一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

9月28日のジョナ研(後編)・Kun-Fujの名局

2012-09-30 00:10:30 | ジョナ研
Hon氏とFuj氏が席を替わって、Kun氏とHon氏で対局開始。Hon氏の先手で、▲7六歩△3四歩▲6六歩に△3三角。早くも趣向が出た。数手後、相四間飛車になった。
私の向かいに座ったFuj氏は、私の目をまっすぐ見て将棋の話をする。それはいいのだが、私は隣の将棋が気になってしょうがない。
結果、Fuj氏の話に相槌を打ち、将棋を観戦するという、おかしな態勢になった。
Hon氏の得意は▲6七金型から穴熊に潜り、▲3八金・▲3九銀の簡易な囲いで済ませる変態的なものだが、きょうは美濃に組んでふつうの指し方をしている。
しかし相振り飛車ならKun氏の土俵だ。指し手もゆうゆうとしている。Hon氏、▲7五銀から6筋、8筋の歩を突き捨て、▲6四飛~▲8四飛~▲8五飛と捌く。先に銀を損して、▲5五角(と銀を取る)△同角▲同飛。しかし直後の△6四角が厳しかった。飛車が逃げれば△1九角成の香取りが厳しい。
実戦もそのように進み、Hon氏も反撃するが、▲4五飛と飛び出したのが一手バッタリ。△4四香と打ち返され、いくばくもなくHon氏の投了となった。
感想戦ではKun氏の「相フリ講座」のようになった。相フリは独特の将棋観が要求されるが、Kun氏の講義は論理的で分かりやすい。相手の左銀の位置によって囲いも変える、というくだりは思わず唸った。私は相振り飛車が得意ではないので、参考になった。
時刻は午後10時を回り、ここでHon氏が退席。
今度はFuj氏がKun氏に挑むことになった。私たちはつまみを頼む。時間的に、これが最後のオーダーだ。
Fuj氏の先手で、▲7六歩△3四歩に、▲6六歩。Fuj氏はジョナ研デビュー当時は、振り飛車と横歩取りを指さなかったので、これを見れば矢倉への誘導と思える。しかしKun氏は振り飛車党である。どうするかと見ていると、4手目△3三角に▲7八飛と振った。最近Fuj氏は振り飛車も勉強しているようで、当初からの作戦だった。Fuj氏といいHon氏といい、この研究熱心さには頭が下がる。
対してKun氏も向かい飛車に振り、またも相振り飛車となった。
しかしまたもやKun氏の土俵である。Fuj氏、浮き飛車から▲6六角と上がったが、何でもない手に見えたこの手が疑問手だった。すかさず△4五歩と開戦した手が機敏。やむない▲3三角成△同桂に、△8八角を防いで▲6六角と打つようではFuj氏、おもしろくなかった。
Kun氏、△7八角。△8七角成と、のちの△4五角成を見た好手。これでKun氏がよくなったようだ。
Fuj氏は大苦戦だが、△4五桂の金取りに、▲5五角と覗いた手が、一発逆転を秘めたFuj氏らしい手だった。
いまは後手飛車の横利きがあるが、桂が入れば▲7四桂の狙いが生じている。Kun氏は金を取り寄せに出るが、Fuj氏も決め手を与えない。遅まきながら端を破って、反撃を試みる。しかし△7一玉が当然ながら好手で、後手玉が広い。
ウエイトレスさんが食器を回収したり、灰皿を取り替えたりするが、私たちのピリピリムードに、困惑しているふうだ。
Kun氏は網を徐々に絞り、Fuj氏、絶体絶命。しかし▲3五銀~▲4四金~▲4三歩と手順を尽くして、▲4六玉がいい粘り。一手を争う名勝負となった。
ヒトの将棋ながら、この局面を以下に記そう。

先手・Fuj:1七歩、2五歩、3五銀、3六歩、3八銀、4三歩、4四金、4六玉、5六歩、6五歩、8二成桂、8四飛、8七歩、9九香 持駒:桂、香、歩3
後手・Kun:1四香、1五歩、1九竜、2六歩、3一玉、6一金、6三歩、7二銀、7三歩、7四香、8一桂、9四歩 持駒:角2、金2、銀、桂、歩3

