「デュフィ展」 Bunkamura ザ・ミュージアム

Bunkamura ザ・ミュージアム
「デュフィ展 絵筆が奏でる 色彩のメロディー」
6/7-7/27



Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の「デュフィ展」のプレスプレビューに参加してきました。

20世紀前半のフランスを代表する画家、ラウル・デュフィ(1877~1953)。まさに「色彩のメロディー」(サブタイトルより)ならぬ美しく鮮やかな色遣い。フランスの各地の風景はもとより、オーケストラなどの音楽の主題も手がけた。華やかな近代生活。ともすると憧憬の眼差しをもって捉えられているかもしれません。

ところでデュフィ、すぐさま何らかの作品のイメージが頭に思い浮かぶ方も多いのではないでしょうか。そういう意味では個性の際立つ画家でもあります。

ではデュフィの画業とは如何なるものなのか。実のところ私自身、この展覧会に接するまで、その一端しか知らなかったことに気がつきました。

国内におけるデュフィ回顧展の決定版と呼んでも差し支えないでしょう。出品は160点弱。ポンピドゥーやパリ市立近代美術館など海外からも多数作品がやって来ています。

さてデュフィ、原点は印象派です。故郷ノルマンディ地方の港町ル・アーヴルからパリにやって来たデュフィ。そのまま国立美術学校に入学し、当初は印象派風の絵画を描きます。


左:ラウル・デュフィ「サン=タドレスの桟橋」1902年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

ともすると初めに展示されている絵画、デュフィとは気がつかないかもしれません。しかしこれらが意外にも魅惑的です。「サン=タドレスの桟橋」(1902)はどうでしょうか。ブータンもモネも扱った彼の地の光景、白く輝く陽光の差し込んだ水辺の一コマ。ゆらりと靡くテントが風を表す。素早い筆致。水平線と桟橋が平行に並ぶ構図にも安定感があります。


左:ラウル・デュフィ「レスタックの木々」1908年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター
右:ラウル・デュフィ「レスタックのアーケード」1908年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター


ただし数年で印象派を放棄。次いでマティスやセザンヌらの作品に倣います。ブラックとともに滞在した南仏の街で描いた「レスタックの木々」(1908)も目を引く。キュビズムでしょうか。他にもフォーブをも取り込む。その後に自らの画風を模索していくようになりました。

デュフィが木版画とテキスタイルを手がけていたことをご存知でしょうか。

ミュンヘン旅行で出会ったドイツ表現主義の木版画に触発されたデュフィ。1910年にはアポリネールの「動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち」の挿絵に連作の木版画を制作します。


ラウル・デュフィ「アポリネール:動物詩集あるいはオルフェウスとそのお供たち」(挿絵)1911年 木版、紙 群馬県立館林美術館

デュフィの木版画、特徴を一言で申し上げれば装飾性にあると言えるのではないでしょうか。植物の曲線やハッチングなどを多用した活気のある画面。密度は濃くまた躍動感もある。表現は豊かです。


中央:ポール・ポワレ(デザイン:ラウル・デュフィ)「デイ・ドレス」1925年 絹グログランにプリント 島根県立石見美術館

そしてこれらの木版画のモチーフをテキスタイルに転用したのも興味深いところ。デザイナーと共同して製作所まで立ち上げるほどの力の入れようです。また1920年代にはリヨンの絹織物製造業と契約を結び、布地のデザインを提供する。ドレスもお手の物です。木版でも得意とした植物のモチーフから時に東洋趣味まで。実に様々なテキスタイルを生み出します。


左:ラウル・デュフィ「エプソム、ダービーの行進」1930年 油彩、カンヴァス ひろしま美術館

よく知られたデュフィの世界へと進みましょう。Bunkamuraの展示室も一際華やかに見える。1920~30年代の代表作がずらり。例えば「エプソム、ダービーの行進」(1930)。同時期にスポーツの主題を積極的に取り上げた画家は少ない。デュフィの好んだ競馬場を描いた作品です。


