都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「佐藤時啓 光ー呼吸」 東京都写真美術館
東京都写真美術館
「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」
5/13-7/13
東京都写真美術館で開催中の「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」を見て来ました。
1957年に山形県に生まれ、「光・時間・空間・身体といったキーワードをテーマにして、写真装置による制作を続けている」(ちらし裏面より)佐藤時啓。
恥ずかしながら全く存じ上げませんでした。ゆえにともすると見逃していたかもしれない展示。切っ掛けは一枚のちらしです。上に挙げた表紙の写真、静かな海。モノクロームの水平に蛍のような明かりが点々と連なっている。素直に惹かれるものを感じます。ようはこの画像に誘われて会場へと足を運びました。
さて見る前に一つ不思議なことがありました。一体どのようにして撮影したのかということです。写真を加工して後から光を入れているのではないか。そう漠然とながら思い込んでいました。
それは結論から言えば間違いでした。光は佐藤自身がペンライトか鏡を持って動き回った痕跡なのです。ペンライトは夜、鏡は昼の撮影に利用する。では何故に作家本人の姿が写り込んでいないのか。シャッターの開閉時間です。長い時間露光することで人の動きは消えてしまいます。
「光ー呼吸」より「#22」 1988年
「光ー呼吸より#22」(1988)はどうでしょうか。とある無人の階段、そこに立ち上がるのは無数の白い線。これこそがおそらくはペンライトを持って上下した跡なのでしょう。そしてちらし表紙の「光ー呼吸より#347 Hattachi」(1988)は、波間に鏡を持って太陽の光を受けていたに違いない。ともに言わば佐藤自らが体を張って出来た写真でもあるわけです。
「光ー呼吸」より「Shirakami#7」 2008年
光の彫刻とも呼べるかもしれません。写真だからこそ保存し得る光の軌跡。作家はひたすらに光を採取している。にも関わらず写真には写らない。まさに「そこにいる」のにも関わらず、「そこにいない」。光は宝石のように輝きながら、人の気配を残している。一見、クールにも見えますが、実は泥臭いまでに身体を介在させた表現でもあります。
「Polaroid Works」より「via Appia Antica」 1991年
さて写真、何もモノクロームにだけ留まりません。色の導入です。例えば「Polaroid Works」。文字通りポラロイドカメラを用いての展開。ローマの遺跡を写す。これもおそらくは鏡をもって動いたのでしょう。光はかつてここに集っていた者の魂の跡なのか。幻想的でもあります。
「Gleaning Lights」より「The site」 2005年
また面白いのはピンホールカメラです。何と24個ものピンホールカメラを球体にして360度撮影可能にする。「Gleaning Light」です。高層ビルの立ち並ぶ大パノラマが広がる。そこへ一種の歪みも加わります。幻のような人影。光の強い軌跡。都市における時間の移ろいまでもが蓄積されている。まるで映像表現のようです。
「Wandering Camera2」より「Musenyama#1」 2013年
さらに自作のカメラオブスクラを使用した「Wandering Camera」も。スケールの異なるイメージが一つの画面で緩やかに交わっていく瞬間。桜並木が砂地に溶けていく。地面に写る影を写した作品ですが、一体自分が何を見ているのか分からなくなります。この感覚、何とも言葉で表現するのが難しいのですが、思いがけないほどに魅力的でした。
写真を表現のみならず、装置にまで手を加えて挑戦する佐藤。芸術家であるとともに科学者でもあるのかもしれない。そうしたことも思い浮かびました。
迷路のようにスペースを区切った展示も個性的です。手狭なスペースをあえて逆手にとったような仕掛け。最初と最後に「光ー呼吸」シリーズを置く構成も面白いのではないでしょうか。
「光ー呼吸/美術出版社」
ところで東京都写真美術館ですが、今秋より改修工事のため、長期にわたって休館となります。
「東京都写真美術館 改修工事にともなう休館について」 *休館期間:2014年9月24日(水)~2016年8月末(予定)
7月13日まで開催されています。おすすめします。
「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」 東京都写真美術館
会期:5月13日 (火)~7月13日 (日)
休館:毎週月曜日。(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。)
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
*( )内は20名以上の団体料金。