以下の指し手。△6六角▲7二成桂△5七角打▲4五玉△3五角成▲同歩△4四角▲4二銀△2一玉▲2四香△2二桂▲4四玉△5二金▲8一飛成△5一歩▲2二香成△同玉▲3三銀成 まで、Fuj氏の勝ち。

△6六角にFuj氏は▲7二成桂と銀を補充する。とうとうこの手が回った。
Kun氏は△5七角打から△4四角と金を取ったが、▲4二銀~▲2四香の利かしから▲8一飛成が厳しい。仕方のない△5一歩に、▲2二香成以下Fuj氏の勝ちとなった。
激闘の幕切れに私たちは放心したが、すぐ感想戦に入る。まず、△4四角では△3三桂で、先手玉に即詰みがあることが判明した。▲3三同金は△4四金。▲3四玉は△2三銀で、まだ金銀3枚があるから詰み。また▲5四玉も△5三歩で、どう応じても詰みとなる。
「そうかあー!!」とKun氏が天を仰ぐ。
序盤に戻り、中盤にかけて、いろいろ変化を突っつく。
さらに進んでKun氏が悔やんだのは、終盤で△7四飛と回ったあたりだ。▲7四桂を防ぐべく、どこかで△7四金と打つところ、とKun氏は主張した。
Kun氏は大野教室の生徒だが、もし大野先生だったらどう指すか、を考えながら指すと、いい手が浮かぶことがあるという。
△7四金はいかにも大野八一雄七段が指しそうな手だが、実戦的には打ちにくい。ましてや捌きのKun氏には似合わない手に見える。
しかしKun氏は、「いえ、ここは打たないと」と、何度も7四の地点に金を打ちつけた。
ともあれ、ファミレスで見るにはもったいない熱局で、観戦した側から言えば、ありがたいことだと思う。おふたりに感謝、であった。
時刻は11時半を過ぎていた。Kun氏の退席時間がだんだん遅くなっているが、ギリギリ大丈夫のようだ。
伝票の数字は「10,547円」になっていた。
きょうも濃密な時間だった。私たちは心地よい疲れを感じて、駒込ジョナサンを後にした。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

9月28日のジョナ研(前編)・「一公ブログ」を全員で読む

2012-09-29 02:12:12 | ジョナ研
私が愛用している毛生え薬は、1日2~3回使用とのことなので、寝る前と昼過ぎに付けている。忘れがちなのは昼過ぎのほうで、気が付くと夕方になっていることが多い。
鏡を見るとハゲが目立たなくなってきた気もするが、これは単に周りの髪の毛が伸びて、ハゲの部分を覆い隠したにすぎない。錯覚なのだ。
まだまだハゲの自覚が足りない。こんなことでは毛髪の回復も夢のまた夢である。大いに自戒したい。

