「国宝 阿修羅展」 東京国立博物館

東京国立博物館・平成館(台東区上野公園13-9
「国宝 阿修羅展」
3/31-6/7



東京国立博物館で開催中の「国宝 阿修羅展」へ行ってきました。

まずは展覧会の構成です。計4章立てでした。

第1章「興福寺創建と中金堂鎮壇具」
 明治以来の発掘調査により出土した金、水晶、琥珀、及び器、貨幣など。
第2章「国宝 阿修羅とその世界」
 飛鳥時代の「阿弥陀三尊像及び厨子」、または「十大弟子」と「八部衆」(阿修羅像を含む。)
第3章「中金堂再建と仏像」
 鎌倉時代の「四天王像」、または運慶作の「釈迦如来頭部」など。
第4章「バーチャルリアリティ(VR)シアター」
 興福寺中金堂の再現映像、及び阿修羅のプロモーションビデオ。

それでは早速、各章ずつ、私的な見所や、印象深かった文物について挙げていきます。

第1章「興福寺創建と中金堂鎮壇具」
奈良、及び唐の時代(8世紀)の銀鋺や水晶、砂金、それに和同開珎などが紹介されています。何気ない出土品のよう見えながらも、47点中42点が国宝指定を受けていました。ただ最近の展覧会の傾向でもありますが、展示室がやや暗過ぎるかもしれません。バックライトを浴びて黄色や緑色に浮かび上がるガラス玉などは美しいものでしたが、そのどれもが小さいこともあって、混雑していればおそらく最前列でないと見えないのではないでしょうか。なお、展示品の8割は東博所蔵(47点中38点。他は興福寺蔵)です。平常展で見た記憶がなかったので意外でした。

第2章「国宝 阿修羅とその世界」
今回のハイライトであることは言うまでもありませんが、第2章は展示室の区割りを含め、大きく3つに分けることが出来ます。

(1)法隆寺蔵の「阿弥陀三尊像及び厨子」(飛鳥時代)、または「華原磬」(奈良時代)、「婆羅門立像」(安土桃山時代)



八部衆と十大弟子の前に、上記の三点の仏像、及び金鼓とも言われる銅製の彫刻が登場します。なおこの二点は、前座とするにはあまりにも勿体ないほどに貴重な作品です。龍が左右を駆け、天へとのぼる「華原磬」の力強さはもちろんのこと、端正なお顔立ちに、飛鳥ならではのエキゾチックでかつ神秘な笑みがこぼれる「阿弥陀三尊像」には強く惹かれました。宙に浮くかのような台座部分、そして精緻な後背なども必見ではないでしょうか。飛鳥仏好きにはたまらない仏様でした。

(2)「十大弟子」と「八部衆」(阿修羅を除く)

 

阿修羅以外の八部衆と、十大弟子の中で現存する6躯が、中央の大きな通路に向かいあう形で左右にズラリと勢揃いしています。もちろんガラスケースはありません。(東博平常展一階、仏像展示室の展示方法に良く似ています。)ライトは正面から強く当てられ、後ろには各々の影が長くのびていました。なお後姿は側面からのみ見ることが可能です。回り込むことは出来ません。なお八部衆では、あどけない表情の中にも純朴なる祈りをためた「五部浄」、そして睨みつける目と鋭い嘴に威圧感さえ覚える「迦楼羅」、また十大弟子では深い慈愛の表情をとりながら、見る者に語りかけるような仕草をとる「富楼那」が印象に残りました。ちなみにトルソーの「五部浄」は阿修羅の面持ちと良く似ています。まるで兄弟のようでした。

(3)阿修羅像



十大弟子、また八部衆の展示室より、上へとあがる細い通路を抜けると、台座にのる一躯の阿修羅像が、ちょうど見下ろす形で視界に入ってきます。高い位置にある正面のひな壇より下へと降り、阿修羅像を360度、ケース無しで鑑賞する展示のスタイルは、ちょうど薬師寺展の日光、月光菩薩像の際とほぼ同じでした。照明がやや特異です。当然ながら蛍光灯メインの興福寺宝物館とは異なり、暗がりの中から強いライトで照らし出すため、阿修羅本来の色である朱色が浮き上がっています。(また表面に残る金の輝きも際立っていました。)貴公子のような端正な表情の中に憂いと悲しみ、そして怒りをたたえた阿修羅のお顔は、まるで見る者の心を見透かす能面のように神秘的です。四方へ伸びる手はあたかも鳥の羽のように軽やかに舞い、その力の源を正面の合掌へと収斂させていました。他の八部衆とは異なる軽装の他、議論もあるものの手の合掌、そして軽装な身なりは、おおよそ戦いの神には見えません。なお立ち位置はやや高め、また停止柵はかなり手前にあるため、混雑していると相当遠目からの鑑賞となりそうです。

第3章「中金堂再建と仏像」

 

決して一点豪華主義ではない点が今回の展示の重要なところです。阿修羅の先にも見るべき仏像が登場します。時代を大きく超え、猛々しい様で邪鬼を踏みつける鎌倉時代の四天王の他、3メートル60センチにも及ぶ2躯の菩薩立像は、等身大の八部衆の大きさとも対比的なこともあってか、あたかも見る者を威嚇するかのようにして堂々と立ち並んでいました。なおその先に登場する運慶の「釈迦如来像仏頭部」、または同時代の「飛天」については、あまりにも素っ気ない展示だったせいか、それほど興味をもって見ることが出来ません。小さな作品も多いので、もう少し見せ方に配慮が欲しかったような気もしました。(一点一点をガラスのボックスに収めた方が良かったのではないでしょうか。)