*第3水曜日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」
5/13-7/13
東京都写真美術館で開催中の「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」を見て来ました。
1957年に山形県に生まれ、「光・時間・空間・身体といったキーワードをテーマにして、写真装置による制作を続けている」(ちらし裏面より)佐藤時啓。
恥ずかしながら全く存じ上げませんでした。ゆえにともすると見逃していたかもしれない展示。切っ掛けは一枚のちらしです。上に挙げた表紙の写真、静かな海。モノクロームの水平に蛍のような明かりが点々と連なっている。素直に惹かれるものを感じます。ようはこの画像に誘われて会場へと足を運びました。
さて見る前に一つ不思議なことがありました。一体どのようにして撮影したのかということです。写真を加工して後から光を入れているのではないか。そう漠然とながら思い込んでいました。
それは結論から言えば間違いでした。光は佐藤自身がペンライトか鏡を持って動き回った痕跡なのです。ペンライトは夜、鏡は昼の撮影に利用する。では何故に作家本人の姿が写り込んでいないのか。シャッターの開閉時間です。長い時間露光することで人の動きは消えてしまいます。
「光ー呼吸」より「#22」 1988年
「光ー呼吸より#22」(1988)はどうでしょうか。とある無人の階段、そこに立ち上がるのは無数の白い線。これこそがおそらくはペンライトを持って上下した跡なのでしょう。そしてちらし表紙の「光ー呼吸より#347 Hattachi」(1988)は、波間に鏡を持って太陽の光を受けていたに違いない。ともに言わば佐藤自らが体を張って出来た写真でもあるわけです。
「光ー呼吸」より「Shirakami#7」 2008年
光の彫刻とも呼べるかもしれません。写真だからこそ保存し得る光の軌跡。作家はひたすらに光を採取している。にも関わらず写真には写らない。まさに「そこにいる」のにも関わらず、「そこにいない」。光は宝石のように輝きながら、人の気配を残している。一見、クールにも見えますが、実は泥臭いまでに身体を介在させた表現でもあります。
「Polaroid Works」より「via Appia Antica」 1991年
さて写真、何もモノクロームにだけ留まりません。色の導入です。例えば「Polaroid Works」。文字通りポラロイドカメラを用いての展開。ローマの遺跡を写す。これもおそらくは鏡をもって動いたのでしょう。光はかつてここに集っていた者の魂の跡なのか。幻想的でもあります。
「Gleaning Lights」より「The site」 2005年
また面白いのはピンホールカメラです。何と24個ものピンホールカメラを球体にして360度撮影可能にする。「Gleaning Light」です。高層ビルの立ち並ぶ大パノラマが広がる。そこへ一種の歪みも加わります。幻のような人影。光の強い軌跡。都市における時間の移ろいまでもが蓄積されている。まるで映像表現のようです。
「Wandering Camera2」より「Musenyama#1」 2013年
さらに自作のカメラオブスクラを使用した「Wandering Camera」も。スケールの異なるイメージが一つの画面で緩やかに交わっていく瞬間。桜並木が砂地に溶けていく。地面に写る影を写した作品ですが、一体自分が何を見ているのか分からなくなります。この感覚、何とも言葉で表現するのが難しいのですが、思いがけないほどに魅力的でした。
写真を表現のみならず、装置にまで手を加えて挑戦する佐藤。芸術家であるとともに科学者でもあるのかもしれない。そうしたことも思い浮かびました。
迷路のようにスペースを区切った展示も個性的です。手狭なスペースをあえて逆手にとったような仕掛け。最初と最後に「光ー呼吸」シリーズを置く構成も面白いのではないでしょうか。
「光ー呼吸/美術出版社」
ところで東京都写真美術館ですが、今秋より改修工事のため、長期にわたって休館となります。
「東京都写真美術館 改修工事にともなう休館について」 *休館期間:2014年9月24日(水)~2016年8月末(予定)
7月13日まで開催されています。おすすめします。
「佐藤時啓 光ー呼吸 そこにいる、そこにいない」 東京都写真美術館
会期:5月13日 (火)~7月13日 (日)
休館:毎週月曜日。(月曜日が祝日の場合は開館し、翌火曜日休館。)
時間:10:00~18:00 *毎週木・金曜日は20時まで。(入館は閉館の30分前まで。)
料金:一般700円(560円)、学生600円(480円)、中高生・65歳以上500円(400円)
*( )内は20名以上の団体料金。
*第3水曜日は65歳以上無料。
住所:目黒区三田1-13-3 恵比寿ガーデンプレイス内
交通:JR線恵比寿駅東口改札より徒歩8分。東京メトロ日比谷線恵比寿駅より徒歩10分。
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