都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「新印象派展」 東京都美術館
東京都美術館
「新印象派ー光と色のドラマ」
1/24-3/29
東京都美術館で開催中の「新印象派ー光と色のドラマ」のプレスプレビューに参加してきました。
スーラやシニャックに代表される新印象派の画家たち。いわゆる点描技法を用いては色彩の持つ表現力を探求しました。またピサロが彼らを「科学的印象主義者」と呼んだように、当時の最新の光学や色彩理論をも取り込んだ、言わば科学的な芸術運動でもありました。
その新印象派にスポットを当てた展覧会です。出品は全100点。オルセーやメトロポリタン美術館のほか、個人コレクションなど、海外からも多数作品がやってきています。展示は画家別ではなく時系列です。新印象派の運動を時間で追っています。
新印象派の誕生は1886年のことです。この年に行われたのが第8回印象派展。まさしく最後の印象派展でした。
ここで初めて参加したのがスーラやシニャックです。ほかドガやモリゾらも加わっていますが、かつて印象派の中心的存在であったモネやルノワールの名はありません。
第8回展に出た作品がまとめて紹介されています。その代表的な一枚がスーラの「セーヌ川、クールブヴォワにて」です。本展のちらしの表紙を飾る作品でもあります。
左:ジョルジュ・スーラ「セーヌ川、クールブヴォワにて」1885年 油彩、カンヴァス 個人蔵
ともかく目を引くのは緻密な点描ですが、手前の芝生上の光の表現はもとより、まるでガラス細工のように煌めく川の水面の透明感も素晴らしいもの。黒い影を横へのばす前景の樹木も構図を引き締めています。
ちなみに第8回展で大いに話題となったのが、同じくスーラの傑作として知られる「グランド・ジャット島の日曜日の午後」です。高さ2メートル、横幅3メートルをこえる超大作。田園の島でくつろぐ人々の姿を全て点描で描いた作品ですが、現在はシカゴ美術館に収蔵され、いわゆる門外不出の扱いです。残念ながら本展にはやってきていません。
*参照パネル ジョルジュ・スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」1884-86年 油彩、カンヴァス シカゴ美術館(本展不出品)
ただこの「セーヌ川、クールブヴォワ」は「グランド・ジャット島の日曜日の午後」とほぼ同時期に描かれた作品です。後に展開される点描技法を取り込んでいるとも言われています。またあわせてグランド・ジャットの油彩の習作を4点紹介。かの大作がどう描かれたのかの一端を知ることも出来ました。
右:「ポール・シニャックのパレット」 個人蔵
左:「ジョルジュ・スーラのパレット」 個人蔵
スーラとシニャックのパレットも面白いのではないでしょうか。写真では分かりにくいかもしれませんが、良く見ると、ともにパレット上で絵具は殆ど混じり合っていません。つまりチューブから出した絵具をそのままのせ、筆でキャンバスに置いていく。規則正しい配色は補色の関係を意識しているそうです。
ルイ・アイエ「視覚混合のための色彩図解(見開き図6点)」1888年 厚紙に貼られた紙片 個人蔵
色彩理論についての展示も重要です。単に点描と捉えがちな新印象派も、実は科学の立場からの裏打ちがありました。筆触分割を実験的に試みたルイ・アイエの習作群なども興味深い作品だと言えそうです。
さて新印象派展、何もスーラやシニャックの作品ばかりが並んでいるわけではありません。実のところこの展覧会に登場する画家は全部で24名にも及びます。もちろんその中には日本では必ずしも有名とは言えない画家も含まれています。
ただあえて申し上げれば、ともすると知名度の低い画家の作品の方が殊更に面白い。今回はスーラ、シニャック以外の新印象派の魅力に触れられる絶好の機会としても過言ではありません。
右:アンリ=エドモン・クロス「農園、夕暮れ」1893年 油彩、カンヴァス 個人蔵
左:アンリ=エドモン・クロス「農園、朝」1893年 油彩、カンヴァス ナンシー美術館
具体的にはテオ・ファン・レイセルベルへにジョルジュ・モレン、そしてマクシミリアン・リュスとアンリ=エドモン・クロスです。
右:テオ・ファン・レイセルベルへ「マリア・セート、後のアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド夫人」1891年 油彩、カンヴァス アントワープ王立美術館
