都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 市川市東山魁夷記念館
市川市東山魁夷記念館
「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」
6/13-8/3
市川市東山魁夷記念館で開催中の「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」を見て来ました。
日本画家東山魁夷(1908~1999)が生涯の大半を過ごした千葉は市川の中山。そこに建つ東山魁夷記念館にて「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」と題した展覧会が行われています。
主に東京美術学校時代の魁夷の足跡を辿る。卒業後のドイツ留学時の作品も一部展観します。また書簡などの資料も目を引く。いかに魁夷が風景画家の道を志したのか。それを簡単に見ていく内容となっていました。(出品リスト)
冒頭は資料です。元々洋画家を志していた魁夷。父の反対にもあって日本画を学んだそうです。東京美術学校では2年次から特待生です。当時の選定証の複製なども紹介されています。
また1年次の夏休みには仲間と連れ立って木曽へ旅行へと赴き、その中で「山国への想い」(キャプションより)を深くしたとか。この際の旅行日記も出品。その他、まだ20代の魁夷が両親へ宛てた葉書もいくつか展示されていました。
資料関係で面白いのは双六です。少し時代は下りますが、制作年は1945年、終戦の年です。物資に乏しく、娯楽も少なかった当時、魁夷は双六を制作した。これがかなりの大判です。しかも題材が「キングコング」というのも面白い。画家の意外な一面を見るような気もしました。
その他には魁夷が唯一著した技法書、「日本画の技法」なども興味深い作品ではないでしょうか。風景画の制作をスケッチ段階から細かに解説しています。ちょうど山の稜線を描く場面が紹介されていました。
さて絵画です。出品は本画と複製をあわせて全部で20点ほど。最初期は中学校時代です。まだ10代の時の「川の畔り」(1923)、後の魁夷画の片鱗もありませんが、なかなか丹念に描いている。また留学前の日本画の小品「白梅」(1933)も佳作です。力強いまでの墨線が走る。梅も美しい。溌剌としています。
東山魁夷「花売り」1942年 紙本彩色、額装
一際目立つのが「花売り」(1942)です。留学時に取材した作品、モチーフはタイトルの通り花売りです。ドイツで見た老婆でしょうか。編み物をしながら客を待つ女性。うつむいている。その横に並べられたのが大輪の花束です。バラにスイートピーにビオラ。瑞々しい赤やピンクが目に染みます。白い布地に薄紫のチェック柄の入ったクロスも美しい。そして顔料を盛ったような質感。独特の味わいがあります。
ちなみに本作、元々は屏風絵だったそうです。それを保存のために額装にしています。中央部にはかつての右と左を貼り合わせた跡が見られるとのことでした。
東山魁夷「道(試作)」1950年 絹本彩色、額装
代表作としても知られる「道」(1950)の試作が出ていました。本画は東近美の所蔵、また同じく終戦後の「残照」と「郷愁」も並んでいましたが、いずれも近年制作のリトグラフ、及び複製画です。
実のところ絵画出品作のうちの何割かはこうした複製画。これはそもそも市川市が魁夷の本画をあまり所蔵していないからかもしれません。よく考えれば同館の名称も美術館ではなく記念館です。魁夷の本画を多く見たいと思って出向くと少し戸惑う面はあるかもしれません。
その他、魁夷唯一の巻物である「秋風行画巻」の「大下図」(1952)なども印象に残りました。全8mにも及ぶ大作、もちろんごく一部分のみの公開ですが、原画の複製と隣り合わせになって展示されています。ちなみに原画は東近美の所蔵。こちらも見たいものです。
本展は2期制です。途中、一度の展示替えがあります。(入れ替わる作品の大半は資料です。)
「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 6月13日~8月3日
「風景開眼2ー戦時中から戦後にかけて」 8月8日~10月5日
