一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

第2回 信濃わらび山荘将棋合宿⑥・中井広恵VS植山悦行

2011-04-30 23:26:15 | 将棋イベント
植山悦行七段、▲6五歩。中井広恵女流六段の飛車も死に、いきおい飛車の取り合いとなった。しかし△6七桂不成と飛車を取った手がさらに5九の角取り。▲6四歩に△5九桂成と大駒を二枚取れては、中井女流六段の優勢がハッキリしたようだ。
中井女流六段、△9八飛とここから打つ。植山七段、▲4五歩とじっと拠点を作る。ここで中井女流六段が△6九成銀と入ったのが好手だった。ここ、ふつうは△6八成銀と寄って、5九の金と交換するところ。しかしそれでは単に金銀交換に終わってつまらない。△6九成銀を▲同金なら、△4八飛成とこちらの銀を取って、これは中井女流六段がよい。
植山七段▲4九金の辛抱に、中井女流六段△6七角。どうやらこれは、スジに入ったようだ。
▲5七飛の自陣飛車に、△4七歩が千金の決め手となった。▲4七同銀左と右は、いずれも△4九角成。▲4七同飛は△5六角成。どの駒でも取れないのだ。植山七段、力なく▲6七飛と角を取るが、△4八歩成となっては、もはや大勢決した。
このあたりいま思えば、植山七段の精気が失せていた気がする。ペチッと置いた▲4四桂に、中井女流六段が△3八とと王手で銀を取らず、黙って△4九とと金を取ったのも憎かった。
もう、終局への手続きである。植山七段、銀を取ってから、形づくりの▲4四香。いよいよ終局のときが近づいてきた。中井女流六段、静かに△3九銀。植山七段、もう一手指して▲2七玉。中井女流六段、△2八金。植山七段、小さいがはっきりとした声で「負けました」と告げ、中井女流六段の勝利となった。
その瞬間、バンザイをする中井女流六段。喜び半分、パフォーマンス半分だったと思うが、緊張感から解放された、実にすばらしい笑顔だった。
すぐに感想戦が始まったが、大盤の前に移動してもらい、改めて初手から、感想戦を行ってもらった。
植山七段によると、序盤の進行はこんなもの。ただ、中井女流六段の指し手に2回意表を突かれたことがあったそうだ。そのうちのひとつが△6九成銀と入った手。あえて一段目にすべらせる手を軽視していたという。たしかに△6九成銀を指したときの中井女流六段の手は、しなっていた。本人も会心の一着だったろう。
本局、始まる前までは、やはり植山七段が勝つのだろうと思っていた。事実戦前の勝敗予想でも、私は棋譜読み上げの席に着いていながら、「植山勝ち」に手を挙げてしまったぐらいだ。
しかし中井女流六段は終始堂々とした指し回しで、見事な勝利だった。また植山七段も、斬られ役に回ってしまったものの、感想戦でも悪びれることなく読み筋を述べ、実に清々しかった。大野八一雄七段の、緩急自在の解説もおもしろく、熱局に花を添えた。
さて、表彰式である。むきだしのままの賞金を受け取った中井女流六段は、
「これで家計が助かります~」
と、大喜びだった。さすがにコメントも、気が利いていた。
終わりはやや差がついてしまったが、ふたりの持ち味がよく出た、素晴らしい一局だった。いや私はその内容よりも、賞金が少なかったにもかかわらず、ふたりが真剣に指してくれたことのほうが、うれしかった。
両雄に敬意を表して、以下に本局の全棋譜を掲げておく。


平成23年4月24日
第1回信濃わらび杯・最恐戦
先手:七段 植山悦行
後手:女流六段 中井広恵
対局場所:長野県南佐久郡川上村「信濃わらび山荘」
開始時刻:午前9時10分 終了時刻:10時23分
持ち時間各20分 秒読み60秒

