都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「花と鳥の万華鏡」 山種美術館
山種美術館
「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」
2/11-4/12
山種美術館で開催中の「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」を見てきました。
言わば日本画の華ともいえる花鳥画。その魅力を山種美術館のコレクションで楽しめる展覧会です。
今回は「青い日記帳×山種美術館 ブロガー内覧会」に参加しました。(館内の撮影のお許しをいただきました。)
冒頭は速水御舟の「牡丹花」、通称「墨牡丹」と呼ばれる作品です。
速水御舟「牡丹花(墨牡丹)」 1934(昭和9)年
厳密には牡丹には黒はなく、紫黒色をした花がそう呼ばれますが、ここで御舟はあえて墨を用いて黒い牡丹を描いています。薄い墨を淡く重ねては開く牡丹の美しさと言ったら比類がありません。
速水御舟「牡丹花(墨牡丹)」 1934(昭和9)年 *部分
雄しべは金泥を用いていました。闇にそっと明かりが灯るような姿、花弁は優しくしべを包み込みます。どこか情緒的なまでの趣きです。私も大好きな御舟ですが、その中でも最上位に挙げたい作品と言えるかもしれません。
渡辺省亭「牡丹に蝶図」 1893(明治26)年 *部分
本展では牡丹を描いた作品が多いのも特徴です。そもそも牡丹は花の王とも呼ばれる吉祥的な画題、春草の「白牡丹」や龍子の「牡丹」、さらには渡辺省亭の「牡丹に蝶図」など充実したものが目立ちます。ちなみに省亭の作は美術館初公開だそうです。同じ花を見比べてはお気に入りの作品を探すのも面白いかもしれません。
松林桂月「春雪」 19~20世紀(明治~昭和時代)
練馬区立美術館の回顧展を思い出しました。松林桂月です。作品は「春雪」。南天でしょうか。赤い実をつけた枝葉には雪がかぶっています。良く見ると枝の先にはおそらく雀と思われる鳥がちょこんとのっていました。葉や枝の色彩にはニュアンスがあり、時に向こうが透けて見えるほど薄塗りです。傑作の「春宵花影」を彷彿させはしないでしょうか。実に幻想的でした。
さて今年は琳派400年の琳派イヤー、本展においても琳派の作品を見逃すことは出来ません。
鈴木其一「四季花鳥図」 19世紀(江戸時代)
それが鈴木其一の「四季花鳥図」です。右に春夏、左に秋冬の草花を配した作品、そして草むらに隠れるように鶏やひよこ、それに鴛鴦などが描かれています。つまり親子や夫婦の睦まじい姿を表したもの。質の高い絵具を使ったと言われる通り、状態も良好です。眩い金地に黄色の向日葵。細部の描写にも緩みがありません。また良く見ると葉が一部うねっています。単に写実に留まらない、どこか生々しさを伴った、其一ならでの屏風と言えるかもしれません。
鈴木其一「四季花鳥図」 19世紀(江戸時代) *部分
荒木十畝の「四季花鳥」も画面の装飾性という点においては琳派的と呼べるのではないでしょうか。
荒木十畝「四季花鳥」 1917(大正6)年
そもそも画家自身が光琳を意識したとも語った作品、4幅の大画面には色とりどりの草花がこぼれ落ちんとばかりに描かれています。葉脈の金も眩い。ちなみにこの作品は山種美術館のコレクションで最も縦に長いそうです。ゆえにケースも本作が入るように設計されました。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年
人気の「翠苔緑芝」も展示中です。金地屏風の大作、ともかくは樹木に紫陽花の配置など、半ば大胆なまでに平面化した構成に目を奪われますが、やはり可愛らしいのは小動物です。うつぶせになって背伸びするうさぎ、これは実際にリラックスする時によく見せるポーズだそうです。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年 *部分
