「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」 岡田美術館

岡田美術館
「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち 速水御舟『木蓮』 久々の公開」
2014/10/4~2015/3/31



岡田美術館で開催中の「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち 速水御舟『木蓮』 久々の公開」を見て来ました。

2013年秋に箱根の小涌谷にオープンした岡田美術館。主にオーナーの岡田氏が蒐集した東洋美術コレクションを公開。最近ではかの歌麿の幻の名作「深川の雪」の展示などで大きな話題を集めました。

かねてから私も「岡田美術館は箱、そして作品共々凄い。」という噂を聞いていたものの、なかなか行きそびれてしまっていました。


岡田美術館入口

といわけで岡田美術館デビューです。場所は先にも触れたように小涌谷。箱根ホテル小涌園やユネッサンのすぐ横です。界隈では比較的人の集まる地域に位置しています。


岡田美術館全景

車で美術館の建物を一目見ても「凄さ」に気がつきました。端的に大きい。予想以上です。表現が相応しくないかもしれませんが、「御殿」という言葉が思い浮かびました。立派です。箱根の山を背にしての堂々たる姿。建つというよりも聳えたっています。


福井江太郎「風・刻」(美術館正面)

そして何と言っても目を引くのが美術館の前面に広がる宗達の「風神雷神図」を模した壁画です。これは日本画家の福井江太郎氏が構想からおおよそ5年の歳月をかけて完成させたもの。縦12メートルに横30メートル、タイトルは「風・刻(かぜ・とき)」です。

はめ込まれた金地のパネルは全部で640枚。実際は真鍮だそうです。古色までも丹念に再現し、かの宗達画の神の力強い勇姿を表しています。

さて美術館内、一つ注意が必要です。というのもカメラはもちろん携帯電話も持ち込み禁止。全てエントランス横のロッカーに預ける必要があります。また入口では空港ならぬ簡単なセキュリティチェックゲートもありました。ただそれゆえでしょうか。展示室内にはいわゆる監視の方が一人もおられません。

今回は館内の一部の撮影の許可を特別に頂戴しました。

フロアは全部で5層です。1階は中国陶磁や青銅器、2階が日本陶磁、3階と4階が日本絵画と書跡、そして5階が仏教美術です。各階は5階を除いてはほぼ同じ広さですが、内部は展示階によって構造や仕切りが異なっています。


2階ロビーとエスカレーター

入館者は順にそのフロアをエスカレーターなりで行き来する仕掛けです。構造自体は科博の新館に少し似ているかもしれません。

展示室はまさに暗室です。映り込みの少ないガラスにやや強めのピンポイントの照明で作品を見せています。そしてこれが実に美しい。陶磁器の色、金屏風の輝き、日本画の顔料の繊細な質感、全てが際立って映ります。またガラスと作品の距離も意外に近いもの。展示環境、そして作品の見せ方としては、驚くほどに効果的でした。


「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」展示室風景

ともかく東洋、日本の多岐に渡る美術コレクション、全300件です。とてもブログでは細かに追えませんが、まず関心したのは江戸絵画に素晴らしい優品があるということ。また抱一の「月に秋草図屏風」など琳派にも充実した作品が多い。さらには金屏風です。特別に金屏風のみをあしらえた展示室は壮観の一言。息をのんでしまいます。

乾山の「色絵紅葉文透彫反鉢」がありました。かつて東博対決展でも出品のあった器、当時は別の所蔵であった記憶がありますが、いつの間にか岡田美術館のコレクションとなっていた。また当時では中国の景徳鎮も美しいものが多い。極めつけは「青花花唐草文碗」です。日本に伝わる数少ないパレス・ボウルの一品、優雅な唐草文が広がる。非常に薄はりです。下から眺めると透けているのではないかと思うほどでした。


「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」展示室風景

ほか仏教美術や朝鮮の青磁など見るべき作品は無数にある。また一部の器の展示台は何と回転します。ある意味での演出です。眼福とはこのことでしょう。率直なところ「まさかこれほどとは。」と驚くばかりでした。

表題の「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」は開館一周年を記念しての企画展示です。いわゆる日本美術院の画家の作品を紹介しています。


菱田春草「海月」明治40年(1907)頃

東京国立近代美術館で回顧展のあった春草に優品が多いことに驚きました。全5点。例えば「海月」です。春草が五浦へ移って一年後に描いた作品、岩場には白波が打ち寄せ、上を見上げれば雲間に満月が彷徨っている。非常に情緒的、透明感のある海の水色が目に染みます。