☗7六歩☖3四歩☗6六歩☖6二銀☗6八銀☖5四歩☗5六歩☖4二玉☗2六歩☖3二銀☗5七銀☖5二金右☗3六歩☖4四歩☗7八飛☖8四歩☗3八銀☖8五歩☗7七角☖3三角
☗4八玉☖3一玉☗3九玉☖1四歩☗1六歩☖2四歩☗5八金左☖2二玉☗2八玉☖4三金☗4六歩☖5三銀☗4七金☖7四歩☗9六歩☖9四歩☗9七香☖6四銀☗5九角☖4二角
☗9八飛☖7五歩☗9五歩☖8六歩☗同歩☖9五歩☗同香☖9三歩☗同香成☖同桂☗9四歩☖8三飛☗7五歩☖8五桂☗7四歩☖8四飛☗6五歩☖同銀☗7三歩成☖5五歩
☗同歩☖9四香☗6八飛☖6四飛☗8五歩☖5六歩☗4八銀☖3三角☗7七桂☖6六香☗6七歩☖7六銀☗6六歩☖7七銀不成☗6九飛☖7八銀成☗6七飛☖7五桂☗6五歩☖6七桂不成
☗6四歩☖5九桂成☗同金☖4五歩☗5六金☖9八飛☗4五歩☖6九成銀☗4九金☖6七角☗5七飛☖4七歩☗6七飛☖4八歩成☗4四桂☖4九と☗3二桂成☖同金☗4四香☖3九銀☗2七玉☖2八金
まで、102手で中井女流六段の勝ち。
(つづく)
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第2回 信濃わらび山荘将棋合宿⑤・植山悦行VS中井広恵

2011-04-29 02:15:48 | 将棋イベント
食堂の中央付近に二寸盤を置き、ここが植山悦行七段と中井広恵女流六段の対局場となった。食堂の入口付近に移動させた黒板にはビニールの大将棋盤を張り付け、即席解説場の出来上がり。解説は大野八一雄七段である。すべてが手作りだが、不思議としっくり収まった感じだ。
今回使用する駒は、合宿で使っているものよりワンランク上のものを、植山七段が用意した。対局前は逃げ腰だった植山七段も、いったん腹を括ってしまえば、率先して最良の環境づくりに協力である。
持ち時間は20分。それを使い切ると、1手60秒の秒読みとした。秒読みが少し長いがこれは、余裕を持って解説したい、という大野七段の意向による。
棋譜読み上げ係は、私が手を挙げた。あまりでしゃばりたくなかったのだが、符号を間違わずに言え、大きな声を出せる人といえば、私しかいないと思った。
蕨市役所将棋部のY氏に振り駒をお願いし、植山七段の先手に決まる。かくして4月24日午前9時10分、植山悦行七段と中井広恵女流六段による、第1回信濃わらび杯・最恐戦が始まった。
植山七段の☗7六歩に、中井女流六段は、横歩取りにしましょうと☖3四歩。対して植山七段は、まったりで行きましょうと☗6六歩。
数手後の☖4二玉に、早い玉上がりを咎めてやると、長考して☗2六歩。矢倉なら矢倉でもいいわよと☖3二銀。いえ矢倉はやりませんと☗7八飛。「棋は対話」というが、ふたりの指し手を会話にすると、こうなる。虚々実々の駆け引きを経て、三間飛車対居飛車に落ち着いた。
中井女流六段は☖3二銀型を継承し、左美濃の構え。☖2二玉と玉を入城し、どこからでも来たら、の構え。植山七段は高美濃に組み、☗9七香と上がった。
植山七段の三間飛車はめずらしく、組み上がってしまえばよく見る形なのだが、力戦型を好む植山七段が指すと、変わった味が醸し出されるから不思議だった。
ところで駒は高級品に替えたが将棋盤もそうで、本局に伴い、やや高いものに替えている。よって中井女流六段は対局開始時から、イスの上に正座をしている。ために植山七段を上から見下ろす形になっているが、それが植山家の現在の立場を表わしているようで、私は植山七段へ声援を送らざるを得なかった。
大盤解説の大野七段は硬軟織り交ぜて「絶口調」だ。どちらが有利か、参加者から決を取ったが、その票数を選挙の出口調査に例え、巧みに笑いを取っている。むろん、指し手の解説も明快だ。それを参加者はすぐ前で、かぶりつきで聴いている。ふだんではあり得ない光景である。