レイセルベルへの「マリア・セート、後のアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド夫人」はどうでしょうか。肖像画を得意とした画家の代表作、ピアノの前で横向きに座る女性が描かれていますが、細かな点描は衣服や椅子の陰影までも表しています。特に衣服の襞が強調されていました。どこか装飾的な画風と言えるかもしれません。
ちなみにレイセルベルへはベルギーの画家です。ブリュッセルの「レ・ヴァン(20人会)」の創立にも参加しました。ほかに同国生まれのジョルジュ・モレンも活動しています。ベルギーはフランスに次いで新印象派の活動が盛んな地域となりました。
右:マクシミリアン・リュス「ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果」1890年 油彩、カンヴァス 個人蔵
リュスの「ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果」も見事な一枚です。パリの街を描いたリュス、七色に染まるのはセーヌの夜景です。水面には赤やオレンジの光が反射しています。人の姿を明瞭に確認出来ませんが、どこかパリの夜の賑わいを伝えるような作品でした。
左:マクシミリアン・リュス「シャルルロワの高炉」1896年 油彩、カンヴァス シャルルロワ美術館
またリュスでは同じく夜景の「シャルルロワの高炉」や「シャルルロワの工場」も美しいのではないでしょうか。彼はこの鉱山のあるシャルルロワの地に魅せられ、訪ねては何枚もの作品を残しましたす。ただリュスは後に色彩分割を捨て、印象派的な表現に回帰していったそうです。
31歳の若さで亡くなったスーラに代わり、新印象派の活動を牽引していったのがシニャックやクロスです。両者とも時間を経るにつれて筆触は大きくなり、より形態や色も自由になっていきます。
右:アンリ=エドモン・クロス「地中海のほとり」1895年 油彩、カンヴァス 個人蔵
クロスは時に画面へアラベスク模様を散らすような手法をとりました。その代表的な例であるのが「地中海のほとり」です。海の際、木立でくつろぐ女性たちをモチーフとした一枚、木の幹や葉は時に黄色やピンク色で表されていて、現実とはかけ離れた色を用いています。ある意味で空想的です。まるで時代を大きく遡り、神話の時代の楽園を描いたかのような趣きさえ感じられます。
アンドレ・ドラン「コリウール港の小舟」1905年 油彩、カンヴァス 大阪新美術館建設準備室
ラストが意外にもフォーヴのドランでした。「コリウールの小舟」です。点描というよりも、より揺らぎのある筆触によって描かれた港の景色、赤や黄色の暖色と海の青みがさも対立するかのように交差しています。非常に力強い作品でもあります。
いわゆるフォーヴの誕生する前年(1904年)にマティスはシニャックによりサン=トロペに招かれ、そこでクロスと親交を深めては、点描を試みました。また後にドランとも制作し、そこからフォーヴが興ったそうです。新印象派からフォーブを見定める流れを追う。その辺も展覧会の見どころだと言えそうです。
一口に「点描」と言えども、その実は驚くほど多様でした。前史のモネから後に繋がるフォーヴィズムまで、新印象派の果たした役割は少なくありません。
東京都美術館入口より
僅か20年の間で様々に展開した新印象派。シニャック一つ挙げても作風はかなり変わります。新印象派の全般的な流れを知ることの出来る好企画だと言えそうです。
3月29日まで開催されています。
追記)荻窪6次元の「点描ナイト」が2月5日(木)に行われます。
6次元で「点描ナイト」が開催されます(はろるど)
東京都美術館の大橋菜都子学芸員をお迎えしてのトークイベント、新印象派に限らず、美術史全体の点描表現について語って下さるそうです。
まだ若干席に余裕があるそうです。参加ご希望の方は6次元までメールにてお問い合わせください。
「新印象派ー光と色のドラマ」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:1月24日(土) ~3月29日(日)
時間:9:30~17:30
*毎週月曜日日、及び11/1(土)、2日(日)、12/6(土)、13(土)、14(日)は20時まで開館)
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(700)円。65歳以上1000(900)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「新印象派ー光と色のドラマ」
1/24-3/29
