一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

この将棋を負ける!? 加藤圭女流二段との指導対局(後編)

2024-01-15 22:36:19 | 女流棋士の指導対局会

第5図以下の指し手。△4六歩▲2四歩△5六銀▲4六飛△5七歩▲2六飛→4八金△4五歩▲2六飛△1四金▲2三歩成(第6図)

第5図をAIにかけたら、80:20くらいで下手が優勢ではなかろうか。加藤圭女流二段、ちょっと緩めすぎたようだ。
第5図から△5六飛は、▲同飛△同銀▲5三飛。もはや上手指しようがないのではと見ていると、加藤圭女流二段は、△4六歩と垂らした。
おまじないみたいな歩だが、ふだんの私なら、なんだこんな歩、とすぐにむしり取っただろう。
だが▲4六同飛だと△2四歩とフタをされるのを嫌った。私はすぐにでも▲2四歩を打ちたいのだ。
それに、▲2四歩に△5六銀ときたら、そこで▲4六飛と取ればよい。それで▲2四歩と打ったのだが、我慢が足りなかった。
本譜△5六銀に▲4六飛。△5七歩に、私は記譜を付けたあと、▲2六飛と回った。これが大ポカ。△5八歩成で金がタダだからで、あとで指そうとする手を先に指してしまった。
「待ったにしましょうか」
と、待ったを所望する私が偉そうなことを言い、待ってもらった。
とはいえ、指導対局とはいえ、待ったは恥ずかしいこと。ここで戦意が若干失せた。そんな私を尻目に、加藤女流二段は△4五歩。これが味な歩で、▲同桂は△同銀▲同飛△5六桂で上手の攻めが続く。
よって私は▲2六飛とよろけたが、△1四金に▲2三歩成として、まだ下手が有利である。
ところが……。

第6図以下の指し手。△4七銀成▲同金△5八歩成▲5五歩△6九と▲同玉△1五金▲5六飛(第7図)

△4七銀成が味な手で、▲同金△5八歩成以下、金銀交換になってしまった。金銀交換はいいとしても、▲6九の金が敵の駒台に載ることは想定していなかった。
戻って、第5図の△4六歩には、やはり▲同飛だった。そこで△5六銀なら、▲5五歩△5七歩▲4八金△6五銀▲2四歩△1四金▲2三歩成△3一角▲4三歩成(参考図)となる。

まあこうはならないが、私が▲4六同飛とすれば、意外とその局面になったかもしれない。しかしそれでは、どっちが上手か分からない。
なお、▲4六同飛に△2四歩なら、▲2五歩と合わせて下手十分だった。
本譜に戻り、△1五金は妙な金の使い方。でもこの金は半分死んでおり、まだ私が有利である。

第7図以下の指し手。△2五金打▲同桂△同金▲3六金打△同金▲同金△8四桂(第8図)

△2五金打には驚いた。桂の利きに打つ手で、まったく考えていなかった。
とりあえず▲同桂と取るが、△同金に▲3五銀の助け方が難しい。ここで黙って▲2二とでもいいのだが、△3五金と銀を取られた形は、もうこの金は遊んでいない。
よって私は▲3六金打としたが、△同金▲同金で、結局1五にいた遊び金が、盤上から消えてしまった。これは上手も捌けた形であろう。どうも流れが良くない。
というところで、△8四桂。この桂にはどうするか。

第8図以下の指し手。▲4五金△6五金▲5九飛△7六桂▲7七角△6八桂成▲同玉△7六金▲2二と△7七金▲同桂△3七角(第9図)

△8四桂は、すぐに△7六桂と跳ぶ手はないが、△6五金と打てば跳べる。よって▲8五銀と先受けすればいいのだが、貴重な銀を手放したくない。それで、何かのときの△5五飛を防ぐべく、▲4五金とした。
加藤女流二段は予定通り△6五金~△7六桂。想定済みとはいえ、いざ指されてみると、存外厳しいのには参った。
私は▲5九飛と縦に引いたが、これもどうだったか。でも、ちょっと分からなかった。
△6八桂成には▲同角が予定だったが、玉の周りに飛角が集まるのはよくない。それで▲同玉と取ったが、加藤女流二段は△7六金と活用し、好調である。ああ、やはり▲6八同角と取るべきだった。
私は▲2二とと角を取ったが、こんな角はもはや要らない。しかし、何かのときに活用されたら面倒なので、イヤイヤ取った。
加藤女流二段は角を取って△3七角。加藤女流二段の指がしなってきた。