さて初めにも触れましたが、同館は魁夷が1953年から亡くなる1999年の間まで住んだ地に位置する施設。(市川に越して来たのは1945年。)開館は2005年。以来、魁夷顕彰活動の他、画家に関する様々な展示を行っています。
建物は魁夷の留学したドイツに想を得たという西洋風の外観。展示室は1階と2階の2室です。率直なところともに手狭ですが、他にカフェレストランやミュージアムショップなどを含めるとそれなりに立派。裏手には「KAIIの森」と呼ばれるミニガーデンもあります。雰囲気の良い記念館でした。
今回は通常展ということでいずれも館蔵品による展示でしたが、年に一回程度は特別展も行われます。その際は他館の所蔵品を交えての構成となるそうです。
[次回特別展]
「東山魁夷と東京美術学校有志ー橋本明治・加藤栄三・山田申吾」 10月11日(土)~11月30日(日)
現地は駅から2キロほど離れた中山の丘の上、周囲は閑静な住宅地です。下総中山駅から徒歩20分との案内がありますが、案内板があるとはいえ、周辺のルートは必ずしも分かりやすいとは言えません。また土地勘がないと20分で辿り着くのは難しい気もします。最寄の北方バス停は記念館の目の前です。まずは駅からのバスをおすすめします。(帰りは下り坂なので散策がてらに歩いても良さそうです。)
「もっと知りたい東山魁夷/鶴見香織/東京美術」
8月3日まで開催されています。
「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 市川市東山魁夷記念館
会期:6月13日(金)~8月3日(日)
休館:月曜日。但し祝日にあたる場合は翌平日。
料金:一般510(410)円、65歳以上400円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~17:00。入場は閉館の30分前まで。
住所:千葉県市川市中山1-16-2
交通:JR下総中山駅より徒歩約20分。京成中山駅より徒歩約15分。JR線下総中山駅より京成バスシステム柏井線「市営霊園・保健医療福祉センター」行き、「北方」バス停下車約1分。(下総中山駅バス時刻表)
「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」
6/13-8/3
市川市東山魁夷記念館で開催中の「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」を見て来ました。
日本画家東山魁夷(1908~1999)が生涯の大半を過ごした千葉は市川の中山。そこに建つ東山魁夷記念館にて「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」と題した展覧会が行われています。
主に東京美術学校時代の魁夷の足跡を辿る。卒業後のドイツ留学時の作品も一部展観します。また書簡などの資料も目を引く。いかに魁夷が風景画家の道を志したのか。それを簡単に見ていく内容となっていました。(出品リスト)
冒頭は資料です。元々洋画家を志していた魁夷。父の反対にもあって日本画を学んだそうです。東京美術学校では2年次から特待生です。当時の選定証の複製なども紹介されています。
また1年次の夏休みには仲間と連れ立って木曽へ旅行へと赴き、その中で「山国への想い」(キャプションより)を深くしたとか。この際の旅行日記も出品。その他、まだ20代の魁夷が両親へ宛てた葉書もいくつか展示されていました。
資料関係で面白いのは双六です。少し時代は下りますが、制作年は1945年、終戦の年です。物資に乏しく、娯楽も少なかった当時、魁夷は双六を制作した。これがかなりの大判です。しかも題材が「キングコング」というのも面白い。画家の意外な一面を見るような気もしました。
その他には魁夷が唯一著した技法書、「日本画の技法」なども興味深い作品ではないでしょうか。風景画の制作をスケッチ段階から細かに解説しています。ちょうど山の稜線を描く場面が紹介されていました。
さて絵画です。出品は本画と複製をあわせて全部で20点ほど。最初期は中学校時代です。まだ10代の時の「川の畔り」(1923)、後の魁夷画の片鱗もありませんが、なかなか丹念に描いている。また留学前の日本画の小品「白梅」(1933)も佳作です。力強いまでの墨線が走る。梅も美しい。溌剌としています。
