26日の金曜サロン、昼は山下カズ子女流五段、夕方は大庭美樹女流初段の担当だった。
山下カズ子女流五段はあらためて説明するまでもない。女流名人位を4期獲得し、草創期の女流将棋界を牽引したひとりである。往年のNHK杯の記録・秒読み係としても有名だ。「10秒…20秒…6、7、8…」という、抑揚のない低音での秒読みは、テレビの前で観戦している私を、否応なく緊張と興奮の世界へ誘ってくれた。当時の棋譜読み上げだった蛸島彰子女流五段とのコンビは、永遠に語り継がれるであろう。
ところで山下女流五段には、一度お聞きしたかったことがある。
私が小学生だか中学生のとき、駅前の将棋センターで、山下女流五段によく似た女性と指したことがあるのだ。
その将棋は、先手の私が▲2八飛▲3七銀型、後手の女性が△6四角と構えていたのに、私は▲3六銀、と上がってしまった。しかし女性は飛車を取らず別の手を指し、私は「ラッキー!」とばかり、すぐ▲4六歩と突いたのだが、以下玉頭から強烈な攻めを食らい、完敗した。きっとタダの飛車は、見逃してくれたのだろう。子供ながら、世の中には強い女性がいるんだなあ、と思ったものだった。
もっとも当時の私は級位者だったし、もし山下女流五段ご本人だったら、手合い係氏が私と平手の手合いをつけるわけがないのだが、ここのセンターの師範が蛸島彰子女流五段だったこともあり、何かの縁で遊びに来てくれた、という可能性もなくはなかった。
だから今回、その疑問を数十年振りにお聞きしたのだが、答えは「否」だった。まあ、そうであろう。ちょっぴり残念な気もしたが、永年の疑問が解消され、私はスッキリした気持ちになった。
そんな山下女流五段との指導対局平手戦は、夕方の5時近くから始まった。これだけ遅くなったのは、私が日本将棋連盟の道場で、女流棋士会主催のLadies Holly Cupを観戦、勉強してきたからである。
山下女流五段の四間飛車に、私は山田流▲9七角戦法を採る。いまの棋士は警戒して△5四歩をなかなか突かないが、△3二銀型でここを突かれると、反射的に▲9七角と上がってしまう。以下山田定跡では▲8六~▲6八と角を移動させたが、平成に入ってからか、▲9七角からすぐに▲7九角と1手トクする手が発見され、指してみる気になった。
しかし実際は先手の玉形も薄く、実戦的には難しい。局後は植山悦行七段らを交えての感想戦になったが、局面の考え方がとても勉強になった。
夕方からは、前述のとおり、大庭美樹女流初段の担当である。この日は会員のW氏と金曜リーグ戦を指す予定だったのだが、私の入りが遅れたのと、W氏が時間の都合で早退し、それは叶わなかった。W氏との対局より、女流棋士の実戦を勉強するほうを選んでしまった…。W氏にはこの場で深くお詫びしたい。
大庭女流初段は、女流棋士では珍しい受け将棋。黒縁のメガネがよく似合い、性格も温厚、無口だが、話してみればLPSAでいちばん面白いのではないかと私は見ている。
夕方の大盤解説では、先日のとちのきカップでの、対船戸陽子女流二段戦が採用された。この将棋は、前の週で船戸女流二段が自戦解説するものとばかり思っていたのだが、別の将棋の解説になったのだ。
今回は大庭女流初段が
「私のほうに勝ちがあったか、皆さんといっしょに検討したいと思います」
と、謙虚に話された。ここに大庭女流初段の優しい人柄が表れている。
実はこれ、前の週の大盤解説のあと、会員有志で終盤の部分を勝手に検討していたのだ。そこでは船戸女流二段の▲3二飛に、△3三飛(鬼手)▲同飛成と取らせての△6六角が詰めろ竜取りでで後手勝ち、が会員O氏の読みだった。しかしさらに検討を続けると、これでは後手玉に詰みがないから、先手は△3三飛を無視して▲1二飛成が冷静な1手となり、これで先手が残しているのでは、という最終結論になった。
