一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

勝浦九段の詰将棋

2022-02-28 23:24:06 | 将棋雑記
棋士で詰将棋の名手といえば、塚田正夫名誉十段、二上達也九段、内藤國雄九段、谷川浩司九段、伊藤果八段、中田章道八段、浦野真彦八段あたりが浮かぶ。
さらに、勝浦修九段を忘れてはならない。
勝浦九段は順位戦A級7期、竜王戦1組4期。十段戦、王位戦、王将戦のリーグ入り多数の名棋士である。タイトル戦は王位戦と棋聖戦に登場した。
その棋風は鋭い攻め将棋で、人呼んで「カミソリ勝浦」。細い攻めを繋げるテクニックは余人に真似できないもの。その鋭い寄せに定評があった。勝浦九段の将棋を並べることが、棋力向上に繋がるのだ。
そんな勝浦九段の詰将棋は、配置はパラッとしていて解図意欲は沸くのだが、これがなかなかにむずかしい。
現在はサンケイスポーツに詰将棋を連載している。27日出題の詰将棋は下図である。

13手詰で、ヒントは「急所の桂打ち」。10分で二段。
私も早速解いてみる。まず考えられるのは▲1三金だ。これをA△同玉なら▲1一飛成△1二合▲2二銀まで。よってB△1三同金だが、以下▲2四桂は△同歩、▲2一銀も△同角で詰まない。
では初手でいきなり▲2四桂か。しかし△同歩でも△同金でも詰まない。
といって初手▲2一銀も、△同角▲同飛成△同玉で、持駒・角金桂では全然詰まない。
さらに初手▲4二飛成も、△3二歩で止まっている。そもそも▲4二飛成は▲5一馬が陰になって、あり得ない。
ここで疲れてしまい、一旦お休み。ひとつだけ言えるのは、10分はとうに過ぎていて、私は(アマ)二段の棋力がないことは分かった。
数時間後に、また考えてみる。ヤケクソで初手▲2二金はどうか。△1三玉は▲1一飛成までだから△2二同玉とするが、そこで「急所の桂」の▲3四桂。
これにA△1三玉なら▲1一飛成△1二合▲2二銀で詰み。またB△1二玉なら▲1一飛成!△同玉▲3三馬で詰む。
しかし▲3四桂には当然ながら△同角と取る。以下、持駒が銀1枚では詰まない。
ただ、「▲1一飛成△同玉▲3三馬」の変化は魅力である。詰手順でも、この手が出てきそうである。「急所の桂」は、2四、2五、3四と3つ候補があったが、どうやら「3四」のようだ。
初手▲2二金がおごりすぎか。どうせ△2二玉の形にするなら、初手▲1一金でもよい。これに△2二玉なら▲3四桂△同角(△1三玉は▲2二銀まで)▲2一飛成△1三玉▲1二金で詰む。
ということは、初手▲1一金には△1三玉が最善だ。そこで▲2二銀。ええー、初手の尻金に続いて、貴重な銀をもう捨てちゃう?
△2二同玉に▲3四桂。△3四同角はやはり▲2一飛成だ。よって▲3四桂には再度△1三玉だ。
そこで▲1二金△同玉と捨て、さっきの「▲1一飛成△同玉▲3三馬」が実現する。
整理すると、初手より「▲1一金△1三玉▲2二銀△同玉▲3四桂△1三玉▲1二金△同玉▲1一飛成△同玉▲3三馬△1二玉▲2二馬 まで、13手詰」。
いやー、詰め上げたときのこの快感。これだから詰将棋はやめられないのだ。
苦しくも大いに楽しめた、勝浦詰将棋であった。
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名人戦に一度だけ登場した棋士②

2022-02-27 22:54:03 | 将棋雑記
2015年1月16日の当ブログに「名人戦に一度だけ登場した棋士」をアップしたが、その続編を7年振りに書いてみる。

1940年 第2期 土居市太郎1-4木村義雄
1942年 第3期 神田辰之助0-4木村義雄
1955年 第14期 高島一岐代2-4大山康晴
1961年 第20期 丸田祐三1-4大山康晴
1965年 第24期 山田道美1-4大山康晴
1969年 第28期 有吉道夫3-4大山康晴
1970年 第29期 灘蓮照1-4大山康晴
1975年 第34期 大内延介3-4中原誠
1978年 第36期 森雞二2-4中原誠
1981年 第39期 桐山清澄1-4中原誠
1984年 第42期 森安秀光1-4谷川浩司
1992年 第50期 高橋道雄3-4中原誠
1995年 第53期 森下卓1-4羽生善治
2010年 第68期 三浦弘行0-4羽生善治
2015年 第73期 行方尚史1-4羽生善治
2017年 第75期 稲葉陽2-4佐藤天彦