28日(金)はジョナ研があった。家を出る前に毛生え薬を付ける。
駒込ジョナサンには午後6時45分に入った。いつもはもう少し遅いのだが、Hon氏が先着していることが分かっているので、話し相手になるつもりだった。
入口にいたウエイターさんが私を見るなり、「あちらです」という。私もすっかり顔を覚えられた。
Hon氏の向かいに座って、まずは社団戦の話。9月の社団戦は団体個人戦で、それぞれが勝ち進めば成績に応じてポイントが付くから、そこそこ重要ではある。
しかし開催が23日(日)で、意表を衝かれる。「社団戦は最終日曜日」というイメージがあるからだ。そしてHon氏も勘違いし、当日は不参加だったという。
LPSA星組は3部で下位のほうである。いまさらポイントを稼いだところで大勢に影響はない気もするのだが、将棋バカのHon氏にしては不覚だった。
私はキャンペーンメニューを頼む。まだふたりなので、LPSAの話を少々。Hon氏は今年に入って、LPSA芝浦サロンに一度しか顔を見せていないという。それは私も同じで、3月の渡部愛女流3級のときに教わりに行ったきりだ。
サラリーマンは会社の帰りに寄れるからまだいいが、私の場合は自宅から向かわなければならず、これがすこぶる億劫である。金曜サロンのときのように、手合い係に植山悦行七段がいる、棋友と談笑できる、などの付加価値がないと、なかなか足が向かない。
ただ、LPSAは10月から、午後7時以降の入席は2,500円というサービスを始める。ジャンジャンマンデーも7月から料金を値下げしているし、サロン未体験の愛棋家も訪れやすい環境になってきている。私も機会があったら、またサロンにお邪魔しようと思っている。
7時40分、Fuj氏が来た。その13分後、Kun氏も来た。きょうはこの4人。ちょっと少ないが、私以外の3人は要職に就いている。この時間に4人も集まるほうが不思議なのだ。
Kun氏が生ビールを頼む。そのウエイトレスさんは、渡部女流3級似だ。
将棋談議を続ける。きのう(27日)の王位戦・森内俊之名人と中座真七段の一戦は、中座七段が勝った。平幕が横綱に勝ったようなもので、殊勲の銀星だ。
しかしFuj氏はこの事実を知らなかった。将棋バカのFuj氏にしては珍しい。
そのFuj氏が、「将棋クイズ」なるものを作ってきた。私が先日、「Fuj氏が一公ブログカルトクイズを作ってきたら、当ブログに掲載スペースを提供する」と言ったのを真に受けたらしい。
そのクイズを見ると、2級・4級・6級・9級と振ってある。10月21日に行われる将棋文化検定を意識したものだ。それが約50問。そしてこのクイズがすこぶるむずかしい。9級からしてすでに難問で、本文を書いた私でさえ、迷ってしまう。もうお腹いっぱい、という感じだった。
このクイズ、Fuj氏の掲載希望日は10月21日。将棋検定の日に合わせたいらしい。Fuj氏にそう言われたら、叶えないわけにはいかないだろう。
これは手書きだったが、次回の「大野教室」でワープロ打ちしたものをくれるという。このクイズを誰が解くのか分からぬが、正式なクイズ集が出来上がるのが楽しみである。
そしてお待ちかね、Fuj氏がカバンから、「一公ブログ」のプリントの束を取り出した。Kun氏は見るのが初めてだが、その分量に圧倒されて、苦笑い。
この「労作」の正体、Kaz氏などは「一公氏とFuj氏の実戦の棋譜を、戦型別にまとめたもの」と予想したらしいが、このプリントの束は、はるかにそれを凌駕した。
Fuj氏がエピソードのいくつかを私に話すのだが、私は書いた事実をすっかり忘れている。そのたびにFuj氏は、「ここに書いてあります」と自慢気に該当ページを繰るのだ。Fuj氏、こんなブログを読んでどこが楽しいのだろう。
ちなみに私と植山七段、大野八一雄七段との指導対局戦績は、それぞれ10勝21敗と11勝41敗らしい。私でさえ最近は集計していないのに、なんでFuj氏がそれを知っているのだ。ほかにやることがないのか? もう訳が分からない。
しかし4人は、しばしブログを読み耽る。何だか異様な光景だった。
9時を過ぎた。Kun氏がHon氏に、「きょうは将棋盤を持ってきてますか?」と問うた。ようやく実戦の開始である。
(つづく)
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日レスインビテーションカップを見た感想(後編)

2012-09-28 00:18:28 | 女流棋戦
・準決勝第1局 中井広恵女流六段-島井咲緒里女流二段
ここまでくればあと一息。後手島井の四間飛車穴熊に、中井は左美濃に組む。両者の十八番だ。中井は銀冠に組み替え、島井は△9四歩。結果論だが、この手がどうだったか。ほかに有効な手があったと思うのだが。
66手目△1四歩に、▲9五歩が狙いの端攻め。△9四歩を指さなければ、この手はなかった。
中井は歩の手筋で香得を果たし好調。島井はお返しとばかり、銀頭に△5六歩と叩く。しかしこれが敗着。次の▲9四香が痛打だった。
将棋には、「この手が指せれば理想だけど、なかなか実現しない手」というのがある。美濃囲い相手の▲7四桂や、穴熊相手の▲8三桂がそうである。歩の裏側から香を打つ▲9四香も、その類であろう。どうして島井がこの手を許したのか、理解に苦しむ。島井は今期のマイナビ女子オープンや女流王座戦で本戦入りを果たし、女流名人位戦B級リーグにも入った実力者である。しかしこういう注意力散漫な手を見せられると、その信頼も揺らいでしまう。
仕方ない△9三桂跳ねに、▲同香成を島井は見落としていたか。▲同香不成なら△8一玉で、▲5六銀と手が戻ると勝手読みをしていたのかもしれない。
勝手にしてよの△5七歩成に、▲7三角成~▲9六香が詰めろになっては、大勢決した。私ならここで投了する。
以下14手進んで、中井勝ち。順当に決勝に進出した。

