「アメリカン・ポップ・アート展」 国立新美術館

国立新美術館
「アメリカン・ポップ・アート展」 
8/7-10/21



個人所蔵としては世界最大級のポップ・アート・コレクションです。国立新美術館で開催中の「アメリカン・ポップ・アート展」へ行ってきました。

アメリカ・コロラドを拠点とする現代美術コレクターのジョン・アンド・キミコ・パワーズ夫妻。とりわけポップ・アートにおいては黎明期の60年代より強い関心を持ち、ウォーホルらの作家とも交流。パトロンとしても活動しながら、次々と作品を蒐集していきました。

しかしながら意外にもそのコレクション。これまでアメリカの美術館でもまとまって紹介されたことは一度もなかったそうです。


ロイ・リキテンスタイン「鏡の中の少女」1964年 エナメル/銅板 The Ryobi Foundation

そこでキミコ夫人の出身地である日本で初めて公開。多様なポップ・アートの作品、約200点が国立新美術館に集結しました。

さて展示は主に作家順。まずはロバート・ラウシェンバーグ(1925-2008)から。ポップ・アートの先駆的存在としても知られる人物です。

面白いのは「コンバイン」と呼ばれる一連のシリーズ。キャンバスに新聞やポスター、また布などを組み合わせ、そこへ白や黒などの色を力強く展開。「ブロードキャスト」(1959)では何と内部にラジオ三台を内蔵させ、キャンバスから突き出たツマミをひねると放送を聞くことが出たというもの。物質感を伴う抽象的な平面に生活や社会が介入してきます。

一際目立つのは、高さ、幅とも2mはあろうかという巨大な立体作品、「リボルバー」(1967)です。5枚の丸いアクリル円盤を並べ、スイッチで回転するという仕組み。円盤表面には人間や絵画、それにバイクの車輪などの写真が組み込まれています。

また人類初の月面着陸、アポロ11号計画をモチーフとした「空の儀式」(1969)なども。発射台や管制室の写真が色面とともにコラージュ的に展開しています。

主にリトグラフで構成されたラウシェンバーグの作品は全部で30点強。このスケールで見たのは初めてです。冒頭から少し興奮してしまいました。

さてラウシェンバーグと並び、本展で注目すべきはジャスパー・ジョーンズ(1930~)。旗や記号、それに数字など、身近な二次元のイメージからイリュージョンを排し、「対象と描かれたものを一致させる」(公式サイトより引用)活動をした画家です。


ジャスパー・ジョーンズ「旗1」1973年 シルクスクリーン The Ryobi Foundation

その旗で早速、登場するのが星条旗のモチーフです。「旗1」(1973)では星条旗を縦方向に展開。また「地図」(1965)ではアメリカの地図をそのまま平面上に描写。黒とも藍ともいえるような色に塗りつぶされた面の向こうからは、州の境界線の記されたアメリカが朧げに浮き上がってきます。

それに興味深いのは陰影をつけるための斜めの斜線を用いた「ハッチング」と呼ばれるシリーズです。こちらも旗や記号同様、街のどこにでもありそうな模様なりデザインを絵画表現に落とし込んでいます。

さて日用品や廃品を彫刻に取り込んだクレス・オルデンバーグ(1929~)では、「ねじれた排水管(青)」が秀逸。タイトルの如く排水管をアクリルボックスに並べたものですが、その姿はまるでミショー画のよう。ねじれた管と影があたかも書のような動きをしています。

さらに「ジャイアント・ソフト・ドラム・セット」(1967)も目立ってはいたのではないでしょうか。こちらはビニールなどの柔らかい素材を用いた「ソフト・スカルプチャー」と呼ばれる立体作品。文字通りドラムセットがビニールで作られていますが、それらはいずれもどこか暴力的なまでに曲がり、またひしゃげ、何やら不気味な様相を。彼はこれを人体の臓器、或いはコロラドの山々の風景に例えてもいるそうです。

