オバマ大統領就任以来もう直ぐ2ヶ月になろうとする。就任演説では厳しい現状認識を元に選挙戦で描いた楽観的な見方を抑制し、イデオロギーや党派に捉われず米国民に夫々の責任を果たすよう求めた。言葉の端々に、彼が現実主義者であることが明確に示されたと私は思った。
しかし、大統領就任直後に矢継ぎ早に打ち出した幹細胞研究支援やグアンタナモ捕虜収容所の撤去、今後予想される医療制度改革などの政策は、民主党の中でも特にリベラルであると見られていた上院議員時代の投票行動を反映したものであった。選挙で封印したリベラリストの性格をいよいよ発揮し始めたのか?
米国社会主義化の疑念
最優先で取り組んだ経済政策は必ずしも市場から高く評価されておらず、金融機関の1Q好業績予想で持ち直したものの、当初ウォール街は暴落で応えた。一方で、メガバンクの救済による実質国有化、自動車メーカーの繋ぎ資金支援から先々の国有化が憶測され、一部米国民に共産主義国の政策を連想させている。
又、支援金融機関幹部の巨額報酬への非難や、富裕層への増税を導入して所得格差を無くしていこうという政策が、結果平等より機会平等を重視し自由と独立心に高い価値を見出すアメリカ人にとって、オバマは米国を社会主義国にするのかという論評が多く見られるようになった。現実に政策によって業績が大きく変化する医療制度改革は、製薬会社などを神経質にさせている。
ウォール街の厳しい評価
就任後まだ100日経過しておらず確たる成果もないこの時点で、早くも厳しい評価が散見され始めた。特にウォール街にとっては100日も待てるはずも無く、株価が下がったという事態そのものが、即、厳しい評価になったという訳だ。皮肉にも、彼らのオバマ期待も過剰でバブル気味だった。
逆説的に聞こえるかもしれないが、ウォール街の方が国民より短期的な見方しか出来ず、次々に出て来る指標の変化に一喜一憂している。ただ、一時は良いニュースに反応せず、悪い材料ばかりを追いかける印象だったが、先週のシティやバンカメの好業績予測で一気に株価が上昇したのは「変化の兆しの兆し」かもしれない。
高い支持率は続く
最新の世論調査では国民の支持率は依然高く(64%)、不支持(17%)を大きく上回っている。気になるとすれば、上記の厳しい評価を反映して経済政策の評価はやや低い(56%)ことだ(Pew Research Center)。このギャップが広がると、やがて支持率が低下し、国民の高い支持を背景にした思い切った政策が打てなくなることだが、今はまだその時期ではない。
米国が欧州並の社会民主主義国になるとは思えない。年頭教書でも明らかなように、オバマは建国の精神を継承しつつ、現実路線を取ろうとしている。彼の判断は政策が機能するかどうかで、景気悪化が底を打ち回復の兆しが見える為なら何でもやるというのは本音のように感じる。
試練がオバマ政権を性格づける
9.11がブッシュ政権の性格を決定的に決めた。それまで、チェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官の政権内ポジションと役割が明確ではなかった。大統領選では「寛容な保守」がキャッチフレーズだったはずだが、9.11は全てをシャッフルし、優先順位を再設定し以降変わらなかった。
米国は世界大恐慌以来の大変な事態にあるが、オバマ政権の性格を決定付ける試練はまだ来ていないと私は思う。オバマ政権はクリントン・ブッシュ両政権が招いた非常事態に立ち向かっているが、いわば想定内の問題だ。彼自身が新たな想定外の試練に直面して初めて、政権を特徴付けるに適切な言葉、リベラルか現実主義者か、或いは社会主義者か、が付けられるだろう。
現状の厳しい評価は、伝統的価値観の所有者達が使う常套句であって、景気刺激策が機能し始めれば自然と消えていく性格のものではないかと私は予測する。決定的な試練はこの後に来て、リーダーとしての適性も試されるはずだ。9.11のような破壊的なものでないことを祈りたい。■