第4章「バーチャルリアリティ(VR)シアター」
最後は大型スクリーンにて、興福寺中金堂、阿修羅像をVRで再現する「再建中金堂と阿修羅像」が上映されています。中金堂はもとかく、実際のお姿を拝んだ後に阿修羅の映像を見るのは蛇足です。よって展示を各章に沿って廻る前に、このコーナーを先に見ておくのも手かもしれません。(なお、会場外、平成館1階のVTRも同じ内容です。)

当日に会場内、しかも阿修羅像の前で偶然にお会いしたTakさんも書かれていましたが、私の出向いた日曜の夜、とりわけ18時以降は驚くほど空いていました。この日は最多で約30分から40分の待ち時間があったそうですが、既に館内にはそのような喧噪もなく、閉館45分前になると、メインの阿修羅の前でもせいぜい20名程度の方が集まっていたのに過ぎません。最前列を確保する手間などもなく、好きな位置より存分に楽しむことが出来ました。実際、会場の方によると会期中、一番空いているのが日曜夜間だそうです。明らかに狙い目です。(混雑状況。金曜夜間は意外と混みます。)

なお八部衆のうち「畢婆迦羅立像」と「鳩槃荼立像」、もしくは十大弟子の「羅ご羅立像」は、次の日曜日、19日までの公開です。ご注意下さい。

「もっと知りたい興福寺の仏たち/金子啓明/東京美術」

ちなみに上の図版は、当ブログのRECOMMEND欄にも記載した東京美術の「もっと知りたい興福寺の仏たち」よりお借りました。出品作の大半が網羅されている上、展覧会では掴み難い興福寺の全貌が良く分かります。今回は図録をパスして、こちらだけでじっくりと楽しみました。

強めのライティング他、会場内での映像展示など、演出過剰という声もあるやもしれませんが、仏像展示の一つの完成形としても見るべき展覧会ではなかったでしょうか。奈良で拝んだからいうのはあまり理由にならないかもしれません。

6月7日まで開催されています。

6/3追記)
会期最終週に入り混雑に拍車がかかっています。平日昼間でも入場まで最大120分前後の待ち時間が発生しているようです。(リアルタイムの混雑状況。左リンク先よりQRコードで携帯から見られます。)なお待ち時間は夕方以降、夜間にかけて解消されていきます。夜間時間帯でも40分前後の待ち時間、また阿修羅像の前では押し合いへし合いの混雑が予想されますが、少しでも人の少ない状況をお求めの方は夕方以降の観覧がおすすめです。
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「椿会展 2009」 資生堂ギャラリー

資生堂ギャラリー中央区銀座8-8-3 東京銀座資生堂ビル地下1階)
「椿会展 2009 - Trans-Figurative - 」
4/7-6/21



メンバーを変え、合計60年以上にも渡って継続している伝統のグループ展です。資生堂ギャラリーで開催中の「椿会展 2009」へ行ってきました。

今回の出品作家は以下の4名です。

伊庭靖子 塩田千春 祐成政徳 丸山直文

ギャラリー入口、地階フロアへと降りる階段部分から展示は始まっています。階段右手上方、まるで手すりのようにのびる黄緑色のチューブは、前年のアーティスト・ファイルにも出品のあった祐成政徳のオブジェ、「too young to do」です。途中、踊り場での実際のリンゴを用いた作品を経由して、あたかも来場者を導くかのようにして地下へと繋がっていました。実のところ、この方のオブジェの良さは分かりませんが、空間全体を器用に用いる同ギャラリーらしい構成だとは言えるのかもしれません。



メインフロアでは伊庭靖子と丸山直文が華麗に競演します。右からはお馴染みの陶器やクッションを描く伊庭の作品が計5点並び、左には半透明に色面に木立が揺らぐ丸山の新作が3点揃っていました。同じ綿布を支持体に、油彩とアクリルで異なった方向性を見る両者の作品は、その取り込まれた光の効果もあってか、思いの外に調和しています。居心地の良い空間が演出されていました。

最奥部には塩田千春の毛糸を用いた大掛かりなインスタレーションが待ち構えています。クモの巣のように張り巡らされた糸に絡まるミシンは、まるで悶える女性のように艶やかでかつ怪し気でした。今回のハイライトは紛れもなくこの作品に他なりません。

ロングランの展覧会です。6月21日まで開催されています。
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「東京芸大 SPRING BOARD 2009」 上野駅Breakステーションギャラリー

「東京芸大 SPRING BOARD 2009 Part.2」
JR上野駅Breakステーションギャラリー台東区上野7 上野駅正面玄関口ガレリア2階)
4/7-23



H20年度の東京芸大の卒業・修了生より、大学による「買い上げ賞」を受けた作家を紹介します。上野駅Breakで開催中の「東京芸大 SPRING BOARD 2009」へ行ってきました。

会場風景。ちょうど正面玄関口(改札外)よりエスカレーターであがった二階にあります。レストランフロアの横です。

先行するpart.1を見逃してしまったのは残念ですが、絵画からオブジェ、インスタレーション(風)まで、計8名の学部生、院生卒の作家の作品が展示されています。もちろん『展示』とは言えども、上野駅でもとりわけ影の当たらない例のスペースのことです。いつもの如く気の毒なほど目立っていませんが、それでもハッとさせられるような作品も登場していました。

 