第9図以下の指し手。▲4七金△5九角成▲同玉△7九飛▲4八玉△7七飛成▲4三歩成△3六歩▲5七玉△6六銀▲4六玉△6七竜▲5四桂△同銀▲同歩△5五桂(第10図)

第9図で飛車が横に逃げると、△5五角成▲同金△同飛がある。あの飛車に捌かれると下手が負けるので、それだけは許すまいと、▲4七金と打った。
加藤女流二段は、飛車角を換え、△7九飛から桂を補充する。もはや流れは上手で、これは負けにしたかもしれない、と思った。
そこで私の▲4三歩成が悪手。いまと金を作っても、まったく意味はない。ここは何はともあれ、▲3七玉と早逃げすべきだった。
それを防ぐ△3六歩が加藤女流二段の好手。加藤女流二段は歩の使い方がうまいと思った。まあ、プロだから当然だが。
私は▲5七玉と迂回して上部脱出を試みるが、第5図で私が目指していたのはこんな展開ではない。私に闘志は残っていなかった。

第10図以下の指し手。▲5五同金△同銀▲同玉△6五竜(投了図)
まで、112手で加藤女流二段の勝ち。

▲5五同玉で上に抜けられると思ったが、錯覚。△6五竜で捕まっていた。
私が投了すると、観戦していた大野八一雄七段が「(▲5五同金で)▲4八金と引いたら?」と言った。まったく読みになかったが、もう私に粘る気力は残っていなかった。
加藤女流二段は、「(第8図から)▲8五銀だと思った。△7三桂でも▲8四銀△同歩で……(上手は指す手が難しい)」が第一声だった。「飛車を取れてよくなったと思いました。……でも(序盤で)2~4筋を抑えられてしまって」
私は、この将棋を負けるかと、自分のバカさ加減に呆然とした。第5図から負ける下手はいるかもしれないが、第5図を作った同一人物がその後負けることが信じられない。
「大沢さんと久しぶりに指せて楽しかったです」
と加藤女流二段。私は言葉を返すことができなかった。
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この将棋を負ける!? 加藤圭女流二段との指導対局(前編)

2024-01-14 21:16:48 | 女流棋士の指導対局会
昨年12月23日、大野教室の企画にて、宮嶋健太四段に指導対局をいただいた。引き続き、加藤圭女流二段との指導対局に入る。
加藤女流二段は2018年2月、26歳で女流棋士3級となる。ずいぶんな晩学だが、ブランクが12年ある。この期間を将棋に充てていれば、いまごろタイトル戦の常連だったのだが、これも運命である。
しかしデビュー後の加藤女流二段は快進撃を遂げ、女流名人と女流王位のリーグに入った。新設の白玲戦・女流順位戦ではA級を確定し、女流二段に昇段した。元から実力はあった加藤女流二段、一気に花が開いた感じだ。
私はデビュー前の加藤女流二段と何局か指しているが、鉄の塊のような力強さがあった。こう感じたのは、加藤女流二段と上田初美女流四段だけである。
さて、指導対局である。加藤女流二段に「手合いは?」と聞かれ、平手を所望した。さすがに宮嶋四段と同じ手合いというわけにはいくまい。ただ、左の男性は、宮嶋四段のときと同じ、飛車落ちを所望していた。

初手からの指し手。▲7六歩△5四歩▲5六歩△5二飛▲4八銀△3四歩▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二玉▲2六歩△3三角▲2五歩△4二銀▲5八金右△8二玉▲5七銀△7二銀(第1図)

▲7六歩に、加藤女流二段が遅ればせながら「希望の戦型はありますか?」と言った。私は何でもよかったが、相手の得意を粉砕するのが将棋の醍醐味なので、「中飛車」を希望した。
△5四歩に▲5六歩が、ひそかな絶対手。中飛車に位を取らせると、下手は駒組が分断されてしまう。5筋の位は保つ、が持論である。
以下はふつうの駒組となったが、△3三角に▲同角成は上手の注文にハマると思い、見送った。
そんな第1図で、次の手は軽率だった。

第1図以下の指し手。▲4六銀△4四歩(第2図)

私はヒョイと▲4六銀と出たが、マズかった。この銀は▲4五銀と出ても、△8八角成▲同玉△3三銀で、立ち往生する。
よって加藤女流二段はふつうに駒組を進めればよかったのだが、△4四歩。これで通常の居飛車VS振り飛車の形になり、とりあえずホッとした。

第2図以下の指し手。▲3六歩△4三銀▲5七銀△9四歩▲6八銀上△9五歩▲4六歩△3二金▲3八飛△5一飛▲3五歩△同歩▲同飛△6四歩▲3六飛△6三銀(第3図)