東京都美術館で開催中の「新印象派ー光と色のドラマ」のプレスプレビューに参加してきました。
スーラやシニャックに代表される新印象派の画家たち。いわゆる点描技法を用いては色彩の持つ表現力を探求しました。またピサロが彼らを「科学的印象主義者」と呼んだように、当時の最新の光学や色彩理論をも取り込んだ、言わば科学的な芸術運動でもありました。
その新印象派にスポットを当てた展覧会です。出品は全100点。オルセーやメトロポリタン美術館のほか、個人コレクションなど、海外からも多数作品がやってきています。展示は画家別ではなく時系列です。新印象派の運動を時間で追っています。
新印象派の誕生は1886年のことです。この年に行われたのが第8回印象派展。まさしく最後の印象派展でした。
ここで初めて参加したのがスーラやシニャックです。ほかドガやモリゾらも加わっていますが、かつて印象派の中心的存在であったモネやルノワールの名はありません。
第8回展に出た作品がまとめて紹介されています。その代表的な一枚がスーラの「セーヌ川、クールブヴォワにて」です。本展のちらしの表紙を飾る作品でもあります。
左:ジョルジュ・スーラ「セーヌ川、クールブヴォワにて」1885年 油彩、カンヴァス 個人蔵
ともかく目を引くのは緻密な点描ですが、手前の芝生上の光の表現はもとより、まるでガラス細工のように煌めく川の水面の透明感も素晴らしいもの。黒い影を横へのばす前景の樹木も構図を引き締めています。
ちなみに第8回展で大いに話題となったのが、同じくスーラの傑作として知られる「グランド・ジャット島の日曜日の午後」です。高さ2メートル、横幅3メートルをこえる超大作。田園の島でくつろぐ人々の姿を全て点描で描いた作品ですが、現在はシカゴ美術館に収蔵され、いわゆる門外不出の扱いです。残念ながら本展にはやってきていません。
*参照パネル ジョルジュ・スーラ「グランド・ジャット島の日曜日の午後」1884-86年 油彩、カンヴァス シカゴ美術館(本展不出品)
ただこの「セーヌ川、クールブヴォワ」は「グランド・ジャット島の日曜日の午後」とほぼ同時期に描かれた作品です。後に展開される点描技法を取り込んでいるとも言われています。またあわせてグランド・ジャットの油彩の習作を4点紹介。かの大作がどう描かれたのかの一端を知ることも出来ました。
右:「ポール・シニャックのパレット」 個人蔵
左:「ジョルジュ・スーラのパレット」 個人蔵
スーラとシニャックのパレットも面白いのではないでしょうか。写真では分かりにくいかもしれませんが、良く見ると、ともにパレット上で絵具は殆ど混じり合っていません。つまりチューブから出した絵具をそのままのせ、筆でキャンバスに置いていく。規則正しい配色は補色の関係を意識しているそうです。
ルイ・アイエ「視覚混合のための色彩図解(見開き図6点)」1888年 厚紙に貼られた紙片 個人蔵
色彩理論についての展示も重要です。単に点描と捉えがちな新印象派も、実は科学の立場からの裏打ちがありました。筆触分割を実験的に試みたルイ・アイエの習作群なども興味深い作品だと言えそうです。
さて新印象派展、何もスーラやシニャックの作品ばかりが並んでいるわけではありません。実のところこの展覧会に登場する画家は全部で24名にも及びます。もちろんその中には日本では必ずしも有名とは言えない画家も含まれています。
ただあえて申し上げれば、ともすると知名度の低い画家の作品の方が殊更に面白い。今回はスーラ、シニャック以外の新印象派の魅力に触れられる絶好の機会としても過言ではありません。
右:アンリ=エドモン・クロス「農園、夕暮れ」1893年 油彩、カンヴァス 個人蔵
左:アンリ=エドモン・クロス「農園、朝」1893年 油彩、カンヴァス ナンシー美術館
具体的にはテオ・ファン・レイセルベルへにジョルジュ・モレン、そしてマクシミリアン・リュスとアンリ=エドモン・クロスです。
右:テオ・ファン・レイセルベルへ「マリア・セート、後のアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド夫人」1891年 油彩、カンヴァス アントワープ王立美術館
レイセルベルへの「マリア・セート、後のアンリ・ヴァン・ド・ヴェルド夫人」はどうでしょうか。肖像画を得意とした画家の代表作、ピアノの前で横向きに座る女性が描かれていますが、細かな点描は衣服や椅子の陰影までも表しています。特に衣服の襞が強調されていました。どこか装飾的な画風と言えるかもしれません。
