「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画」 千葉市美術館

千葉市美術館
「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 『マネジメントの父』が愛した日本の美」
5/19-6/28



千葉市美術館で開催中の「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画」を見てきました。

現代経営学、いわゆるマネジメントの泰斗として知られる経営学者、ピーター・ドラッカー(1909~2005)。日本の古美術品のコレクターでもあったそうです。

そのドラッカーの有する日本美術を紹介する展覧会です。出品は111点。表題にもある室町期の水墨画をはじめ、江戸の花鳥画、さらにはコレクションの3割を占める文人画までを網羅します。ほぼ全てが掛軸です。なお水墨とありますが、彩色の作品もあります。

さてドラッカー水墨画展、確かに純然たる日本美術展ではありますが、さすがにタイトルに名を冠しているだけあってか、ドラッカー自身について言及している部分が多いのも特徴と言えるかもしれません。

冒頭はドラッカーの大きな肖像写真です。次いで氏の残した著作もずらり。邦訳だけでも何冊あるのでしょうか。それにスピーチ原稿やレスポンスカード、また愛用のタイプライターや某企業から贈られた銀杯など多数。ともかくドラッカーにまつわる資料が展示されています。

引き続く絵画においても、初めのテーマは「日本美術の出会い」です。つまりドラッカーがいかに日本美術に出会い、魅せられたのかということについて触れています。


式部輝忠「渓流飛鴨図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

そこで並んでいたのが2点の小品、式部輝忠の「渓流飛鴨図」と清原雪信の「芙蓉図」でした。1909年にウィーンで生まれたドラッカー、24歳の時にロンドンで偶然見た展覧会で日本美術に触れます。1939年にアメリカへ移住。フリア美術館へ通って日本美術に関心を抱きました。初来日は1959年のことです。そしてその時、初めて京都で購入したのが、この2点の作品というわけなのです。

再び来日した1962年には東京で如水宗淵の「柳堤山水図」を購入。室町水墨画です。如水宗淵は雪舟の弟子の一人。師の元を離れる際、雪舟がかの名作「破墨山水図」(東京国立博物館蔵)を与えたとされる人物でもあります。


前嶋宗祐「山水図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

それにしても室町期の水墨にはすこぶる良いものが多い。「珠玉」とあるのもあながち誇張ではないかもしれません。例えば雪村の「月夜独釣図」に周耕の「懸崖図」に伝文成の「土牛図」。甲乙付け難いものがあります。いずれもドラッカーが早い段階で蒐集したコレクションですが、その質の高さには素人目に見ても感心させられました。


海北友松「れい毛図」(部分) 桃山時代 ドラッカー・コレクション

さてドラッカーコレクション、先の雪村や光琳、海北友松や探幽、若冲、盧雪に英一蝶や久隅守景など、比較的メジャーな画家も含まれていますが、どちらかとすればあまり知られていない画家が多いのもポイントと言えるかもしれません。

それもそのはず、そもそも画家の中には来歴が分からず、伝記が残っていない人物も少なくないとか。つまりほかの作例を参照出来ない画家もいるわけです。

花鳥画にも優品がありました。精庵の「雪中雀図」です。文字通り岩場の枝葉の雀たちが遊ぶ様子を描いた一枚。どこか楽し気です。ちなみに精庵も伝記の不明な画家の一人でもあります。


柴庵「柳燕・鶺鴒図」 室町時代 ドラッカー・コレクション

また墨の跳ねを利用した知有の「翡翠図」も良い。柴庵の「柳燕・鶺鴒図」はどうでしょうか。左に燕、右に鶺鴒。風に靡く柳や竹の描写も小気味良いもの。鳥の飛ぶ姿も軽妙です。

後半は仏画、禅画、そして文人画と続きます。室町期の「法然上人絵伝断簡」の状態が良いのには驚きました。さらに伝一之の「白衣観音図」も魅惑的です。何とも澱みのない姿。月を背にして観音様が優雅でかつ涼し気に佇みます。これまた伝承不明の画家の作品ですが、その出来に思わず目を細めてしまいました。


谷文晁「月夜白梅図」 江戸時代 ドラッカー・コレクション

禅画ではお馴染みの白隠と仙がい、さらに文人では池大雅に浦上玉堂、そして蕪村や文晁、木村蒹葭堂らの作品が並んでいます。そしてラストは再びドラッカーです。今度はおそらくは晩年の映像。自室に掛かる小さな絵画はもちろん水墨です。ドラッカーは2005年、クレアモントの自宅にて95歳で亡くなりました。

会場の随所にドラッカーの残した日本美術についてのテキストが掲示されています。水墨画や禅画にドラッカーは何を見出したのか。その辺を彼自身の言葉で追うのも興味深いところかもしれません。

前回、ドラッカーの日本美術コレクションが公開されたのは、今から遡ること相当に前。1986年に根津美術館や大阪市立美術館など国内4カ所で開催された「ドラッカー・コレクション水墨画名品展」ことです。

以来、約30年ぶりとなる久々の里帰り展です。初公開作も含まれます。そして何よりも知られざる画家に思わぬ魅惑的な名品が少なくない。初めて見知る画家が目白押しです。その意味でも発見の多い展覧会でもありました。

展示替えはありません。6月28日まで開催されています。

「ドラッカー・コレクション 珠玉の水墨画 『マネジメントの父』が愛した日本の美」 千葉市美術館@ccmav
会期:5月19日(火)~ 6月28日(日)
休館:6月1日(月)。
時間:10:00~18:00。金・土曜日は20時まで開館。
料金:一般1200(1000)円、大学生700(500)円、高校生以下無料。
 *「歴代館長が選ぶ所蔵名品展」(第2部)の観覧料を含む。
 *( )内は20名以上の団体料金。
住所:千葉市中央区中央3-10-8
交通:千葉都市モノレールよしかわ公園駅下車徒歩5分。京成千葉中央駅東口より徒歩約10分。JR千葉駅東口より徒歩約15分。JR千葉駅東口より京成バス(バスのりば7)より大学病院行または南矢作行にて「中央3丁目」下車徒歩2分。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )