まあ、ここで帰ったら人でなしである。産業貿易センター5階に戻ると、Fuj監督がいた。
我が大野教室は、4勝3敗で勝ったという。これはめでたいが、けっこうスレスレの星だ。
中では、Kun氏が優勢の将棋を時間切れで負けたという。Kun氏も他流試合を何度もこなしてきたベテランだが、その氏にしてこの事故である。かくいう私も、過去の社団戦では3年連続で「時間切れ負け」をやった。社団戦には魔物が棲んでいるのだ。
Hon監督に聞くと、「大野教室2」は、総合で負けたらしい。アマ初段前後が主体ではやむを得ない。6部でもレベルが高いのだ。
なお「大野教室」は本来「大野・植山教室」が正しいが、登録時の手違いで、「植山」が抜けてしまった。我がチームはけっこう手抜かりが多いのである。
将棋ペンクラブのA氏がいたので戦績を聞くと、3勝3敗1不戦敗で負けたという。私がペンクラブに入っていたら…と思うが、これもやむを得ない。
W氏の姿があった。W氏も数年ぶりの社団戦参加だがそこはそれ、ここでも重役出勤である。しかも対局は1局だけらしい。
大野八一雄七段の顔も見えた。いつも熱心に将棋を教えてくださる大野七段のためにも、今回は私たちのチームが昇級しなければならない。
2回戦は、またも大将に任命された。私は大将のガラではないが、1回戦の勝ちっぷりがあまりにも鮮やかだったのが効いたようだ。「安定の大将」とW氏がつぶやき、それをFuj氏が連呼した。
U君のお母さんが帰るようだ。Koh君ママと並んで美人ママのひとりだが、残念。
「あのー、祥子に似てるって言われたことありませんか?」
私は思い切って聞いてみた。
「祥子って誰ですか?」
「謎の女・祥子です」
ご存じなければしょうがない。傍にいたA氏も知らなかった。でもまあ、知らないほうがいいかもしれない。
2回戦の相手は丸紅OKI2。いかにも強そうだが、こちらだってメンツは負けてないはずだ。
相手に振ってもらい、またも「奇数先」で対局開始。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩で始まり、相手の振り飛車かと思いきや、居飛車できた。私は▲7八銀型居飛車で挑む。
相手の手つきはたどたどしいが、これに騙されてはいけない。相手は高段者とフンで駒組を進める。
右銀が▲6六銀と出て、飛車を真ん中に振った。▲4五歩の数手後に、△1三角の王手。この手があるから左美濃▲7九玉型はあまりよくない。もうこの戦法は打ち止めにしよう。
左の副将はHomma君だ。コーヤン流三間飛車で、相手のイビアナに対抗している。
その左、三将のFuj監督は対ゴキゲン中飛車に▲5八金右とし、急戦を誘っていた。Fuj監督はこの形のスペシャリストで、私も何度か痛い目に遭っている。本局もFuj監督が時間を使わずに指しており、もう「勝ちました」オーラが出ている。まったく、味方ながらイライラするのは何故だろう。ま、これはFuj監督が勝つだろう。
私の方は、むずかしい戦いになっていた。
第1図以下の指し手。▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲1五香△3六歩▲1三香不成△3七歩成▲同金△1三香▲2四歩△同歩▲2三歩△8四桂▲3四歩△7六桂▲3三歩成△8八桂成▲同玉△3三桂▲3五桂△4二金引▲6三角△6五桂▲7四角成△2一香▲4四歩(第2図)
▲1五歩△同歩に▲同香は△4六角▲同金△1五香で先手不満。そこで▲3五歩と突いた。これなら後の角切りがないからだが、疑問だった。
というのは、構わず△3五同角があったから。▲同銀△同歩となれば、後手は次に△3六歩▲同金△4七銀の狙いがあり、手に困らない。こう指されていたら、私が悪かった。
本譜は角と桂香の二枚換えになったが、この取引はこちらも悪くない。
その後の指し方が分からなかったので▲2四歩△同歩▲2三歩としたが、味を持たせ過ぎた。
後手に△8四桂~△7六桂から角を取り返され、また分からなくなった。もっともその前、△7六桂では△3四同金でもこちらは指す手が分からなかったのだが。
▲4四歩も筋っぽく見えて、あまりよくなかった。
第2図以下の指し手。△4四同銀▲7三馬△3五銀▲8二馬△4六銀▲同金△7六桂▲9七玉△7五角▲8六歩△7七歩▲同桂△同桂成▲同銀△8五桂▲8七玉△7七桂成▲同玉△6五銀▲3四桂△8八銀▲8七玉△9九銀不成▲3五成桂打(第3図)
△4四同銀には▲4三歩△5二金▲6四馬の王手飛車を読んでいたのだが、△5二金で△5三金と上がる手があり、先手うまくいかない。
それで▲7三馬と突っ込んだのだが(▲6四馬は△6二飛が気になってやめた)、飛車取りに構わず△3五銀と桂を取られ△7六桂を見せられ、こちらの玉も一遍に危なくなってしまった。
△7五角に▲8六銀は、却って玉が狭くなる。怖いようでも、▲8六歩と突いた。
後手は△7七歩から攻めを継続したが、局面がスッキリしたのと、桂が持ち駒に入ったので、また先手が優勢になったと思った。
さて△9九銀不成の局面で、後手玉が詰むかどうか。▲2二銀とほうり込んで、清算後に▲2三歩や▲3四桂で詰みそうではある。この時点で私の残り時間は17分。時間は十分あったがここは社団戦である。万一の読み抜けがあっては取り返しがつかない。
私は3五に桂を打とうとしたが、誤って落としてしまい、拾い上げて3五に打つ。と、それが裏だった。つまり、「成桂」を打ってしまったのだ。