今回の一推しは、和紙に鉛筆のみで稀な質感を追求する小島花菜子のドローイング、作品名「お湯」です。縦に長い、三面に分割された支持体には、ちょうどやかんから沸き立つ湯気の様子が軽やかなタッチで表されています。そっと手をかざしたくなるような温かみを感じる作品でした。

 

ちょうどこの展覧会を見た日に該当の新聞記事を発見しました。神保町をテーマに『音符絵』を手がける岩井絵理では、文字通り五線譜で明治大の旧記念館を描いた「本の街の音 - MEIJIDAIGAKU - 」が秀逸です。遠目からでは一般的な線描にも見えますが、近寄ると確かに音符で建物が象られています。なお彼女の描く一連の作品は今、神保町の書泉グランデ近く、靖国通り沿い南側にある「本と街の案内所」でも展示されているそうです。(15日まで)そちらも気になりました。



その他には、ぼろぼろの段ボールに白鶴のまるを豪快に描く小山真徳、また純然たる日本画で寂し気な気配を出した武田裕子なども印象に残りました。

展示フロアというより単なる通路、もしくは壁です。

上野駅で乗り換えの際にでも立ち寄っては如何でしょうか。23日まで開催されています。
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「幻惑の板橋・近世編」 板橋区立美術館

板橋区立美術館板橋区赤塚5-34-27
「開館30周年記念 館蔵品展 幻惑の板橋・近世編」
4/4-5/10



開館30周年を祝して館蔵の近世絵画を公開します。板橋区立美術館で開催中の「幻惑の板橋・近世編」を見てきました。



近世とのことで、メインは言うまでもなく板橋ご自慢の江戸絵画です。ガラスケース無し、停止線なしのお馴染み「お座敷コーナー」をはじめ、雪村、文晁、抱一から狩野派のマイナーな絵師までの軸画、屏風などが、これ見よがしと紹介されていました。昨年の館蔵品展の出品作といくつか重なるものもありましたが、今回は「マイベスト5」として以下、印象深かった作品を挙げてみます。

*なお作品名は「」が板橋オリジナルの現代タイトル、()が正式名です。

5.歌川国貞「気になる手紙」(美人図)



確かに何を読んでいるのかが『気になる』作品です。はしたなく口に封をくわえ、手紙を貪るようにして読む女性が描かれています。手紙はこのままぐちゃぐちゃに丸めて捨てられてしまうのでしょうか。紙を押さえる女性の指先には力が入っていました。

4.河鍋暁斎「釣れんのぅ」(大公望図)



太公望が釣れなくてイライラしています。そんなに水面を睨んでも魚は寄ってこないとアドバイスした方が良いのでしょうか。勢いのある墨線に暁斎らしさを感じました。

3.加藤信清「お経で書いたお坊さん」(五百羅漢図)

→拡大

板橋タイトルがネタバレ中です。全体では何やらごちゃごちゃした羅漢図にしか見えませんが、細部を拡大すると人物を象るのはお経の字句でした。(単眼鏡必須です。)

2.月岡芳年「アイテッ!明治の女は強いなぁ」(正月羽根突図)



バシン!という音まで聞こえてきそうなほど臨場感に溢れています。男性が羽子板で顎をぶん殴られていました。これは痛そうです。

1.鈴木其一「甘い甘い花の蜜」(蝶二芍薬図)



琳派ファンには見逃せない一枚でしょう。輪郭線を用いず、絵具の濃淡だけで美しい芍薬を描いています。蜜を吸う蝶の描写も名人芸的でした。なお、何やら怪し気な作品の板橋名は、上部に書かれた賛に由来しているのだそうです。

如何でしょうか。



また今展示では、少数ながらも新収蔵品が紹介されています。(上の作品はその一部、狩野古信の「林和靖鶴亀図」です。)それらも見所の一つです。



会期初日に行きましたが、熱心な江戸絵画ファンが集まったのでしょうか。まばらながらも館内には一点一点をじっくり見入る方の姿も見受けられました。

なお本展は開館30周年の記念館蔵品展の第一回目です。次回、5月16日よりは同じく「幻惑の板橋」と題した「近現代編」が開催されます。(5/16-6/28)こちらもまた期待出来そうです。

ちなみにご承知の通り、館内の撮影に関しては、



です。一切の制限はありません。遠慮なく、好きな作品をカメラへ収めてきました。

今回は珍しくWEB上にも出品リストが掲載されていませんでした。忘れてしまったのでしょうか。(紙のリストの配布もありません。)作品名は会場でメモをしておいた方が良さそうです。

*追記:pdfファイルでの出品リストが公式HP上にアップされました。また会場でも紙のリストが配布されたそうです。対応をありがとうございます。

太っ腹の入場無料の展覧会です。5月10日まで開催されています。
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「平泉 - みちのくの浄土 - 」 世田谷美術館

世田谷美術館世田谷区砧公園1-2
「平泉 - みちのくの浄土 - 」
3/14-4/19



中尊寺金色堂の諸仏(西北壇)を寺外で初めて公開する他、関連の仏像や資料などで「平泉の魅力」(ちらしより引用)を紹介します。世田谷美術館で開催中の「平泉 - みちのくの浄土」へ行ってきました。

一度の展示替え(現在は後期)を挟むものの、多数の国宝や重文を含む、全200点余りの仏教彫刻や文物が集う展覧会です。(出品リスト)展示は通常、常設などが開催される同館2階フロアにまで続いています。展示品は当時の仏像から現在の民族資料と、時代を問わず幅広く揃いますが、主観ながらも見所は以下の三点に集約されるような気もしました。