植山七段、☗9八飛。後手が☖7三桂と跳ねている形ではよくある狙い筋だが、いまの後手は☖8一桂。それでも仕掛けが成立するのだろうか。
時間は植山七段のほうが多く余している。42手目、中井女流六段が☖7五歩と突っかけ、初めて駒がぶつかった。植山七段、これに☗9五歩と応じ、いよいよ戦いが始まった。
R氏がそろそろと、対局者にお茶を出す。私はまったく気が付かなかった。
そんな私は、対局者の正面にビデオカメラが置かれている関係で、植山七段の右横に座っている。植山七段の向かいにいる中井女流六段の表情は真剣そのものだ。それは植山七段も同じである。ふだんの指導対局にはない近寄りがたいオーラが発散されている。棋譜読み上げはこれでも神経を遣うが、唯一の特権は、そんな両対局者を間近で拝めることであった。
☖9三歩に植山七段は長考のすえ☗同香成。考慮時間は、いつの間にか植山七段のほうが上回っている。
☖9三同桂☗9四歩に☖8三飛浮きが、大野七段も感心した3手一組の手順だった。☗9三同香成を☖同香だと☖8一の桂が取り残されるので、桂、香を二枚とも捌いてしまおう、というココロである。
植山七段が55手目を考慮中、60秒の秒読みに入った。チェスクロックのボタンは自身で押すから、ここからは押し遅れに注意しなければならない。
中井女流六段も、62手目を考慮中に60秒将棋に入った。歩を取って、☖9四香と走る。
黒板には、聞き手・Y氏発案の「形勢判断バー」が引かれている。先月NHKで放映された、A級順位戦各局の形勢判断で使われていたアイデアを拝借したものだろう。虚々実々の応酬に、解説場の形勢判断も揺れているようだった。
ピッ、ピッ、ピー、と、秒読みの電子音が、容赦なく対局者に襲いかかる。さすがに百戦錬磨の猛者だけあって慌てたそぶりは見せないが、植山七段の残り秒数を見ると「1」になっている。見ているこちらの心臓にわるい。
中井女流六段が考えている。チラッと植山七段を見た。
ビシッ、と☖7五桂。植山七段の飛車が、詰んだ。
(つづく)
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第2回 信濃わらび山荘将棋合宿④・704日でストップ

2011-04-28 00:18:53 | 将棋イベント
23日は朝から雨模様で、いまは小雨が降っている。思えば昨年も雨だった。私は学生のころから雨男だったのでこれは想定内だが、中にはおもしろくない参加者もいたようだ。まあ雨だろうと晴れだろうと、やることは将棋しかないのだが。
私はKub氏と一局。Kub氏とは二枚落ちの手合いだが、Kub氏の希望で平手での対戦となった。
Kub氏の四間飛車に、私は四枚美濃に組む。対振り飛車戦に、居飛車が採る作戦はいろいろあるが、それを考えるのが居飛車の醍醐味だ。ここから仕掛けあたりまでが、考えていて、いちばん楽しい。
さて局面。☖8六歩☗同歩☖同角に、Kub氏の☗同角が悪手。ここは☗8八飛と回って互角の形勢だった。振り飛車党なら、この変化は絶対に抑えておかなければならない。実戦は、私の勝ち。
続けてKaz氏と一局。私の先手で☗7六歩☖8四歩。☖3四歩なら、☗7五歩から石田流を目指すつもりだったが、本譜は☗6八銀から矢倉模様になった。
私の早囲いにKaz氏は急戦の構え。以下激しい攻め合いになったが、最後は私の一手勝ちになった。勝ちはしたが、Kaz氏の終盤の追い上げに、冷や汗をかいた。
傍らでは大野八一雄七段とKun氏の角落ち戦が行われていたが、Kun氏が見事勝利し、大野七段の連勝を「27」で止めた。大野七段は負けてサバサバ。
