「坂田栄一郎ー江ノ島」 原美術館

原美術館
「坂田栄一郎ー江ノ島」
7/13-9/29



原美術館で開催中の坂田栄一郎個展、「江ノ島」へ行ってきました。

上の一枚のちらし表紙に載せられた写真作品の図版。砂地にだらりと被さる血のように赤いタオル。その上には食べ尽くされたスイカの切れ端が一つ、無造作に置かれ、中にはたばこの吸い殻が二本突き刺さっている。

失礼ながらも作家、坂田の名を知らなかった私は、このちらしを見た瞬間、ただ直感的に強く引かれ、一体どのような展示が待ち受けているのかと期待に胸を躍らせながら原美術館へと向かいました。

光り眩しき江ノ島の砂浜。そこに開けていたのは不在のポートレイト、そして事物を越えた絵画的とも呼べる、鮮やか極まりない色彩世界です。

「AERA」表紙のポートレイトの仕事でも知られる写真家、坂田栄一郎は、約16年にも渡って夏の江ノ島に通い、砂浜に残された様々なモノを写真におさめました。


坂田栄一郎展 gallery2 会場風景

本展ではそれらを一括して紹介。いずれも未発表の40点の写真作品が展示されています。

さてまずは不在の感覚。確かにここにはいずれも人の姿はなく、砂にまみれたレジャーシートやポーチ、サンダル、それに蓋のあいたビール缶や食べかけのおにぎりなど、いずれもモノばかりが写されていますが、そこにはどこか持ち主たちの気配が残されているのです。



モノからわき上がる強い人の存在感。ヒョウ柄のタオルはどういう人が使っていたのか。また飲みかけのビールで思い浮かぶ砂浜での宴会。それにマスコットや子どもの浮き輪から連想される家族の肖像。そうしたイメージが次々とわいてきます。

いわば静物的なモノにも関わらず、これほど浮かび上がる人、その強く漂う生活の臭い。ポートレイトを追い求めた坂田だからこその表現なのかもしれません。

さてもう一つの魅力。それは絵画的展開です。今、静物とも呼びましたが、砂浜上のモノがさながらコンポジションを形成するかのように展開し、一つの抽象画とも言うべき地平が。これが色に形に強度を持って、実に鮮烈な印象をもたらします。



例えばシートを捉えた上の一枚。光を受けて銀色に輝くビニールシート、ペンギンの模様が描かれ、空き缶やオイルの容器などが散乱していますが、これがもはや一つの美しき人工的景色として立ち上がってくる。光の屈折がまたテクスチャに多様な表情を与えています。

坂田は基本的に残されたモノに対して何らかの作為をしないそうです。にも関わらず、この意図されたかのような絶妙な構図感。写真として切り取ることで生まれる新たな風景を獲得しています。



またいずれも砂浜のごく一部分、打ち捨てられたシートなどの狭い範囲を捉えていますが、それが不思議と広がりをもっているように見えるのもポイント。距離に対しての感覚を揺さぶります。砂にせめぎあうシート、タオルが、巨大なランドスケープを作り上げていました。

真夏の砂浜に潜んだ美の世界。ギラギラとした陽射しが色自体の魅力を引き出していく。なお2階には同じく江ノ島で撮影したポートレイトも。こちらは水着姿の若者たち。いわば不在のポートレイトの主たちです。強い自信、生命感に満ちあふれていました。

なお会場内、一階のgallery2のみ撮影が可能でした。本エントリに掲載した写真はいずれもgallery2の作品です。(作品はいずれも「江ノ島」)

「LOVE CALL 時代の肖像/坂田栄一郎/朝日新聞出版」

9月29日までの開催です。これはおすすめします。

「坂田栄一郎ー江ノ島」 原美術館@haramuseum
会期:7月13日(土)~9月29日(日)
休館:月曜日。(但し祝日にあたる7月15日、9月16日、9月23日は開館。)7月16日、9月17日、9月24日。
時間:11:00~17:00。*水曜は20時まで。
料金: 一般1000円、大高生700円、小中生500円
 *原美術館メンバーは無料、学期中の土曜日は小中高生の入館無料。20名以上の団体は1人100円引。
住所:品川区北品川4-7-25
交通:JR線品川駅高輪口より徒歩15分。都営バス反96系統御殿山下車徒歩3分。
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