かぶれの世界(新)

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潮目の変化と新種のハゲタカ

2008-05-07 23:13:41 | 社会・経済

ーナンキ連銀議長が3月末にベア・スターンズ救済を決断して以来、潮の目が変わったと先取りして書いたが、予感が外れてなかったことが徐々に明らかになってきた。昨日のダウ平均13,000ドルを回復、連休明けの東証も日経平均14,000円台を回復して終えた。

次々と発表される経済指標は必ずしも必ずしも良くないのに何故か、と思われる方も多いはずだ。直近の雇用指数は減少し製造及び非製造指数は悪化したが予測していた最悪値を上回っていた。この数字を見て、米国の景気は停滞しているが深刻な景気後退にはならない、と市場は判断した。今の市場は余程酷くない限り何でも良いニュースにしたいのかもしれないが。

株式市場はもっと楽観的に反応しているとStreet.comCurzio氏は書いている。足元の経済は雇用の悪化と住宅価格下落が続いているが、市場のセンチメントは楽観的になりつつある。楽天証券のアナリスト氏も先月28日、米大手金融機関が1-3月決算を乗り切り過度の懸念が後退したと解説している。

それでは誰が回復の原動力になっているのだろうか。連銀及び政府の素早い金融・財政政策が功を奏したといえるが、ビジネスの現場で誰が具体的に何をしてどう変化しているのか。それは意外にもウォール街でも好意的に見られてないハゲタカファンドが貢献していると日経ビジネスはビジネスウィークの興味ある記事(5/5)を紹介している。

ゲタカファンドといえば経営難に陥った会社をただ同然の安値で買い取り、バラバラにして売り飛ばし巨万の利益を上げる、強欲で倫理観のかけらも無いと見られている。特に日本では忌み嫌われている。その冷酷無比なビジネススタイルは、ジャングルの中で死体や死に掛けた獣の肉を食い漁るハゲタカに喩えられ忌み嫌われる。

今、米国の経済のジャングルにはハゲタカの餌が溢れている。上記記事によれば、米国でデフォールトに陥った会社価値は2007年の42億ドルから、今年はたった3ヶ月で89億ドル相当に達したという。そして新種のハゲタカが現れサブプライム関連の不良を買い漁っているという。

従来のハゲタカと異なり、潤沢な資金を使い多様な投資テクニックを駆使して市場への影響力を増しているという。その強力な資金力で、大恐慌以来最悪とも言える金融危機から米経済が息を吹き返す原動力となる可能性もあると伝えている。

強欲で嫌われ者のハゲタカファンドは慈善事業ではない口に苦い劇薬だが、経済の端々に血を通わせ再生させている。「引き取り手のない住宅ローンや買収資金用ローン債権を大量に買い、硬直状態の市場に貴重な資金を送り込んでいる。又、巨額の債務で首が回らない会社の株を買い、資金繰りに窮する企業に信用枠を供与している」という。

ハゲタカファンドは4000億ドル規模の資金を保有し、無視できないまでに儲けの可能性が膨らみ、リーマン・ブラザーズ、ブラックロック、カーライル・グループなどの業界エリート企業も引き付けられ、「ウォール街の主役」になるかもしれないと一部で見られている。

この記事を読んで私はシリコンバレーにハイテック・ベンチャーが現れた時のことを思い出した。ジーンズにTシャツの若者がガレージで創業し、彼らが開発したハイテック商品が瞬く間に世界を席巻した。新種のハゲタカもウォール街の高層ビルではなく、まだマジソン街沿い小さな事務所で仕事をしているという。

だが、甘く見てはいけない。従来のハゲタカは死掛けている獲物を狙ったが、新種のハゲタカは潤沢な資金でまだ元気な獲物にも襲い掛かって餌にするという。彼らは2006年初めには既に住宅市場が軟調だと気がつき、2007年初めには住宅市場が崩壊寸前だと判断し賭けに出たという。自分を信じ、成功すべくして成功した。この身勝手で溢れ出る若いエネルギーの凄さは羨ましくもある。■

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私的・後期高齢化する農業

2008-05-05 12:07:15 | 日記・エッセイ・コラム

先月施行された高齢者の医療制度がひどく評判が悪く山口県補選で自民党候補は大敗した。高齢者の怒りが国政レベルの選挙結果を左右したのは初めてのことだと思う。私は小泉首相の郵政選挙頃から田舎で直接話した老人達の意識変化を感じていた。それは戦後の繁栄をもたらした政治システム全体に対する信頼が劣化しているというようなものだった。

今まで何度か言及したようにTVメディアは老齢者イコール弱者、弱者イコール正義という方程式で問題を単純化して扇情的に報じ、ポピュリズム選挙になってしまったように私は感じている。一方で、日本の高齢者が1500兆円の個人資産の約6割近くを保有する世界一の金持ち世代なのである。個々の人達の困窮を取り上げると同時に全体像を見失いなわないで欲しい。

