とてもいい気分になって、私たちはまたペア戦を始める。私とFuj氏がペアになって、大野八一雄七段に飛車落ちで挑む。Kun・Kazペアは中井広恵・植山悦行ペアに角落ちで挑んだ。
しかし私たちは大野七段に惨敗。大野七段が強いのはもちろんだが、私自身がペア将棋は得意でない。
それをR氏が察知してか、私・FujペアにR氏が戦いを挑んでくる。こちらは持ち時間5分切れ負けの平手戦である。
将棋は後手R氏の中座飛車。私が▲9六角、Fuj氏が▲8六歩と、お互い「なるほどー」という手を指して、有利に戦いを進めていった。最後はR玉を華麗に仕留めて制勝。ふたりのペアにしては珍しい快勝だった。
まだ4時半だが、温泉に入ることにする。平日の昼間に入る温泉は最高だが、土曜日もそれに準ずる。
脱衣所に入ると、W氏が髪を乾かしていた。私は嘆く。
「オレ、こんなに髪の毛が薄いとは思わなかったよ」
「いまごろ気づいたのかよ」
グッ…。知らぬは当人ばかりなり、だったのか。
温泉から上がり、そのまま将棋に戻ってもよかったのだが、私はきのうの、お茶専門店に向かった。
店に入って一声掛けると、主人が出てきた。
家庭用のお茶を、と所望すると、100g1,155円のお茶を勧めてくれた。店頭に「本日特売日」の張り紙がきょうもしてある。つまり「毎日が特売日」ということだ。そしてそのお茶も、100g945円に書き換えられていた。
ところがそのお茶を店主は「5,000円」と言う。はああああ?? 500gが一包みになっていて、945円は100gあたりの値段ということらしかった。
ああー、そうなんだ。それなら申し訳ないが、たかがお茶に5,000円も使えない。
私が渋ると店主は、250gに分けますから、と食い下がる。
そうじゃないのだ。100g945円なら、500gで4,725円だろう。それを5,000円と言い切ったのが解せないのだ。私は値段を正確に提示しない店は信用しない。この店はご縁がなかったということだ。
宿に戻って浴衣に着替え、大広間に入る。女流王座戦、カロリーナさんは決勝で千葉涼子女流四段に敗れ、二次予選進出はならなかった。しかし今後が楽しみな逸材である。
そろそろ夕食の時間である。私は前日と違う席に着く。斜め向かいには中井女流六段が座った。と、誰かが、ビールを飲むテーブルとそうじゃないテーブルに…と言う。チッ、また事業仕分けか。いまさら席替えをする必要があるのか?
だが同じことを考えた人もいるようで、「このままでいいじゃん」との声も飛ぶ。それでそのままの席で、2日目の夕食となった。豚肉のみそ漬の焼肉が美味かった。
この席で、中井女流六段と東京の石橋幸緒女流四段が電話で語り合った。エエーッ!? と中井女流六段が絶叫する。
聞くと、一次予選は滞りなく終わり、LPSAの二次予選進出者は石橋女流四段、中倉宏美女流二段、島井咲緒里女流二段の3名に決まったという。LPSAは一次予選に9名参戦だから、3名通過はまずます。ところがその組み合わせで、石橋女流四段対宏美女流二段に決まったという。同士討ちではないか。これが中井女流六段の絶叫の理由だった。
中井女流六段は藤田綾女流初段と。藤田女流初段は渡部愛アマ(ツアー女子プロ)に勝っての進出なので、もし愛ちゃんが勝っていれば、これもLPSA同士の対戦になるところだった。
石橋-宏美戦でLPSA女流棋士がひとり消えるのは残念だが、考えようによっては、どちらかが必ず決勝トーナメントに進出できるのだ。いずれにしても宏美女流二段は、次局が正念場である。
さ、腹がくちたら将棋の再開である。
午後7時40分、Is氏とリーグ戦。横ではFuj氏が中井女流六段に指導を受けていた。後手Is氏のゴキゲン中飛車から強攻され、早くも敗勢となった。
▲5八金・6八金、△5二飛・5六歩の局面で、Is氏は△5七銀の打ち込み。私は▲7五角と打って耐える。これがギリギリの受けだったようで、「△5七銀では△4四銀と一手溜めるべきだった」とIs氏の感想があった。
うしろでガヤガヤ声がする。振り向くと、植山七段やW氏らが、マージャン卓を抱えて入ってきた。途端に中井女流六段の目がキラリと光る。中井女流六段は植山七段のマージャンを快く思っていないはずだが、植山七段、ずいぶんな勝負手を放ったものだ。
Is戦、私は何とか盛り返したが、そこで▲4六銀と据えたのが緩手。5七の地点に利かしたものだが、ここは▲4六金と打ち、▲5六金と敵歩を払う手を見るべきだった。
これで再び私が苦しくなったが、最後はIs氏が早投げしてくれ、私が辛勝した。
指導対局は順調に進行しているが、実力者Kun氏、Kaz氏も加わっても、R氏のほかにはまだ勝利者がいない。
ところで隣の大広間には、民間企業の囲碁部が入っている。きのうはコンパニオンが入っていたが、きょうの囲碁部は静かに打っているようだ。
8時40分。私はまたも中井女流六段に指導いただく。もちろん中井女流六段が手空きだったからだが、これで5局目である。ホント、申し訳ない。
持ち時間はお互い35分だったと思う。私の三間飛車に、中井女流六段は一目散穴熊。私は▲4六銀型に構える。今回はじっくり考えて、自分の将棋を指すことを心掛けた。
しかし▲4五銀は感触が悪かった。中井女流六段は銀を換えてから△8六歩。これを▲同角と取ったのがどうだったか。本譜は△6七銀の飛車取りが厳しく、ここでハッキリ形勢に差がついた。
数手後△1七銀▲同香△同角成。やむない▲同玉に△3八金が、私の銀を取りながら▲2九飛と▲3七銀の両取り。ほかに△2五桂や△1五歩もあり、支えきれない。いまはこれまでと投了した。
感想戦では、やはり▲4五銀が疑問とされた。それと高美濃囲いで桂を跳ねたときは、▲2六歩を突くようにと教えられた。
と、中井女流六段が立ち上がり、
「大沢さんのために、浴衣を着てこようかしら」
と言った。
「ホントに!? よっしゃああ!!」
私は拳を挙げて快哉を叫んだ。
時刻は9時40分。His氏とFuj氏はペアとなって大野七段に挑戦している。今回はペア将棋が大流行りだ。私はKun氏とリーグ戦。Kun氏の後手四間飛車。石田流党のKun氏が四間に振るとは珍しい。玉側の端歩も受けないので突き越したら、穴熊にされた。ここまでがKun氏の作戦だったか。
と、中井女流六段が湯から上がってきた。先ほどの言葉どおり、目にもまばゆい浴衣姿であった。
(6月2日につづく)