私は一瞬焦った。
(つづく)
我が大野教室は、4勝3敗で勝ったという。これはめでたいが、けっこうスレスレの星だ。
中では、Kun氏が優勢の将棋を時間切れで負けたという。Kun氏も他流試合を何度もこなしてきたベテランだが、その氏にしてこの事故である。かくいう私も、過去の社団戦では3年連続で「時間切れ負け」をやった。社団戦には魔物が棲んでいるのだ。
Hon監督に聞くと、「大野教室2」は、総合で負けたらしい。アマ初段前後が主体ではやむを得ない。6部でもレベルが高いのだ。
なお「大野教室」は本来「大野・植山教室」が正しいが、登録時の手違いで、「植山」が抜けてしまった。我がチームはけっこう手抜かりが多いのである。
将棋ペンクラブのA氏がいたので戦績を聞くと、3勝3敗1不戦敗で負けたという。私がペンクラブに入っていたら…と思うが、これもやむを得ない。
W氏の姿があった。W氏も数年ぶりの社団戦参加だがそこはそれ、ここでも重役出勤である。しかも対局は1局だけらしい。
大野八一雄七段の顔も見えた。いつも熱心に将棋を教えてくださる大野七段のためにも、今回は私たちのチームが昇級しなければならない。
2回戦は、またも大将に任命された。私は大将のガラではないが、1回戦の勝ちっぷりがあまりにも鮮やかだったのが効いたようだ。「安定の大将」とW氏がつぶやき、それをFuj氏が連呼した。
U君のお母さんが帰るようだ。Koh君ママと並んで美人ママのひとりだが、残念。
「あのー、祥子に似てるって言われたことありませんか?」
私は思い切って聞いてみた。
「祥子って誰ですか?」
「謎の女・祥子です」
ご存じなければしょうがない。傍にいたA氏も知らなかった。でもまあ、知らないほうがいいかもしれない。
2回戦の相手は丸紅OKI2。いかにも強そうだが、こちらだってメンツは負けてないはずだ。
相手に振ってもらい、またも「奇数先」で対局開始。▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩で始まり、相手の振り飛車かと思いきや、居飛車できた。私は▲7八銀型居飛車で挑む。
相手の手つきはたどたどしいが、これに騙されてはいけない。相手は高段者とフンで駒組を進める。
右銀が▲6六銀と出て、飛車を真ん中に振った。▲4五歩の数手後に、△1三角の王手。この手があるから左美濃▲7九玉型はあまりよくない。もうこの戦法は打ち止めにしよう。
左の副将はHomma君だ。コーヤン流三間飛車で、相手のイビアナに対抗している。
その左、三将のFuj監督は対ゴキゲン中飛車に▲5八金右とし、急戦を誘っていた。Fuj監督はこの形のスペシャリストで、私も何度か痛い目に遭っている。本局もFuj監督が時間を使わずに指しており、もう「勝ちました」オーラが出ている。まったく、味方ながらイライラするのは何故だろう。ま、これはFuj監督が勝つだろう。
私の方は、むずかしい戦いになっていた。
第1図以下の指し手。▲1五歩△同歩▲3五歩△同歩▲1五香△3六歩▲1三香不成△3七歩成▲同金△1三香▲2四歩△同歩▲2三歩△8四桂▲3四歩△7六桂▲3三歩成△8八桂成▲同玉△3三桂▲3五桂△4二金引▲6三角△6五桂▲7四角成△2一香▲4四歩(第2図)
▲1五歩△同歩に▲同香は△4六角▲同金△1五香で先手不満。そこで▲3五歩と突いた。これなら後の角切りがないからだが、疑問だった。
というのは、構わず△3五同角があったから。▲同銀△同歩となれば、後手は次に△3六歩▲同金△4七銀の狙いがあり、手に困らない。こう指されていたら、私が悪かった。
本譜は角と桂香の二枚換えになったが、この取引はこちらも悪くない。
その後の指し方が分からなかったので▲2四歩△同歩▲2三歩としたが、味を持たせ過ぎた。
後手に△8四桂~△7六桂から角を取り返され、また分からなくなった。もっともその前、△7六桂では△3四同金でもこちらは指す手が分からなかったのだが。
▲4四歩も筋っぽく見えて、あまりよくなかった。
第2図以下の指し手。△4四同銀▲7三馬△3五銀▲8二馬△4六銀▲同金△7六桂▲9七玉△7五角▲8六歩△7七歩▲同桂△同桂成▲同銀△8五桂▲8七玉△7七桂成▲同玉△6五銀▲3四桂△8八銀▲8七玉△9九銀不成▲3五成桂打(第3図)
△4四同銀には▲4三歩△5二金▲6四馬の王手飛車を読んでいたのだが、△5二金で△5三金と上がる手があり、先手うまくいかない。
それで▲7三馬と突っ込んだのだが(▲6四馬は△6二飛が気になってやめた)、飛車取りに構わず△3五銀と桂を取られ△7六桂を見せられ、こちらの玉も一遍に危なくなってしまった。
△7五角に▲8六銀は、却って玉が狭くなる。怖いようでも、▲8六歩と突いた。
後手は△7七歩から攻めを継続したが、局面がスッキリしたのと、桂が持ち駒に入ったので、また先手が優勢になったと思った。
さて△9九銀不成の局面で、後手玉が詰むかどうか。▲2二銀とほうり込んで、清算後に▲2三歩や▲3四桂で詰みそうではある。この時点で私の残り時間は17分。時間は十分あったがここは社団戦である。万一の読み抜けがあっては取り返しがつかない。
私は3五に桂を打とうとしたが、誤って落としてしまい、拾い上げて3五に打つ。と、それが裏だった。つまり、「成桂」を打ってしまったのだ。
私は一瞬焦った。
(つづく)