ところがその一方で、やはり全勝を口にしている猛者がいた。植山悦行七段である。前回も含めてだか今回のみだか知らないが、植山七段も静かに連勝を続けていたのだ。これはプロ棋士が強いのか、私たちが弱すぎるのか…恐らく両方だろうが、やはり私たちがだらしないというべきだろう。
私は今回の参加者全員との対局が終了。17局指して11勝5敗+Hon氏との2局目・1勝だが、プロ棋士との指導対局を除けば11勝(+1勝)2敗だから、まずまずの成績であろう。
ここから2巡目に入る。またも中井広恵女流六段と。前日の昼間に中井女流六段に教えていただいたときも贅沢な気持ちだったが、週末の夜更けに女流棋士に教わるのも、アダルトな趣があってよい。
再び平手でお願いする。☗7六歩に☖8四歩だったので、前局の将棋を踏まえて、矢倉に誘導する。と、私が☗6八玉と上がったとき、中井女流六段が
「図々しい」
と私をまっすぐ見てつぶやいたので、ゾクッとした。「咎めてやりたい」と言ったのかもしれないが、とにかく☗6八玉は、上手(後手)をカチンとさせる手だったようだ。
数手進み、私が☗3五歩を見送って☗8八玉と深く囲ったのだが、これが悪手だった。上手に☖5三角と備えられ、戦機を逸してしまった。結果は中井女流六段の完勝。一方的に攻められ、中井陣の矢倉城に手をつけることができなかった。
終局後は、大野七段を交えて検討する。私が開口一番、
「☗8八玉では☗3五歩と突くべきでした。ここの歩を換えておけば、こちらも十分でした」
と叫ぶと、大野七段に
「プロなら(☗3五歩は)一目だよ」
と言われ、ヘコんだ。
「そうですか…。いや~、そこがプロなんだよなあ。私は、ここで☗3五歩と突くものかさんざん考えて、それで別の手を指してしまうんですから」
私がさらに嘆くと、
「でも勉強になったじゃない。次にこの局面になったら、迷わず☗3五歩と突けるんだから」
と、妙な慰め方をしてくれる。
一方の中井女流六段は矢倉早囲いをされるのがお気に召さないようで、大野七段にその咎め方を聞く。
今回の合宿では、プロ棋士は参加者に将棋を教えるばかりで、自身のメリットは何もない。それは中井女流六段も然りだが、それでも何かを吸収しようと、貪欲に将棋に取り組んでいる。私はその姿勢に深い感銘を受けた。
近くでは植山-Kun戦(角落ち)が行われており、途中はKun氏の攻めが決まったかに見えたが、結果は植山七段の勝ち。あの将棋を勝つとは思わなかった。これは植山七段が本気を出した感じだった。
私はY氏と再び対局。昼の香落ち戦は辛勝したので、調子に乗って角落ちにしたら、Y氏の指し手が完璧で、私の完敗となった。やはりY氏に角はきついか。ただ、角は角なりに、つけいる隙はあると思うのだが…。
続いてIs氏と一局。序盤早々☗2二角成とこられたが、私は相掛かりにはせず、四間飛車に構える。しかし☗6五歩と位を取られ、指しにくさを感じた。
中盤に差し掛かったころ腕時計を見たら、とっくに0時を過ぎていた。これでブログの連続投稿が704日でストップした。残念ではあるが、いままでは記録を伸ばすために、旅行中でもネットカフェに入ってはブログを更新していた。これからはそこまで執心することもないので、せいせいした気持ちだ。休みたいときには、休む。止めたくなったら、止める。これがブログ本来の姿であろう。
Is氏との将棋は、ヒトに見せたいくらいの熱局になった。最後は☖4六竜と香を取る手があって先手玉が即詰みになり、私の勝ち。200手はいったのではないか。将棋を堪能した。
時刻は午前2時に近い。さすがに寝た人も多く、ほかにはY氏とR氏、Kaz氏しかいない。Y氏とR氏の将棋が終わる。Y氏のゴキゲン中飛車だったらしい。それはいいが、感想戦がやたら長い。序盤の研究みたいなことをやっている。