東山魁夷「花売り」1942年 紙本彩色、額装
一際目立つのが「花売り」(1942)です。留学時に取材した作品、モチーフはタイトルの通り花売りです。ドイツで見た老婆でしょうか。編み物をしながら客を待つ女性。うつむいている。その横に並べられたのが大輪の花束です。バラにスイートピーにビオラ。瑞々しい赤やピンクが目に染みます。白い布地に薄紫のチェック柄の入ったクロスも美しい。そして顔料を盛ったような質感。独特の味わいがあります。
ちなみに本作、元々は屏風絵だったそうです。それを保存のために額装にしています。中央部にはかつての右と左を貼り合わせた跡が見られるとのことでした。
東山魁夷「道(試作)」1950年 絹本彩色、額装
代表作としても知られる「道」(1950)の試作が出ていました。本画は東近美の所蔵、また同じく終戦後の「残照」と「郷愁」も並んでいましたが、いずれも近年制作のリトグラフ、及び複製画です。
実のところ絵画出品作のうちの何割かはこうした複製画。これはそもそも市川市が魁夷の本画をあまり所蔵していないからかもしれません。よく考えれば同館の名称も美術館ではなく記念館です。魁夷の本画を多く見たいと思って出向くと少し戸惑う面はあるかもしれません。
その他、魁夷唯一の巻物である「秋風行画巻」の「大下図」(1952)なども印象に残りました。全8mにも及ぶ大作、もちろんごく一部分のみの公開ですが、原画の複製と隣り合わせになって展示されています。ちなみに原画は東近美の所蔵。こちらも見たいものです。
本展は2期制です。途中、一度の展示替えがあります。(入れ替わる作品の大半は資料です。)
「風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 6月13日~8月3日
「風景開眼2ー戦時中から戦後にかけて」 8月8日~10月5日
さて初めにも触れましたが、同館は魁夷が1953年から亡くなる1999年の間まで住んだ地に位置する施設。(市川に越して来たのは1945年。)開館は2005年。以来、魁夷顕彰活動の他、画家に関する様々な展示を行っています。
建物は魁夷の留学したドイツに想を得たという西洋風の外観。展示室は1階と2階の2室です。率直なところともに手狭ですが、他にカフェレストランやミュージアムショップなどを含めるとそれなりに立派。裏手には「KAIIの森」と呼ばれるミニガーデンもあります。雰囲気の良い記念館でした。
今回は通常展ということでいずれも館蔵品による展示でしたが、年に一回程度は特別展も行われます。その際は他館の所蔵品を交えての構成となるそうです。
[次回特別展]
「東山魁夷と東京美術学校有志ー橋本明治・加藤栄三・山田申吾」 10月11日(土)~11月30日(日)
現地は駅から2キロほど離れた中山の丘の上、周囲は閑静な住宅地です。下総中山駅から徒歩20分との案内がありますが、案内板があるとはいえ、周辺のルートは必ずしも分かりやすいとは言えません。また土地勘がないと20分で辿り着くのは難しい気もします。最寄の北方バス停は記念館の目の前です。まずは駅からのバスをおすすめします。(帰りは下り坂なので散策がてらに歩いても良さそうです。)
「もっと知りたい東山魁夷/鶴見香織/東京美術」
8月3日まで開催されています。
「通常展 東山魁夷 風景開眼1ー東京美術学校での研鑽」 市川市東山魁夷記念館
会期:6月13日(金)~8月3日(日)
休館:月曜日。但し祝日にあたる場合は翌平日。
料金:一般510(410)円、65歳以上400円、高校・大学生250(200)円、中学生以下無料。
*( )内は25名以上の団体料金。
時間:10:00~17:00。入場は閉館の30分前まで。
住所:千葉県市川市中山1-16-2
交通:JR下総中山駅より徒歩約20分。京成中山駅より徒歩約15分。JR線下総中山駅より京成バスシステム柏井線「市営霊園・保健医療福祉センター」行き、「北方」バス停下車約1分。(下総中山駅バス時刻表)
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