ちなみにレイセルベルへはベルギーの画家です。ブリュッセルの「レ・ヴァン(20人会)」の創立にも参加しました。ほかに同国生まれのジョルジュ・モレンも活動しています。ベルギーはフランスに次いで新印象派の活動が盛んな地域となりました。
右:マクシミリアン・リュス「ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果」1890年 油彩、カンヴァス 個人蔵
リュスの「ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果」も見事な一枚です。パリの街を描いたリュス、七色に染まるのはセーヌの夜景です。水面には赤やオレンジの光が反射しています。人の姿を明瞭に確認出来ませんが、どこかパリの夜の賑わいを伝えるような作品でした。
左:マクシミリアン・リュス「シャルルロワの高炉」1896年 油彩、カンヴァス シャルルロワ美術館
またリュスでは同じく夜景の「シャルルロワの高炉」や「シャルルロワの工場」も美しいのではないでしょうか。彼はこの鉱山のあるシャルルロワの地に魅せられ、訪ねては何枚もの作品を残しましたす。ただリュスは後に色彩分割を捨て、印象派的な表現に回帰していったそうです。
31歳の若さで亡くなったスーラに代わり、新印象派の活動を牽引していったのがシニャックやクロスです。両者とも時間を経るにつれて筆触は大きくなり、より形態や色も自由になっていきます。
右:アンリ=エドモン・クロス「地中海のほとり」1895年 油彩、カンヴァス 個人蔵
クロスは時に画面へアラベスク模様を散らすような手法をとりました。その代表的な例であるのが「地中海のほとり」です。海の際、木立でくつろぐ女性たちをモチーフとした一枚、木の幹や葉は時に黄色やピンク色で表されていて、現実とはかけ離れた色を用いています。ある意味で空想的です。まるで時代を大きく遡り、神話の時代の楽園を描いたかのような趣きさえ感じられます。
アンドレ・ドラン「コリウール港の小舟」1905年 油彩、カンヴァス 大阪新美術館建設準備室
ラストが意外にもフォーヴのドランでした。「コリウールの小舟」です。点描というよりも、より揺らぎのある筆触によって描かれた港の景色、赤や黄色の暖色と海の青みがさも対立するかのように交差しています。非常に力強い作品でもあります。
いわゆるフォーヴの誕生する前年(1904年)にマティスはシニャックによりサン=トロペに招かれ、そこでクロスと親交を深めては、点描を試みました。また後にドランとも制作し、そこからフォーヴが興ったそうです。新印象派からフォーブを見定める流れを追う。その辺も展覧会の見どころだと言えそうです。
一口に「点描」と言えども、その実は驚くほど多様でした。前史のモネから後に繋がるフォーヴィズムまで、新印象派の果たした役割は少なくありません。
東京都美術館入口より
僅か20年の間で様々に展開した新印象派。シニャック一つ挙げても作風はかなり変わります。新印象派の全般的な流れを知ることの出来る好企画だと言えそうです。
3月29日まで開催されています。
追記)荻窪6次元の「点描ナイト」が2月5日(木)に行われます。
6次元で「点描ナイト」が開催されます(はろるど)
東京都美術館の大橋菜都子学芸員をお迎えしてのトークイベント、新印象派に限らず、美術史全体の点描表現について語って下さるそうです。
まだ若干席に余裕があるそうです。参加ご希望の方は6次元までメールにてお問い合わせください。
「新印象派ー光と色のドラマ」 東京都美術館(@tobikan_jp)
会期:1月24日(土) ~3月29日(日)
時間:9:30~17:30
*毎週月曜日日、及び11/1(土)、2日(日)、12/6(土)、13(土)、14(日)は20時まで開館)
*入館は閉館の30分前まで。
休館:月曜日。
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(700)円。65歳以上1000(900)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体料金。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
住所:台東区上野公園8-36
交通:JR線上野駅公園口より徒歩7分。東京メトロ銀座線・日比谷線上野駅7番出口より徒歩10分。京成線上野駅より徒歩10分。
注)写真は報道内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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