以上、16回(第79期の斎藤慎太郎八段を除く)。
当時も書いたが、「名人戦」はタイトル戦のみの名称なので、これを戦えるのは年に2名。よって、名人戦に登場したこと自体が、大きな勲章となる。
実際、名人戦に登場した棋士は、名関脇揃いだ。ただ、スコアは4-3が3回、4-2が3回、4-1が8回、4-0が2回で、「4-1」が半数を占める。実力者揃いではあるが、名人戦の大舞台を前に、実力が十分に出ていない感じだ。
ちなみに4-1のスコアだが、名人3連勝のあとに挑戦者が1回だけ勝ったケースは、第20期、第24期、第39期、第42期の4回。3連勝で名人側に余裕が出たのと、挑戦者が名人戦の雰囲気に慣れてきた、という理由があると思う。
登場時は高橋九段を除き、全員八段。その後は、稲葉八段以外の全員が、九段に昇段している(土居八段は「名誉名人」)。つまり、名人戦に登場すれば、九段は約束されたも同然である。
名人戦登場時に、すでにタイトルを経験していたのは、森安九段、高橋九段、三浦九段の3名。名人戦後にタイトルを獲得したのは、山田九段、有吉九段、大内九段、森九段、桐山九段の5名である。
ただ、これらの棋士をもってしても、名人戦には一度しか登場できなかった。A級順位戦で優勝することは、タイトル獲得並みの価値があるゆえんである。
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伊藤沙恵女流名人誕生

2022-02-26 23:09:08 | 女流棋士
24日に行われた女流名人戦第4局は、挑戦者の伊藤沙恵女流三段が里見香奈女流名人を114手で降し、3勝1敗で、初のタイトル・女流名人を獲得した。

第4局は先番里見女流名人が中飛車に振った。すると伊藤女流三段も向かい飛車に振った。
伊藤女流三段は20手目△2五歩。実はこの局面、第2局とまったく同じだ。第2局では里見女流名人が▲3八金と備えたが、激戦の末、伊藤女流三段が制した。
そこで第4局は▲2八飛と修正したのだが、個人的には、この手が精神的敗着になったと思う。
伊藤女流三段は、中飛車には三間飛車か向かい飛車がよいと、指し馴れないながらも向かい飛車に振ったわけだ。それなのに自分が居飛車に戻しては、アドバンテージが解消されてしまった気がするのだ。
▲2八飛の局面は先手の純粋な2手損で、代わる主張は5筋の位となる。しかし居飛車に戻したいま、これも薄れてしまった。
昨今は手損がそれほど問題視されないが、先手は気分が悪かったと思う。伊藤女流三段は気分がよくなったはずで、この折衝が勝敗を分けたと思うのである。
以下は伊藤女流三段が強く指し、最後は△7八桂成のシャレた手でフィニッシュ。女流名人を獲得したというわけだった。

伊藤女流三段は9回目のタイトル戦で初の戴冠。トーナメントプロである限りタイトルはつねに狙っているわけで、途中でクサリはしなかっただろうが、対里見女流五冠に限れば6勝21敗、タイトル戦に至っては0勝5敗である。私が同じ立場だったら、「今回も負けるんだろうなあ」と、戦う前から闘志が萎えてしまうところである。そこを奮い立たせ、勝ち切ったのが偉い。
「伊藤名人誕生」は、十一世名人・八代目伊藤宗印以来、143年ぶり。

伊藤沙恵女流名人

いい名だ。
伊藤先生、あらためて、おめでとうございます。
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桐山九段、引退決定

2022-02-25 00:22:25 | 男性棋士
22日に第35期竜王戦5組昇級者決定戦・桐山清澄九段VS伊奈祐介七段戦が行われ、伊奈七段が118手で勝った。これで桐山九段は残留決定戦の1局を残し、引退が決定した。

桐山九段は2020年3月、第78期順位戦C級2組で3つめの降級点を取り、フリークラスへ降級した。この時点で定年の60歳を過ぎていたため、参加できる棋戦は竜王戦のみとなった。
桐山九段は5組在籍なので、参加できるのは新たに2期。ただしこの間に6組に降級すれば即引退。逆に4組に昇級できれば、さらに現役生活が伸びる。
桐山九段はからくも5組残留を続けていたが、最終の今期は初戦で負け、本局の昇級決定戦でも負け、引退決定となったわけである。
この伊奈七段との将棋は、先手桐山九段の四間飛車となった。元来桐山九段は居飛車党だったが、大山康晴十五世名人に振り飛車で叩かれ続け、4勝20敗。そこで自身も振り飛車を指すようになった。すると、不思議と大山十五世名人に勝てるようになり、5連勝。ほかの棋士にもさらに勝てるようになり、結果、棋聖と棋王のタイトルを獲り、名人戦にも挑戦できたのであった。
本局は▲7六歩△8四歩▲7八銀からの四間飛車だったから、桐山九段は引退が懸かった一局に、振り飛車を選んだわけだった。
伊奈七段は△4四角と出る今風の形。桐山九段は元気よく▲4五歩と突いた(図)。若々しい将棋で、肉体年齢と将棋年齢は関係ないと痛感させられる。