今回の大盤解説ではどうだったか。112手目、大庭女流初段は取った飛車を銀桂両取りに△2八飛と打ったが、ここでは△4八飛と打ち、▲4二のと金を取る手も有力だった。△4二飛成となれば、これは自陣竜が強力の上、△2三飛の活用も見込めて、後手勝勢。
さらに進んで、大庭女流初段が122手目に△5六銀と王手に打ったのが、好手のように見えてやや疑問手だった。ここは△5六金と打つべきで、本譜のように▲7八玉なら、△6七銀▲8九玉を決めたあと、△4六金と角を取って後手勝勢。以下▲6七銀なら△7七桂不成の詰みがある。
問題は▲5六同玉と強く取られたときだが、これも難解ながら先手玉に詰みがある(コメント欄参照)。つまり、トドメにしたい金を先に打つ(捨てる)という、先日の私の詰将棋のテーマのような手で、大庭女流初段の明快な勝ちだったのだ。以下は船戸流の粘りに手を焼き、大庭女流初段はいい将棋を落としてしまった。
ともあれ今回の大盤解説会は中身も濃く、とてもに勉強になった。
さて大庭女流初段との指導対局は、大庭女流初段の向かい飛車。飛車のぶっつけに気合よく交換に応じ、以下も難しい戦いが続いたが、これも内容の濃い勝負だったと思う。
放課後、会員の皆さんや、事務でサロンに訪れていた石橋幸緒女流王位から、今日は将棋会館道場の熊倉-山口戦を楽しみにしてたんでしょ? と突っ込まれる。しかしこの一局は、道場で将棋が始まるまで、まったく知らなかった。これは本当である。
Ladies Holly Cupは対局場も開始時間もマチマチだし、平日に行われることが多いので、山口女流1級の対局は最初から眼中になかった。だから今回は、ひょんなことから女流棋士の将棋を堪能でき、熊倉、山口の両先生には感謝している。
山下カズ子女流五段はあらためて説明するまでもない。女流名人位を4期獲得し、草創期の女流将棋界を牽引したひとりである。往年のNHK杯の記録・秒読み係としても有名だ。「10秒…20秒…6、7、8…」という、抑揚のない低音での秒読みは、テレビの前で観戦している私を、否応なく緊張と興奮の世界へ誘ってくれた。当時の棋譜読み上げだった蛸島彰子女流五段とのコンビは、永遠に語り継がれるであろう。
ところで山下女流五段には、一度お聞きしたかったことがある。
私が小学生だか中学生のとき、駅前の将棋センターで、山下女流五段によく似た女性と指したことがあるのだ。
その将棋は、先手の私が▲2八飛▲3七銀型、後手の女性が△6四角と構えていたのに、私は▲3六銀、と上がってしまった。しかし女性は飛車を取らず別の手を指し、私は「ラッキー!」とばかり、すぐ▲4六歩と突いたのだが、以下玉頭から強烈な攻めを食らい、完敗した。きっとタダの飛車は、見逃してくれたのだろう。子供ながら、世の中には強い女性がいるんだなあ、と思ったものだった。
もっとも当時の私は級位者だったし、もし山下女流五段ご本人だったら、手合い係氏が私と平手の手合いをつけるわけがないのだが、ここのセンターの師範が蛸島彰子女流五段だったこともあり、何かの縁で遊びに来てくれた、という可能性もなくはなかった。
だから今回、その疑問を数十年振りにお聞きしたのだが、答えは「否」だった。まあ、そうであろう。ちょっぴり残念な気もしたが、永年の疑問が解消され、私はスッキリした気持ちになった。
そんな山下女流五段との指導対局平手戦は、夕方の5時近くから始まった。これだけ遅くなったのは、私が日本将棋連盟の道場で、女流棋士会主催のLadies Holly Cupを観戦、勉強してきたからである。