・準決勝第2局 船戸陽子女流二段-渡部愛女流3級
渡部の先手で、相居飛車の立ちあがり。しかし12手目の△7二銀に違和感がある。得意の雁木にするなら△6二銀が形だからだ。▲7七銀に△8三銀。この手が早くも敗着となった。ここではまだしも△7四歩と突き、△7三銀~△6四銀の攻勢を目指すべきだった。
船戸は4手後に△2二飛。形の上では陽動振り飛車だが、これは船戸の得意形ではない。相手の意表を衝いても、自分が指し馴れていなければ意味がない。
両者の対戦成績は船戸のほうがよい。本局だって、いつもの船戸の将棋を指せばよかったのだ。そこで手を変えてしまうのが、実戦心理というものか。
話を戻すが、△2二飛は、渡部が引き角から▲2五歩を決めたから、実現したもの。つまり渡部が誘ったともいえ、渡部からすれば、対振り飛車は歓迎だったということになる。
46手目の△6五歩に、堂々と▲同歩が渡部の実力を示した一手。ここで別の手を指すと、△6五に位を張られていけない。
私も植山悦行七段からの指導対局で似たような局面が現われ、私が銀桂交換の駒得をあえて見送り、4五に位を張ったら、バカにうまい展開になり、快勝したことがある。
また本局の18日後に指された王座戦第3局でも似たような形が現われ、羽生善治王位・棋聖が銀桂交換の駒損を甘受し、以下快勝した。
本局も王座戦同様、▲7七同桂と左桂を活用する味がいい。ここで渡部持ちになった。
55手目の▲6五歩も落ち着いた一手。こうしてじっとしているのがいいのである。まるで成田弥穂さんの指し手を見るようではないか。
ここからゴチャゴチャした指し手が続くが、78手目△2五銀はつらい。ここは歩で間に合うところだからだ。船戸には、負けても指せない手を平気で指すところがある。それは、勝てば粘りの手だが、負ければ見苦しい手、ということになる。△2五銀にそこまでの罪はないが、この銀を打つくらいなら、私なら投了していたかもしれない(これは言い過ぎ)。
▲3二飛から▲3一飛成と、角がボロッと取れては勝負あり。以下の指し手は無意味だった。
本局は船戸の作戦ミスに尽きる。船戸は昨年の決勝戦で惜敗し、本棋戦には人一倍闘志を燃やしていたはずだ。それがどうしてこんな指し手になったのか。闘志が空回りしてしまったのだろうか。
対して渡部は、堂々の勝利。中井女流六段との決勝戦では、いい将棋を見せてくれるだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

日レスインビテーションカップを見た感想(前編)

2012-09-27 00:35:19 | 女流棋戦
きのう26日から、スマホ2年目に入った。スマホを使うのも良し悪しで、機会があったら詳しく記したいが、個人的には、やっぱり所持しないほうがよかった。

第6回日レスインビテーションカップ決勝戦・中井広恵女流六段と渡部愛女流3級の一戦は、29日(土)に行われる。
そこできょうとあすは、1日に行われた2回戦と準決勝戦を振り返る。きょうは2回戦4局。

