かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録08-09冬

2009-03-01 11:19:02 | 本と雑誌

今回は是非読書を勧めたい書物が沢山ある。

最初に勧めたいのは「1940年体制」(野口悠紀雄)は今日の官僚の問題を、その起源から解きほぐし官僚体質のDNAともいうべき本質に迫ったもので、書かれて十数年経った今でも私には新鮮な内容だ。公務員制度改革を考える上で必読の書だろう。

この官主導の政策決定メカニズムを、いかに官邸主導に変えていったか、村山政権の住専問題から小泉政権の郵政民営化まで描いたのが、「官邸主導」(清水真人)の力作だ。田中直毅の「05体制」が予測(多分期待)したシステマティックで持続性のある意思決定プロセスでなく、首相の意志という属人性の強いものだったことが読み取れる。

これぞ「悲劇の書」とでも言えそうなのが、「新帝国主義論」(武者陵司)だ。ITバブル破裂後2003年から続いた予想外に好調な世界経済の構造を分析して解説したもので、洞察力に富む書だ。何故悲劇かというと、冒頭でクルーグマン教授の説を否定し、今日の世界同時不況を予見せず、本来高く評価されてもいい本書が台無しになった。それでも、この仮説は一読に値する。

次に「偉そうな本」とでも言いたいのが、「人間通」(谷沢永一)である。著者は人間の心の底にある欲望、本能などについて損得勘定を隠すこともせず、本音でズバリ言い切る。無信仰な現実主義者の言で、人の心に土足で入ってくる感じがある。だが、否定できない力強さがある。

(2.5+)ウェブ進化論 梅田望夫 2006 ちくま新書 私には単なるテクノロジー論ではなく、検索エンジンで有名なグーグルの創立の精神や会社のポジショニングの解説が、比較文化論のように感じ、新しい世代の企業の新鮮な息吹を感じる。

(3.0+)1940年体制 野口悠紀雄 1995 東洋経済新報 現在の官僚制度は1940年に戦争遂行の為の戦時経済体制がそのまま存続されたもので、本質的に生産優先主義と競争否定を基本理念とし、高度成長を支える基本要因となったが、その役割を終えた後も90年代から続く停滞の基本原因となっていると指摘したもの。今日の問題を極めて的確に予測している。

2.5官邸主導 清水真人 2005 日本経済新聞 村山政権から小泉政権までの政策決定プロセスの変化を克明に追跡した佳作。政官業の利権を優先する官僚主導から、党と諮問委の「双頭の鷲」の政策決定を経て、小泉首相の「マニフェスト→小選挙区における選挙民の選択→諮問委員会」による政策決定サイクルという官邸主導までの変遷を描いている。

(2.0+)小泉官邸秘録 飯島勲 2006 日本経済新聞 小泉首相を支える秘書団の活動を政局の節目で描いたもの。最も印象深いのは著者の危機予測とその管理能力だ。いささか自己弁護的に感じる部分もあるが、小泉内閣の台所事情が分かって中々面白い。

2.0+)当世政治談議 宮澤弘 2003 出版社を通さない地方私大の講義集。官僚出身の元知事の手堅さでよく纏まった政治学入門書。私には基本に戻って考える参考書になる。このような個人として立派な官僚が、結果的に国より組織に忠誠を示すかと思うと複雑な気持ちになる。

(1.5)転機の海外援助 緒方貞子編 2005 NHK出版 NHKの番組と日本の国際協力50周年の記念シンポジウムを編集したもので、日本の国際協力事業の変遷と考え方、現状の問題が纏まりは無いもののぼんやりと見えてくる。日本の地道な「人づくり」アプローチがアジアで成果を上げたと言う。中国の反発が日本の国際協力熱を冷ましたと個人的に思う。

(2.0)国連幻想 古森義久 2004 産経新聞 全く機能しない安保理、非効率な経済社会理の現実を紹介し、存在感の無い日本官僚などの歴史と現状を挙げ、日本の国連中心主義を非現実的な幻想と指摘したもの。どこに行っても日本官僚の志の低さが露呈され悲しい限りだ。

2.5+新帝国主義論 武者陵司 2007 東洋経済 2000年以降の世界一体化経済をローマ帝国や英国に喩えて「地球帝国」が成立したと説く。帝国の基本構造は、米国の経常赤字が世界の流動性を高め、辺境の低コスト労働の超過利潤の取り込み、辺境に再投資される「帝国循環」であり、好調な世界経済を支えている。地球帝国に基づく好況は10年や20年は続く。サブプライムに端を発した世界金融不安は予想していないが、読み応えのある仮説である。

(2.0-)オイル・ジレンマ 山下真一 2007 日本経済新聞 2004年から始まった原油価格高騰の背景を追ったもの。過剰流動性が実需に基づかない商品市場の投機化を招いた経緯、石油メジャーや国営石油の動向、代替エネルギーの将来等が米国主体で網羅されている。代替エネルギー動向を扱った後半は、個別情報が羅列されただけで散漫、やや纏まりに欠くのが惜しい。

(1.0)日本国倒産への13階段 2004 総合法令 前半は森永卓郎氏張りの無茶苦茶な米国陰謀説を展開、後半は中身が薄くなる。が、米国景気後退時にゼロ金利から円高になると今日を予測する部分もある。

2.0脱フリーター社会 橘木俊詔 2004 東洋経済新報 フリーター現象を分析し、今日の非正規社員の失業問題を予測、学生を議論に参加させ問題解決のため政策提言したもの。まだメディアが「今時の若者」的な捉え方しか出来なかった時に、問題提起したところに価値がある書。

(1.5+)セリエAに挑んだ男たち パオロ・ロッシ 2005 朝日新聞 イタリアの一般のサッカーファンが見た5人の日本人サッカー選手のセリエA挑戦物語。イタリアサッカー界がどうあろうと、日本人選手しか興味の無い報道をする日本メディアの悲しい特徴が、ここでも指摘されている。

(2.5+)人間通 谷沢永一 1995 新潮選書 人生の教訓を善悪ではなく利害(但し長い目で見た利害)でずばり言い切る。長い目で見た利害だ。シュールがつくほど現実主義だが、本音を隠さない感じがして妙に清々しい。田辺聖子氏は帯書きに「目からウロコが落ちた啓発の書」とべた褒めだが、私には少々刺激が強く心のどこかに微かな痛みを感じる。

(2.0)梅原健の授業 仏教 2002 朝日新聞 著者が小中学生向けに授業した内容を纏めたものというが、無学な私には中々高度な内容だ。信仰心の全くない私には、宗教とは何か、仏教と他の宗教との違いを理解するための取っ掛かりになった。

番外として「ウェブ進化論」(梅田望夫)を技術の書ではなく、日米比較文化論として読まれることをお勧めしたい。大袈裟かもしれないが、何故オバマ大統領が誕生したか、如何にしてITがメインストリームで活用されているか、等々、最善のものを追求する国の底流のようなものを感じる。■

コメント (2)
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