少し長くなってしまいました。先を急ぎます。続いては本展チラシ表紙でも注目の「200個のキャンベル・スープ缶」(1962)。もちろん描いたのはアンディ・ウォーホルです。ともかく怒濤のように並ぶキャンベル缶。大量生産の日用品の溢れる現代消費社会云々、とも語られますが、もはやこれ自体がブランド、アイコン化したとも言える作品。タブローです。見ているとちょうど同じ美術館で個展開催中のグルスキーの「99セント」のイメージが思い浮かんできます。


アンディ・ウォーホル「マリリン」1967年 シルクスクリーン/紙 The Ryobi Foundation

ちなみにウォーホル作品ではこの他、「マリリン」(1967)に「花」(1970)、「毛沢東」(1972)、さらには「電気椅子」(1971)のシリーズなども展示。NYの処刑場に取材した「電気椅子」は異様な迫力があります。なお「電気椅子」については宮下規久朗先生の「ウォーホルの芸術」(光文社新書)にも詳細な記述があります。こちらは作家に対する深い考察でも定評のある著作です。おすすめします。

「ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡/宮下規久朗/光文社新書」

都現美の「ヘアリボンの少女」好きの私にとって嬉しいのはリキテンスタインが20点超出品されていることです。「大聖堂シリーズ」(1969)に「エキスポ67のための習作」(1967)なども見ておきたい作品。ちなみに前者にはモネのルーアン、そして後者にはアールデコのモチーフが取り入れられ、よく知られるように西洋の伝統的な主題を引用していることが分かります。ちなみにラウシェンバーグ同様、リキテンスタインもこのスケールで見たのは初めてでした。

さて最後に本展のある意味で主役を。それがキミコ夫人。言うまでもなくこのコレクションを夫のジョンとともに作り上げたコレクターです。


アンディ・ウォーホル「キミコ・パワーズ」1972年 アクリリック、シルクスクリーン・インク/麻布 The Ryobi Foundation

そもそもこの展覧会、冒頭に登場するのがウォーホルの「キミコ・パワーズ」(1972)。もちろんウォーホルに描かせた作品です。そしてウォーホルの展示室にも同じくキミコ夫人をモチーフにした連作が。その数5~6点。ウォーホルが比較的早い段階で、有名人ではない一般の人物をモデルとしたシリーズとのことですが、作品の並ぶ様子はさながらキミコルーム。キミコ夫人にこれでもかというほど見られます。

自身のコレクションを見せるコレクターとして存在感。展覧会を支配しています。圧巻でした。

お盆休み中の日曜ではありましたが、まだ始まったばかりだというのに、随分と賑わっていました。この後、さらに混雑してくるかもしれません。

講演会「アメリカン・ポップ・アートとその時代」
登壇:南雄介(当館副館長・学芸課長/本展監修者)
*アメリカン・ポップ・アートの意味するものと重要性、そして生まれた背景について、作品を通してわかりやすく解説します。
日時:9月14日(土)14:00~15:30(開場13:30)
会場:国立新美術館3階講堂
定員:先着260名
*聴講は無料。要観覧券(半券可)。

名の知られた大作だけでなく、60年代のポップ・アートの初期作をまとめて見られるのもポイントではないでしょうか。

「アメリカン・ポップ・アート誕生の熱気/キミコ・パワーズ、林綾野/講談社」

10月21日まで開催されています。

「アメリカン・ポップ・アート展」 国立新美術館
会期:8月7日(水)~10月21日(月) 
休館:火曜日。但し4月30日は開館。
時間:10:00~18:00 *金曜日は20時まで開館。
料金:一般1500(1300)円、 大学生1200(1000)円、高校生800(600)円。中学生以下無料。
 *( )内は団体料金。8月9日(金)、10日(土)、11日(日)は高校生無料観覧日。(要学生証)
住所:港区六本木7-22-2
交通:東京メトロ千代田線乃木坂駅出口6より直結。都営大江戸線六本木駅7出口から徒歩4分。東京メトロ日比谷線六本木駅4a出口から徒歩5分。
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