「中尊寺金色堂西北壇壇上諸仏全11体」
ハイライトはいきなり冒頭に登場します。史上初めて寺外で展示される金色堂内西北壇諸仏は、眩いばかりの金色の光を放って並んでいました。図版などで見るよりもはるかに小さな仏様であるというのが率直な印象です。全体としての仏像に過度な動きはなく、増長天と持国天でさえ控えめに拳を振り上げていました。



「福島・勝常寺の四天王立像、及び岩手・天台寺所蔵の聖観音菩薩立像」
金色堂諸仏に続く第1章では、東北地方各地に伝わる仏像が10数体紹介されています。ガラスケースなしの剥き出しでの展示です。まるで円空仏を思わせるような温かみのある造形が印象的な聖観音菩薩様には癒されました。



「紺紙金銀字一切経」
紺紙の一切経をこれほど多く見たことはありません。金と銀にて交互に書かれた端正な文字は美しく、各見出し部分の絵の保存状態も極めて良好でした。

世界遺産登録が見送られたニュースも記憶に新しい平泉界隈ですが、本展示はその再挑戦を期しての企画でもあったようです。(登録されていたらやはり記念展になっていたのでしょうか。)由来、また仏像についての解説などもなかなか丁寧に紹介されています。ジュニアガイドも良く出来ていました。

(会場外、撮影可能の「金色堂復元模型」。縮尺は5分の1でした。)

先週末に行きましたが、ちょうど砧公園とのお花見と重なっていたのかもしれません。館内は多くの人で賑わっていました。

19日まで開催されています。
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「樫木知子 展」 オオタファインアーツ

オオタファインアーツ中央区勝どき2-8-19 近富ビル4階B)
「樫木知子 展」
3/13-4/17



本年のVOCA奨励賞に輝いた樫木知子の近作を紹介します。オオタファインアーツで開催中の個展へ行ってきました。



見ているとすっと消えてしまいそうな事物の希薄感こそ大きな魅力です。細密な線で示された女性はまるで影絵のように虚ろで、それらが屋内外を問わず、場所の連続性の失われたシュールな空間を静かに泳いでいました。精緻な木目の床に転がる女性は一体何を戯れているのでしょうか。目覚め、そして微睡んでしまうような白昼夢の光景が浮かび上がってきます。木の柱で囲まれた家屋が一転して、いつの間にかコンクリートの室内や外の庭へと繋がっていく様子は、彼女らが居場所を常に変えて漂うかげろうのような存在だからなのかもしれません。そこには爽やかな風が吹き抜けるような心地良さがあると同時に、どこか寂し気な気配が漂っていました。

人物の手足の指にも要注目です。通常ではまず考えられない歪んだ形をしています。二人が指相撲でもするかのように向かい合って手を取り合う「影あそび」(最上段DM画像)には驚かされました。変形された指先はエロティックに絡み合い、互いの感情を確かめるかの如く執拗に求め合っています。組紐のようにがっちりと結ばれていました。



ベージュを基調とした滑らかで透明感のあるアクリルの色彩は、やはり表面をやすりで削ることに由来しているのかもしれません。あくまでもフラットに仕上げられた画肌には、爪楊枝の先ほどの線が軽やかに走っていました。解説冊子には松園や栖鳳を彷彿云々との記載がありましたが、確かにそうした面(とりわけ後者。)は見て取れるかもしれません。



まるで布が垂れるかのようにしてダランと立つ女性像には目を奪われました。この雅やかでかつ幽玄な様は、面相筆を駆使したフジタの表現を思わせるものがあります。

ズバリ一推しの展覧会です。17日の金曜日まで開催されています。

*関連エントリ
「受賞作家トークVol.2『樫木知子・高木こずえ』」(VOCA展のトークセッションの様子を一部まとめてあります。)
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「寺島みどり - 見えていた風景『空』 - 」 ニュートロン東京

ニュートロン東京港区南青山2-17-14
「寺島みどり - 見えていた風景『空』 - 」
3/25-4/12



ニュートロンのホワイトキューブに大輪の『花』が咲き誇ります。寺島みどりの絵画新作個展を見てきました。



まず目に飛び込んでくるのはともかく鮮やかな色彩の渦です。抜けるように深い青をはじめ、仄かな光を纏うかのように灯る黄緑、そして雪のように輝く白や反面の闇を見せる黒の色面が、一見、表現主義絵画を思わせる様で荒々しくぶつかっています。太いストロークは殆ど乱雑に行き来し、塗り合わされた色はリヒターを思わせるような幾層の膜を作り上げていました。元々、寺島は抽象を描いていたというのにも納得出来るかもしれません。



とは言え、今作には抽象を超えた何らかの景色が確かに開けています。楕円形に結ばれたストロークはあたかも植物の葉のように群れ、また前景に押し出されて来るそれは花々が咲き乱れているイメージが浮かんできました。青を基調に作品など、必ずしも具体的な植物を模しているわけではありませんが、大きなキャンバスの前に立つと、あたかも熱帯のジャングルを目の前にしているような気持ちにさせられます。緑の花が地上のものとしたら、青のそれは空に瞬く星々のイメージなのでしょうか。景色は様々に姿を変えていました。



ところで今回のニュートロンは二本立てです。階上フロアでは空間を絵画で『浸食』する、斎藤周のインスタレーションが展開されています。軽やかな黄色は寺島の色彩とも対比的で美しく感じられましたが、こちらは同ギャラリーのような完成された場ではなく、例えば学校跡などのような『出来上がっていない空間』で見た方がより面白いような気もしました。

