8月5日夕刊の1面の見出しが、朝日新聞は「最低賃金15円引き上げ」、日本経済新聞は「経団連『超党派議論を』」であり、両紙の編集姿勢の違いを典型的に示すものだった。何を基準にして報道するのか、朝日の編集方針は私にはかなりの違和感があった。
日経は1面トップの「超党派論議」の記事の隣に「最低賃金15円上げ」と詳しく伝えたが、朝日は8面に経団連と民主党が懇談会をやったというベタ記事を載せただけで、「超党派論議」は無視したに等しい扱いであった。こりゃ、ほっとけないな、と私は思った。
日経の記事によれば、経団連は民主党との会議で消費税を含む税・財政・社会保障の一体改革を超党派で進めるよう要望し、民主党は税と社会保障の一体改革を今秋から検討する考えを示したという。だが朝日は内閣が国家の最重要課題と見做す問題をニュース価値がないと判断した。
その後この件に関して両紙を注目してきたが、何らの補足記事や関連記事も見かけなかった。経団連が要望した超党派議論は、先の参院選で菅首相が取り上げ、その後もブレたと非難されながらも継続して提案してきたもので、両者の認識は一致していたと報じられた。
だが、参院選後の報道は選挙結果を反映した政局に目が行き、超党派議論の機運は必ずしも高まっていない。小沢派の反発を始め肝心の民主党内が一枚岩ではない。このような状況下で朝日新聞の黙殺は、税・財政・社会保障を合わせて超党派議論をする環境が醸成されるのを妨害する、恣意的な編集方針だった可能性すら感じる。
日本のおかれた状況(高齢化と若者の失業・経済停滞・財政危機)を考えると、税・財政・社会保障がどうあるべきか国民的コンセンサスを早急に纏めて改革を進めて行くしかない、残された時間はそれ程ないと私は信じるが、不思議なことに朝日は見解を示すことなく各論のみ報じている。
朝日がこの懇談会を無視したのは、重要課題とは考えないからか、重要だが経団連の提案だからか、最早菅政権は死に体で政局以外は報じるに値しないと考えた結果なのか。自民・民主の政権政党が一体国をどうしたいのか判らないという批評を度々見てきたが、今回の朝日の姿勢は影響力あるトップのメディアとして、国のあるべき姿についてアイデアが無い事を示した。
そういう点で、日経に比べ朝日の紙面には酷く違和感があった。最低賃金見直しはヘッドラインになるべき重要ニュースだが、一方で日本全体がどうあるべきかの視点が欠かせない。先ず総論であるべき姿を説き、それを各論で見直しながら総論を仕上げ実施していくべきで、その過程でメディアを通じて民意が反映されていくべきだろう。
朝日のような総論無しの各論のみを報じる姿勢が受け入れられていくと、自分の都合ばかりを主張する未熟な民主主義が蔓延し、この国の未来に不安を感じざるを得ない。我国は既にその道を辿っていると私は思うが、メインストリーム・メディアがこの程度で我が国はあるべき道に向うことが出来るだろうか。■