「米田知子 暗なきところで逢えれば」 東京都写真美術館

東京都写真美術館
「米田知子 暗なきところで逢えれば」 
7/20-9/23



東京都写真美術館で開催中の米田知子個展、「暗なきところで逢えれば」へ行ってきました。

国内外の美術展の他、ヴェネチア、キエフなどのビエンナーレでも作品を発表し続ける写真家、米田知子。その活動なり作品は良く知られるところですが、意外にも近年、国内の美術館における単独での展示機会は必ずしも多くありませんでした。

東京では2008年の原美術館以来となる久々の個展です。主に2000年以降、初公開を含む新作シリーズまで。表題の映像作品をあわせて約70点弱の写真作品が展示されています。


「Scene」より 道-サイパン島在留邦人玉砕があった崖に続く道 2003年

「米田の作品は記録という写真の根本的な役割をベースにしながら、現実に見えているものだけではなく、そこにある記憶や歴史を背景に投影しています。」(公式サイトより)

さて米田の制作、ともかく上記に引用した一文、とりわけ「現実に見えているものだけではなく、そこにある記憶や歴史を背景に投影」という点が非常に重要なポイントです。

米田は被写体に選んだ場所の記憶や歴史を、半ば一つの物語を紡ぐかのようにして提示しています。


「Japanese House」より 日本統治時代に設立された台湾銀行の寮、後の中華民国中央銀行職員の家 2010年

例を挙げましょう。「Japanese House」と名付けられた連作です。色あせたクロスの貼られた無人の室内に赤いカーテン、それにもう使われてないであろうカウンターなど、ともかく古びた日本風の家屋の様子が写されていますが、これはいずれも台湾で撮影されたもの。しかも蒋介石政権期の参謀総長の自宅や、台北にあったという大戦下の首相、鈴木貫太郎の娘の家なのです。つまり米田はこれら家屋という日常的風景から戦前の歴史の痕跡を取り出しています。


「kimusa」より kimusa9 2009年

また聞き慣れない「kimusa」とはどうでしょうか。こちらもまたどこかの室内風景。白い壁や窓の樹木の見える庭、またカーテンなどが写されていますが、いずれもがかつて韓国軍の情報機関が利用していたという施設。ここで軍事政権期、思想犯やスパイを拘束し、取り調べたとか。さらに時代を遡ると日本の植民地時代は病院として使われていた建物なのだそうです。

家屋の床や壁、何気ないインテリアに深く染み付いているこれだけの記憶、その蓄積。米田はあくまでもそれらを半ば無機的にフレームへ落とし込む。それが極めて静謐で美しい。ただし写真自体は雄弁ではありません。

その写真に意味や歴史を強く与えるのはテキストです。そもそも会場でも写真は番号が表記されるのみ。入口側にはシリーズ名のみが記載され、キャプションはありません。

しかしながら個々の連作を見終えた時、各ブースの出口に設置された米田の言葉を見るとどうなるのか。ただ古い家だと思って見ていた場所に、かつてあったであろう人のドラマなり、歴史が重くのしかかってくる。思わずそれまで何を見ていたのかと自問してしまいます。

米田は写真は主観的にならないようにするとも述べています。確かに作品はいずれも即物的で乾いた風景。しかしながらその奥に潜み、また露となった物語性。どこかトリッキーです。


「積雲」より 平和記念日・広島 2011年

また主観的ならずとも、米田の強いメッセージが浮かび上がっているのが「積雲」シリーズ。かの震災と原発事故を踏まえた作品ですが、被災地が思わぬ地点と出会います。賛否はあるやもしれません。

ラストのモノクロームの「氷晶」が物静かながらも後を引きます。全体を一つのインスタレーションとして捉えても遜色ない展示。作品をどう見て読むのか。迷うところがあったのも事実ですが、作家の世界観は見事なまでに表されていました。

「米田知子 暗なきところで逢えれば/平凡社」

設営上やむを得ないのか、映像作品の音響が会場全体に鳴り渡っていました。気になる方もおられるかもしれません。

9月23日までの開催です。おすすめします。

「米田知子 暗なきところで逢えれば」 東京都写真美術館
会期:7月20日 (土) ~9月23日 (月・祝)
休館:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。)
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
 *( )内は20名以上の団体料金。
 *第3水曜日、及び9/16(祝)敬老の日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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「アートがあれば2 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」 東京オペラシティアートギャラリー