日曜日もオープンしています。12日までの開催です。
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「青山悟 展」 ミヅマアートギャラリー

ミヅマアートギャラリー目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル2階)
「青山悟 - Glitter Pieces #1-22:連鎖/表裏 - 」
3/11-4/11



闇の中に浮かび上がる刺繍は、まるで映画を映し出すスクリーンでした。ミヅマアートギャラリーで開催中の青山悟の個展を見てきました。

暗室の中の刺繍という点では、横浜のZAIMの「THE ECHO」に近いかもしれません。表裏に刺繍の施された約20点の作品が、足元もおぼつかないほどに真っ暗闇のスペースにて、ランダムな方向をとりながらちょうど目の高さの位置に置かれています。微かな光に照らし出された一枚一枚の刺繍は、用いられた「メタリック糸」(画廊HPより引用)の効果もあるのか、映像のようにぽっかり浮かび上がっていました。モチーフは新聞の切れ端、もしくは報道写真風のポートレート、また室内や景色の写真です。精緻な刺繍自体にも魅力があるのは言うまでもありませんが、先行する紙媒体から刺繍、そしてそれを超えた映像的なイメージと、表現が何層にも変化していく様にも興味深いものが感じられました。

(展示風景。)

11日の土曜日まで開催されています。おすすめです。

*追記
次回展に登場する宮永愛子(宮永愛子展「はるかの眠る舟」4/22日~5/23)が、先だって開催されていた第3回資生堂アートエッグの大賞に輝きました。
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「アンドレ・ボーシャン」 ニューオータニ美術館

ニューオータニ美術館千代田区紀尾井町4-1
「アンドレ・ボーシャン - いのちの輝き - 」
1/31-4/12



世田谷、及びハーモ美術館(長野)、また館蔵品にてボーシャンの画業を概観します。ニューオータニ美術館で開催中の「アンドレ・ボーシャン - いのちの輝き - 」へ行ってきました。

作品は以下のテーマ別に紹介されています。ニューオータニらしく構成は至ってシンプルでした。*()内は出品数。

『風景』(5)、『花』(7)、『神話・聖書』(6)、『人物』(5)

初めの『風景』では、前景に果物や花、そして後景に山並みや街を描くお馴染みの構図の「フルーツのある風景」なども印象に残りましたが、それよりもセザンヌの連作でも有名なかの山を描いた「サント=ヴィクトワール山」には目を奪われるものがありました。後方には岩山がそそり立ち、裾野には積み木細工のように並ぶ家々がひしめき合って連なっています。画家の目を通せば同じ場所とは言えども景色は全く異なるものです。『不器用』だからこそ微笑ましくもあるボーシャンの魅力を見て取ることが出来ました。



いわゆる素朴派で神話主題の作品を描いたのは唯一、ボーシャンだけということをご存知でしょうか。ここでは横3メートル、縦3メートルにも及ぶ大作、「ドムレミのジャンヌ・ダルク」が圧巻でした。可愛らしい羊をはじめ、森の中で立ち並ぶ人々は、単なる農村の一コマを描いたようにも見えますが、少女ジャンヌは母の手の方向によってその運命を暗示させられています。まじまじと見入ってしまいました。



ボーシャンで一番有名なのはやはり花の絵です。彼は父が苗木栽培業を営んでいたこともあり、元来より草花に並々ならぬ関心を持っていましたが、それが花を単純な静物として捉えず、半ばポートレートのように仕立てて魂を吹き込んだことと何か関係があったのかもしれません。また構図から言えば不自然なほどに花びらの全てを開かせた上、満遍なく光を行き渡らせた点に、ボーシャンの生き物に対する温かい眼差しを感じました。

最後には人物肖像画が登場します。またボーシャンの絵を最初に購入した人物がコルビュジエとは知りませんでした。二人の感性の間には一体、どのような共通点があったのでしょうか。

点数(全23点)こそ望めませんが、私としては好きなボーシャンを一定数見られて満足しました。

次の日曜までの開催です。
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「まぼろしの薩摩切子 スライドレクチャー」 サントリー美術館

サントリー美術館港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウンガレリア3階)
「まぼろしの薩摩切子 スライドレクチャー」
3/28 20:00~20:30



「まぼろしの薩摩切子展」会期初日夜、六本木アートナイトに関連して行われたスライドレクチャーを聞いてきました。早速、以下にメモをまとめます。

[薩摩切子展開催について]

薩摩切子とは江戸末期、薩摩藩のみで制作された和製カットガラス。
最盛期は島津斉彬(1851-58)の藩主時代。
現在確認されている作品は僅か約150点。うち120点を紹介する。
新出は色被せ(色ガラス)9点、無色切子19点。
東京では27年ぶりの切子展である。

[薩摩切子略史]

『起』1846年 薩摩藩第10代藩主、島津斉興(斉彬の父)がガラス製造を開始。
 当時、薩摩藩は財政難で苦しんでいた。そのため産業勃興をはかった斉興は薩摩より全国に売り出す特産品の育成に乗り出す。それが薬だった。
 そして薬を入れるためのガラスの器も制作する→ガラス制作で先行していた江戸より職人を呼び寄せる=薩摩切子の始まり。

『承』1851年 島津斉彬が藩主に就任。
 切子を器、工芸品からアートの域へと高める。
 江戸の切子とは異なる、薩摩独自の色と形の完成に力を注いだ。
 海外への販売も積極的に行う。