しばらく付き合っていたが、2時30分ごろ、床に就いた。ラウンジでは、まだ彼らの声がしていた。私も将棋は好きだが、彼らほどではない。彼らの将棋に対する情熱が羨ましかった。
明けて24日(日)――。午前7時25分ごろに目が覚めた。アラームは7時に合わせていたが、まったく気が付かなかった。睡眠時間は短かったが、熟睡できたようである。
空は快晴。ここの合宿で、初めて青空を見た。
食堂に行き、朝食。山荘での食事はこれで4回目だが、毎回同じ席だった。
さてこの日は、R氏が発案のメインイベントがある。「プロ棋士の真剣勝負拝見」だ。私たちがいくばくかのおカネを出してスポンサーになり、プロの真剣勝負をこの目で見よう、というものだ。
当初は植山七段と大野七段の一戦を拝見するつもりだったが、合宿中にいろいろな案が出てきた。植山-中井の夫婦対決もあるし、超早指しで3人の将棋を拝見する手もある。それも3局を個別にやる案と、3人が三角形に座り、それぞれと変則的な2面指しをする案が出たりして、私たちはそれだけで楽しめた。
結局、植山七段と中井女流六段に対局をお願いし、大野七段には解説に回っていただくことにした。
この将棋が熱局で、私たちは大きな感銘を受けることになる。
(つづく)
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第2回 信濃わらび山荘将棋合宿③・蕨市役所将棋部員との戦い

2011-04-27 00:11:16 | 将棋イベント
23日(土)は午前7時に起床。ほとんど眠れなかったが、疲労感はない。
さて4月23日はいうまでもなく、船戸陽子女流二段の誕生日である。私はLPSA女流棋士の誕生日のたびに、当ブログでお祝いを述べてきたが、マンネリになってきたので、今年度からはそれをやめる。よって船戸女流二段の誕生日といえども、当ブログでは触れないつもりだった。
もっとも23日は、そのブログさえ更新できない環境にあった。手近にパソコンがないからだ。
今回の合宿の日程が決まった時、真っ先に浮かんだのがそれだった。私は一昨年の5月19日から、1日も欠かさずブログを更新してきたが、私はケータイを持っていないので、ふつうに1日を過ごせば、その記録が「704日」で途切れる。
無理に更新しようとするならば、その代表的手段はネットカフェに入ることであろう。
しかし信濃わらび山荘から最寄りの駅までには、路線バスがない。あったとしても、付近にネットカフェがあるとは思えない。それがあったとしても、合宿中に単独行動をするわけにはいかない。
更新記録は、いつかは途切れる。それが船戸女流二段の誕生日ならば、それもいいと思った。
7時30分から朝食。ほどなく中井広恵女流六段、植山悦行七段、大野八一雄七段も現れた。植山、大野両七段はともかく、こんな朝早くから中井女流六段のご尊顔を拝めるとは、将棋ファン冥利に尽きる。
朝食後は、早速将棋である。対局カードは原則的に中井女流六段が決めるが、初対局の人が周りにいなければ、同じ人と再戦をすることもある。この場合がそうだったので、私はHon氏に声を掛け、氏と2局目の対戦となった。結果は私の勝ち。
続いては蕨市役所のK氏と。対三間飛車だったが、私が☗2五歩と突いたのが不用意で、☖2二飛~☖2四歩から反撃され、苦戦を強いられた。しかしK氏の攻めが重たくなった隙を衝いて、反撃が決まった。以下、私の勝ち。
さらに蕨市役所のS氏と。これは横歩取りの激しい将棋になったが、自分の読み筋に進めていながら、最後の最後に読み抜けがあり、完全に攻めが切れた。しかしS氏にも見落としがあり、最後は私の勝ちとなった。
時刻はお昼に近い。蕨市役所4人目の将棋部員・T氏が見えた。入れ替わるように、私たちはJR信濃川上駅にクルマで向かう。きょうから合流するKun氏、Y氏、Kub氏、Kaz氏を迎えに行くためである。
