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捨てたもんじゃない日本

2012-06-24 17:24:21 | 社会・経済

本沈没(小松左京氏のSF小説)と70年代の石油危機が、昨今の日本と世界情勢を関係付けて引用されるのをこのところ良く見かける。急速に進行する少子高齢化と急増する社会保障費で雪だるま式に増える世界最大の財政赤字に対し、権力闘争に明け暮れる政治が続いている。この先日本はどうなるか悲観的な見方が拡がり「日本沈没」を連想させているのだろう。

消費税政局で揺れる日本では欧州危機の余波で停滞感が立ちこめる世界経済と長引く円高環境下で、日本企業の海外シフトが静かだが着実に進んでいる。日本最大の輸出産業である自動車メーカーは生産の大半を海外に移す計画が次々と発表されている。今朝の日本経済新聞はホンダが2017年にも輸出拠点をアメリカに移すと報じ、トヨタ・日産の国内生産縮小と海外移転も既に伝えられている。

同紙は賃金の高い製造業の雇用からサービス業にシフトし賃金が低下して行く構造的な問題を伝えている。この賃金が上がらないトレンドが構造的な問題との指摘は深刻だ。その先にあるのは国内市場の低迷であり、頼りのサービス産業もユニクロやコンビニなどが低迷する国内需要を見限って海外シフトが続いている。

消費増税と平行して社会保障との一体改革の行方、規制改革・TPP/FTAなどの懸案事項を含めて経済の成長戦略はどうあるべきか、一向に先が見えない。こんな状況だから、欧州危機を云々する安住財務相に対し、メチャクチャな財政赤字の日本に「お前なんかに言われたくない」という声が聞こえてきた。

今にも日本は沈没しそうだけど光が無いわけではない。少なくとも只今現在日本国債は高く評価されている(先はどうなるか心配だが)。心配することばかりだけど、何でもかんでも心配したり反対したりする訳ではない。物事には陰もあれば光もある。

石油危機を克服して強くなったDNAは生きている

大震災だからこそ見つけた光と同様、政治の混乱に隠れて見えなくなっている光がある。遡れば70年代の日本は石油危機を乗り越えて強くなった。それは韓国に於けるサムソンのような一企業の成功話ではなく、日本産業の多くの分野が関るトータルとしての底力だった。具体例として最近注目した二つのニュースを紹介したい。

一つは中国が独占するレアアースの輸出規制をしたため、窮地に陥った日本の先端産業が「脱レアアース」技術を着々と開発している事だ。レアアースは自動車から殆どの電子機器まで広範に利用されている材料で、中国は尖閣列島を巡る領土論争の武器に利用して正に日本の首根っこを掴む積りで輸出規制した。私は当時こんな乱暴なことも中国ならありうる(中国とロシアはそういう国だと)、しかし困ったことになったと思った。

しかし日本の先端企業はしぶとく生き残っている。70年代の石油危機に迅速に対応し、危機が収束した時には実質100%石油輸入に依存していた日本が世界最先端に立っていたことを思い出した。今回も国難に対し政府と民間が一致して対応した。まだ、日本にはそういう強さが残っている。最近の日本経済の長期低落傾向を見ていた私には若干ホッとするものがあった。日本だから出来たことだと。

逆説的に言うともしかしたら中国のレアアース輸出規制は、危機に素早く対応した日本にはチャンスになるのかもしれない。ただ今回の脱レアアース技術は最終製品ではなく韓国をはじめ世界の先端企業に安く提供され利用されるだけで終るかもしれない。米国のIT企業のように身勝手な位のビジネスモデルを作って、長期的な観点から新技術を有効に活用して欲しい。

二つ目は世界の金融市場、特にアジアで日本の金融機関の存在感が増していることだ。欧州危機に見舞われた欧州金融機関は不良債権が増えて青息吐息で、欧州への輸出が減って経済減速に見舞われた新興国から資金を引き上げている。このアジア諸国の資金需要の穴を埋めているのが邦銀という構図である。

欧州危機の裏返しは明らかに絶好のチャンスだがリスクも大きい。その中でアジアの15月貿易金融は欧州系銀行が撤退して行く中、間髪をいれず邦銀が穴埋めしシェアが倍増したと今月始め報じられた。異例とも言えるこの速さの底流には、日本企業の資金需要がなく邦銀の余剰資金が行き先を求めていたいことが指摘されている。それが何だ、と私は思う。

「決められない政治」と揶揄される日本の政治と同様、欧米企業に比べ日本企業の意思決定の遅さがしばしば非難されてきた。だが、この素早い意思決定は目を見張るものがある。政治のせいだと他人に押し付けられない、原因はともあれ経営責任は結果に基づく自己責任の世界で下された意思決定なのだ。

私はこれらの動きはもっと広い意味で捉えている。5月の日本は過去最大の貿易赤字を記録した。軟調な世界経済による輸出不振と原発の代替エネルギー輸入の増加が主な原因だ。しかし投資所得が貿易赤字をカバーして経常収支は黒字だった。それが避けられない通過する道だとしたら、日本企業は非常にうまくやれる柔軟性が残っていることを示した。

この二つのニュースは、国としての老化が進む日本にも、まだ若い時代にあった危機に立ち向かうDNAが残っていると感じさせた。捨てたもんじゃない。「政治は二流、経済は一流」は今も生きているかもしれない。もっと言うと、その政治は民意の表れ、経済は自己責任の合成だ。■

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