初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△3二銀▲5六歩△4二飛▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲5八金右△8二玉▲9六歩△9四歩(第1図)
私の居飛車明示に、島井咲緒里女流二段は角道を止めて振り飛車のニオイ。
客のひとりが、「(旅先での)宿はどうしてるんです?」と聞いてきた。
「男ひとりですからどうにでもなります。最悪、ネットカフェにも泊まりますから」
と私が言うと、男性は何ともいえない顔で頷いた。
ほどなく4人目の男性が現れ、これで全員がそろった。
彼の将棋はハイスピードで、たちまち私たちに追いつく。平手で、島井女流二段の振り飛車に男性氏の急戦。といっても、島井女流二段は穴熊に潜っている。男性氏は▲4六銀・▲3七桂・▲2六飛型で、「屋敷流というらしいです」と言った。
私の将棋は、島井女流二段が四間飛車に振って△9四歩。どうやら穴熊はなさそうだ。
第1図以下の指し手。▲8六歩△4三銀▲5七銀△9二香▲7七角△9一玉▲8八銀△8二銀▲2五歩△3三角▲8七銀△5二金左▲8五歩△6四歩(第2図)
居飛車は第1図が作戦の岐路で、時間があれば30分くらい考えたいところ。
私は▲8六歩と指した。これは天守閣美濃の狙いもあるが、もし島井女流二段が穴熊できたとき、8筋攻めを見ている。
といえば聞こえはいいが、この日行われていた羽生善治九段VS佐藤康光九段のB級1組順位戦で、羽生九段が指した手を拝借しただけだ。
すると、島井女流二段は△9二香。こちらも潜ったか。私は▲7七角~▲8八銀とし、さらに羽生九段の手をマネする。
第2図以下の指し手。▲8六角△6三金▲7七桂△7四歩▲5五歩△5四歩▲同歩△同銀(第3図)
私は▲8六角と上がった。これはABEMAで島朗九段が解説していたもので、それを拝借した。
だが島井女流二段は、「▲8六銀と来られるかと思った」とつぶやいた。なるほど、穴熊側が端を突いた弱点を衝いて、棒銀はあったかもしれない。
△7四歩に私は▲5五歩。島井女流二段は「あぁそっか」ともらして△5四歩。私はノータイムで▲5四同歩と取ったが、△同銀となってみると私の▲5五歩がお手伝いになっており、クサッタ。
第3図以下の指し手。▲6六銀△4五歩▲2六飛△7一金▲3六飛△1四歩▲5七銀△4六歩▲同歩△1二香(第4図)
私は▲6六銀と上がったが、▲7五歩△同歩▲同銀とはなりそうもなく、構想がおかしかった。
△4五歩に▲2六飛はいいとして、△7一金に▲3六飛と寄ったのはおかしかった。
というのは、▲3四飛には△4六歩▲同歩△同飛▲4七歩△2六飛があるので、3四の歩は取れない。ということは、▲3六飛は無意味だった、ということだ。
それで、△1四歩に▲5七銀と引いた。これなら次に▲3四飛とできる。
島井女流二段は△4六歩としたが、▲同歩に「チ…」と、△1二香と上がった。私には分からぬ誤算があったようだ。
第4図以下の指し手。▲3四飛△5六歩▲4八銀△4六飛▲3六歩(第5図)
第4図、私の全盛時代なら▲4七金とし、抑え込みにかかっていただろう。が私は、初志貫徹で▲3四飛。ところが、島井女流二段に△5六歩と叩かれてシビれた。
これを▲5六同銀は、△4六飛▲4七金△2六飛で上手優勢。やっぱりこの筋が生じてしまった。
そこで私は▲4八銀と引いたが、この屈服は痛い。
△4六飛に気合は▲3六飛なのだが、彼我の陣形に差がありすぎて、とても飛車交換に応じられない。
そこで▲3六歩と突いたが、いかにも飛車が窮屈だ。これから飛車が幸せになる未来が見えず、結果論だが、ここは▲3六飛と引くしかなかった。
第5図以下の指し手。△5七歩成(途中図)
▲5七同銀△4九飛成▲2四歩△2九竜▲5五歩△4三銀▲2三歩成△3四銀▲3三と△3九飛(投了図)
まで、64手で島井女流二段の勝ち。
△5七歩成が決め手で、全然気づかなかった。A▲5七同金は△4八飛成。B▲4七歩は△5八と▲4六歩△6九とで、この2枚換えは相当つらい。そこで▲5七同銀と取ったが、△4九飛成で下手敗勢。もう投了級のひどさだが、2局目があるから早投げしたと思われてもアレなので、私は指し続ける。
だが、以下の指し手も意味がなく、△3九飛まで投了した。
感想戦は、私の愚痴のオンパレードになった。▲5五歩がつまずきの始まりで、ここはふつうに▲6六歩とし、▲6七金~▲6八金上を目指すべきだった。
また島井女流二段は、対局中のつぶやき通り、第2図で▲8六銀と上がられるのがイヤだったという。
「▲9五歩△同歩▲同銀の狙いでどうですか。そのための▲8七銀で、端歩突きをうまく咎められたと思いました」
私が羽生九段の将棋を踏襲したとは言えなくなってしまった。
「じゃあもう一局」
と島井女流二段が王を取る。だが私は固辞した。指導対局なんて上手が盛大に緩めているのに、下手がこんな惨敗をしちゃ、次は上手がココセの連発をしなければならぬ。上手にそんな気を遣わせるわけにはいかなかった。まったく、麹町サロンで最悪の将棋を指してしまった。
「きょうはちょっと力が出ませんでしたね。
プレゼントありがとうございました」
部屋を出ると、時刻は15時39分だった。1分110円か……。まあ、楽しかったから、よしとしよう。
都バスで新橋に戻り、山手線に乗り換えて、最寄り駅に降りた。
いちおう金券ショップに寄り、ANA株主優待券の買取価格を聞いてみた。するとお姐さんは教えてくれて、2,900円(!)だった。
なんだ、新橋より高ぇじゃねぇか!
この店ならいつでも行けたのに、私は行かなかった。
将棋も含め、おのがバカさ加減に呆れた1日だった。