信濃川上駅は風情のある駅舎だった。構内の向こうには山がそびえ、駅前には電話ボックスと公衆便所があり、絶好のロケーションだ。12時すぎに気動車が到着し、上記の4人が下車した。ちょっと懐かしい再会に思えるのは、このロケーションのせいだろう。
私たちはそのまま、駅前の食堂に入る。私の前にはKaz氏が座った。Kaz氏はキラキラした目で私を見つめるのが気持ちわるいが、やめてくれとも言えない。
食後は大型スーパーで飲料とお菓子の買い出しをして、午後1時半すぎに山荘に戻った。
食堂に全員が集まり、2日目に加入した人の自己紹介。ここから再び将棋に戻り、2時からは詰将棋トライアルとなった。棋力別に8題(30分)が出題されるが、私には上級問題が配られた。詰め手数は最高7手だが、個別に手数は明かされてはいないので、存外難しい。
ボールペンを片手にウンウン唸っていると、背後に妙な圧力を感じる。顔を上げると、植山七段と大野七段が無言でこちらを見下ろしており、びっくりした。プロがアマに妙なプレッシャーをかけるのはやめてもらいたい。
そんな中、私は全問を解いた。タイムは16分42秒。なんだかんだ言っても、両七段が力をくれたのだろう。
ここで蕨市役所のK氏、S氏とはお別れ。みんなで記念写真を撮った。
引き続き大局観問題が8問出題される。これは次の一手問題とは違い正解はないが、プロが見たらここはこの一手、という局面も多く、指し将棋のセンスが問われる。前回は見た瞬間にピンとくる局面が多かったが、今回は頭を悩ませられる局面ばかりだった。
詰将棋の正解と大局観問題の模範解答が発表され、ラウンジに戻ると再び将棋だ。
私はY氏との香落ち戦。Y氏とは角落ちで2連勝中だが、実際は平手でいい勝負である。
本局はどちらも仕掛けの糸口を掴めず膠着状態が続いたが、Y氏が先端を開き、むずかしい戦いになった。しかし中盤の難所で、☗4六歩に☖2五飛と逃げたのが大悪手。☗2一の竜で☗2五同竜と取られ、飛び上がった。
ふだんなら投了しているところだが、自玉が穴熊だったので、もう少し頑張ってみる。しかし私の玉は8三に釣り上げられ、かなり危うい。
Y氏、☗8四歩☖同金☗8五歩。これで逆転した。私は☖8七銀☗9七玉☖9六銀成。以下は☗9六同玉☖9五金☗9七玉☖9六銀まで、私の勝ちとなった。
Y氏の☗8四歩が悪手。これを利かしたために7四に空間が空き、☗8六玉の変化で☖7四桂が生じてしまったからだ。具体的には、☖8六銀☗9七玉☖9六銀成☗同玉☖9五歩に☗8六玉で下手玉は詰まず、下手の勝ちだった。
まさに薄氷の勝利だったが、こんな逆転があると、悪くなってももう少し指してみようかという気になる。
すぐに次の手合いがついたが、辞退して、入浴。とにかく入浴時間が短いので、入れるときに入っておいたほうがいい。
風呂から出ると、すぐに夕食の時間になった。最近の私は、醜い体にブヨブヨ贅肉が付いており、夕食ぐらいは軽く済ませたいのだが、美味しい料理ばかりで、つい箸が進んでしまう。食っては将棋、食っては将棋。いまにバチが当たると思う。
夕食後の1局目はKun氏と。Kun氏は振り飛車の名手で、何度も苦杯を喫している。難敵のひとりだ。
本局は☗7六歩☖3四歩に☗7五歩と伸ばしてみた。Kun氏のお株を奪って石田流、それも☗7四歩と突っかける早石田を目論んだ。
対してKun氏は、1分以上考える異例の長考に出た。そして☖3五歩。私は「相振り飛車は指しません」と☗6六歩。しかしこんな弱気な手を指すようではいけない。明らかな気合負けで、勝負も私が負けた。
