「新進作家展 白木麻子・大和由佳」 川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリア
「新進作家展 白木麻子・大和由佳」
6/7-6/22



川口市立アートギャラリー・アトリアで開催中の「新進作家展 白木麻子・大和由佳」を見て来ました。

埼玉は川口発、比較的若い世代の作家の制作を紹介する新進作家展。現在の形(公募展)になってからは3回目です。白木麻子と大和由佳の展示が行われています。

さて展示は個展形式。一つの展示室でそれぞれ一人の作家が展示を見せる。まずは大和由佳です。1978年の愛知生まれ。現在は埼玉の在住です。都内他のギャラリーでの個展の他、近年では群馬の中之条ビエンナーレにも参加。焼物やブロンズ、紙にガラスに水。どちらかと言えば身近な素材を用いてインスタレーションを展開しています。


大和由佳「沈黙の作られ方/蜂の歌」2014年 *参考図版

今回はどうでしょうか。会場に一歩足を踏み入れて開けて来たのは、床面へ曲線を描くように並ぶ白く薄い板。石膏です。一辺は15センチ、或は20センチほどでしょうか。大きさも形も様々。まさに欠片と言うのに相応しい。それらが緩やかに連なっています。

その姿は例えて言うならば庭園に並ぶ石です。また床を水面に見立てれば無数に浮かぶ蓮の花ともとれる。欠片の並ぶ姿はどこか断片的で今にも途切れてしまいそう。しかしながらまるで手を取り合うように確かに繋がっている。儚くも映ります。

欠片に顔を近づけて驚きました。何と一つ一つの欠片には例えばスプーンであり本でありまた玩具でありと、実に様々なモノが象られているのです。ようはこれらの石膏はそうしたモノの写し、また抜け殻です。そしてモノはいずれも作家自身の身近な場所から採られています。

以前の展示では欠片を吊って見せたこともあったそうです。しかしながら今回はあえて床に並べている。確かな繋がり。あくまでもモノの記憶のつまった欠片同士を繋ぐということに重きを置いています。

石膏でありモノの型でもある欠片。さらに当初は会場に水をはり、その上に並べることも考えていたそうです。ただ水に浮かべると如何せん欠片同士の繋がりは弱くなってしまう。またモノの痕跡は意外にも強く欠片に残っています。一部の欠片にはモノ元来の色であったり素材そのものが残っている、言い換えれば剥離して写っているものもありました。

欠片の頭上でさも結界を張るかのように置かれたガラスの器も重要です。そこでは水との関連を示唆する紋様も描かれている。石膏の欠片とモノ自体とガラス。それらを繋ぐのは「水」のイメージかもしれません。各々が空間の中で呼応しているようにも思えました。

さて続いては白木麻子。1979年の東京生まれの作家。ポーラ美術振興財団在外研究員として2013年にドイツに派遣。現在は一時帰国して活動しています。


白木麻子「Between the ceiling and the floor」2014年 *参考図版

ジャンルは彫刻でしょうか。木製の階段にポール。小さな茶碗に椅子やテーブルも見える。ぱっと入って感じたのはどこかで見たような家具、もしくは居住空間を連想させること。初めは既製の家具、いわゆるレディメイドを用いたインスタレーションかと勘違いしてました。

しかしながら実際は全て作家自身が制作したオリジナル。元々、工芸を専門に学んでいたそうです。そしてよく見れば家具はあくまでも家具風。本来の用途を持ちえていない。例えば宙で行き止まりの階段に何物でもない柱。底の抜けた椅子に無数に連なる脚。トマソンを思い浮かべました。そして目を転じれば器も中がくり抜かれていない。ようは機能することなくただ存在しているのです。

また随所に絡み合うロープの所以でしょうか。それぞれの作品同士が緩やかに繋がっているような感覚も。オブジェは確かに強度がありますが、例えれば柱は椅子を外せば倒れてしまうなど、決してすべてが自立しているわけでもない。相互の関係が重要です。全体が各々の役割を持った何らかの装置のようにも見えます。

白木さんに直接お話を伺った際、「引き算」というキーワードが印象に残りました。機能を削ぎ、その上で手を加えて、新たな形として提示する。非常に興味深く感じました。

さて新進作家展、この両者の展示の他に続き、次の第4回展の二次審査もあわせて公開中。109組の応募の中から選ばれた9名の入選者の作品が紹介されています。

出品者:小田原のどか、今実佐子、カナイサワコ、山賀さつき、堀口泰代、對木裕里、稲垣立男、藤井龍、鈴木のぞみ

そして先日、審査員によって對木裕里・堀口泰代の二名が優秀賞に選定されました。来年6月に展示が行われるそうです。

なお審査員は第1回より埼玉県美の前山裕司、彫刻家で所沢ビエンナーレの実行委員でもある戸谷成雄、そして女子美術大学の南蔦宏がつとめています。私も過去展を追って来ましたが、今回も展示の内容はもとより、プレゼンテーションの公開など、かなり丁寧な「作り」の企画だという印象を受けました。


川口市立アートギャラリー・アトリア

川口市立アートギャラリー・アトリアは2006年、サッポロビールの工場跡地にオープンした市の「アート施設」(公式サイトより)です。展示スペースはいわゆるホワイトキューブですが、天井高が5m弱とかなりあります。また床材にビール工場の土台の杭が用いられているのも大きな特徴です。

6月22日まで開催されています。

「新進作家展 第3回優秀者 白木麻子・大和由佳」 川口市立アートギャラリー・アトリア
会期:6月7日(土)~6月22日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~18:00。土曜日は20時まで開館。*入館は閉館の30分前まで
料金:無料
住所:埼玉県川口市並木元町1-76
交通:JR線川口駅東口から徒歩約8分。
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