都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「リヒテンシュタイン展」 国立新美術館
国立新美術館
「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」
10/3-12/23
国立新美術館で開催中の「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」のプレスプレビューに参加してきました。
「ようこそ、わが宮殿へ。」
数多くある展覧会のコピーの中でも、これほど内容を的確に示したことはなかったかもしれません。
早速、最大の見どころといきましょう。豪華絢爛、堂々登場の「バロック・サロン」です!
「バロック・サロン」展示室風景
これがあの新美の展示室なのか、と驚かれる方も多いかもしれません。
しかしながらここは確かに六本木の国立美術館。おそらくは美術館としてはこれ以上叶わないほどの作り込みをもって、ウィーン郊外、ロッサウ伯爵家の「夏の離宮」を模した空間を再現しています。
「バロック・サロン」展示室風景
天井:アントニオ・ベルッチ「占星術の寓意」、「彫刻の寓意」、「絵画の寓意」、「音楽の寓意」1700年頃 油彩、カンヴァス
国内美術展史上、初めて天井に展示された天井画もご覧の通り。もちろん作品は近くで見てこそ楽しめるというご指摘もあるかもしれませんが、まさに全方位でバロック芸術を体感出来る空間を前にすると、その雰囲気に圧倒されること間違いありません。
また心憎いのは調度品が露出展示されている上、ともすれば雰囲気損なってしまうキャプションが取っ払われていること。
「バロック・サロン」展示室風景
タペストリー:ヨッセ・デ・フォスの工房、ブリュッセル「収穫」1690年頃 羊毛、絹
もちろん事前に用意されたバロック・サロンの「展示コンセプト」シートを片手に、一点一点の作品と向き合うのもよし。ともかくは先入観抜きでバロック芸術をインスタレーション的に楽しめるというわけでした。
さてこの前代未聞のリヒテンシュタイン展、何もバロック・サロンで全てが終わるわけではありません。
さらにもう一つ、注目すべきは「ルーベンス・ルーム」です。
リヒテンシュタイン公爵家は全部で30点あまりのルーベンスを所有しているそうですが、うち10点が「ルーベンス・ルーム」に集結。
「ルーベンス・ルーム」展示室風景
左:ペーテル・パウル・ルーベンス「占いの結果を問うデキウス・ムス」(デキウス・ムス連作より)1616-1617年 油彩、カンヴァス
中でも縦3メートル、横4メートルはあろうかという「デキウス・ムス」は見事の一言。そもそもこの連作は8枚あり、いずれもタペストリーの下絵として描かれたものですが、到底下絵とは思えない油彩の力強い筆致、ドラマティックな構成には目を奪われます。
ペーテル・パウル・ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1616年頃 油彩、板で裏打ちしたカンヴァス
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
なおこの「デキウス・ムス」は東京会場のみの展示。小品ながらも愛娘クララを描いた「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」もまた充実していますが、ルーベンスにこれほど圧倒されたことは少なくとも私自身、初めての経験でした。
さて続いては「名画ギャラリー」。リヒテンシュタイン公爵家のヨーロッパ絵画コレクションが54点ほど展示されています。
まずはルネサンス、来年に国立西洋美術館で展覧会も控えたラファエロの「男の肖像」です。
ラファエッロ・サンティ「男の肖像」1502/04年頃 油彩、板
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
やや口元を引き締め、どこか涼しげな視線をこちらに向けた男性の姿。帽子と衣服の深い黒の効果もあってか、実に迫力のある作品となっています。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「キューピッドとしゃぼん玉」1634年 油彩、カンヴァス
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
またバロックではレンブラントの初期作、「キューピッドとしゃぼん玉」も充実しているのではないでしょうか。レンブラント一流の光と闇の対比表現、細部も初期作ならではの精緻極まりない描きこみが目を引きました。
「名画ギャラリー」展示室風景
そしてさらに面白いのは、日本ではあまり知られていない「ビーダーマイヤー」の画家たちが紹介されていること。