続いては蕨市役所のT氏と。T氏の先手で横歩取り模様に進むが、T氏は横歩を取らず☗8七歩。以下☖7六飛☗2二角成☖同銀☗8五角☖2三歩☗3四飛☖3三銀☗同飛成☖7八飛成☗同銀☖3三桂と進んだが、ここで☗6三角成と詰めろで成られていたら、私の不利だった。本譜は☗2一飛☖3一歩の交換をして☗6三角成だったため、いくぶん自玉の脅威が薄れた。
以下はT氏の見落としがあり、私の勝ち。本譜に戻って、☖3三銀が疑問手だったと思う。ここは屈服でも、☖3三歩と収めるところだった。
以上、蕨市の将棋部員氏と4局を戦ったが、皆さん筋がよく、いずれも私は苦戦に陥った。勝負は私に幸いしたが、全敗した気分だった。
(つづく)
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第2回 信濃わらび山荘将棋合宿②・男性棋士と女流棋士の違い

2011-04-26 01:06:30 | 将棋イベント
夕食後は、蕨市役所のY氏と対局。この将棋もむずかしい戦いだったが、何とか私の勝ち。
続けて指したいところだが、入浴時間は午後5時から9時までなので、いまのうちに入る。この山荘は自然がいっぱいで将棋を指す環境は申し分ないが、ラウンジの暖房と照明がいまひとつなのと、入浴時間が短いのが不満だ。ラウンジはほんらい長時間いるところではないので、暖房等の改善は無理としても、入浴時間は前後1時間延ばしてほしいところである。
風呂から上がって、ここからはたっぷり将棋である。就寝時間は午後11時だけれども、何時まで起きていても構わない。まずは大野八一雄七段に角落ちで教えていただく。私は三間飛車で臨んだが、☗6五歩☖同歩☗同飛☖6四歩に、☗3五飛と歩を取ったのが敗着。☖3四歩以下飛車を押し込められ、完敗となった。
せっかくの男性棋士の指導だったのに、何ともお恥ずかしい将棋を指したものだ。大野七段とは、対局を重ねるごとに、私の将棋の内容が悪くなっているのは、何ともマズイ。
「大沢さんに振り飛車は向いてないよ」
と、傍らの植山悦行七段が言う。以前植山七段には「大沢さんにイビアナは向いてない」とアドバイスを受けたことがあり、自分でもそう思うが、穴熊はともかく、たまには振り飛車も指したいのだ。
続いては、その植山七段と角落ち戦。こんなに立て続けにプロ棋士に教えを請うていいのかと、改めて思う。今回の合宿参加費は激安だがそれも道理で、中井広恵女流六段、植山七段、大野七段は、参加者から指導料を取っていない。まさに私たちへのファンサービスで、その厚意に頭が下がる。
植山七段との将棋は相居飛車の力戦となった。なお、合宿ではチェスクロックを使用しているが、今回は棋士との指導対局においても使用させていただいた。時間が決められていたほうが、かえって自由に時間を使えるからよいのだ。この方式は、他の参加者も採用することとなった。
さて本局は、大野七段のときとは違い、中盤まではうまく指していたと思う。その一場面が下。

上手(角落ち)・植山七段:1一香、1五歩、2一桂、2三銀、2四歩、3二玉、3三歩、4二金、4三歩、5四歩、6三歩、6四銀、7三桂、7四金、7五歩、8二飛、9三香、9四歩 持駒:なし
下手・一公:1七歩、1九香、3五歩、3六金、3七桂、4五歩、4六角、4八玉、5六歩、6六銀、6七歩、6八金、7八飛、8六歩、8七銀、8九桂、9六歩 持駒:歩3

ここで私は☗7二歩と垂らしたが、悪手だった。ふつうに☖同飛と取られて、何でもなかった。またその前の☖7五歩に☗8七銀と引いたのも緩手で、ここは当然☗7五同銀左と決戦するところだったらしい。
最後は植山七段の巧妙な寄せに屈し、悔しい敗戦となった。
私はだいぶ前から☗6四角と切る手を読んでいたのだが、感想戦でそれを言うと、植山七段は関心がないふうだった。下手が大事な角を切ってくれるなら歓迎で、それなら上手も何とかなる、という考えだった。むしろ下手が目を向けるべきは上手王のいる2~3筋で、☗2五歩~☗2四歩を狙うのが本筋、とのことだった。
