日田行きの列車に乗るが、その途中に「夜明」という素敵な名前の駅がある。テレビ朝日系・土曜ワイド劇場の人気シリーズ「タクシードライバーの推理日誌」の主人公が、渡瀬恒彦演じる「夜明日出夫」である。同番組のファンである私としては、夜明駅に挨拶するしかない。それに、渡瀬恒彦の写真が構内に貼られている気もした。
10時04分、夜明着。日田の温泉にも惹かれるが、ここで下車する。
改札口に向かうと、出入口に縄状ののれん?がかかっていた。地面まで伸びているのはどういう理由か分からぬが、おしゃれな駅舎ではある。
駅構内は無人だが小奇麗で、一隅には旅ノートが置かれていた。だが、渡瀬恒彦が訪れた形跡はなかった。まあ、そうであろう。
表へ出ると鐘があった。名付けて「夜明けの鐘」。1回撞く。
次の列車は11時07分である。少し時間があるので、散歩に出る。左手に流れているのは筑後川か。
突き当たりになったが、右の線路を見ると、橋脚が旅館の敷地内に根を下ろしており、シュールだった。
線路はそのまま岩場のトンネルにつっ込む。私は鄙びた神社にお参りをし、橋を渡る。適当なところで引き返そうと思ったら、立ち寄り温泉があった。地下1,500mから汲み上げている、正真正銘の源泉かけ流しらしい。
前日はシャワーを浴びただけだったから、これは有難い。だいぶ年季が入った施設だったが、利用した。1回料金は350円だが、1日入り放題は680円だった。もちろん350円だけを払う。
浴室内は、意外と広かった。お湯につかるが、傍らのラジカセからは演歌が流れて、いい気分である。打たせ湯があったので、打たれてみる。これがマッサージを受けるかのごとくで、想像以上に気持ちがよかった。
さっぱりして、温泉から上がる。休憩室にビン牛乳が売られていたので、反射的に買う。温泉と白牛乳は、可能な限りセットで楽しみたい。
11時07分の列車は間に合わなかったが、仕方ない。駅に戻るが、縄状ののれんは、ツバメよけだった。なるほど、こんな意味があったのか。
駅前の庭に、洒落た石細工があった。昨年7月、この地方を豪雨が襲い、筑後川も氾濫した。これはそのとき流れてきた岩石を加工したものらしい。
12時02分の列車に乗る。車内はそこそこの混み具合で、立つ。9分後、日田に着いた。ここでけっこう乗客が降りた。24分の待ち合わせなので、跨線橋を渡り、車両を撮る。実にいい風景だ。
12時35分、日田発。田園地帯を走って、13時08分、豊後森に着いた。豊後森には、近代化産業遺産に認定された機関庫があるが、時間の関係でパス。
恵良着。ここからは宮原(みやのはる)線が分岐していたが、1984年に廃止された。ここも代行バスで走ってみたいが、やはり見送らざるを得ない。
定刻より1分遅れの13時39分、由布院着。きょうのメイン観光地である。いまさら由布院もないが、九大本線に乗ったら、ここに挨拶しないわけにはいかない。
なお、駅名は「由布院」だが、屋号は「由布院」と「湯布院」が混在している。だが「湯布院」のほうは、「お湯」と「布」と「院」である。この高貴な取り合わせが、女性にウケないわけがない。
駅の観光案内所で、「由布院マップ」をいただく。これは湯布院散策の基本である。
さて、ここ湯布院は2年前にも訪れた。そのときはゴールデンウイークの最終日だったし、小雨も降っていたので、観光客もまばらだった。しかしきょうは天候にも恵まれ、大変な人出である。女性の比率も高かった。
以前も書いたが、駅の近くに、洒落た食事を出す店がある。しかしその店がどこにあったか、いまだに思い出せない。
今年もとある店にアタリをつけて入ったのだが、またも外した。ランチタイム終了の2時まぎわに入ったのだが、食事は大丈夫とのことで、とり天定食(850円)を頼む。味はまずまずだったが、店に入ったとき、すぐにお冷やが出てこなかったのは、減点である。
湯布院の街をぶらぶら歩く。目的地は約2キロ先の金鱗湖で、これが絶妙の観光コースである。
コンピュータ手相占いがあったので、占ってもらう。しかしあまりいいことは書いていなかった。500円損した…。
チビッ子がペンを落としたので拾ってやると、たまたまその先が「湯の坪街道」の入口だった。
ここは九州の竹下通りみたいなもので、洒落た土産物屋が左右に連なっている。2年ぶりに訪れて、またその手の店が増えた気がする。
女性客の比率は確実に高くなった。そのイメージは、フジテレビの三田友梨佳アナだ。
右手に公園が見えた。ここは蒸気機関車が静態保存されており、2年前に訪れたとき、感激した覚えがある。
路地裏風の土産物店が軒を連ねている中に、ドクターフィッシュの店がある。小魚が泳いでいる水槽に足を入れると、魚が角質を食べてくれるのだ。
2年前は閑散としていたが、きょうは大入り満員だ。もちろん私は、入らない。
醤油の専門店がある。ここも2年前に入ったところだ。さんざん迷って、煮付け用の醤油を買う。この辺の行動は何か、2年前の記憶を上書きしているかのようだ。
いよいよ金鱗湖が近いが、この細い道に、クルマが多数侵入している。旅行にクルマを使うなとは言わないけれど、場所に応じてクルマを降りてみてはどうか。クルマに乗っていたら見えない光景もある。
金鱗湖に着いた。湖面は穏やかだ。しばし散策したあと、前回も寄った喫茶店に向かう。「キャラバン ゆふいん珈琲館」だ。
やや目立たないところにあるが、あまり迷うことなく、分かった。ここは初老の夫婦がやっているのだが、ご主人は寡黙ながら、コーヒーを語らせるとうるさい(らしい)。私は大人しくコーヒーを頼む。
庭に向かってすわると、木々が青々としており、宮崎駿のアニメの世界だ。
コーヒーが来た。相変わらずいい香りだ。辺りは静かで、先ほどの喧騒がウソのようだ。ここは知る人ぞ知る穴場。クルマ組は、絶対に訪れることはない。
ここキャラバンは客用にノートが設置してあり、私も2年前に書いた。マスターに聞くと、バックナンバーが保管してあるとのこと。それを見せてもらったが、確かに私の書き込みがある。2年前の自分は何を考えていたのか。それを思い出して、ちょっと胸が苦しくなった。
(7月2日につづく)