私は▲3六歩と突いたが、▲3五歩としても△4五歩があるので、私は▲5七銀と出直す。結果、この2手損が△9四歩~△9五歩と換わったが、端での戦いにしなければ、後悔もしない。以下、私は加藤一二三流袖飛車を目指す。さすがの加藤女流二段も、この戦法は受けたことがないのではないか。
私は1歩を交換して▲3六飛と整え、十分。
対して加藤女流二段の△6三銀は、下手にチャンスが来たと思った。

第3図以下の指し手。▲4五歩△5五歩▲同角△7二金▲4四歩△5四銀左▲8八角△4二金▲3四歩△2二角▲2四歩(第4図)

ころはよしと、▲4五歩。これを△同歩なら▲3三角成で、△同桂は▲3四歩。△同金は▲4二角で下手指せると読んだ。
そこで加藤女流二段は△5五歩と手筋で応戦してきたが、ここは△4五同歩と取る手もあった。以下▲3三角成△同金▲4二角には、△4一飛▲3三角成△同桂▲同飛成△4四角で、上手が指せそう。私はもっと読みを掘り下げるべきだった。もっとも、本局の指導対局も1時間。加藤女流二段もさして考えず淡々と指している感じ。とにかくお互い、時間がないのだ。
▲5五同角△7二金に、▲4四歩の取り込みが大きかった。これを△同銀は▲同角△同角▲3二飛成で、さすがに下手がよい。
△5四銀左に▲8八角と引いて、2歩得は小さくないアドバンテージとなった。
加藤女流二段は飛車筋を避けて△4二金。私は▲3四歩と押さえ、△2二角に▲2四歩。バカに好調で、こんなにうまくいっていいのかと思った。

第4図以下の指し手。△3二金▲2三歩成△同金▲3七桂△7四歩▲4六銀△6五銀▲3五銀(第5図)

▲2四歩を△同歩なら、▲2三歩△3一角▲4三歩成△同金▲1一角成で下手優勢。よって△5三飛かと思ったが、さすがにそれはない。
加藤女流二段は再び△3二金と寄ったが、私は▲2三歩成△同金で、金を僻地にやった。
さらに▲3七桂と跳ね、△7四歩に▲4六銀、△6五銀に▲3五銀と、この銀まで五段目に間に合ってしまった。▲3七桂には△3一飛で、まだまだ難しい勝負だったと思う。本譜は上手の指し手に覇気がなく、下手に理想形な布陣が完成しては、これは下手、負けようがなくなってしまった。
ところがこの将棋、私が負けるのである。まったく、ひどい悪夢だった。

(つづく)
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島井女流二段の指導対局会は2月8日!!

2020-01-21 00:07:42 | 女流棋士の指導対局会
大野教室の恒例イベント「女流棋士の指導対局会」に島井咲緒里女流二段が登場します。
日にちは2月8日(土)。時間は

A.11:00~12:30
B.14:00~15:30
C.15:45~17:15
(各コマ最大6名)

です。
島井女流二段はLPSA内でも多芸を誇り、多くのイベントでプロデュースを行っています。
昨年は8年振りにシングルに戻り心機一転、18日のLPSA・1dayトーナメントでは、渡部愛女流三段を破る活躍を見せました。
私も指導対局を受けたいところですが、当日はたぶん北海道に行っていると思うので(でもまだ飛行機の予約は取っていない)、残念ながらお邪魔できません。
指導対局料は一般4,000円です。直筆色紙や食事会の有料サービスも用意しています。話好きの島井女流二段のこと、当日は面白い話が聞けるでしょう。
参加を希望される方は、こちらをご覧ください。
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半年ぶりの愛(5)

2019-10-31 00:10:48 | 女流棋士の指導対局会
「3月16日は岩根忍さん、3月9日は加藤桃子さん、3月30日は坂東香菜子さん、3月31日は植村真理さん……」
「あれっ? 植村さんて、3月31日でした?」
飯野愛女流初段が疑問を呈する。
「あ、違うか。バンカナが3月31日で、植村さんは12月31日か」
どうもこの2人の誕生日があやふやで、もう1回勉強し直さなければならない(実際は、植村女流三段は3月16日、板東女流初段は3月31日)。
私はカレーを食べる。だが極度の緊張からか、カレーの辛み、というか味をほとんど感じない。つい最近もどこかで飯の味が分からなくなったことがあったが、私が病気なのだろうか。
飯野女流初段はマイペースの食事である。というか、少食である。渡部愛女流三段も少食で、「愛は少食」なのだ。女流棋士はもっと食わねばならぬ。体力をつけるのも仕事のうちである。
私がタイミングを見計らい、昼の投了図の局面を見せる。夕方時間があったので、この局面を作っておいたのだ。でしゃばってしまい、ほかの棋客には申し訳ないが、これだけは聞かずにおれなかった。
「ここで△8一玉と寄られたら、上手玉が寄らないんです」
「エッ…!? 全然気付きませんでした」
飯野女流初段はしばらく盤面を眺め、あらためて唸る。「ここから指し直したいです!」
それは私も歓迎だが、さすがにそれは無理だ。
でも飯野女流初段はしばし考え、「▲5三桂成で私の負けです。よかった」と結論づけた(参考図)。