言われてみればなるほどと思う。半ば団子状になっている金銀を相手にするより、敵王周辺の駒に働きかけるほうが、理に適っている。
ここまでの指し手を植山七段はほめてくれたが、それはたまたま指し手がいい方向にいっただけで、読みの内容はまったく違うことが分かる。よって、終盤に近づくほどボロが出て、疑問手を重ねることになるのも、当然の帰結だった。
それにしても、男性棋士の教えは本当にためになる。私は女流棋士に数多く指導対局を受けているが、感想戦で女流棋士の指摘に感心したことはほとんどない。ここに男性棋士と女流棋士の差がある。女流棋士、とくにLPSA所属女流棋士はもっと男性棋士に指導を受け、根本的な考え方から勉強しないとダメである。
続いてはHon氏と。Hon氏の変態三間飛車穴熊に、私の居飛車。Hon氏の構えは☗3八金、3九銀、4八銀、6七金とおかしいのだが、そこには彼なりの考えがあることを帰りの車内で聞いて、私は大いに唸ることになる。この将棋は私が勝った。
続いてはR氏と。今回の合宿は手合い割制なので、R氏とは角落ちか飛車落ちになる。
ところがR氏は、自分の持ち時間が20分・30秒、私が初手から20秒、という変則ルールを提示してきた。この条件なら私も望むところだったが、対局が始まってみると上手がなかなか厳しく、苦戦を強いられることになった。
こんなにヒドイ将棋になったことにちょっと言い訳をすると、序盤の疑問手を大野七段に指摘され、動揺してしまった、ということがある。こちらは20秒だから、その疑問手を振り返ってしまうと、もう時間がない。そんな形でそのまま指し手を続けていたら、一遍に敗勢になってしまったとうわけだ。ただそれ以上に、R氏の指し手に非の打ちどころがなかったことは、いうまでもない。
本局はR氏の完勝だった。おめでとうございます。
続いてはHak氏との飛車落ち戦。私がいきなり角を換わる趣向に出たが、下手に自然に指され、作戦負けに陥った。このままひとり千日手になっても止むを得ないと腹をくくっていたが、下手が無理に開戦してくれたので、何とか誤魔化すことができた。
時刻は午後12時をとっくに回り、日付は23日になっている。大野七段が手持ち無沙汰のようだ。大野七段は前回の指導対局で17戦全勝。今回も負けなしで、連勝は20を越えたらしい。しかし再び指導対局を仰いでも大野七段の連勝に貢献するだけなので、先日行われた、小倉久史七段戦(王将戦)の自戦解説をしていただく。
お茶の入ったグラスを片手に、棋士の解説をトイメンで聞く。まさに至福の時間である。
この将棋がまた激戦で、息詰まる終盤には聞いているこちらまで息苦しくなった。しかし悲しいかな、変化が複雑すぎて、そばで聞いていた私たちには、さっぱり理解できないのだった。
ただひとつ分かったことは、棋士の読みの量はやっぱりモノスゴイ、ということだった。そんな熱戦譜が新聞にも将棋年鑑にも載らず、日の目を見ずに消えていくとは、何とも惜しい。
時刻は午前2時になろうかというところ。もうほとんどの参加者が床に就き、ラウンジにいるのはW氏と私だけになってしまった。指しましょうか、ということで一局。棋士との交流に力を入れているW氏だが、指し将棋がこんなに好きだとは知らなかった。
手合いは、私がいままで飛車を落としていたが、本局は角を落とした。結果は私の勝ち。時刻は2時20分。初日はさすがに、これでお開きとなった。
成績は、9局指して、5勝4敗だった。
(つづく)
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