「高村光太郎展」 千葉市美術館

千葉市美術館
「生誕130年 彫刻家・高村光太郎展」
6/29-8/15



千葉市美術館で開催中の「生誕130年 彫刻家・高村光太郎展」へ行ってきました。

評論「緑色の太陽」、詩集「道程」に「智恵子妙」、さらに翻訳「ロダンの言葉」など文筆活動で知られる高村光太郎(1883-1956)。父はかの木彫家、高村光雲。光太郎も幼少の頃から木彫を手がけ、ブロンズなど様々な作品を残しました。

しかしながら光太郎の彫刻をまとめて展観する機会が少なかったのも事実。代表作「手」こそ有名なもの、それ以外の作品はさほど知られていないかもしれません。

そこで生誕130周年のメモリアルイヤーです。本展では同時代の荻原守衛、佐藤朝山、また影響を受けたロダンを参照しつつ、光太郎の彫刻における業績を改めて紹介しています。

まずはブロンズから。展示室にずらりと並ぶのは胸像に座像。いずれも力作ばかりです。うち「獅子吼」は現存する初期のブロンズの代表作。肩をせり上げ、どこか挑発的な様子で彼方を見やる男の姿。その造形は父、光雲のスタイルも思わせます、


高村光太郎「薄命児男子頭部」1905年 個人蔵

なお今、『現存』と書きましたが、それには一つ理由が。というのも1945年、アトリエが空襲で被災してしまったとか。そこで作品が失われているのです。

また光太郎、当初は彫刻の制作、発表に関して実に慎重なスタンスをとります。彼は1907年、ニューヨークにはじまり、ロンドン、パリを経由、イタリアなどを2年間に渡って訪ね歩きますが、帰国した後もしばらくは評論や油画の制作に向き合っていたとか。いつでも彫刻というわけではありません。

光太郎の彫刻に関連づけて語られることの多い作家といえば、かの巨匠、オーギュスト・ロダンです。元々、ロダンに強い関心のあった光太郎が渡仏時代、ロダンに会わなかったことに際して、「江戸っ子の照れみたいなものだ。」と語っているのは興味深いところですが、やはりかの地でロダンの作品をたくさん見ています。

展示ではロダンの胸像も紹介。対する光太郎の胸像で印象的なのは「光雲一周忌記念胸像」、言うまでもなく父、光雲の一周忌の時に制作したものです。

髭をたっぷりとたくわえて前を静かに見据える父の姿。威厳に満ちあふれながらも、意外と表情は少なく、どこか近寄り難い印象も与えます。光太郎は父の作品には厳しかったそうですが、幼少期より「習うより慣れろ。」で彫刻を作り続けた光太郎。父から直接、手ほどきを受けたことはなかったそうです。そうした光太郎は父に対して一体、どのような思いがあったのか。そうしたことも考えさせるような作品でした。


高村光太郎「手」1918年頃 個人蔵

少し長くなりました。もう一つ、ブロンズで見逃せないのは手を象った作品、有名な「手」です。ここでもロダン作の「痙攣する大きな手」が参照されますが、光太郎の手は常に仏教の印、「施無畏印」の形をしていて、ロダンにはない、独特のしなやかさ、また静けさをもたたえています。

さて後半は木彫です。木彫作で現存するものは僅か14点に過ぎませんが、うち3点を除き、全て1930年以前に作られたとか。しかも光太郎はその後、木彫を手がけることはありませんでした。


高村光太郎「蝉3」1924年 個人蔵

ここでチラシ表紙を飾る「蝉」がお出ましです。作品は3点。全てほぼ実寸大。必ずしも超絶技巧とは言えないかもしれません。しかしながらむしろ素朴な風情が深い味わいを醸し出す。また傑作は「柘榴」です。かじったのか剥いたのか、半分近くが割れて、中の果実が露になった柘榴。実に食い込む種が数粒。肉感的でかつ瑞々しい様子。これは見事です。


高村光太郎「柘榴」1924年 個人蔵

さらには「蓮根」も佳作。少し細身の蓮根。上にはかたつむりがちょこんと乗っています。光太郎の原点とも言える木彫。いずれも小品ながら見応えがありました。


高村智恵子「くだものかご」1937-38年 個人蔵

さてラストは光太郎の妻、智恵子です。彼女は結婚後に精神を患い、自殺未遂を。その後、長期にわたって入院生活を送りながら、千数百点余にも及ぶ紙絵を残します。展示ではそうした紙絵を70点弱ほど紹介。いくつかは抽象的なものですが、多数は果物かごや水ようかん、それに手提げ袋など身近なものばかりです。これが思いの外に魅惑的でした。

光太郎展に続く所蔵作品展「高村光太郎の周辺」も充実。ここでは同館の所蔵品から光太郎に関連する作家、リーチ、富本憲吉、石井柏亭らの作品がずらり。また光太郎が装丁を担当した書籍も展示されています。この辺は企画展と所蔵品展を巧みに連動させる千葉市美ならではの試みと言えそうです。

図録が良く出来ていました。鮮明な図版、詳細な解説、また論文がいくつか掲載されて1800円。決定版かもしれません。

「智恵子抄/高村光太郎/新潮文庫」

行くのが遅くなってしまいました。8月18日までの開催です。おすすめします。

「生誕130年 彫刻家・高村光太郎展」 千葉市美術館
会期:6月29日(土)~8月18日(日)
休館:第1月曜日。(7月1日、8月5日)
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1000(800)円、大学生700(560)円、高校生以下無料。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
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