後継者を失う農家

それに関して日本の農業は高齢化という域を過ぎて老衰化に向っており、私はより深刻に感じる。私事だが祖先は山内一豊が土佐に攻入った時伊予の国に逃れて土着して百姓になったと伝えられており、私は19代目に当たるという。

戦後の農地解放後、父は母と祖母に農業を任せ市役所に勤めて一生を終わり、私は技術者として家を出て都会で働いてきた。私の子供は東京育ちで、田舎で農業をやる気はない。私自身実家の母の老後をケアする為に年45ヶ月は田舎暮しをするようになったが、農業をやれるかというと全く自信が無いしその気も無い。ずっと前から田んぼを維持する為米作りを他人に依頼したり、貸したりしている。

近所のうちは殆どが典型的な農家で、田畑で農作業しているのは私よりも一回り年上の所謂‘後期高齢者’かその直前の人達ばかりで、同居している子供や孫は外に勤めに出て現金収入を得ている。このお年より達が動けなくなると多くの農家は農業の担い手と知恵を失ってしまう。

米作や野菜つくりに比べ急な山坂で厳しい作業が求められる柑橘類の農園業を営む義兄は70歳になれば体力的に無理というのを聞いたことがある。ミカン産地の愛媛県南部の西予市でフィリピンの若い農民に長く培ってきたミカン作りのノウハウを伝承する老農民の姿が先日報じられた。

老齢化が進む日本農業

今月1日の日経レストラン誌は「老衰化に向う日本農業」と題してこのような状況を伝えている。2005年の調査によると農業従事者の4割が70歳以上、60歳以上では7割になるという。30代以下は5%未満、50歳未満でも13%にしかならないという。私の田舎はこの縮図というより、もっと老齢化が進んでいるはずだ。

記事によると跡継ぎがいないため農家数がピーク値の600万戸から2005年には285万個に減少し、人口構成からみて今後も更に農家が減っていくのは間違いない。その結果、耕作地放棄が増えて2005年には全耕地面積の8%、38haに達したという。実際、山間部の段々畑が耕作されず籔に覆われているのを実家の近くでも良く見かける。

私が田舎で見聞きしてきただけでも政府の農業政策は一貫性に欠け迷走してきた。政府は中国産加工食品の安全性や食糧高騰という事態に対応すると思われる政策を打ち出している。農家の大規模化と組織化によって資本と経営を分離し、次世代の農業を担う意欲と能力のある事業者を認定し、そこに集中的・重点的に施策を実施することで、農業を再活性化する狙いという。

ノンポリ農民の心理

だがそう簡単にはいかないという識者の見方に私も賛成だ。米作に偏重した食管制度の残滓が残っており、農家は政府を信用していない。一方で農地に対する農民の執着は依然として極めて強い。正直なところ15歳で家を出た私でさえ、実家にある先祖伝来の山林田畑とお墓を引き継いでくれる人を何とか見つけたいと常々思っている。

多くの農家の純粋に農業で得られる収入は貨幣経済の水準で言えば極めて少ないと推測される。農業ではなく子供や孫が外に働きに出て農業以外で得る収入によって家計が運営されている。農業は儲ける為ではなく続けること自体が目的だったり、家計の補助であったりしているようだ。

一方で前にも紹介したが、7090年代に公共事業のため農地を売り大金を手に入れた農民も沢山いる。フローは微々たるものだが、実は凄いストックの保有者という農民も都市郊外だけでなく地方にも意外と多い。農地を売る時はバブル時代の巨額の補償金神話を未だに忘れられないという。

つまり多くの農家には農業を改革していこうという強い動機が無い。勿論、先進的な考えで農業を活性化し、新しいビジネスモデルをつくり経営として成立させようという少数派の農民もいる。しかし、上記の謂わば‘ノンポリ’農民が圧倒的多数を占めているのが現実である。

自らの事を考えると歯切れの良い理屈で結論を出すのが正直なところとても難しい。私自身が抵抗勢力とまではいわなくとも、「農業を何とかする」為の積極派にはなれそうもない。■

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中国人留学生の心理

2008-05-01 21:30:28 | 国際・政治

京五輪の聖火リレーに対するチベット族などの人権団体の抗議行動に対抗して、中国人留学生集団のやや強圧的とも思える支援活動が世界中に広がり、世界にある種の驚きを与えた。

中国人留学生のデモ参加者の多さと熱狂は何処から来たのか気になっていた。

何故気になったかというと、彼らは欧米の民主主義国に住み自由な生活を実体験しているからだ。検閲で一方的な情報に曝され、反政府的な意見を言って逮捕される中国内の若者とは違う、もっと多様な価値観を持っているはずだという思い込みが私にはあった。

