第5図以下の指し手。△5二桂▲5三角成△同金▲同金△4九飛行成▲同銀△同飛成▲4二飛△同竜▲同金△同玉▲4三銀△同銀▲同桂成△同玉(第6図)
上川香織女流二段は半分トークをしながら指導対局を行っている。その声が、誰かに似ている。ちょっと前まで、テレビでよく聴いていた気がするのだ。とにかく、すこぶる聞き心地がよかった。
局面、▲4四金には△5二桂が見えている。しかし▲5三角成△同金▲同金となると、△5二桂がバカになる可能性がある。よって△5二桂では△5二金と寄り、▲5四金なら△4九飛行成▲同銀△同飛成を狙う手もある。ただ△5二金と寄った時点でその変化は読まれてしまう。
とはいえ上川女流二段が△5二桂自体に気付いていない可能性が高く、一丁脅かしてやろうと△5二桂と打った。
果たして上川女流二段は「ギョエー、そんな手があった?」と驚く。そこで▲4三銀はあったようだが、上川女流二段はやはり▲5三角成と突っ込んできた。対局者同士の心理というか、私もこの手が本線だった。
さらに△4九飛行成も決行すると、案の定この手も見えていなかったようで、上川女流二段は「飛車が通ってたんだ」と驚いた。「大沢さん、そこまで読んでたのね」。
ただ私はその先も読んでいて、この竜は▲4二飛で消去されてしまうのだ。実戦もそう進み、私の勝勢?はすぐに解消された。
△4二同玉の局面で、上川女流二段が「大沢さんとはいつも熱戦になるよねえ。面白い」と嬉々として言う。それは私も感じるところである。
もっとも実戦は先手を取られ、負けにしたと思った。
第6図以下の指し手。▲7三飛△5三歩▲4四歩△同桂▲7七飛成△3六桂打▲同歩△同桂▲3八玉(第7図)
▲7三飛では▲4一飛もある。しかし王手馬取りに打つのがふつうだろう。
私は△5三歩だが、そこで上川女流二段の▲4四歩が、ココセ級の疑問手だった。△同桂が、先手玉に迫る手になったからである。
▲7七飛成に私は△3六桂打。「エッ!?」と上川女流二段が頓狂な声をあげた。これは先手玉がトン死筋である。
「でも▲3八玉の形は意外に耐久力があるから」
と上川女流二段は強がる。そしてその言葉に、私が疑心暗鬼に陥った。
第7図以下の指し手。△2八金▲3七玉△3八飛▲4七玉△4六歩▲同銀△4八金▲5七玉△5八金▲6六玉△8四角▲7五歩△6四銀(第8図)
第7図で私の持駒は「飛角金金銀銀」。どうやっても詰みそうだが、難しいところもある。
「筋は△3七銀なんだよなあ」と私。A▲3七同桂なら△2九角▲4九玉△3九飛▲同玉△3八金まで。B▲3七同玉なら△2八角で詰みそうだが、C▲4七玉と躱されたときが分からない。それなら△3七銀を△3七金に代えればいいが、金をおごるのも抵抗がある。
「藤井クンならノータイムで詰ますんだろうけど」
「そうよねー」
私は迷った末に△2八金と打ったが、これはイモ手で、我ながら呆れた。
▲3七玉に△3八飛と近づけて打ったのも疑問だったようだ。私は金を使って金得したが、全然得していない。というか、ちっとも寄っていない。
なんでこんな将棋にしちゃったんだ、と自己嫌悪に陥る。そのころ常連氏の将棋が終わり、上川女流二段が勝った。いつもは私が一番手に終わるのだが、本局は私がモタモタしている。
結局先手玉は詰まず、私は△6四銀。これは100%負けにしてしまった。
第8図以下の指し手。▲4四歩△3二玉▲4三角△3三玉▲2一角成△6五歩▲7六玉△7五銀▲8五玉△7六銀打▲同竜△同銀▲8四玉△8一飛▲7三玉(投了図)
まで、117手で上川女流二段の勝ち。
▲4四歩に△3二玉以下は指してみただけで、▲7三玉まで投了。途中△6五歩では△6五銀打なら▲2一馬が消去できたが、それでも私が負けであろう。
しかしこの将棋を負けるとは、もうどうしようもない。
「△3八飛では△3九飛で詰みでした」
と上川女流二段。私は▲5八金を取るつもりでいたが、△3八飛成の詰みを見た方がよかったのだ。
私の読みとしては、第7図でやはり△3七金でよかった。以下▲同玉△2八角▲4七玉△3八銀▲同玉△3九飛▲4七玉△3八銀▲3六玉△3五金(参考図)まで、典型的な並べ詰めだった。
「あと中盤、私が▲6四歩(途中図)と叩いた手がありましたよね。あれは△同銀と取るべきです」
「それは▲7四歩で潰されると思ったのですが」
「△6三銀で受け切れます」
上川女流二段はキッパリと言った。「あと、△7三金▲同飛成△同桂▲7四歩に大沢さんは△7七角成としましたけど、ここは△8三飛がよかったです」
「ああその受け! 全然気が付かなかった」
そういえばむかしプロの実戦で、こんな飛車浮きを見たことがある。
「大沢さん、10回くらい勝ちを逃しましたね」
上川女流二段は慰めるように言い、私はうなだれるしかなかった。
Tod氏は飛車落ち戦を勝ち、2局目を開始。私も2局目となった。LPSA麹町サロンは、時間内なら何局でも指せるのだ。
2局目は私が強引に先手にさせてもらった。
初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲4八銀△5五歩▲6八玉△5二飛▲7八玉△3三角(第1図)
「大沢さんには石田流が通じないのが分かったから」
と上川女流二段が言う。実際は私が内容的にも負けていたのだが、ともかく次は上川女流二段がゴキゲン中飛車に来そうだった。
それなのに初手▲7六歩がうっかり。▲2六歩を先にすべきで、本譜は△5五歩とされてしまった。私見だが、中飛車相手に△5五歩の位を取らせるのは、居飛車が損だと思う。
第1図以下の指し手。▲4六歩△4二銀▲4七銀△6二玉▲5八金右△7二玉▲6八銀△5三銀(第2図)
私は▲4六歩とするしかないが、▲4七銀と立った形はバランスが悪いと思う。▲6八銀と上がり、次に▲6六歩~▲6七銀を目指したが、上川女流二段は△5三銀。こ、これは……。
(つづく)