これは19世紀前半から中盤にかけ、主に中欧で流行した絵画芸術様式で、新古典主義的な描法を基盤にしながらも、神話や歴史ではなく、身近な人物や風景が描かれました。
そしてリヒテンシュタイン公爵家はビーダーマイヤーをバロックに次ぐコレクションの中核と位置付けて、現在も購入を続けています。
左:フリードリヒ・フォン・アメリング「夢に浸って」1835年頃 油彩、カンヴァス
とりわけ公爵家とも交流の深かったオーストリアの画家フリードリヒ・フォン・アメリングは思いの外に魅惑的。物静かながらも、比較的明るいタッチで描いた2枚の女性の肖像、「夢に浸って」と「麦わら帽子の女」には強く惹かれました。
ヨアヒム・フリース「ぜんまい仕掛けの酒器(牡鹿に乗るディアナ)」1610-12年 銀、鋳造、打ち出し細工、彫金、鍍金、コールドエナメルによる彩色装飾
さてラストは工芸、先にバロック・サロンを見ても明らかですが、実は本展、驚くほどに彫刻作品が充実しています。
その代表例こそが、マティアス・ラウフミラー作のその名も「豪華なジョッキ」です。
マティアス・ラウフミラー「豪華なジョッキ」1676年 象牙
モチーフには古代ローマの「サビニの女たちの略奪」の物語を取り入れ、ともかく細かでデコラティブな装飾に目を見張りますが、これが象牙であるのことを知るとまた一層驚かされるのではないでしょうか。
ドイツ・バロック象牙芸術の最高傑作とも呼ばれる名品、ひょっとすると一点としては本展のハイライトであるかもしれません。
「エントランス」展示室風景
手前:マッシミリアーノ・ソルダーニ=ベンツィ「メディチ家のヴィーナス」1699-1702年 ブロンズ、赤褐色の色付け
今年の西洋絵画の大規模展の中では最も重厚感のある展覧会です。噂の天井画には驚かされましたが、上にも触れたようにそれだけではありません。ルーベンスに豪華な調度品など、実に見どころの多い内容となっていました。
12月23日までの開催です。強くおすすめします。
「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」(@Liechtenstein_J) 国立新美術館
会期:10月3日(水)~12月23日(日・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は団体料金。10月と11月の土・日・祝日は高校生無料観覧日(要学生証)。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」
10/3-12/23
国立新美術館で開催中の「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」のプレスプレビューに参加してきました。
「ようこそ、わが宮殿へ。」
数多くある展覧会のコピーの中でも、これほど内容を的確に示したことはなかったかもしれません。
早速、最大の見どころといきましょう。豪華絢爛、堂々登場の「バロック・サロン」です!
「バロック・サロン」展示室風景
これがあの新美の展示室なのか、と驚かれる方も多いかもしれません。
しかしながらここは確かに六本木の国立美術館。おそらくは美術館としてはこれ以上叶わないほどの作り込みをもって、ウィーン郊外、ロッサウ伯爵家の「夏の離宮」を模した空間を再現しています。
「バロック・サロン」展示室風景
天井:アントニオ・ベルッチ「占星術の寓意」、「彫刻の寓意」、「絵画の寓意」、「音楽の寓意」1700年頃 油彩、カンヴァス
国内美術展史上、初めて天井に展示された天井画もご覧の通り。もちろん作品は近くで見てこそ楽しめるというご指摘もあるかもしれませんが、まさに全方位でバロック芸術を体感出来る空間を前にすると、その雰囲気に圧倒されること間違いありません。
また心憎いのは調度品が露出展示されている上、ともすれば雰囲気損なってしまうキャプションが取っ払われていること。
「バロック・サロン」展示室風景
タペストリー:ヨッセ・デ・フォスの工房、ブリュッセル「収穫」1690年頃 羊毛、絹
もちろん事前に用意されたバロック・サロンの「展示コンセプト」シートを片手に、一点一点の作品と向き合うのもよし。ともかくは先入観抜きでバロック芸術をインスタレーション的に楽しめるというわけでした。
さてこの前代未聞のリヒテンシュタイン展、何もバロック・サロンで全てが終わるわけではありません。
さらにもう一つ、注目すべきは「ルーベンス・ルーム」です。
リヒテンシュタイン公爵家は全部で30点あまりのルーベンスを所有しているそうですが、うち10点が「ルーベンス・ルーム」に集結。
「ルーベンス・ルーム」展示室風景
左:ペーテル・パウル・ルーベンス「占いの結果を問うデキウス・ムス」(デキウス・ムス連作より)1616-1617年 油彩、カンヴァス