私は「△5七歩成▲3八玉」の2手が入っていればまた違うと思うのだが、ここは飯野女流初段の見解を尊重した。
W氏が、そろそろ席を替わってください、と告げた。しかし飯野女流初段は心の準備ができていなかったのか、「あと5分」と、ここの滞在を延長してくれた。

飯野女流初段があちらに移り、ここからは男だけのおしゃべりである。いつもはこのパターンなのに、マドンナがいなくなり、灯が消えたようだ。
私はみなにカレーの味を聞く。と、「薄味ではあるがスパイスが利いていて美味しい」とのことで、これはマジで私の舌がおかしいようだ。
とりあえず将棋の話題とする。右の男性は会社を休んでタイトル戦の解説会に赴くこともあるという。将棋ファンとはありがたいものである。
あちらでは、マイナビ女子オープンの話題が出ているようだ。
「予選の1回戦を勝つと、(チャレンジマッチ行きを回避でき)寿命が伸びた感じです」
との声が聞こえる。やはりあちらのほうが盛り上がっている。
こちらは向かいの男性が、「日曜は仕事だから」と言った。
「たとえ日曜でも、仕事があるのはいいことです」
と私。これは私が数年前から言っていた持論である。
そんな私の状況を察し、斜め向かいの某氏が
「私が社長だったら(一公さんを)採るんですけどねえ」
と言ってくれた。
だが私が採用担当者なら、こんな学歴も職歴もいい加減の、50過ぎの独身男は採用しない。まして2ヶ月で会社を辞めたならなおさらである。
ここらでW氏からストップが出て、お開きとなった。楽しい時間は、過ぎるのが早いのだ。飯野女流初段は今日もかわいらしく美しく、ヒトを惹きつける華があった。
将棋ファンが棋士や女流棋士に将棋を指導してもらうこと、それは野球ファンがプロ野球選手にコーチしてもらうことに等しい。そして女流棋士との食事会は、アイドルとのそれになるのだろうが、どちらの後者もまったく叶わないことを考えると、将棋界は本当に恵まれていると思う。大野教室に感謝であり、それに参加できる私たちは、幸せである。
また機会があれば、参加したいと思う。
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半年ぶりの愛(4)

2019-10-30 00:11:10 | 女流棋士の指導対局会
小池都知事がんばれ!

   ◇

(25日のつづき)
長照寺を辞し、和光市駅には徒歩で向かった。駅前の蕎麦屋に着いたが、中には何人かいて手狭である。私はそのまま電車に乗った。
行きとは逆のルートで、朝霞台で下車。現在16時29分である。武蔵野線は16時44分のに乗ればいいので、小諸そばには入れる。
現在、鶏の唐揚げ2ヶ増量のサービス期間だが、それは定食類を頼んだらの話。私は定番の二枚もりを頼んだ。なお税込350円は、価格据え置きである。
蕎麦は茹でたてで、アルデンテがあって美味かった。小諸そばは数人前の蕎麦を茹で置きするが、やはり茹でたては一味違う。
武蔵野線、京浜東北線と乗り継ぎ、大野教室に戻ったのは17時15分だった。3回戦終了と同時刻で、これは珍しく予定通りいった。
もっとも何局かはまだ続いていて、飯野愛女流初段は飛車落ちの将棋の感想戦をやっていた。その教えはソフトで、やはり将棋は、女性に教わるのがベターだと思う。
すべての将棋が終わったときは。17時30分を過ぎていた。
今日の食事処は川口駅近くのインドカレー屋である。レギュラーの一軒だ。
参加者は多くが3回戦からの流れで、1回戦の対局者は私くらいだ。だけど、長照寺で将棋ペンクラブの連中とダベるより、美人女流棋士と会食したほうが何倍も楽しい。
いや違う。長照寺では、小柊さんも参加したかもしれないのだ。今日の行動はベストと信じていたが、とんだ伏兵が現れた。私は選択ミスを犯したかもしれない。
飯野女流初段は後から登場で、私たちは先に向かう。道すがら、大野八一雄七段に昼間のことを聞かれた。
「いや~、飯野先生との将棋を考えていて、あまり楽しめませんでした。
あの将棋、私負けていたんです。投了の局面で△8一玉と寄られたら詰めろが掛かりません」
「そうそう、だから愛ちゃんが先に△8一玉と寄るのかと思った」
「……」
やはり大野七段も気付いていたのだ。
「寄席で寄せを……」
「そうです、寄席で寄せを考えてました」
まったく、締まらぬ話である。
カレー屋は、いつもの奥の部屋だった。ここに来るのも数ヶ月ぶりである。
テーブルは大きく2つに分かれており、私は奥に向かった。今日の参加生徒は8人で、大野七段は所用があり、退席した。よって、W氏を含め総勢10人となる。
飯野女流初段が入室した。テーブルとテーブルの間の近くの席に座るのがいいと思ったが、飯野女流初段は私の右に座った。30分ほどしたら、あちらの席に移るということだ。売れっ子ホステスみたいである。ちなみにこちらのテーブルは5人+飯野女流初段、あちらは3人+W氏である。ではここで、席の配置を記しておこう。

