「生誕250年 谷文晁」 サントリー美術館

サントリー美術館
「生誕250年 谷文晁」 
7/3-8/25



サントリー美術館で開催中の「生誕250年 谷文晁」展へ行ってきました。

「この絵師、何者!?」

チラシ表紙に記載された同館らしからぬセンセーショナルなキャッチコピー。確かに江戸絵画展ではご常連の谷文晁(1763-1840)。何となく南画の大家であるというくらいの認識はあるものの、どういう画業を辿ったのか、どのような作品を残したのかと問われれば、答えに窮してしまうのも事実。必ずしも良く知られた絵師とは言えないかもしれません。


谷文晁「楼閣山水図」 江戸時代 個人蔵

そこで谷文晁メモリアルイヤー、生誕230周年ならではの回顧展です。文晁の交流ネットワークを追いながら、業績全般を振り返って紹介しています。

序章 様式のカオス
第1章 画業のはじまり
第2章 松平定信と『集古十種』ー旅と写生
第3章 文晁と「石山寺縁起絵巻」
第4章 文晁をめぐるネットワークー蒹葭堂・抱一・南畝・京伝


まずは文晁総ざらい。様々な画風を吸収し、反映させた文晁画全般をひとまとめに概観。それが序章の「様式のカオス」です。彼は「八宗兼学」と呼ばれるほどに画風が多様。北宋画山水図を吸収したのは「秋山訪陰図」。点描による岩山。迫力ある構図ですが、筆致は柔らかく、温和な表情をとっています。


谷文晁「ファン・ロイエン筆花鳥図模写」 江戸時代 神戸市立博物館

また「回道士像」は洋画的な人物表現が見どころ。顔面のリアルな線描に目が向きます。さらに「勿来関図」はやまと絵の摂取です。義家が勿来を通る姿。和歌はかの老中、松平定信によるものです。そしてこの定信が文晁の画業に一定の影響を与えました。

さて続いては初期の文晁へ。僅か10歳で木挽町狩野家に入門した文晁は、17歳の頃に渡辺玄対に学び、南蘋派の手ほどきを受けます。南蘋摂取の一例が「花鳥 文晁画稿」。木にとまる勇壮な鷹。また雪舟画を学んだことも。狩野派の粉本をよく写していたそうです。

そして先に触れた松平定信の登場です。1792年に田安徳川家の見習いから松平定信の近習となった文晁は、定信の諸国巡礼に従い、各地方の風景の写生、及び古寺や旧家などの文化財を調査、その模写などを精力的に行います。


谷文晁「熊野舟行図巻」 江戸時代 山形美術館

例えば1794年の松島巡礼。「東北地方写生図」では白石城をのぞむ景色を細かな筆でスケッチ。また1796年の関西巡礼では「熊野舟行図巻」を残し、広がる太平洋を左手に見据え、雄大な熊野地方の山々をパノラマ的に描きました。

また文晁は言わばパトロンでもあった定信をはじめ、好事家の木村蒹葭堂、狂歌師の大田南畝、そして絵師の酒井抱一らと交流。多様な文人ネットワークを構築します。

そうした交流を知らしめるのが「老梅図」。すくっと縦に伸びる白梅を抱一が描き、横から伸びる別の枝を文晁が記す。漢詩は亀田鵬斎。文晁、抱一とともに下谷に住んだ書家で儒学者です。三人の交流は「下谷の三幅対」とまで称されるほど有名でした。

また抱一画を取り込んだのか、琳派風とも呼べるのが「武蔵野水月図」も一興。秋草に隠れて咲く花の可憐な様子。しかしながら琳派で多用されるたらしこみの技法は使わず、独自の描法をとっています。

それにしても文晁は本当に芸達者。墨の濃淡、掠れと巧みに用いて描いた「風竹図屏風」の美しさ。風に大きく吹かれて靡く笹。横へ志向する構図感は抱一の「月に秋草図屏風」を彷彿させる面も。これは見事です。


谷文晁「石山寺縁起絵巻」 江戸時代 サントリー美術館

展示のハイライトは近年、同館に所蔵され、修復後初公開となった「石山寺縁起絵巻」ではないでしょうか。鎌倉時代末期に石山寺創建や同寺の功徳などを記した絵巻物。江戸時代に至るまで6、7巻は絵を欠いていましたが、それを定信の命の元に文晁が補完。ともかく見るべきは鮮やかな彩色と細密とまで呼べる線描表現。文晁渾身の力作です。

残念ながら前期展示(出品リスト)を見られませんでしたが、文晁の才能。その芸の幅。存分に堪能出来ました。

館内、混雑というほどではありませんでしたが、会期末が近いからか、それなりに盛況でした。「石山寺縁起絵巻」については多少の行列があるかもしれません。

「江戸絵画入門ー驚くべき奇才たちの時代/別冊太陽/平凡社」

8月25日まで開催されています。

「生誕250年 谷文晁」 サントリー美術館@sun_SMA
会期:7月3日(水)~8月25日(日)
休館:火曜日。但し8月13日(火)は開館。
時間:10:00~18:00(金・土は10:00~20:00) *7月14日(日)は20時まで開館。
料金:一般1300円、大学・高校生1000円、中学生以下無料。
 *ホームページ限定割引券、及び携帯割(携帯/スマホサイトの割引券提示)あり。
場所:港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階
交通:都営地下鉄大江戸線六本木駅出口8より直結。東京メトロ日比谷線六本木駅より地下通路にて直結。東京メトロ千代田線乃木坂駅出口3より徒歩3分。
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