右:ラウル・デュフィ「馬に乗ったケスラー一家」1932年 油彩、カンヴァス テート

「馬に乗ったケスラー一家」(1932)も充実しています。石油会社の創業者であったというケスラー一家の家族肖像画。馬に乗ってポーズをとる人たち。笑顔を見せている。そして花の生える草地の緑に空の青、また馬の茶色のコントラストも美しい。まさに色彩のデュフィならではの一枚です。

そしてさらに注目したいのが色彩のニュアンスです。と言うのもデュフィ、『デッサンとフォルムの色彩の隔離』を目指した。例えば馬の脚の部分、茶色が草の緑の箇所まで浸食している。また馬自体も青みを帯びています。デュフィの色彩、必ずしもモチーフにとらわれない。時に自由でもある。どことなく心地良く感じるのも、そうした伸びやかな色彩表現に由来するのかもしれません。


ラウル・デュフィ「電気の精」1952-53年 リトグラフ、紙 パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

1937年のパリ万博に出品された超大作「電気の精」の縮小版がやって来ました。いわゆる電気に関する歴史を古代の神話を織り交ぜて表したスペクタクル絵巻。本画の壁画は全60mにも及ぶそうですが、この縮小版もかなり大きい。登場人物は100名です。電気の学者や電気の精も描かれている。人物はヌードデザインから始まり、衣装も時代考証を重ねた。また発電所もデュフィ自ら現地に訪れてスケッチしています。これまでの集大成とも位置づけられる作品です。


左:ラウル・デュフィ「ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ」1952年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

晩年の音楽をテーマとした作品も見逃せません。音楽一家に育ち、自身も音楽が大好きだったデュフィです。大作曲家たちへのオマージュも。一例が「ヴァイオリンのある静物:バッハへのオマージュ」(1952)です。まるでガラスに当たった光が煌めくかのような色彩美。驚くほどに透明感に満ちている。ちなみに申し遅れましたが、デュフィの繊細な色味に筆致。写真はおろか、図録を含めた印刷物でも殆ど分かりません。こればかりは実際の作品に当たっていただくしかなさそうです。


デュフィ・デザインの陶芸、及び家具

最後に再び意外なデュフィをご紹介します。彼のデザインによる陶芸と家具です。陶芸でよく見られるのは水浴の女性像。また家具のテーマは「パリとその名所」です。長椅子から屏風に至る一連の家具セット。屏風の下絵はゴブラン織り。モチーフは言うまでもなくパリの景観です。椅子にもシャン=ゼリゼやオペラ座などの名所が登場。何と完成まで10年も要したそうです。


中央:ラウル・デュフィ「麦打ち」1953年 油彩、カンヴァス パリ国立近代美術館、ポンピドゥー・センター

油彩や水彩に版画に留まらず、テキスタイル、陶芸、家具までが並んでいる。単に「画家」の展覧会と思って出向くと良い意味で期待を裏切られます。デュフィの全貌を知る展覧会。デザイナーとしても見るべきものがある。まさかこれほど多方面に才能を発揮していたとは知りませんでした。



お馴染みミュージアムカフェマガジンの最新6月号がデュフィ特集です。デュフィを知る6つのキーワードなど展覧会の内容にも準拠。村上弘明さんと緒川たまきさんのインタビューも思いの外に読ませます。こちらもお見逃しなきようご注意下さい。


デュフィ展会場風景

7月27日まで開催されています。まずはおすすめします。なお東京展終了後、大阪(あべのハルカス美術館:8/5~9/28)、名古屋(愛知県美術館:10/9~12/7)へと巡回します。

「デュフィ展 絵筆が奏でる 色彩のメロディー」 Bunkamura ザ・ミュージアム
会期:6月7日(土)~7月27日(日)
休館:7月2日(水)。
時間:10:00~19:00。毎週金・土は21:00まで開館。入館は閉館の30分前まで。
料金:一般1500(1300)円、大学・高校生1000(800)円、中学・小学生700(500)円。
 *( )内は20名以上の団体料金。要電話予約。
住所:渋谷区道玄坂2-24-1
交通:JR線渋谷駅ハチ公口より徒歩7分。東急東横線・東京メトロ銀座線・京王井の頭線渋谷駅より徒歩7分。東急田園都市線・東京メトロ半蔵門線・東京メトロ副都心線渋谷駅3a出口より徒歩5分。

注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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