中でも縦3メートル、横4メートルはあろうかという「デキウス・ムス」は見事の一言。そもそもこの連作は8枚あり、いずれもタペストリーの下絵として描かれたものですが、到底下絵とは思えない油彩の力強い筆致、ドラマティックな構成には目を奪われます。
ペーテル・パウル・ルーベンス「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」1616年頃 油彩、板で裏打ちしたカンヴァス
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
なおこの「デキウス・ムス」は東京会場のみの展示。小品ながらも愛娘クララを描いた「クララ・セレーナ・ルーベンスの肖像」もまた充実していますが、ルーベンスにこれほど圧倒されたことは少なくとも私自身、初めての経験でした。
さて続いては「名画ギャラリー」。リヒテンシュタイン公爵家のヨーロッパ絵画コレクションが54点ほど展示されています。
まずはルネサンス、来年に国立西洋美術館で展覧会も控えたラファエロの「男の肖像」です。
ラファエッロ・サンティ「男の肖像」1502/04年頃 油彩、板
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
やや口元を引き締め、どこか涼しげな視線をこちらに向けた男性の姿。帽子と衣服の深い黒の効果もあってか、実に迫力のある作品となっています。
レンブラント・ハルメンスゾーン・ファン・レイン「キューピッドとしゃぼん玉」1634年 油彩、カンヴァス
LIECHTENSTEIN, The Princely Collections, Vaduz-Vienna
またバロックではレンブラントの初期作、「キューピッドとしゃぼん玉」も充実しているのではないでしょうか。レンブラント一流の光と闇の対比表現、細部も初期作ならではの精緻極まりない描きこみが目を引きました。
「名画ギャラリー」展示室風景
そしてさらに面白いのは、日本ではあまり知られていない「ビーダーマイヤー」の画家たちが紹介されていること。
これは19世紀前半から中盤にかけ、主に中欧で流行した絵画芸術様式で、新古典主義的な描法を基盤にしながらも、神話や歴史ではなく、身近な人物や風景が描かれました。
そしてリヒテンシュタイン公爵家はビーダーマイヤーをバロックに次ぐコレクションの中核と位置付けて、現在も購入を続けています。
左:フリードリヒ・フォン・アメリング「夢に浸って」1835年頃 油彩、カンヴァス
とりわけ公爵家とも交流の深かったオーストリアの画家フリードリヒ・フォン・アメリングは思いの外に魅惑的。物静かながらも、比較的明るいタッチで描いた2枚の女性の肖像、「夢に浸って」と「麦わら帽子の女」には強く惹かれました。
ヨアヒム・フリース「ぜんまい仕掛けの酒器(牡鹿に乗るディアナ)」1610-12年 銀、鋳造、打ち出し細工、彫金、鍍金、コールドエナメルによる彩色装飾
さてラストは工芸、先にバロック・サロンを見ても明らかですが、実は本展、驚くほどに彫刻作品が充実しています。
その代表例こそが、マティアス・ラウフミラー作のその名も「豪華なジョッキ」です。
マティアス・ラウフミラー「豪華なジョッキ」1676年 象牙
モチーフには古代ローマの「サビニの女たちの略奪」の物語を取り入れ、ともかく細かでデコラティブな装飾に目を見張りますが、これが象牙であるのことを知るとまた一層驚かされるのではないでしょうか。
ドイツ・バロック象牙芸術の最高傑作とも呼ばれる名品、ひょっとすると一点としては本展のハイライトであるかもしれません。
「エントランス」展示室風景
手前:マッシミリアーノ・ソルダーニ=ベンツィ「メディチ家のヴィーナス」1699-1702年 ブロンズ、赤褐色の色付け
今年の西洋絵画の大規模展の中では最も重厚感のある展覧会です。噂の天井画には驚かされましたが、上にも触れたようにそれだけではありません。ルーベンスに豪華な調度品など、実に見どころの多い内容となっていました。
12月23日までの開催です。強くおすすめします。
「リヒテンシュタイン 華麗なる侯爵家の秘宝」(@Liechtenstein_J) 国立新美術館
会期:10月3日(水)~12月23日(日・祝)
休館:火曜日。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
*( )内は団体料金。10月と11月の土・日・祝日は高校生無料観覧日(要学生証)。
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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