一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第83期名人戦第1局・2日目(後編)

2025-04-11 12:59:57 | 男性棋戦
なんと、新橋駅前で、大盤解説会をやっていた!! 暗がりの中、大盤がくっきり浮かんでいた。
「新橋解説会」は、このブログの古参読者にはおなじみであろう。これは大内延介九段プロデュース(たぶん)。大内一門が新橋駅前で、名人戦、竜王戦七番勝負の無料解説会をするというものである。むかしは解説・大内九段、聞き手・藤森奈津子女流四段、駒操作・藤森哲也五段のトリオだった。大内九段が亡きあとは、解説・鈴木大介九段、駒操作・梶浦宏孝七段などが務めていた。
当時は家の仕事が終わると新橋まで足を運び(これが自営業の強みだ)、大内九段や鈴木九段の軽快な解説を拝聴したものだ。途中で「次の一手」の出題もあり、これで無料とはうれしい限りで、毎回楽しみだった。
しかしそれからコロナ禍になり、大盤解説会は中止。コロナ禍は明けたが、今度は私がバイトに行くことになり、時間の自由が利かなくなった。しかもABEMAで無料配信が始まったのも大きく、私はそちらを見るようになってしまった。そして新橋解説会が復活したのかも分からないまま、きょうに至った次第である。
だけど、解説会は復活していたのだ。ネットではほとんど告知しないから、全然知らなかった。
もう時刻は午後8時半をとうに過ぎているから、ふつうは閉会している。しかし名人戦で終局が遅かったのと、閉会するにしても、藤井聡太名人が永瀬玉を詰ます段階に入っていたので、打ち切るに打ち切れない状況だったと思う。
もちろん、我が京浜東北線が新橋に着いたとき、車両から駅前が見えていれば、降りていた。これも京浜東北線に乗ったのが運で、山手線に乗ったら、どの車両に乗ってもハナから見えなかった。だが今回は京浜東北線でも後方の車両に乗ったため、それが見えなかった。ここが運命の岐れ道だった。
もっとも、次の有楽町で引き返せばいい。だけど、ホームを上がり下りするのは面倒臭いし、逆の電車が来るのに数分かかる。しかも、表は小雨が降っていたっぽい。しかも局面は、藤井名人が詰ましにかかっているから、すぐに終局するだろう。
電車は有楽町に着いた。私は相当迷ったが、そのまま帰宅を優先した。
ところがスマホでは、広瀬章人九段が「この詰みは簡単じゃないですよ」とか言っている。藤井名人の角成を、取らず逃げるのが粘り強い手で、けっこう先手玉が広い。私の頭では、皆目詰み筋が分からない。しかし形勢バーは「永瀬1:99藤井」になっているので、詰みはある。そして藤井名人だから、100%詰ます。ただ、相当な長手順であることは確かだ。
私は電車に乗り続けるが、全然将棋は終わらない。……これなら新橋まで引き返したほうがよかった……。私の人生は、この後悔ばかりである。あのときああしておけばよかった。これを何百回もやっている。だけど矯正できないのは、私がバカだからだ。
局面は、やっと分かりやすくなってきた。広瀬九段は「さすがに私も、詰みが分かってきました」と言う。
藤井名人の角引きに、永瀬拓矢九段投了。それと同時に、電車の扉が私の最寄り駅で開いた……。
私は複雑な気持ちである。広瀬九段の解説もそれなりに面白かったが、私は新橋の大盤解説で、(たぶん)鈴木九段をはじめ将棋ファン有志と、この奇跡的な詰みの感動を共有したかった。これが解説会の醍醐味ともいえる。
それにしても藤井名人、相変わらず見事な収束だ。こんな長手数を読み切るなんて、人間技とは思えない。……あ、藤井名人はAIだった。こんなスーパー棋士と戦う相手は大変だ。
第2局は29日、30日。私はどちらもバイトだが、30日は新橋解説会が行われるのか。もし将棋がもつれて解説会に伺えるタイミングがあったら、今度は迷わず下車したい。
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第83期名人戦第1局・2日目(前編)

2025-04-10 23:45:36 | 男性棋戦
第83期名人戦第1局(主催:日本将棋連盟、毎日新聞社、朝日新聞社)2日目、挑戦者・永瀬拓矢九段の封じ手は、香で取る手だった。私はAI推奨手を見ていたから意外だったが、もちろんこの手もある。