東京オペラシティアートギャラリー
「アートがあれば2 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」
7/13-9/23



東京オペラシティアートギャラリーで開催中の「アートがあれば2 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」へ行ってきました。

「個人コレクションに焦点を当て、コレクションのあり方やコレクター像、さらにはアートと共に暮らすライフスタイルから浮かび上がるアートの魅力を探りました。」(展覧会WEBサイトより)

日頃、なかなか見ることの叶わない個人コレクター所蔵の美術作品。それらの殆どは各コレクターの住居なり倉庫などに収蔵。コレクター本人の他、その家族や友人など、身近な人々が楽しんでいる。というのが個人コレクションの多くに当てはまるかもしれません。

その一方で、「アート作品は本質的に個人消費の対象となるものではなく、最終的にその価値は社会に還元されるべきもの。」と述べるのは、堀元彰オペラシティアートギャラリーチーフキュレーター。賛否はあるかもしれませんが、ともかくも同ギャラリーでは新たな試みとして9名の個人コレクションの作品を公開。全127作家、206作品。それらがいずれもコレクター別、ほぼ1コレクター1室の形式にて展示しています。


小沢剛「醤油画(ロイ・リキテンシュタイン)」2012年 T.S Collection

さてまず興味深いのは展示形態。今触れたように作品は全て各コレクター別に並んでいますが、そのコレクターはいずれも匿名、イニシャルのみ公開されているのです。

そして受付でいただける鑑賞ガイドがポイント。そこには匿名コレクターの個人的な情報、例えば年齢なり職業なども掲載。しかも「あなたにとってのコレクションとは何でしょうか?」といったインタビュー記事も記されています。


小出ナオキ「Devil on elephant」2010年 E.Y Collection

そこで展示作品とコレクターが繋がり、また浮き上がってくる。もちろんコレクター像は朧げなイメージに過ぎませんが、ともかく作品とコレクターの関係、さらにはインタビューを通して垣間見えるコレクターの人となり。それが目の前の作品とともに頭の中で行き来する体験。意外と新鮮でした。

とは言え、やはり一番に見るべきは目の前にある作品でしょう。例をあげればE.Y氏はデマンドに桑久保さんに村上隆にメイプルソープ。A.K氏はアラーキーに青山悟、志賀理江子、またY.S氏は名和晃平に八木良太、東恩納裕一など。絵画なのか写真なのか立体なのか映像なのか。やはり各コレクターによって特徴なり志向、またさらにギャラリーの存在などが見え隠れしているのも興味深いところです。


田中功起「Someone's junk is someone else's treasure」2011年 Y.S Collection

ちなみに出品や展示にあたっては、各コレクターと美術館のキュレーターの方が相談しながら行われたとか。そもそも何を出品するのかはもちろんのこと、作品の配列なども、何らかの意図のあるものとして読み解くべきなのかもしれません。

お一人、一切のコレクター像を想像させ得ないお方が。イニシャルもなくインタビューも無回答。その名もanonymousです。展示に際してもご本人からともかくほぼ等間隔で作品を並べて欲しいという強いリクエストがあったそうですが、確かにこの方のブース、他の方とは一線を画しています。


西野達「The Merlion Hotel」2011年/2013年 anonymous collection

作品を見つつ人を思う現代アート展。ギャラリーをハシゴして見た感覚も。それでいて意外な作品同士が隣り合わせなっていたりするなど、時に刺激的な面もあります。また何故にこの作品を購入したのだろう、値段はいくらだったのだろう。普段どういう場所に飾っているのだろう。どの作品がお気に入りなのだろう。色々な疑問もわいてきます。

9月23日までの開催です。最後になりましたが各コレクターの方々、貴重な作品を見せて下さりありがとうございました。

「アートがあれば2 9人のコレクターによる個人コレクションの場合」 東京オペラシティアートギャラリー
会期:7月13日(土)~9月23日(月・祝)
休館:月曜日。祝日の場合は翌火曜日。8月4日(日)
時間:11:00~19:00 *金・土は20時まで開館。最終入場は閉館30分前まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(600)円、中・小生600(400)円。
 *( )内は15名以上の団体料金。夏休み期間(7/13-9/1)および土・日・祝は小中学生無料
住所:新宿区西新宿3-20-2
交通:京王新線初台駅東口直結徒歩5分。
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