『転』1958年 斉彬急逝。
 そもそも薩摩藩の財政難を解決するためにはじまった切子制作が、いつのまにか芸術と化し、むしろコストがかかって藩の財政をさらに悪化させていた。
 →音頭をとった斉彬の死とともに、切子制作も一気に斜陽へ。

『結』1963年 薩英戦争勃発。
 切子制作の工房をイギリス軍が砲撃、そして破壊。
 戦争終了後、藩の興業、反射炉や造船などのいわゆる「集成館事業」は次々と再開されたが、ガラス製造のみはついに復活することがなかった。

[展覧会の構成]

〔第1章:憧れのカットガラス〕
 前史。薩摩切子の誕生に影響を与えたガラス工芸品(イギリス、ボヘミア、江戸)を概観。

・長崎経由の輸入品
 外国のガラス工芸品は既にオランダ船を通して日本へ伝わっていた。
 斉興が30代の頃、長崎でイギリスのガラス品を購入、それをメガネに用いていたこともあった。=斉興所持のガラス品を展示。
 
・江戸と海外のガラス工芸と薩摩切子

(江戸切子) (薩摩切子)*共に蓋付三段重

 「江戸切子 蓋付三段重」:かごの目を編んだような模様
 →「蓋付三段重」及び、ボヘミアの「カットガラス 皿」と類似。
 イギリスの「カットガラス皿」
 →「紅色被皿」模様はイギリスの作に似ているが、薩摩は紅色と無色のガラスを二層に被せている。
 =相互に共通する図柄はいくつか存在している。

・江戸と薩摩の相違点
 江戸切子の発祥は民間。薩摩は藩の全体の事業。また江戸は色を発色することは可能だが、それを二層で表すことは出来なかった。
 一方、薩摩の『色被せ』は二層を実現。
 江戸の単一紋に対し、薩摩は何種類もの紋を組み合わせる。

・実用品としての切子
 「ホクトメートル」(比重を計る器具)
 シリンダーの底のカット模様=薩摩切子の前段階の可能性も。

〔第2章:薩摩切子の誕生、そして興隆〕
 美術品となった切子を辿る。

・紅色ガラスの開発

(紅色被鉢)

 銅赤ガラス=やや暗めの紅色が特徴
  デキャンターの作成:元々日本にはなかった形。西洋のガラスから模様だけでなく、形そのものも取り出した。
  脚付杯:同じく西洋の形。薩摩が日本へ取り入れた。
  =「紅色被脚付杯」は紅色ガラスとしては現存する唯一の薩摩脚付杯

・薩摩縞の導入=薩摩で伝統的な染色模様
  太い線と細い三本の線が並ぶ

(藍色被船形鉢)

 ・通称『船形三兄弟』:「藍色被船形鉢」、「船形鉢」、「筆洗」
  藍色被船形鉢を小さくした形が筆洗。同じ形を意匠を変えて使う。

〔第3章:名士たちの薩摩切子〕
 献上品としても重宝された薩摩切子。松平家や井伊家所蔵などの切子を俯瞰する。

・篤姫所用の「藍色栓付瓶」
 切子のひな道具も開発した。
・松平と井伊家=思想的に薩摩と対立関係にあった両家にも切子は伝わっている。
 松平家「紅色被鉢」
 井伊家「紫色被栓付瓶」
・岩崎家所用
 「藍色被三ツ組盃・盃台」:岩崎俊彌氏旧蔵→コーニング美術館所蔵。
 *コーニング美術館:ニューヨーク州。世界最大のガラス美術館。なお一度、ハリケーンに襲われ、所蔵の美術品が水浸しになったことがあった。本作も一部に傷がついている。

〔第4章:進化する薩摩切子〕
 薩摩切子の後半生。

(黄色小鉢)

・色彩の多様化:「黄色碗」(オリーブ色がかっている。)
 薄紫、黄色の多用。
・形のモダン化:「藍色被脚付杯」:斬新な四角形。

〔第5章:薩摩切子の行方〕
 薩英戦争を契機に、明治維新でほぼ制作が終了した薩摩切子。またその亜流を追う。

・薩摩系切子
 各地に流れた作家たちが切子制作を独自に継承。

(宮垣秀次郎 紅色被鉢)

 宮垣秀次郎作「薩摩系切子 紅色被鉢」(明治14年):宮垣は薩摩の元職人と考えられている。
  一見、薩摩切子と同等だが、細部の意匠が異なっている。
 →のち、薩摩系切子はカットにぶれが生じるなど質が低下。制作は廃れていく。

以上です。

作品に重複する名称が多く、図像も少ないので分かり難くなってしまいましたが、薩摩切子史、もしくは展示の流れなどを大まかに掴んでいただくことは出来るのではないでしょうか。なお実際のレクチャーではスライドを用い、より視覚的に理解し易く解説されていたことを付け加えておきます。

ところで薩摩切子は佐治敬三氏がサントリー美術館を設立する際、一番初めに蒐集したコレクションであったそうです。同美術館では27年前の切子展以来、再度現地鹿児島への調査を行うなど、研究のさらなる発展にも勤しんでいました。今回はその成果発表としても見るべき点の多い展覧会なのかもしれません。

なお5月10日の午前(10:30~)と午後(15:30~)にも上と同内容のスライドレクチャーが予定されています。料金は入館料のみ、また事前申し込み不要のイベントです。関心のある方は参加されては如何でしょうか。

この美術館が切子のために作られたかのような錯覚さえ受けるほど完成度の高い展覧会です。色、形だけでなく、照明より輝くガラスの影にも注視して下さい。

5月17日まで開催されています。
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「小西真奈 - Portraits」 ARATANIURANO