紫陽花にも注目です。というのも少し焦げているようにも見えます。何でもこれは胡粉に重曹を混ぜ、火をつけてあぶったとも言われているとか。花の質感表現を徹底して追求したゆえのことなのでしょう。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年 *部分
ちなみに枇杷や紫陽花、そして猫やうさぎは、本作を描いた頃に御舟が住んだ目黒の家にあったものだと言われています。身近な素材を用いて、かくも大胆な空間を作った御舟の才知。常に変化し続けた御舟ならでは先取性に富んだ作品だと言えそうです。
左:奥村土牛「兎」 1947(昭和22)年頃
最後にもう一匹、可愛らしいうさぎをあげておきましょう。土牛の「兎」です。山種美術館でも人気の名品、うさぎの種はカイウサギと呼ばれるもので、上で触れた「翠苔緑芝」のそれと同じだそうです。
瑞々しい色彩感、身体の部分は得意のたらし込みでしょうか。仄かに滲んでいます。朱色の芥子を前に彼方を見つめるうさぎは何を想うのでしょうか。瞳は限りなく澄んでいました。
速水御舟「桃花」 1923(大正12)年頃
もう間もなく3月。既に梅は咲き、めじろの鳴き声が聞こえる季節ではありますが、それでもまだ寒い日も続きます。なかなか頻繁にお花見とはいかないかもしれません。
田能村直入「百花」 1869(明治2)年 *部分
それを山種美術館では日本画の世界で先取り出ます。まさに百花繚乱、もちろん夏や秋の花もありますが、一足先に「春」に特有の華やいだ気分を味わえるような展覧会でした。
4月12日まで開催されています。
「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」 山種美術館(@yamatanemuseum)
会期:2月11日(水・祝)~4月12日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*きもの割引:着物で来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
注)写真はブロガー内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」
2/11-4/12
山種美術館で開催中の「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」を見てきました。
言わば日本画の華ともいえる花鳥画。その魅力を山種美術館のコレクションで楽しめる展覧会です。
今回は「青い日記帳×山種美術館 ブロガー内覧会」に参加しました。(館内の撮影のお許しをいただきました。)
冒頭は速水御舟の「牡丹花」、通称「墨牡丹」と呼ばれる作品です。
速水御舟「牡丹花(墨牡丹)」 1934(昭和9)年
厳密には牡丹には黒はなく、紫黒色をした花がそう呼ばれますが、ここで御舟はあえて墨を用いて黒い牡丹を描いています。薄い墨を淡く重ねては開く牡丹の美しさと言ったら比類がありません。
速水御舟「牡丹花(墨牡丹)」 1934(昭和9)年 *部分
雄しべは金泥を用いていました。闇にそっと明かりが灯るような姿、花弁は優しくしべを包み込みます。どこか情緒的なまでの趣きです。私も大好きな御舟ですが、その中でも最上位に挙げたい作品と言えるかもしれません。
渡辺省亭「牡丹に蝶図」 1893(明治26)年 *部分
本展では牡丹を描いた作品が多いのも特徴です。そもそも牡丹は花の王とも呼ばれる吉祥的な画題、春草の「白牡丹」や龍子の「牡丹」、さらには渡辺省亭の「牡丹に蝶図」など充実したものが目立ちます。ちなみに省亭の作は美術館初公開だそうです。同じ花を見比べてはお気に入りの作品を探すのも面白いかもしれません。
松林桂月「春雪」 19~20世紀(明治~昭和時代)
練馬区立美術館の回顧展を思い出しました。松林桂月です。作品は「春雪」。南天でしょうか。赤い実をつけた枝葉には雪がかぶっています。良く見ると枝の先にはおそらく雀と思われる鳥がちょこんとのっていました。葉や枝の色彩にはニュアンスがあり、時に向こうが透けて見えるほど薄塗りです。傑作の「春宵花影」を彷彿させはしないでしょうか。実に幻想的でした。
さて今年は琳派400年の琳派イヤー、本展においても琳派の作品を見逃すことは出来ません。