・中井広恵女流六段-和田あきアマ戦
後手・中井は居飛車の本格派。和田アマは居飛車党だが横歩取りは指さないので、矢倉は予想された立ち上がりだった。
和田アマは受け将棋で、お行儀のいい手を指す。若いのだから、妹のはなさんのように、もっとガンガン攻めてもいいと思う。
本局は大豪相手に堂々の指し回し。中井の指し手にも問題があったのだろうが、もともと中井は、対局者の棋力に合わせて「いい勝負」にしてしまう、妙なクセがある。女流王将戦や倉敷藤花戦で挑戦者決定戦に進むかと思えば、女流名人位戦B級リーグで2勝5敗の星になるなどが、いい例である。
この日の中井は、きもの姿。Kaz氏によると、もし私がいたら失神したのではないか、とのことだったが、写真を見る限り、今ひとつだった。ちょっと艶やかさが足りなかった。女流棋士ファンランキング1位への注文は厳しいのだ。
64手目△2五桂に、▲2六歩の突き捨てが指し過ぎ。ここは単に▲4五歩と桂を取るところ…とは終わったからいえるのであって、実戦では飛車の捌きと▲2四歩を見て、こう指したくなるところである。和田アマは運がなかったのだ。
74手目、△6九銀とカケた手が厳しかった。矢倉崩しの手筋だが、こうも綺麗に決まった例は珍しい。
89手目▲5一銀は、代わる手がむずかしいとはいえ、どうなのだろう。こんなところに銀を打って、幸せになれるとは思えない。
本譜は中井が綺麗に寄せて、制勝。3連覇に向けて視界よし、というところ。

・鹿野圭生女流二段-島井咲緒里女流二段
ともに振り飛車党だから、本局も相振り飛車になった。後手鹿野の美濃囲いに対し、先手島井は▲3八金-▲4九玉。島井のマイブームだ。
45手目、▲9四歩。相振り飛車において島井の端攻めも定評のあるところ。手駒に何もなくっても、何やかやと手にしてしまう。
本局、島井の攻めも一気には決まらず、むずかしい戦いが続いたが、結局寄り倒してしまった。最近、相振り飛車では美濃に囲う例が多いが、こういう端攻めを見せられると、端の備えがある金無双が優っているのではないか、と思ってしまう。
鹿野は序盤から受け一方で、終盤は粘るのに疲れ、根負けしてしまった感じ。どこかで先手玉に嫌味をつけておきたかった。
いずれにしても本局は、「シマイ攻め」の名局といえる。

・石橋幸緒女流四段-渡部愛女流3級
渡部の先手で▲7六歩△3四歩▲2六歩△3三角。乱戦を好む石橋が、早くも4手目に注文をつけた。ただし石橋の本領は、本格的な将棋にあると思う。ふつうに指せば強いのに、策士、策におぼれて自ら転ぶことがある。
対して渡部は角を換え、自然の指し回し。かつては振り飛車党だった渡部、すっかり居飛車が板についてきた。そのブレザー姿も、なんちゃって女子高生のようで、高揚感を覚える。
ここから中終盤の攻防は見応えがあった。もし私が現地に行ったら、解説そっちのけで、かぶりつきで本局を見ていただろう。
終盤は一手を争う激戦。しかし110手目△7五桂▲同歩に△7六金が、焦った。ここは△4三角▲7六桂△3四角とギアを緩めるところ。しかしその前109手目に、渡部が▲3四歩と、詰ましてみろと開き直ったので、石橋に詰まさねばならない、という強迫観念が生まれてしまったようだ。ここに微妙な綾があった。
渡部は辛勝で準決勝進出。しかし両者とも本当に強いと思った。