ARATANIURANO中央区新富2-2-5 新富二丁目ビル3階)
「小西真奈 - Portraits」
2/28-4/4(会期終了)



風景画から一気にポートレートの世界が開けました。少女や赤ん坊をモデルとした油彩、計20点弱で構成されています。小西真奈の新作個展へ行ってきました。

ともかく印象深いのは、モデルから発せられる、あたかも見る者の心を見透かすような強い視線です。赤ん坊はくりくりとした目を見開きながら、どこか太々しくこちらを見やり、一方での少女は、まるで糾弾するかのようにして挑戦的な眼差しを向けていました。上のDM作品ではどうでしょうか。木に寄り添い、やや怯えた表情ながらも、やはり怪訝な様にてこちらを伺っています。風景画では虚無感の漂う、言い換えれば風景のアクセントに過ぎなかった人物が、意思をたたえ、凄みすらたたえた表現へと変化していました。エッジの効いた油彩、または蛍光色も用いられた激しい明暗のコントラストなどは同様でしたが、対象を変えることで、こうも絵の印象が異なるとは予想もしません。その変化にいささか戸惑いすら覚えさせられました。

次は一体どのような展開を示すのでしょうか。既に展示は終了しています。
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「101TOKYO Contemporary Art Fair」 アキバ・スクエア

アキバ・スクエア(千代田区外神田4-14-1 秋葉原UDXビル内)
「101TOKYO Contemporary Art Fair」
4/2-5



ダイビルの「Young Artists Japan」に続き、隣接のUDXで開催中の「101TOKYO Contemporary Art Fair」へ行ってきました。

「101TOKYO GALLERY」(7つのギャラリーの共同展示です。ただし各ギャラリー個別の出展ブースはありません。)

(会場内風景。学校を使った昨年ほどのボリューム感はありませんでした。)

101アートフェアは今年で二年目の開催にあたりますが、中学校跡地の一室を使って濃密な空間を演出していた昨年に対し、今年は秋葉原の清潔感のあるフロアで比較的ゆとりある構成に仕上がっていました。冒頭、小柳やSCAI、それにシュウゴアーツなどが共同で出品したブースは、天井も高いこのスペースでなければ成り立たないインスタレーションではなかったでしょうか。小山登美夫ギャラリーでの個展でも印象深かった二体の彫像が一際目立っていました。

 「AFRONOVA」

101と言うと海外ギャラリーのブースに興味深いものがありますが、今回もスケールダウンこそしたものの、上海やニューヨークなど、7件の画廊が出展しています。ヨハネスブルクの画廊、AFRONOVAでのパッチワーク風の作品が印象に残りました。

(CASHIではサガキケイタと興梠優護などを紹介。)

国内ではお馴染みのモモやギャラリー・ショウなども登場していましたが、注目すべきは今年の8月、神楽坂に新たにオープンするeitoeikoです。相川勝のオブジェ、またサウンドインスタレーション『らしき』作品には思わずニヤリとさせられるものがありました。

(一見、普通のCDが並んでいるようにも見えますが、何とその全てが作家手製のジャケットです。)

(かの有名なフルトヴェングラーの第九を発見。もちろんこれも手製。隣にある試聴機では、この第九を何と作家がアカペラで歌うという仰天のパフォーマンスが吹き込まれています。)

101は有楽町のアートフェアにも負けないほど積極的にトークショーなどを各種開催(スケジュール)しています。率直なところ、全体の出展数もダウン、また昨年心に残ったYUKARI ARTなどの有力なギャラリーがアートフェアの方に出品していたりと、早くも二年目にしてイベントとしての存在意義が問われている気がしないでもありませんが、何とか継続して、本家では手の届かない『尖った』アートを紹介していただきたいものです。



本日17時にて終了します。

*会場内の撮影については各ブースの方に許可をいただきました。
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「Young Artists Japan 2009」 デジタルハリウッド大学

デジタルハリウッド大学千代田区外神田1-18-13 秋葉原ダイビル7階)
「Young Artists Japan 2009」
4/4-5



タグボートのセレクト作家を含む約100名の新進アーティスト(チラシより引用)が、自作を展示、販売します。秋葉原駅前のダイビル内、デジタルハリウッド大学で開催中の「Young Artists Japan 2009」へ行ってきました。

(あおひーブース。入口右手最奥部のDエリアです。クリックで拡大します。)

何と言っても本イベントへ出かけた最大の理由は、ブログでお馴染みのあおひーさんが作品を出されるからです。横幅2メートル弱のブース壁面に『モノクロームのしらべ』が4点並びます。やはり一目見て惹かれるのは左より二枚目、「ドレミファソラ」でしょうか。写真をブース全面へ埋め尽くすように並べず、あえて余白を持って勝負していたところに、また彼のオリジナリティーが出ていたのかもしれません。

(Aブース。流麻二果らの既知のアーティストも登場していました。)

(大作のペインティングも販売されています。)

さて会場はダイビル7階のオフィスフロア風のスペースです。意外にも中は広く、アートフェアさながらに各出展ブースが所狭しと並んでいました。おすすめは入口すぐ向かって左、ブースAのコーナーです。『新進』と言えども、ここにはVOCA出展作家など実力派が勢揃いしています。作品の魅力もまた他より一段と引き立っているようにも思えました。

(透明感のある色彩に惹かれました。)

(名画をケーキばりにデコレートします。)

(対になった人形のオブジェ。その素材は一体?答えはクリックして下さい。)

(立体版、合戦絵巻です。)

(豚のミニチュアが行進します。素材は何と陶でした。)

絵画、オブジェはもちろん、映像からインスタレーション風の作品までが集うイベントです。作家各氏も常駐し、椅子に座りながらライブペイントの如く自作に手を加えている方もおられました。また『新進』ということで、作品価格も数千円単位から揃っています。宝石の原石はここに埋もれているのかもしれません。

(手前が会場のダイビル。奥は101の会場があるUDX。道路を挟んで隣り合っています。)

ダイビルはJRの電気街口を出て、北へ向かった一番手前にあるビルです。隣接のUDXでは101アートフェア(別途記事にします。)も開催中ですが、賑わいの面に関しては決してそれに劣らぬ様を見せていました。

明日の夕方5時まで開催されています。入場は無料です。
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「アートフェア東京2009」 東京国際フォーラム/東京ビルTOKIA

東京国際フォーラム(千代田区丸の内3-5-1)/東京ビルTOKIA(千代田区丸の内2-7-3
「アートフェア東京2009」
4/3-5



東京国際フォーラム、及び隣接の東京ビルTOKIAで開催中の国内最大のアートの見本市、「アートフェア東京2009」へ行ってきました。


フォーラム内、第一会場全景。初日、夜の参戦でしたが、人出はそれほどではありませんでした。


第一会場内。国内外を問わず、古美術からコンテンポラリーまでの画廊がひしめき合います。


まず目が向くのはやはり既知の画廊です。レントゲンでは内海聖史のドットが出迎えてくれます。


こちらは毎年ミニインスタレーション個展化しているミヅマのブース。山口藍のウォークイン型のオブジェが異彩を放ちます。


中はこのようになっていました。

そう長時間歩き回るわけでもないので、各画廊の作品を細かに見ることは出来ませんでしたが、それでも一目で惹かれる、また印象に残った作品はいくつかあります。以下に少しだけ挙げてみました。


泰明画廊(C09) 北川麻衣子:細密なタッチでルネサンスの名画を見るかのような物語を紡いでいます。

イムラアートギャラリー(F08) 安富洋貴:黒を背景に流れ出す蛇口の水を描いたペン画です。


いつき美術画廊(C06) 岩田壮平:先日の損保ジャパンにも展示がありました。日本画らしからぬ鮮烈な色彩が見る者を圧倒します。


GALLERY DELAIVE(F20) ロッカクアヤコ:無邪気な少女が遊び、また駆けるメルヘンチックな世界が壁面に壮大なスケールで描かれます。ライブペインティングも実施中でした。


ギャラリー戸村(B09) 高松和樹:版画から手彩色による絵具までを駆使して、白を基調とした木の年輪のような独特な面を作り上げます。作品の売れ行きも好調のようでした。


続いて第二会場へ移動。フォーラムを東京駅方向に出て、横断歩道を渡った真向かいのビルがTOKIAです。


こちらは一本のみの通路を挟んで左右にブースが並びます。ちなみに奥は行き止まりでした。


鎌倉県美の記憶がよみがえりました。MA2ギャラリーでの伊庭靖子です。ちなみに同画廊では2010年に彼女の個展を開催するそうです。

第二会場では無人島の風間サチコ、そして作家のお名前を忘れてしまいましたがhpgrpギャラリーのブース、それにYUKARI ARTの大畑伸太郎などが印象に残りました。

今回のアートフェアは過去最大規模の出展数とのことでしたが、率直なところ会場を一巡する限りにおいてはむしろ例年よりも活気に乏しいような気がしました。また第一、第二の二会場制も悪くはありませんが、どうしても第二会場の方が数に少なく見劣りしてしまう面は否めません。



なお国際フォーラム内のエキジビジョン・スペース(フォーラム1階、アートショップ内)にて、昨日よりレントゲンでも個展の始まった長塚秀人の展示が行われています。こちらも合わせてお見逃しなきようご注意下さい。



この土日の人出は如何なものでしょうか。5日の日曜、17時まで開催されています。

*会場内の撮影については各画廊の許可をいただいています。
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「大庭大介 - The Light Field 光の場 」 SCAI

SCAI THE BATHHOUSE台東区谷中6-1-23
「大庭大介 - The Light Field 光の場 」
3/6-4/4



谷中に『光の森』が出現しました。絵画にて 「光のイリュージョン」 (画廊HPより引用)を生み出します。SCAIで開催中の大庭大介の新作インスタレーション個展へ行ってきました。

導入にそびえるのは『高山』です。巨大な刷毛を用いたような極太のストロークが画面を行き来し、それが稜線のような面を象って全体としての山のイメージを作り上げていきます。外からの自然光を受け止めた山々は、まさに朝陽を浴びて輝く雪山でした。絵具によって出来た光の帯は、抽象を超えた何らかの景色を確実に切り出していたようです。

奥の展示室で山の中へと入り込みます。偏光パール系(画廊HPより)の絵具はストロークから粒へと変化し、それが点描画風の『光の森』を立ち上げました。色は見る者の立ち位置や照明などによって七色にも変化し、それが光を纏って静かに点滅し出します。また点描と言っても、決してスーラのように空間の全てを埋め尽くすわけではありません。余白によって表された木の幹や枝を見れば明らかでしょう。そこには水墨画の伝統を連想させる一種の『引き』が、効果的な陰影をもたらしていました。

何枚か写真を撮らせていただきましたが、残念ながら大庭の繊細な光のカーテンは私のデジカメに収めきることが出来ませんでした。光の移ろいは全身で受け止める他なさそうです。

展示は本日で終了します。
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