かぶれの世界(新)

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私的・後期高齢化する農業

2008-05-05 12:07:15 | 日記・エッセイ・コラム

先月施行された高齢者の医療制度がひどく評判が悪く山口県補選で自民党候補は大敗した。高齢者の怒りが国政レベルの選挙結果を左右したのは初めてのことだと思う。私は小泉首相の郵政選挙頃から田舎で直接話した老人達の意識変化を感じていた。それは戦後の繁栄をもたらした政治システム全体に対する信頼が劣化しているというようなものだった。

今まで何度か言及したようにTVメディアは老齢者イコール弱者、弱者イコール正義という方程式で問題を単純化して扇情的に報じ、ポピュリズム選挙になってしまったように私は感じている。一方で、日本の高齢者が1500兆円の個人資産の約6割近くを保有する世界一の金持ち世代なのである。個々の人達の困窮を取り上げると同時に全体像を見失いなわないで欲しい。

後継者を失う農家

それに関して日本の農業は高齢化という域を過ぎて老衰化に向っており、私はより深刻に感じる。私事だが祖先は山内一豊が土佐に攻入った時伊予の国に逃れて土着して百姓になったと伝えられており、私は19代目に当たるという。

戦後の農地解放後、父は母と祖母に農業を任せ市役所に勤めて一生を終わり、私は技術者として家を出て都会で働いてきた。私の子供は東京育ちで、田舎で農業をやる気はない。私自身実家の母の老後をケアする為に年45ヶ月は田舎暮しをするようになったが、農業をやれるかというと全く自信が無いしその気も無い。ずっと前から田んぼを維持する為米作りを他人に依頼したり、貸したりしている。

近所のうちは殆どが典型的な農家で、田畑で農作業しているのは私よりも一回り年上の所謂‘後期高齢者’かその直前の人達ばかりで、同居している子供や孫は外に勤めに出て現金収入を得ている。このお年より達が動けなくなると多くの農家は農業の担い手と知恵を失ってしまう。

米作や野菜つくりに比べ急な山坂で厳しい作業が求められる柑橘類の農園業を営む義兄は70歳になれば体力的に無理というのを聞いたことがある。ミカン産地の愛媛県南部の西予市でフィリピンの若い農民に長く培ってきたミカン作りのノウハウを伝承する老農民の姿が先日報じられた。

老齢化が進む日本農業

今月1日の日経レストラン誌は「老衰化に向う日本農業」と題してこのような状況を伝えている。2005年の調査によると農業従事者の4割が70歳以上、60歳以上では7割になるという。30代以下は5%未満、50歳未満でも13%にしかならないという。私の田舎はこの縮図というより、もっと老齢化が進んでいるはずだ。

記事によると跡継ぎがいないため農家数がピーク値の600万戸から2005年には285万個に減少し、人口構成からみて今後も更に農家が減っていくのは間違いない。その結果、耕作地放棄が増えて2005年には全耕地面積の8%、38haに達したという。実際、山間部の段々畑が耕作されず籔に覆われているのを実家の近くでも良く見かける。

私が田舎で見聞きしてきただけでも政府の農業政策は一貫性に欠け迷走してきた。政府は中国産加工食品の安全性や食糧高騰という事態に対応すると思われる政策を打ち出している。農家の大規模化と組織化によって資本と経営を分離し、次世代の農業を担う意欲と能力のある事業者を認定し、そこに集中的・重点的に施策を実施することで、農業を再活性化する狙いという。

ノンポリ農民の心理

だがそう簡単にはいかないという識者の見方に私も賛成だ。米作に偏重した食管制度の残滓が残っており、農家は政府を信用していない。一方で農地に対する農民の執着は依然として極めて強い。正直なところ15歳で家を出た私でさえ、実家にある先祖伝来の山林田畑とお墓を引き継いでくれる人を何とか見つけたいと常々思っている。

多くの農家の純粋に農業で得られる収入は貨幣経済の水準で言えば極めて少ないと推測される。農業ではなく子供や孫が外に働きに出て農業以外で得る収入によって家計が運営されている。農業は儲ける為ではなく続けること自体が目的だったり、家計の補助であったりしているようだ。

一方で前にも紹介したが、7090年代に公共事業のため農地を売り大金を手に入れた農民も沢山いる。フローは微々たるものだが、実は凄いストックの保有者という農民も都市郊外だけでなく地方にも意外と多い。農地を売る時はバブル時代の巨額の補償金神話を未だに忘れられないという。

つまり多くの農家には農業を改革していこうという強い動機が無い。勿論、先進的な考えで農業を活性化し、新しいビジネスモデルをつくり経営として成立させようという少数派の農民もいる。しかし、上記の謂わば‘ノンポリ’農民が圧倒的多数を占めているのが現実である。

自らの事を考えると歯切れの良い理屈で結論を出すのが正直なところとても難しい。私自身が抵抗勢力とまではいわなくとも、「農業を何とかする」為の積極派にはなれそうもない。■

コメント (2)
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