・船戸陽子女流二段-大庭美樹女流初段
序盤、先手船戸が棒銀に出れば、後手大庭は右玉模様で迎え討つ。早くも両者の棋風が出た。
大庭△2二飛に、船戸▲6六角。△8四歩を取られてはならぬから大庭は△8二飛と戻るが、△8五歩と伸ばしたあと、再び△2二飛と回ったのには驚いた。
こうしたのらりくらりとした指し方が大庭の得意とはいえ、立ち遅れ感は否めない。
のちに△2四歩と突いたが、△2五歩と取りこんでも▲2三歩△同飛▲3二銀があっては、狙いが中途半端だ。ただし、この茫洋とした指し手が、大庭の持ち味ともいえる。52手目△3六歩、60手目△3四歩など、落ち着いた歩の使い方が参考になった。
対して船戸も、いつもの元気な攻めは影をひそめ、じっくり間合いを計る。ことに59手目▲6九玉、93手目▲7八玉は、プロから見れば当然の一手なのかもしれぬが、らしからぬ手で、渋かった。
船戸は昨年の同棋戦のファイナリスト。ここで負けるわけにはいかないのだ。
大庭も渋さでは負けていない。丁寧な指し方は一貫しており、決して暴発しない。これは真似できぬことである。
優劣不明の戦いが続いたが、107手目▲4一角成に、大庭の△2九飛がしくじった。ここは△1七の成銀を逃げておくところ。船戸に香を逃げつつ成銀を取られては、一遍に大庭が苦しくなった。
じっくりした将棋を好む大庭が、攻めに逸って飛車を打つとは信じがたい。1分将棋の弊害が出たか。
以下は一手一手の寄せ。最後は船戸が大庭玉を鮮やかに詰ました。

以上4局とも、実に見応えのある熱戦だったと思う。
(つづく)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「近代将棋」元編集長・永井英明氏を偲ぶ

2012-09-26 00:02:20 | 愛棋家
9月24日、「近代将棋」元編集長・永井英明氏が亡くなった。86歳。
「永井英明」といえば、「近代将棋」が代名詞である。昭和25年、英明氏が編集長となって、同誌を創刊。英明氏24歳のときだった。執筆陣には木村義雄名人、大山康晴八段らトップ棋士。すでに創刊されていた「将棋世界」とともに、この2誌は将棋専門誌のツートップとなる。どちらもためになったが、個人的には、硬派なツクリの「近代将棋」のほうが好きだった。
1980年代まで、「近代将棋」「将棋世界」は互角の勝負をしていたように思う。しかし「近代将棋」はその後、赤字将棋誌を引き受けたり、雑誌の判型を変えたりして、やや迷走を始める。
英明氏を語るうえでもうひとつ、NHK杯将棋トーナメントの司会を忘れてはならない。
英明氏は、NHK杯が50人制になった、昭和56年の第31回大会から登場。それまでNHK杯は、番組進行と将棋の聞き手は別々だったが、この回より統合。司会の重要度が各段に増した。
英明氏は、最初の2~3か月はオープニングでガチガチだったが、回を追うごとに固さも取れ、実に落ち着いた語り口になった。
「本業」の聞き手はお手のもの。英明氏は元奨励会員。その辺のアマチュアよりよほど強いのだが、それはおくびにも出さず、つねに初級者の視線に立って、棋士の解説を引き出していた。それゆえ視聴者の中には英明氏を、ただの将棋好きのおじさん、と見る向きもあったようだ。
英明氏が最も引き立ったのは、英明氏が敬愛する大山十五世名人の解説のときだった。
大山十五世名人は、自分で大盤の駒を動かさない。英明氏と視聴者の中間ぐらいのところに視線を合わせ、「4五歩、同歩、同桂、4四銀…」とやる。以前は、この解説に聞き手がついていけずまごまごする場面もあったが、英明氏は手馴れたもの。大山十五世名人の指し手に合わせ、テキパキと駒を動かした。その名コンビは、木村十四世名人と佐藤健伍六段のそれと双璧だった。
そんな英明氏が将棋を指すシーンを一度だけ観たことがある。NHKのお好み対局で、講師の引き継ぎの回だった。ペア将棋で、英明氏は青野照市八段と組んだ。青野八段、▲5五歩と仕掛け、後手ペア△同歩。ここで英明氏は▲5五同角。青野八段は▲4五歩と突いてほしかったふうだった。英明氏、指し手も中級者を演じていたようだ。
英明氏の司会は、10年続いた。これは異例の長さである。これも視聴者の強い支持の表れであった。
「近代将棋」は結局、平成20年、惜しまれつつ休刊になった。英明氏に心残りがあるとすれば、これであろう。執筆者や読者に迷惑を掛けたと、最晩年まで口にしていたようである。
「近代将棋」の父、永井英明アマ八段。
心よりご冥福をお祈りいたします。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする