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番底の懸念が強まってきたとの観測記事をこのところ見かける。理由は米国経済回復の減速、欧州金融不安の先行き不透明感、中国の金融規制の影響が挙げている。それに併せてバブル崩壊後の日本の停滞が再びクローズアップされてきた。彼等は日本のようにはならないと口癖のようにいう。しかし日本も酷いが、欧米も決して楽観できる状況にない。
欧米の停滞は日本化すること
ギリシャ財政赤字に端を発した欧州金融不安の払拭を狙ったストレステストの結果が発表されて1週間がたった。だが、この資産査定は透明性と厳格性に欠けており、その後も銀行間取引金利の上昇が続いている。再テストの声も出始めていると昨日の日本経済新聞は伝えた。
ストレステストが大甘になるのは大方の専門家が心配した、ある意味予想通りの結果だったといってよい。欧州はその程度しかやらないだろうと私も予測した。だが、銀行が問題処理を先送りすれば、結局は2000年前後の日本のように資金不足で経済が停滞することになると、アナリストの指摘を同じ記事は伝えている。
一方、厳格なストレステストをやった米国に問題ないかと言えばそうでもない。量的緩和のお陰で銀行に資金はあるが融資に回らず、安全な国債に向かう状況が続いている。又、消費者物価上昇が1%を割りデフレ懸念が出てきているという。記事は、このような欧米の経済停滞が長引く気配を、「日本化する」と恐れる論調であった。
ですが、本家日本は迷走中
このところ国内では「失われた20年」という言葉が定着した。だが小泉首相以降の政権が迷走し短期間で交代、メディアは政策の議論より政局ばかり追いかけ、その影響を受けて支持率が低下すると、今度は政権がそれにリアクトするという悪循環が続き、遂に10年が20年になった。
同紙は今日の朝刊で「細かい善政」は適当でいい、優先すべきは「日本経済を危機に陥れない政治」と署名入りの記事で求めている。最早一刻も待てないといった危機的雰囲気だが、ページをめくると政局を無批判に論じている。これでは政治の劣化を促進しているとしか思えない、せめて信念より選挙という政治家の選別が出来る材料を提供すべきだ。
じゃ、欧米がそれ程立派か
欧米は政治のレベルまで「日本化」するだろうか。私はそうなる可能性も無いとは言えないと思う。もう少しスマートにやるかもしれないが。個別に見ると米国に比べ欧州の対応はいかにも甘い。「日本は10年かかった、それより早い」といわれるが、日本の失敗例を見ているのにこの程度の対応しか取れないのかという失望感がある。有り体に言うと世界中が失望した。
消費の低迷など経済回復力が弱まり一向に失業率が改善しない米国では、オバマ大統領が支持を失いつつあり、世界経済の牽引車の先行き不透明感が強まっている。米国で危機を脱した銀行だが、リーマンショック前の100倍の準備預金が連銀に積まれているという。お金がまるで回っていないのだ。
それでも、見下げられる日本
欧米のメディアからはそんな心配するより、日本はもっと自分のことを心配したらどうか、という声が聞こえそうだ。GDPの2倍もの借金があるのだから当然だろう。雑誌Time(8/2)はもっと具体的に仙台市の苦境を取材して、日本の不透明な展望(A Clouded Outlook)を伝えている。
彼らの論調は最底辺にいる人達の悲惨な状態を取り上げると同時に、何が大元の問題か大局を失わず本質に迫っており、容易に反論できない鋭さがある。記事によれば、自治体の長や企業の管理者は次に何が起こるか、何をすべきか想像力に欠けリーダーシップが無いという。
物づくりに頼らざるを得ない現実
全国平均より高い失業率に悩む仙台市の対策として、トヨタ工場誘致を狙う市の方針を酷評している。それは日本の他地区から職を奪うことであり、日本全体として雇用を増やす政策ではない。柔軟性の無い労働慣行や高賃金問題を解決するような創造性が感じられない政策であると。
現実には4-6月企業決算では、自動車や電機などの物づくり産業の新興国向け輸出が日本経済回復の原動力になった(日本経済新聞8/1)のだから、仙台市を創造性がないとは言い切れない。物づくり産業は徹底的に合理化し、今後更に海外の消費地生産に向うのは避けられない。
物づくりの辿る道は分かっていても頼らざるを得ない。それが、結局のところ日本経済が停滞し雇用が回復しない原因になっている。海外から見ると、それがやるべきことをやってない、理解できないということなのだろう。最早、誰もが満足する解決策などない。そこに気がつくまで本格的回復は先送りだ。■