山下女流五段の四間飛車に、私は山田流▲9七角戦法を採る。いまの棋士は警戒して△5四歩をなかなか突かないが、△3二銀型でここを突かれると、反射的に▲9七角と上がってしまう。以下山田定跡では▲8六~▲6八と角を移動させたが、平成に入ってからか、▲9七角からすぐに▲7九角と1手トクする手が発見され、指してみる気になった。
しかし実際は先手の玉形も薄く、実戦的には難しい。局後は植山悦行七段らを交えての感想戦になったが、局面の考え方がとても勉強になった。
夕方からは、前述のとおり、大庭美樹女流初段の担当である。この日は会員のW氏と金曜リーグ戦を指す予定だったのだが、私の入りが遅れたのと、W氏が時間の都合で早退し、それは叶わなかった。W氏との対局より、女流棋士の実戦を勉強するほうを選んでしまった…。W氏にはこの場で深くお詫びしたい。
大庭女流初段は、女流棋士では珍しい受け将棋。黒縁のメガネがよく似合い、性格も温厚、無口だが、話してみればLPSAでいちばん面白いのではないかと私は見ている。
夕方の大盤解説では、先日のとちのきカップでの、対船戸陽子女流二段戦が採用された。この将棋は、前の週で船戸女流二段が自戦解説するものとばかり思っていたのだが、別の将棋の解説になったのだ。
今回は大庭女流初段が
「私のほうに勝ちがあったか、皆さんといっしょに検討したいと思います」
と、謙虚に話された。ここに大庭女流初段の優しい人柄が表れている。
実はこれ、前の週の大盤解説のあと、会員有志で終盤の部分を勝手に検討していたのだ。そこでは船戸女流二段の▲3二飛に、△3三飛(鬼手)▲同飛成と取らせての△6六角が詰めろ竜取りでで後手勝ち、が会員O氏の読みだった。しかしさらに検討を続けると、これでは後手玉に詰みがないから、先手は△3三飛を無視して▲1二飛成が冷静な1手となり、これで先手が残しているのでは、という最終結論になった。
今回の大盤解説ではどうだったか。112手目、大庭女流初段は取った飛車を銀桂両取りに△2八飛と打ったが、ここでは△4八飛と打ち、▲4二のと金を取る手も有力だった。△4二飛成となれば、これは自陣竜が強力の上、△2三飛の活用も見込めて、後手勝勢。
さらに進んで、大庭女流初段が122手目に△5六銀と王手に打ったのが、好手のように見えてやや疑問手だった。ここは△5六金と打つべきで、本譜のように▲7八玉なら、△6七銀▲8九玉を決めたあと、△4六金と角を取って後手勝勢。以下▲6七銀なら△7七桂不成の詰みがある。
問題は▲5六同玉と強く取られたときだが、これも難解ながら先手玉に詰みがある(コメント欄参照)。つまり、トドメにしたい金を先に打つ(捨てる)という、先日の私の詰将棋のテーマのような手で、大庭女流初段の明快な勝ちだったのだ。以下は船戸流の粘りに手を焼き、大庭女流初段はいい将棋を落としてしまった。
ともあれ今回の大盤解説会は中身も濃く、とてもに勉強になった。
さて大庭女流初段との指導対局は、大庭女流初段の向かい飛車。飛車のぶっつけに気合よく交換に応じ、以下も難しい戦いが続いたが、これも内容の濃い勝負だったと思う。
放課後、会員の皆さんや、事務でサロンに訪れていた石橋幸緒女流王位から、今日は将棋会館道場の熊倉-山口戦を楽しみにしてたんでしょ? と突っ込まれる。しかしこの一局は、道場で将棋が始まるまで、まったく知らなかった。これは本当である。
Ladies Holly Cupは対局場も開始時間もマチマチだし、平日に行われることが多いので、山口女流1級の対局は最初から眼中になかった。だから今回は、ひょんなことから女流棋士の将棋を堪能でき、熊倉、山口の両先生には感謝している。