男性 某氏 男性  男性 男性
   □        □
一公  愛  男性  男性 W

私は緊張してしまい、まともに飯野女流初段の顔を見られない。恐る恐る窺うと、小さい顔がそこにあった。
すでにオーダーはされている。私は「チキン・チキン・ライス」である。W氏が給仕係も兼ねていて、まずは私のを持ってきてくれた。
「あれ? ナンじゃないんですね」
と飯野女流初段。
「あ、ああ、カレーにはライスです。ナンは、20年以上前に地方で食べたことがあるけど……」
私が若手のサラリーマン時代、ユースホステルで知り合った女性(2人)と、大阪で何度か会ったことは当ブログにも書いた。この時入ったバイキングレストランで、カレーにナンを食べたのだ。今となっては甘酸っぱい記憶である。
現実に戻り、どうもみなの話だとナンが大勢で、「ナンを食べられるのだからここはナンで」ということらしい。
「パンはお嫌いですか?」
飯野女流初段に聞かれる。
「いえ嫌いじゃないですけど」
一段落すると、再び
「パン(はいつも)食べません?」
「……先生、けっこう(追及が)来ますね」
飯野女流初段が苦笑いした。
「街には高級食パンとか売られてますけど、食べたことはあるんですか?」
「あります。パンを切ると香りがよくて、たまりません」
高級パンはおカネはかかるが、一度食べると病みつきになるそうだ。
ところで、私の隣に独身女性が座るのは久しぶりである。向かいだと社団戦の打ち上げでAkuさんが座ったが、横はあったろうか。ああもう、その記憶がない。私はどれだけ味のない人生を送っているのだろう。
ほかのメンバーは知った顔もあり、右斜め前の男性は、指導対局会でも、先日の将棋ペンクラブ大賞贈呈式でもお話した。
とはいえ棋客と話すこともないし、私は飯野女流初段に話を振る。
「先生、最近の対局はどうです?」
「まあまあです」
「最近は、新しい組み合わせとかはないんですか?」
「清麗戦です。第2期の」
「ほう、初戦は誰と?」
「渡部愛ちゃんです」
「あっ!」
この組み合わせは注目である、と自ブログに記事にしながら、すっかり忘れていた。
聞くと飯野女流初段は渡部女流三段とよく一緒のイベントになることがあり、連名で色紙を書いたこともあるという。お互い落款も似ているので、書く位置を間違えたこともあったとか。
対局日は決まってますか、と誰かが問うた。
「11月5日です」
「おおゥ、鈴木環那さんの誕生日だ」
と、これは私。
「よくご存知ですね」
「はい、飯野先生はもちろん11月17日。分かってますよ」
「ああ…11月のほかの女流棋士の誕生日はご存知ですか?」
「11月30日は中村桃子さんですね。11月14日は和田あきちゃん。ちなみに11月13日は木村拓哉」
私は「似ているシリーズ」で女流棋士の誕生日に敏感なので、割に憶えている。
「じゃあ16日は誰でしょう?」
「16日。あれ……?」
11月16日は、誰かいたはずだ。似ているシリーズで書いた覚えがある。
「ああ分かりません」
「上田初美ちゃん」
そうだった! 私としたことが、上田女流四段の誕生日を忘れるとは……。「11月は多いんですよ」
「でも3月も多いですよ」
私は汚名返上とばかり、いらぬことを口にした。
(つづく)
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