速水御舟「木蓮(春園麗華)」大正5年(1926)

久々の公開となった御舟の「木蓮」にも心打たれました。彩色はなく墨のみで描いた大ぶりの木蓮。花も枝も葉も上へとのびて思いの外に生気がある。手前の木蓮と奥とで墨の濃淡を使い分けているからでしょうか。空間に奥行きがあります。それにしても花の開く白の美しさ。白と言うよりも光とした方が良いかもしれません。うっすらと灯っています。気高さすら感じさせます。


左:速水御舟「竹生」昭和3年(1928)

また同じく御舟では「竹生」もすこぶる良い。金色の葉をつけた細い若竹が群れては伸びています。仄かに風が吹いているのでしょうか。少し竹はしなっているようにも見えます。そして背景。実に深淵、広がりは無限です。かの名作「春の宵」を思い起こさせるような作品でした。


「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち」展示室風景

ところで上の写真を見てもお分かりいただけるかと思いますが、二、三、気になった点があります。それが軸画の掛け方です。というのも全てではありませんが、少し傾斜のある台に載せられて展示されている。作品の保存、ないしは見やすさの観点からの試みなのでしょうか。ようは上から垂直に吊るされているわけではないのです。


作品解説タッチパネル

また作品の横にタッチパネル方式の解説があるのもポイントです。岡田美術館では音声ガイドがありません。それを補うためのシステムなのでしょう。対応は日本語、英語、中国語、ハングルの4カ国語。それに加え子ども向けの解説もあります。


各階案内ディスプレイ

なお各階ロビー部分にも案内のディスプレイがありましたが、そちらの表示も4カ国語でした。

美術館の外へ出てみました。裏手には広大な日本庭園が広がる。ミュージアムショップも館内ではなく正面玄関から庭園に向かった地点にあります。


カフェ「開化亭」

庭園の入口にあるのが昭和初期の日本家屋を改装したカフェ「開化亭」です。ランチタイムにはお弁当や名物の豆アジ天うどんなどを提供し、それ以降はコーヒーなどを楽しめる施設。美術館の入館料を払わずとも利用出来ます。


カフェ「開化亭」と庭園

私が出向いた時は紅葉がまだでしたが、見頃の時期はより美しいのではないでしょうか。箱根の穴場的スポットかもしれません。

もう一度「風神雷神図」の壁画の表へ廻ってみましょう。ちょうど壁画を眺める形であるのが「足湯」です。


足湯カフェ(美術館入館者は無料)

敷地内の源泉から直接ひいた掛け流しの温泉です。足を浸してしばし壁画を見ていると美術館内を歩き回って疲れた足も回復してくるような気がします。


足湯

なお足湯は300円ですが、美術館入館者は無料です。これを観覧後利用しない手はありません。


岡田美術館正面 *「(風・刻(かぜ・とき)」

岡田美術館の展示面積は約5000平方メートル。比較すれば全面新装の東博東洋館は4200平方メートルです。それよりも大きくて広い。1~2時間程度では到底見切れません。ゆっくり作品と向き合えばゆうに半日近くはかかるのではないでしょうか。


美術館5階より「開化亭」

お値段は足湯込みで2800円。端的に美術館の入館料の相場からすると相当に高めです。ただしはじめにも触れた「御殿」のような岡田美術館。凄まじき東洋美術コレクションです。美術好きとして一度は見ておくのも良いのではないでしょうか。

2015年3月31日まで開催されています。

「大観・春草・御舟と日本美術院の画家たち 速水御舟『木蓮』 久々の公開」 岡田美術館
会期:2014年10月4日(土)~2015年3月31日(火)
休館:会期中無休。ただし2014年12月31日、および2015年1月1日は休館。
時間:9:00~17:00 *入館は閉館の30分前まで。
料金:一般2800円、小・中・高生1800円。
 *10名以上の団体割引あり。
 *美術館利用者は駐車場、足湯入湯料が無料。
住所:神奈川県足柄下郡箱根町小涌谷493-1
交通:箱根登山鉄道小涌谷駅より伊豆箱根・箱根登山バス「小涌園」下車。有料駐車場(80台)あり。

注)館内の撮影は美術館の特別な許可を得ています。
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