鈴木其一「四季花鳥図」 19世紀(江戸時代)
それが鈴木其一の「四季花鳥図」です。右に春夏、左に秋冬の草花を配した作品、そして草むらに隠れるように鶏やひよこ、それに鴛鴦などが描かれています。つまり親子や夫婦の睦まじい姿を表したもの。質の高い絵具を使ったと言われる通り、状態も良好です。眩い金地に黄色の向日葵。細部の描写にも緩みがありません。また良く見ると葉が一部うねっています。単に写実に留まらない、どこか生々しさを伴った、其一ならでの屏風と言えるかもしれません。
鈴木其一「四季花鳥図」 19世紀(江戸時代) *部分
荒木十畝の「四季花鳥」も画面の装飾性という点においては琳派的と呼べるのではないでしょうか。
荒木十畝「四季花鳥」 1917(大正6)年
そもそも画家自身が光琳を意識したとも語った作品、4幅の大画面には色とりどりの草花がこぼれ落ちんとばかりに描かれています。葉脈の金も眩い。ちなみにこの作品は山種美術館のコレクションで最も縦に長いそうです。ゆえにケースも本作が入るように設計されました。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年
人気の「翠苔緑芝」も展示中です。金地屏風の大作、ともかくは樹木に紫陽花の配置など、半ば大胆なまでに平面化した構成に目を奪われますが、やはり可愛らしいのは小動物です。うつぶせになって背伸びするうさぎ、これは実際にリラックスする時によく見せるポーズだそうです。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年 *部分
紫陽花にも注目です。というのも少し焦げているようにも見えます。何でもこれは胡粉に重曹を混ぜ、火をつけてあぶったとも言われているとか。花の質感表現を徹底して追求したゆえのことなのでしょう。
速水御舟「翠苔緑芝」 1928(昭和3)年 *部分
ちなみに枇杷や紫陽花、そして猫やうさぎは、本作を描いた頃に御舟が住んだ目黒の家にあったものだと言われています。身近な素材を用いて、かくも大胆な空間を作った御舟の才知。常に変化し続けた御舟ならでは先取性に富んだ作品だと言えそうです。
左:奥村土牛「兎」 1947(昭和22)年頃
最後にもう一匹、可愛らしいうさぎをあげておきましょう。土牛の「兎」です。山種美術館でも人気の名品、うさぎの種はカイウサギと呼ばれるもので、上で触れた「翠苔緑芝」のそれと同じだそうです。
瑞々しい色彩感、身体の部分は得意のたらし込みでしょうか。仄かに滲んでいます。朱色の芥子を前に彼方を見つめるうさぎは何を想うのでしょうか。瞳は限りなく澄んでいました。
速水御舟「桃花」 1923(大正12)年頃
もう間もなく3月。既に梅は咲き、めじろの鳴き声が聞こえる季節ではありますが、それでもまだ寒い日も続きます。なかなか頻繁にお花見とはいかないかもしれません。
田能村直入「百花」 1869(明治2)年 *部分
それを山種美術館では日本画の世界で先取り出ます。まさに百花繚乱、もちろん夏や秋の花もありますが、一足先に「春」に特有の華やいだ気分を味わえるような展覧会でした。
4月12日まで開催されています。
「花と鳥の万華鏡ー春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥」 山種美術館(@yamatanemuseum)
会期:2月11日(水・祝)~4月12日(日)
休館:月曜日
時間:10:00~17:00 *入館は16時半まで。
料金:一般1000(800)円、大・高生800(700)円、中学生以下無料。
*( )内は20名以上の団体料金。
*きもの割引:着物で来館すると団体割引料金を適用。
住所:渋谷区広尾3-12-36
交通:JR恵比寿駅西口・東京メトロ日比谷線恵比寿駅2番出口より徒歩約10分。恵比寿駅前より都バス学06番「日赤医療センター前」行きに乗車、「広尾高校前」下車。
注)写真はブロガー内覧会時に主催者の許可を得て撮影したものです。
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