藤井聡太名人は短考で7筋の歩を突く。永瀬九段は銀を上がって受ける。ここで藤井名人が長考に沈んでしまった。
封じ手後でいつも不思議なのが、封じ手からそんなに手が進んでいないのに、長考するケースがあることだ。
今回の場合、封じ手後に2手進んだだけである。その次の手くらい、前日までに考えておいてくれよ、という話である。
ただまあ、残り時間は次局に繰り越せないので、クリアな頭で改めて考えるのは賢明である。
藤井名人が長考後に指した手は、AI推奨の手だった。まあ、そうであろう。ここまで互角だが、これから藤井名人の指し手はAIとほぼ同じになる。となれば、永瀬九段がジリジリ悪くなる理屈だ。藤井名人に勝つには、この時点で大幅にリードを奪っていなければならない。
果たしてその後、永瀬九段に緩手が出て、形勢バーは「永瀬33:67藤井」になった。
ところで私はきょう、バイトだった。だから、休み時間にスマホで配信を見る、という態勢である。
ところが、1時間ぶりに見ても、意外にその差が開かない。これは永瀬九段が、必死についていっている、ということである。これに、相手が並の棋士だったら形勢が逆転しているのだが、そこは藤井名人だから、形勢は名人有利で変わらない。
藤井名人はなおも要所で長考するが、1日目で消費時間に大差があったため、まだ藤井名人のほうが持ち時間を多く残している。そうして指す手はもちろん正確だ。そしてついに永瀬九段に疑問手が出て、はっきりと藤井名人が優位に立った。
私はバイトが終わり、帰りの電車の中である。いつもはRadikoを聴いているのだが、さすがに今回は、スマホで名人戦を見るしかない。
京浜東北線に乗り換えた。画面では、藤井名人が端に桂を打った。永瀬九段は取る。続いて藤井名人、金を打つ。
解説の広瀬章人九段は、ここで先手玉に即詰みがありそうだ、と言う。
京浜東北線は、新橋を出た。
あ?
ああああああ!!!!!
思わぬ光景に、私は心の中で叫んでしまった。
(つづく)
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第83期名人戦第1局・1日目

2025-04-09 22:25:45 | 男性棋戦
さあ、第83期名人戦七番勝負の開幕である(主催:日本将棋連盟、毎日新聞社、朝日新聞社)。対局者は藤井聡太名人と、永瀬拓矢九段。
藤井名人は名人2期。今期防衛すれば、名人3期の渡辺明九段、佐藤天彦九段と並ぶ。さらに名人は保持するから、二十世名人にいちばん近い存在となるのだ。だから個人的には、藤井名人と佐藤九段の「直接対決」が見たかったのだが、こればかりは仕方ない。
いっぽう永瀬九段は、順位戦A級最終戦で佐藤九段に追いつき、プレーオフを制して、名人戦初登場となった。先の王将戦に続いて、文字通りの連続タイトル戦である。
第1局の対局場はおなじみ、ホテル椿山荘東京。私が棋士だったら、現地に勉強に赴いているところである。
振駒で永瀬九段の先手となった。初手、飛車先の歩を突く。前夜祭で藤井名人は「面白い将棋を指したい」と語った。意地悪な見方をすれば、将棋はもともと面白いものなので、ふつうに指すだけで面白くなる。それをあえて「面白い」ということは、先の王将戦第5局のときのように、2手目に角道を開ける手もあると考えたくなる。
しかし藤井名人の2手目は、飛車先の歩を突くものだった。
以下角換わりになり、例によって早いペースで進む。ただ、わずかに永瀬九段のほうが時間消費が多い。いつもとは逆だ。
そういえば永瀬九段はかつて、手番が分かっている第2局以降のほうが指しやすい、という意味のことを述べていた。先後の分からない開幕局は、わずかに研究にムラがあったか。
相腰掛け銀から飛車を引く例の形になった。でも実戦例はあるのだろうと思ったら、先の第50期棋王戦第3局・▲藤井棋王VS△増田康宏八段戦の千日手局と同一だった。なるほど当事者だったのなら、藤井名人の指し手が早いわけだ。
しかし藤井名人、今回は逆を持っている。棋王戦で増田八段側のほうがよしと思っていたのなら、この将棋を修正する理由がない。
