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周回遅れの読書録10夏

2010-09-01 11:41:26 | 本と雑誌

まだ終わった訳ではないが今年の夏、私の体感温度は過去最高だった。というのも、以前はまだ会社勤めで1日の殆どは冷房が効いたオフィスで過ごしたからだ。今夏の暑さでは中々読書に集中できず、市内の中央図書館に行って涼をとりながら藤沢周平の短編集を読んだ。中でも中間管理職クラスの武士の生様を描いたものが面白く飽きなかった。

そんな中で私が最もお勧めするのは、まだ異常に暑くなる前に読んだ半藤一利氏の「昭和史」だ。日本が世界第2次大戦に突き進んで行ったいくつかの重要な分岐点が何だったか、そこで決定的な役割を負ったのは誰だったか、細部を描きながらも著者の大局を外さない洞察力で検証する佳作。予め個々の事件の知識があると理解が進むだろう。

次に「世界経済危機 日本の罪と罰」(野口悠紀夫)の読書を勧めたい。リーマンショック直後に書かれたものだが、この混乱が極まった時点で問題の底流と本質を捉え、日本もプレーヤー(投資家)としてバブルに参画している、単純に被害者面をするなと警告する書である。こういう複眼的な見方が重要と教えてくれる。

一方で決して名著ではないが、大局とは対極的に細部を見た時、現場で何が起こっているか当事者が書いた本を紹介する。「サブプライムを売った男の告白」は無責任な貸付がエスカレートしていく様を元住宅ローン貸付業者が描いたもの。「ブラックリスト 終らない追跡」は我国の消費者ローンの回収(取立て)の実態を個別の例を挙げて紹介したもの。何れも綺麗事では済まない現場の生々しさが伝わってくる。

2.0なぜ美人ばかりが得をするか Nエトコフ 2000 草思社 著者は脳科学、生物学、心理学、人類学などの博識を駆使して、人間が種を保存する上で最適の姿形が美人だと説く。所謂美人は左より右対称性があり生殖能力が高い、生後数ヶ月の赤子が本能的に見分けるという。男性についても同様の調査分析が紹介されており、顔形や身長が統計的に成功を左右するという。

(2.5+)昭和史 半藤一利 2004 平凡社 満州事変から太平洋戦争敗戦まで、歴史のターニングポイントがどこだったか著者の鋭い洞察力で簡明に解説したもの。日本独特の下からの突き上げでズルズルと国の運命を決める重大決定がなされていく、新聞に煽られた国民の熱狂が支えていく姿が生々しい。2.26事件からガダルカナル・インパール作戦まで個々には結構沢山読んだが、それを関連付けて意味を半藤流に理解すると新鮮だった。例えば開明的といわれた海軍も実は政府中枢軍人は違ったと、私は初めて知った。

(2.0+対北朝鮮・中国機密ファイル 欧陽善 2007 文藝春秋 中国の新世代官僚が書いた(といわれる)主に中国外交から見た北朝鮮の姿。ソ連崩壊後も生き残った唯一の共産主義国の権力維持構造、中国にとっても侮り難く且つ御し難い北朝鮮を描いたもの。TV等で知る断片的な情報から得た北朝鮮のイメージを具体的に肉付けしてくれ、興味深い。

(2.5)世界経済危機 日本の罪と罰 野口悠紀夫 2008 ダイヤモンド社 サブプライム問題に端を発した世界経済危機はアメリカの過剰消費が主犯だが、間接に資金を供給し続けた日本にも責任があり、日本の輸出に頼る構造的な問題が深刻な影響を受けると予測したもの。リーマンショック直後に目先の金融技術に目を奪われず、大局観を失うことなく的確に問題を指摘した書。

2.0+団塊の世代「黄金の十年」が始まる 堺屋太一 2005 文藝春秋 書名と違って団塊世代の歴史と特徴の解説が殆どを占めている。さすが団塊の世代の名付け親で、その優れた分析は読むに値する。しかし、何故「黄金の十年」が来るのか説得力に欠ける。厳しくいえば起こったことは理路整然と見事に説明できても、それで必ずしも未来が見えるわけではないという一例。

2.5サブプライムを売った男の告白 Rビトナー 2008 ダイヤモンド社 サブプライムのバブル崩壊直前まで現場に立ち会った貸付業者の報告。ローンの借り手、貸し手、ブローカー、投資家、投資銀行、格付け機関、住宅公社など「住宅ローン業界の食物連鎖」が何をしたか生々しく描かれている。書物としては稚拙な出来栄えだが、新聞テレビでは得られない実態が描かれている。

2.0+ブラックリスト 終らない追跡 ムギ 2009 ソフトバンククリエイティブ社 元消費者金融の取立屋が実話に基づいて書いた貸金回収物語。B級グルメになぞらえるなら、差し詰めC級NFというところ。消費者金融の貸付の1割が延滞するという。人生が一人一人違うように、その回収の仕方は夫々に個性があり、著者が状況に応じて巧みに対応して目的を果たす様が面白い読物。

2.0壊れる日本人 柳田邦男 2005 新潮社 テレビ・パソコン・ケータイ・ゲーム等のIT革命が日本人を壊したと実例をあげて解説。具体的例を深く掘り下げての主張が果たして特異点なのか日本全体のトレンドなのか不明、新技術に対する嫌悪感が気になる。新技術を否定するより、何故使いこなせないのか分析し、使いこなす為にはどうすべきかというアプローチを私は望む。

1.5スーチー女史は善人か 2008 高山正之 新潮社 週刊新潮の超辛口コラム「変見自在」からの抜粋と帯書きにある。徹底した朝日・中国嫌いを貫き小気味いい。だが中に根拠無しの決め付けと感じる内容があり、気に入らないものは全てこき下ろしているようで、信頼を失わせている。

*.*184 part3 村上春樹 2010 新潮社 主人公の天吾と青豆が遂に再会し、1Q84から1984の世界に戻るまでを描いたもの。期待はずれのような終わり方であった。オーム真理教を髣髴するリトルピープルがいなくなった訳ではなく、こちらの世界に戻って終わりとは行かない、続編を予想させるように感じたからかもしれない。何故大ベストセラーになったのか理解できなかった。

(*.*)玄鳥 藤沢周平 1991 文藝春秋 5つの短編集 主人公はどれも剣の使い手で、私は著者の立ち回りの描写が好きだ。

*.*消えた女 藤沢周平 1983 新潮文庫 解説では著者初の捕り物帖、ハードボイルド・タッチで描かれているというが、レイモンド・チャンドラーほどクールじゃない。

*.*闇の歯車 藤沢周平 2005 講談社文庫 5人組の押し込み強盗が失敗するまでの夫々の人間模様を描いたもの。フィクションなのに人間の生なましさを感じる。

*.*闇の穴 藤沢周平 1985 新潮文庫 下級武士や市井の主人公の短編時代小説7編が収められている。私が好きなのは、かつての上司で代官手代に辱められた妻の仇討を打つ下級武士の愚直さを描いた「木綿解れ」だ。

(*.*静かな木 藤沢周平 1998 新潮社 短編3編。いたずらで愛犬を鍋にして食わされた若侍が仲直りするまでを劇的でなく日常的に描いている「岡安家の犬」がいい。著者の作品としては珍しく、善人だけが登場するのが好い。

9月半ばまでこの異常な暑さが続き、本格的な秋の気候は10月頃という長期天気予報をみた。早く読書の秋になって欲しいものだ。■

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