~2009/旅行読売出版社」
両者の作品をじっくりと見せつつ、それぞれを「かたち」で繋ぐ試み、期待以上でした。
10月22日まで開催されています。
「国立新美術館開館5周年 与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」 国立新美術館
会期:8月8日(水)~10月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、 大学生500(300)円、高校生(18歳)未満無料。
*( )内は団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」
8/8-10/22
国立新美術館で開催中の「与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」へ行ってきました。
同館でシリーズ化した現代の写真家と画家による二人展。
今回は抽象画家の辰野登恵子(1949~)と写真家の柴田敏雄(1950~)。ともに東京芸術大学油画科の同級生という「意外な接点」(チラシより引用)を持っています。
展覧会ではそうした二人の今に至る制作を学生時代、1970年代にまで遡って紹介。出品は辰野106点、柴田181点の計約200点近くと充実。質量ともに見応えがありました。
さてテーマは「与えられた形象」ということで、ともかくは二人の表現における何らかの「かたち」に注目すると面白いかもしれません。
辰野登恵子「UNTITLED 96-3」1996年 油彩・カンヴァス 横浜美術館
冒頭、辰野の90年代の抽象画と、柴田の近作のcolorsの二点が並んでいますが、辰野の絵画上のモチーフはもちろん、柴田の風景を抽象平面に還元したようなイメージも、ともに「かたち」として強く浮き上がって来ることが分かるのではないでしょうか。
柴田敏雄「埼玉県飯能市」2006年 Type-Cプリント
実は本展、両者の作品を全く別々に紹介するのではなく、時に交互に、またない交ぜにして展示していますが、差異と反復、ひたすらに生み出される「かたち」は、思いの外に親和性がありました。
さて辰野も柴田もともに80年代の作品から紹介(初期作は途中で展示。)されていますが、それぞれの表現の変遷も興味深いものがあります。
辰野登恵子「WORK 84-P-1」1984年 油彩・カンヴァス 東京国立近代美術館
辰野の80年代の原初はいわゆる花模様、画面上でカーブを描く線がそよぎ、装飾的で流麗なイメージを作り上げました。
一方、柴田の80年代は自然の中に介在する人工物を写したモノクロのシリーズです。
ダムや堤防などが幾何学面で切り取られ、本来的に自然を破壊しているはずのそれらが、意外なほどに美しい姿をとっていることを気がつきます。
柴田敏雄「グランドクーリー・ダム、ワシントン州ダグラス郡」1996年 ゼラチン・シルバー・プリント シカゴ現代美術館
それにしても柴田の切り取る水の流れの美しいこと。ダムから落ちる水の筋は白い糸が絡み合うかのようでもあり、その飛沫は黒の面に白い絵具を溶いて垂らしていくようなイメージすらたたえています。
柴田敏雄「群馬県北群馬郡小野上村」1994年 ゼラチン・シルバー・プリント 個人蔵
絵画と写真、確かに全く異なった表現ではありますが、どちらかといえば柴田の写真は構図はもちろん、風景が意外なほどに物質感をもって迫ってくるという点おいて、より絵画的とも言えるのかもしれません。
さて辰野は90年代に入るとモチーフがより有機的に展開していきます。
辰野登恵子「UNTITLED 90-14」1990年 アクリリック・カンヴァス 東京都現代美術館
特徴的な四角や円などの素材はより自由に動き、2000年代に入るとさらに画面は交錯、さながら三次元的な奥行きをもって広がっていきます。
柴田に関しては近作においてカラー写真が登場するものの、風景に対する視点、スタンスはそう変わっていないのかもしれません。
また彼の「かたち」に対する意識を顕著に表す作品としては、やはり「三角形」のシリーズが挙げられるのではないでしょうか。
柴田敏雄「高知県土佐郡大川村」2007年 Type-Cプリント 東京都写真美術館
これは言うまでもなく柴田が風景における三角形のかたちに注目して捉えた作品ですが、会場ではそれを壁面へ三角形の形を作って並べるという力の入れよう。
柴田の風景写真からは常に何らかの「かたち」、しかもそれが何度も何度も繰り返されながら浮かんできますが、それを最も分かりやすく見ることの出来る展示だったと言えそうです。
またとても面白いのは辰野、柴田の珍しい初期作が出ているところです。
何と二人の若かりし自家像までが展示されています。それに油画出身だから当然かもしれませんが、当初は柴田も絵画を手がけていたとは知りませんでした。
図録が大きさ、重さともに超弩級です。図版はもとよりテキストも充実していましたが、気軽に持って帰れるサイズではないかもしれません。
「ランドスケープ 柴田敏雄 2008~2009/旅行読売出版社」
両者の作品をじっくりと見せつつ、それぞれを「かたち」で繋ぐ試み、期待以上でした。
10月22日まで開催されています。
「国立新美術館開館5周年 与えられた形象 辰野登恵子/柴田敏雄」 国立新美術館
会期:8月8日(水)~10月22日(月)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、 大学生500(300)円、高校生(18歳)未満無料。
*( )内は団体料金。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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