藤井名人の前局の公式戦は、あの王将戦第5局(3月8日、9日)である。つまり1ヶ月前だ、よって多忙の藤井名人といえども、研究する時間はたっぷりあった。だから本局は、藤井名人にアドバンテージがある。
そのまま68手まで進み、昼食休憩。なんだか1日制と勘違いしそうである。
そして先に手を変えたのは永瀬九段のほうだった。昼休明けの69手目、馬を入って飛車取りとしたのだ。これはこれである手なのだろう。以下も互角のまま指し手は続き、永瀬九段が1時間55分の大長考で、封じ手となった。
ここは二択で、香で取るか、玉で取るか。香だと悪そうなので玉で取ると思うが、その先も難しい。
ただ、ここまでの消費時間は、藤井名人が2時間46分、永瀬九段が5時間で、だいぶ開いてしまった。先の詰将棋選手権戦の結果を見るまでもなく、藤井名人の終盤は正確無比なので、永瀬九段はこの先、最善手を続けなければならない。それにしては、この消費時間の差は不利だ。
さて2日目は、どうなるか。
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第10期叡王戦第1局

2025-04-07 23:37:20 | 男性棋戦
第10期叡王戦五番勝負(主催:日本将棋連盟、不二家)が3日、名古屋市で開幕した。対局者は伊藤匠叡王と斎藤慎太郎八段。
ただ今回、タイトル戦では見ない日がなかった藤井聡太竜王・名人がいない。これは2022年秋の第70期王座戦以来となる。まさに違和感が満載で、V9巨人対パ・リーグ覇者、明訓高校対ライバル校、料理の鉄人対挑戦者のごとく、つねに絶対王者を見慣れた者にとっては、藤井竜王・名人がいないことに物足りなさを覚えてしまう。これを言ってアレだが、主催の不二家も、藤井竜王・名人に出てきてもらいたかっただろう。
もっともそのあたりは斎藤八段も心得ていて、前夜祭では「藤井さんがいないから、盛り上がらないと言われないように指したい」と述べたものだ。
ただし将棋ファンは、すべてが藤井ファンではない。この組み合わせはフレッシュでいいし、B級1組同士の対戦も珍しい。それと斎藤八段も語っていたが、よい将棋を見せてくれれば、おのずとタイトル戦も盛り上がるだろう。
開幕局は伊藤叡王の先手で、飛車先の歩を突いてスタート。以下、相掛かりとなった。
こういう戦いはどこが急所かまったく分からないのだが、斎藤八段は1筋の端攻めに活路を見出した。相掛かりでは端攻めをよく見る気がするのだが、そこが急所なのかもしれない。
なお斎藤八段は、2020年にマイナビ将棋ブックスから「角換わり腰掛銀研究」を上梓している。これがボリュームたっぷりの名著で、斎藤八段の思考が手に取るように分かる。居飛車党は必携の書だと思う。
このあたりで、藤井竜王・名人が地元の大盤解説会に特別出演した。藤井竜王・名人は七番勝負のタイトル戦が5局で終わっても第6局、第7局の対局場に呼ばれ、タイトル戦に出なくても、解説者として呼ばれる。人気棋士は大変である。
ただ現実的には、藤井竜王・名人が名人戦一本に絞れたのは、皮肉な幸運だったのではあるまいか。
将棋に戻るが、この端攻めは成功したわけではなく、まだまだ難しい形勢。
そこで伊藤叡王に一失があったようで、斎藤八段がペースを掴んだ。攻めにリズムがつき、窮屈だった飛車が成れては、斎藤八段が面白くなったようだ。
以下、伊藤叡王の反撃も鋭かったがわずかに足らず、斎藤八段が逃げ切って制勝となった。
タイトル戦は挑戦者が先勝して、俄然面白くなる。その意味では、斎藤八段が目指す「盛り上がるタイトル戦」に近づいたと言ってよい。
第2局は19日。
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藤井王将、盤石の防衛

2025-03-10 23:29:45 | 男性棋戦
この8日、9日に、ALSOK杯第74期王将戦第5局が、群馬県深谷市で行われた(主催:日本将棋連盟、毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社)。
深谷駅は東京駅丸の内口の駅舎にそっくりである。それは、東京駅のレンガは、ここ深谷のレンガが使われていたことによる。深谷駅は一見の価値があると思う。