その意味ではアジアカップや教科書問題を機に起こった反日デモの暴走とは違うと思っていた。ところが、今回カナダ等の聖火リレーを実施しない国を含め世界中に聖火リレー支援活動が広がり、その熱狂振りは周りの人達に恐怖心を感じさせるほどだったという。

実際、熱狂が行き過ぎて韓国では中国人留学生に暴行を受けて怪我人が出る事態に発展し、政府当局は中国大使を呼び抗議したと報じられている。どうもアジアカップの反日デモと同種の燃え上る「怒り」のようなものを感じないではいられない。

製デモの側面があった。これら一連の中国人留学生の支援活動は、中国政府当局が計画してマニュアルを作り資金援助したものと報じられている。留学生や華僑を動員してバスでデモ地まで運搬したとも。中国政府がナショナリズムを利用して西欧世論に反撃しているのは間違いないようだ。

だが政府が旗を振っても留学生が冷めていたらこうはならない。彼ら自身が世界の「冷たい仕打ち」と受け止め怒っているから起きたことだ。89年の天安門事件で共産党独裁体制を嫌って中国から出て東京で働く銀行員も聖火妨害を見て、突然愛国心に目覚めたと産経新聞は伝えている。

29日のNYタイムズも突然変異的に愛国主義者になった中国人留学生の例を報じていた。どうも聖火リレーに関る事件のどこかで中国人の心の中にある愛国心のスイッチが入ったようだ。

米国の大学で中国人留学生とチベット支持学生の対立の間に入り仲裁しようとした中国人女子学生は、ネットで「裏切り者」と攻撃され実家の住所や身分証明書が貼り出されたという。フランスで聖火を守ろうとした車椅子の中国人女性ランナーは、英雄と持ち上げられた後、「カルフール不買運動を支持しない」と言った為「仏のスパイ」と中傷され、攻撃の的になったという。

こういう卑劣な振る舞いが続発するのを見聞きするとちょっと気持ちが悪くなる。敵と味方を峻別し中間を認めず徹底的に攻撃する、これが中国人なのか。やることが何か極端なのだ。文化大革命の時もそうだったという。

だが、中国人の立場に立ってみると見方も変わる。

米列国に搾取され立ち上がった「義和団の乱」(1900年)を扱った映画「北京の55日」で描かれた中国人を私は思い出す。散々酷い目に逢わせておきながら立ち上がった中国人を野蛮人のように欧米人の目で見て描いている。日本を含め今回の世界のメディアの報道はそれほど変わっていないように感じる。

中国人の立場にたって考えれば、彼らは中国政府に満足しているわけではないが、西欧の偏執的とも思える「チベット愛」にフラストレーションを感じ、CNNBBCの‘偏見に満ちた’不公平な報道は許せない。世界から袋叩きにあっている祖国の為に、今立ち上がったという印象がある。

西欧諸国がやったことを3040年遅れてやっているだけなのに、やれ地球温暖化だ、公害を世界にばら撒いていると非難される。彼らが未だに共産主義に洗脳されていると思っている西欧の無理解に怒り、一方で中国の現実に対する劣等感と今迄の努力を評価されない悔しさがある。

中国人は長らく抵抗運動を許されておらず慣れていない為、一気に過激に走っているのだろうという好意的な見方もある(NYタイムズ)。抗議の仕方を知らないと。前出の大使館が使っているマニュアルにも「法を守れ、暴力を振るうな、相手を侮辱するな」といった類のことが書かれていたという。

合するとこの聖火リレー騒動の損得はどう考えればいいのだろうか。中国の人権問題や嫌なところを聖火の行くところ行くところで、世界中に周知させた史上最悪のマーケティングという評価がある。スポーツと政治を切り離せという主張は最早現実的でなく議論すらされなくなった。

中国に好意を持つ国や人が増えたとは思えない。だが、聖火リレー騒動は中国の存在感を圧倒的に高めることに成功したと感じる。フランス大統領は中国民衆のフランス製品不買運動の高まりに直面して、みっともないほどアタフタして初めの威勢のよさはどこかに消えていった。

米国でも中国とかかわりのある政治やビジネスなどの世界では穏便な発言に自己抑制している傾向が見られるという。今回の中国人留学生の大量動員デモは「欧米の偏った世論」に反撃する非常に効果的な「民主的」手段として使えると、中国政府は自信を深めたと思う。

中国の持つ経済力はタテマエの理想論を実利が押しのけ、力強い影響力を持つようになった。鄧小平が道を付けた「政治は共産主義、経済は資本主義」の大成功と同じように、一党独裁国でも民主主義の言論の自由の良いとこ取りをしてうまく機能させるコツをものにしたように感じる。

だが、それは「両刃の剣」になる危険な手段でもある。それほど甘くはない。留学生が帰国してこの「民主的な手段」を国内で使用する可能性は高い。その途端に逮捕されて刑務所送りになれば何が起こるだろうか。それとも何が起こるか予想して自己抑制(欺瞞)するだろうか。■

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