こうして中盤まではいい勝負となった。桐山九段は数年前から公式戦通算1000勝が視野に入っていて、秒読み態勢といってよかった。しかしそこから連戦連敗。果てしない連敗地獄に飲み込まれ、順位戦を降級したことで、1000勝が絶望となった。
しかし内容は、中盤まではいいのである。研究熱心なので最新形に明るく、優れた大局観で中盤も指せる。しかし肝心の終盤が衰えた。将棋はどんなにうまく指しても、終盤の1手の悪手ですべてがオジャンになる過酷なゲームである。その負の特性を、桐山九段は被ってしまったわけだった。
果たして本局も終盤で崩れ、冒頭に記したとおり、伊奈七段の勝ちに終わったのだった。
桐山九段は現在996勝である。1000勝まで行かなくとも、棋士人生は大成功の部類に入るし。愛弟子の豊島将之九段も成長したから、これでよかろう、というファンもいよう。
しかし後世の将棋ファンが記録を見たとき、その名前がないのはやはり寂しい。あと4勝、何とかできなかったものか。
他人事ながら、そこがどうにもやるせないのである。
ともあれ、桐山九段に遺された公式戦はあと1局。なんだか廃線が決定した路線のラストランを待つがごとくだが、最後の桐山将棋を楽しみにしている。
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藤井竜王は、持ち時間の短い棋戦に弱いのか

2022-02-24 00:16:40 | 将棋雑記
藤井聡太竜王は持ち時間の長い将棋が強い、とも聞いたことがある。たとえば2日制七番勝負は16勝1敗である。しかし早指しのNHK杯では優勝がない、という塩梅だ。
こういう時は、戦績を詳らかにするに限る。2021年度の11ヶ月だけだが、見てみよう。


第34期竜王戦 9勝0敗
第80期順位戦B級1組 9勝2敗
第62期王位戦 4勝1敗
第69期王座戦 0勝1敗
第47期棋王戦 1勝1敗
第6期叡王戦 8勝2敗
第71期王将戦 11勝1敗
第92期棋聖戦 3勝0敗
第15回朝日杯将棋オープン 1勝1敗
第29回銀河戦 3勝1敗
第71回NHK杯 0勝1敗
第42回JT杯日本シリーズ 2勝1敗

以上、本日現在まで51勝12敗。これらを棋戦別、持ち時間別に並べ直すと、こうなる。

竜王戦七番勝負 8時間 4勝0敗
王位戦七番勝負 8時間 4勝1敗
王将戦七番勝負 8時間 4勝0敗
順位戦B級1組 6時間 9勝2敗
竜王戦ランキング戦2組、決勝トーナメント 5時間 5勝0敗
王座戦挑戦者決定トーナメント 5時間 0勝1敗
叡王戦五番勝負 4時間 3勝2敗
棋聖戦五番勝負 4時間 3勝0敗
棋王戦挑戦者決定トーナメント 4時間 1勝1敗
王将戦挑戦者決定リーグ 4時間 5勝1敗
叡王戦本戦トーナメント 3時間 4勝0敗
王将戦二次予選 3時間 2勝0敗
叡王戦段位別予選 1時間 1勝0敗
朝日杯将棋オープン本戦トーナメント 40分 1勝1敗
銀河戦本戦トーナメント、決勝トーナメント 15分+10分 3勝1敗
NHK杯 10分+10分 0勝1敗
JT杯 10分+5分 2勝1敗

さらに持ち時間別に直すと、こうなる。

8時間 12勝1敗(.923)
6時間 9勝2敗(.818)
5時間 5勝1敗(.833)
4時間 12勝4敗(.750)
3時間 6勝0敗(1.000)
1時間以下 7勝4敗(.636)

何となくだが、持ち時間の減少に比例して、勝率も低くなっている。持ち時間3時間以上の勝率は.846だが、1時間以下は.636である。考えてみれば将棋AIだって、1手1分より1秒のほうが、読みの深度は浅くなる。いかに藤井竜王といえども、秒読みで正着を続けるのは至難の業だ。
とはいっても、タイトル戦の予選や本戦はたいてい3時間以上。叡王戦と棋聖戦の予選は1時間だが、タイトルはどちらも藤井竜王が持っており、もう2棋戦で予選を指すことはない。
よって藤井竜王に勝つには、もはや早指し棋戦しかない。夢のない話だが、そういうことだ。
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