「和様の書」 東京国立博物館

東京国立博物館
「和様の書」
7/13-9/8



東京国立博物館で開催中の「和様の書」へ行ってきました。

「和様の書とは、中国からもたらされた書法を日本の文化の中で独自に発展させた、日本風の書のことです。」(ちらしより引用)

あまり聞き慣れない和様という言葉。そして率直なところ苦手な書の展覧会。実のところ行くかどうかかなり迷いましたが、巷の評判も良く、また先だってのブルータスにも本展の特集がありました。これがご紹介したようにかなり面白い。比較的静かな夏の東博のことです。常設もあわせてと、出かけてみることにしました。


「手鑑 翰墨城」 奈良~室町時代・8~16世紀 MOA美術館 *展示期間:~8/12

さて結果どうだったのか。書の愛でるというのは必ずしも読むことと同義ではないのではないか。むしろ読めないという意識が書に対してハードルを作っていたのではないか。表情豊かなで自在な書の世界。紙という空に舞う文字のリズム感。余白の美。すっと心に入りました。

前置きが長くなりました。まずは展覧会の構成です。

第1章 書の鑑賞
第2章 仮名の成立と三跡
第3章 信仰と書
第4章 高野切と古筆
第5章 世尊寺流と和様の展開


冒頭に据えた「書の鑑賞」。この導入がさり気なく良く出来ています。というのもここでは書の魅力を様々な角度から紹介。そこで登場したのが蒔箱です。いつもは細かな蒔絵の文様ばかり見てしまうところですが、なんと箱の随所には源氏の初音の歌が散らされている、ようは文字が記されているではありませんか。

また同じく書の記された小袖や屏風絵なども紹介。考えてみれば屏風絵などにはよく和歌が記されているものです。文字が絵画や工芸の中で一つの文様、意匠として浮き上がってくる。筆跡のアルバムである手鑑のいくつかも可愛らしいものです。もちろんその一方で、書には記した人物の意志や思いもこめられています。


織田信長「書状(与一郎宛)」 安土桃山時代・天正5年(1577) 永青文庫 *展示期間:~8/12

それをよく伝えているの天下人の書、つまり信長、秀吉、家康の書ではないでしょうか。中でも興味深いのは信長の「書状(与一郎宛)」(展示期間:7/13~8/12)。残存する数少ない自筆のものです。戦功を賞して送った書だそうですが、そのスタイルは何やら即物的と言えるようなもの。思わずあの冷徹な眼差しを浮かべる信長の肖像を思い浮かびました。

さて二章では「三跡」。つまり和様の書を創出させた小野道風、藤原佐理、藤原行成による書が一挙に公開。私も名前こそ聞いたことがありますが、今回のようにまとまった形で見るのは初めてです。


藤原行成「白氏詩巻」 平安時代・寛仁2年(1018) 東京国立博物館

うち最も惹かれたのは藤原行成。「白氏詩巻」が目を引きます。色変わりの料紙に記した8篇の詩。ともかく柔らかで軽やかな筆致の美しさ。それでいて端正。実直な人柄だったのでしょうか。また墨の仄かな濃淡や掠れも絶妙。極めて繊細です。これは図版では分かりません。


「竹生島経」 平安時代・10世紀後半~11世紀 東京国立博物館

経典では「竹生島経」(展示期間:7/13~9/8)が絶品です。琵琶湖に浮かぶ竹生島の宝厳寺に伝わる法華経の経典、筆致は端正ながらも力強い。また金銀泥下絵の瑞鳥や草花も華麗です。それに有名な「平家納経」も出品。ともかく絢爛豪華な巻物、いつもながらに眩いばかりですが、書のみを捉えると、やはり書き手の強い願いがこめられているような印象も。さも一つ一つの文字が紙に固着して永遠に離れまいとする様子。ただならぬ気配も感じます。


「平家納経(部分) 平安時代・長寛2年(1164) 厳島神社 *展示替えあり

さて仮名や漢字、さらには料紙が一つの美しき小宇宙を創り上げるのは古筆の世界です。中でも古今和歌集の現存する最古の写本として知られるのが高野切です。

「古今和歌集 巻第五 高野切」(展示期間:7/13~8/4)。幽玄ともいうべき文字の軽やかなダンス。小川のせせらぎのように仮名がつらつらと続く様。また料紙にも注目。少し角度を変えて見ると雲母がキラキラと浮かび上がる。まるで天の川を眺めるかのようです。

この料紙の意匠を愛でることも、書の醍醐味と言えるのではないでしょうか。先の三跡の一人、藤原行成の系譜を受け続く世尊寺流と呼ばれる書の展開。息をのむほどに美しい料紙が目白押しです。

まずは「本願寺本三十六人家集」(会期中頁替有)。金銀箔に唐紙に染紙。秋の紅葉に染まった野山を見ているような景色。言葉になりません。そして「古今和歌集 序(巻子本)」(展示期間:7/13~8/12)蔦の文様が軽やかなリズムを刻む姿。料紙も紅、薄い桃色、白、藍などが連なって見事なグラデーションを描いています。


本阿弥光悦「四季草花下絵和歌巻」 江戸時代・17世紀 個人蔵 *展示期間:~8/4

そして琳派からは光悦。「四季草花下絵和歌巻」(展示期間:7/13~8/4)における四季折々の風情。噴水のように勢い良く群れる秋草、そして沈み込む半月。また桜に躑躅が艶やかな金銀泥で描かれていく。そこへ光悦の書が蝶のように舞う光景。思わず時間を忘れました。

荻窪の6次元でトークイベント「和様の書のはなし」の開催が決まりました。

8/16(金)「和様の書のはなし」
テーマ「和様の書の成り立ちと展開」
ゲスト:田良島哲(東京国立博物館)
現在、東京国立博物館で開催中の特別展「和様の書」の名品を通じて、繊細で優雅な日本の文字文化を紹介します。
会場:6次元(www.6jigen.com
時間:19:00開場 19:30開演
入場料:1500円(お茶付き)
トーク予約:件名を『和様の書』とし、お名前、人数、お電話番号、を明記の上、rokujigen_ogikubo@yahoo.co.jp まで。

ゲストは東京国立博物館の田良島哲さん。受付は先着順、定員になり次第締切です。何とか都合をつけて聞きに行きたいと思います。

なお展示は展示替え、巻替え、頁替え多数です。詳しくは出品リストをご参照下さい。

「日本の書/別冊太陽/平凡社」

8月に入ってすぐの日曜に出かけましたが、会場の一部で多少の列があったものの、全体としては余裕がありました。ゆったり楽しめます。

9月8日まで開催されています。

「和様の書」 東京国立博物館@TNM_PR
会期:7月13日(土)~9月8日(日)
休館:月曜日。但し7月15日(月・祝)、8月12日(月)は開館。7月16日(火)は休館。
時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで) *毎週金曜日は20時、土・日・祝・休日は18時まで開館。
料金:一般1500円(1200円)、大学生1200円(1000円)、高校生900円(600円)、中学生以下無料
 * ( )内は20名以上の団体料金。
住所:台東区上野公園13-9
交通:JR上野駅公園口より徒歩10分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅、京成電鉄上野駅より徒歩15分。
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