さて王将戦はここまで、藤井聡太王将3勝、永瀬拓矢九段1勝。永瀬九段は前局カド番をしのいだが、崖っぷちの状況は変わっていない。
ただ第4局と第5局の間に、永瀬九段は藤井名人への挑戦を決めた。これは殊のほか大きく、私が同じ立場だったら、「王将戦はまあいいか」と諦めてしまうところ。しかし永瀬九段にそんな気持ちは微塵もなく、一局でも多く藤井王将に教わりたい、というところだろう。
対局開始。先番の永瀬九段が飛車先の歩を突く。対して藤井王将が角道を開けた。私はその場面を見ておらず、仮に見たとしても「そんな手もあるかな」くらいの感想だったと思うのだが、将棋界はたいへんな騒ぎだったようだ。なにせ、藤井王将の公式戦後手番258局目にして、初手に角道を開けたのは初めてだったからだ。
立会人の藤井猛九段は声を上げそうになったらしいが、それ以上にびっくりしたのは永瀬九段である。まったく予期していない手が飛んできたから、呆然としたのは想像に難くない。そして、それまでの永瀬九段の研究が音を立てて崩れた。結果を知っているから書くわけではないが、この瞬間、本局の勝負はついたのであった。
永瀬九段は角道を開けたが、そこで藤井王将が飛車先の歩を突いたら、横歩取りになる。しかし藤井王将は角道を止める。これも作戦の一環である。
以下、双方慎重に時間を使い、陣形整備にとりかかる。いや、これが本来のタイトル戦だと思う。
増田康宏八段との棋王戦もそうだが、挑戦者は中盤まで時間をまったく使わないので、タイトル戦特有の重厚感を感じない。個人的には、それはどうかと思うわけである。だから、藤井王将の作戦の副産物ではあるが、このまったりした進行は、私は満足だった。
2日目に入り、藤井王将の初手は、金を三段目に上がる手だった。これは大方の意表を衝いたらしいが、藤井王将が指したのだから、これが正着。そして空いたマス目に玉を据えた。いわゆる中住まいで、対局場の旧渋沢邸「中ん家」にちなんだわけではないだろうが、藤井王将はこの地点に玉を置くのが好きだ。
対して永瀬九段は金銀四枚でがっちり固めるが、進展性がないようにも思える。事実、58手目に藤井王将が飛車を2筋に転回したところでは、藤井王将大優勢に見えた。
実は、大野八一雄七段との指導対局で、私はこの形をよく食らっている。飛車先の歩を交換したのを逆用された形で、下手が勝ったことがない。
永瀬九段は左金を出動させぎりぎり受けたが、後手からすれば、その金を狙えば自然に勝ちになる。
しかし永瀬九段も全力で受けに回り、簡単に土俵を割らない。否、1筋は破っているし、永瀬九段にもじゅうぶん楽しみがある局面に思えた。
というところで、藤井王将が7筋の歩を突いたのが、私にはまったく浮かばなかった好手(たぶん)。
なるほど、ここと思えばまたあちら、か。藤井王将の指し手は本当に勉強になる。この歳で勉強になってもしょうがないが。
永瀬九段、飛車取りに金を打つ。これには藤井王将が利かせるだけ利かせて、敵の金とバッサリ刺し違えた。
これが藤井王将の得意技で、この類の手が出たら、100%藤井王将の勝ちである。
続く歩の連打で、永瀬九段投了。飛車取りに打った金が取り残され、痛々しかった。
この両雄は来月からの名人戦でも激突するわけだが、もし佐藤天彦九段が名人戦に登場していたら、本局は2手目に藤井王将が角道を開けていただろうか。もうちょっと温めていたと思うのである。
いっぽう永瀬九段としては、2手目にこの手があることで、対策量が膨大になってしまった。これは永瀬九段にとって、小さくないディスアドバンテージとなる。
藤井王将は会心の勝利で、王将4連覇。通算タイトルは28期となり、谷川浩司十七世名人の27期を抜き、単独5位となった。まったく信じられないスピードだが、ただ昨年のこの時期では、1年後に谷川十七世名人の記録を抜くだろうと、ほとんどの将棋ファンが思っていた。
そして今年の秋には、通算タイトルが32期になり、23歳にして渡辺明九段の記録を抜くのだろう。
誰も藤井竜王・名人を止められないのか!? 誰か出てこい!!
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